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伝統色づくり解体新書「天然染料と衣服」
カラー写真で理解する染めの再現

定価(税込)  3,850円

著者
サイズ A5判
ページ数 220頁
ISBNコード 978-4-526-08194-1
コード C3050
発行月 2022年03月
ジャンル 化学

内容

江戸時代初期の陣羽織、天皇のみが着用できる「黄櫨染」、中国少数民族の藍染め布「亮布」など、様々な時代・地域の現存する衣服を取り上げ、それらがどんな染料・技術で染められたかを考察して再現。染めの復元作業の工程を豊富な写真とともに丁寧に解説する。

青木正明  著者プロフィール

(あおき まさあき)
天然色工房tezomeya 主宰
https://www.tezomeya.com

1967年 生
1991年 東京大学医学部保健学科卒業
株式会社ワコール入社
スポーツアンダーウェアなどの企画業務に携わる
2000年 株式会社ワコール退社後、株式会社益久染織研究所に入社
天然染料を含めた染色業務全般を受け持つ
2002年 株式会社益久染織研究所退社
天然色工房tezomeyaを開業
2009年 京都造形芸術大学美術工学科非常勤講師を兼任(2016年まで)
2012年 京都造形芸術大学歴史遺産学科非常勤講師を兼任(2018年まで)
2019年 京都光華女子大学短期大学部准教授を兼任

株式会社ワコール企画業務の中で天然染料の魅力に触れ、傾倒しはじめる。
その後株式会社益久染織研究所在籍中に、古代染色研究家 前田雨城氏の個展で氏の手掛けた上代の染め色を目にしたことで、古代の色彩と染色技術の探索を志す。
天然色工房tezomeyaでは、オーガニックコットン・吊編み機・力織機風織物といった素朴なテキスタイルに複雑で優しい草木の色目を乗せた、シンプルで飽きのこないデザインと風合いをコンセプトとした服作りで好評を得る。服作りのほかにも和装用着尺、各手工芸織物用絹糸などの染め注文依頼もこなしている。
染色方法は、古文献の調査と科学的アプローチによる両面から確立。天然染料を利用した手法研究と実践から得た技術・知識を国内外での講演やワークショップで公開し、染色工房としての活動と大学教員としての教育研究活動の両輪を使い天然染料の普及に努めている。
山とロックと映画と自転車が好物。

目次

第1章 赤

千三百年の間かがやき続ける赤
赤色縷(儀式用の糸) 
[おそらく奈良時代 正倉院]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説

コットンを鮮烈に染め上げた西洋のトルコ赤
コットンジャケット 
[1790年代 フランス 京都服飾文化研究財団]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説

日本の武将を染めた南米の虫の赤「猩々緋」
陣羽織
猩々緋羅紗地鋸歯模様釘抜紋付
[江戸時代初期 個人蔵]
陣羽織 猩々緋羅紗地蛇の目紋付
[江戸時代中期~後期 共立女子大学博物館]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説


第2章 藍


江戸時代にもてはやされた市民の機能美、藍染め
火事羽織  
[江戸時代19世紀 東京家政大学博物館]
風合羽
[江戸時代19世紀 東京家政大学博物館]
裃用反物 [江戸時代19世紀 東京家政大学博物館]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説

生の葉で染めていたかもしれない平安の高貴な藍染
縹縷(儀式用の糸) 
[おそらく奈良時代 正倉院]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説
◉蒅の作り方

中国少数民族の世界一艶っぽい藍染め布「亮布」
亮布[山田華緒李氏所蔵]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説
◉泥藍の作り方


第3章 高位の色

貝の内臓で染まる高貴な紫コプト裂2点
[おそらく西暦5世紀 個人蔵]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説

天皇のみが着用できる謎に満ちた黄櫨染
黄櫨染御袍[江戸時代 宇佐神宮]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説

上流階級のための特別な色彩だった紫 
最勝王経帙[8世紀 正倉院]
唐散楽 渾脱半臂[8世紀 正倉院]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説

今に蘇るカンボジアの絵絣「ピダン」
儀礼用布ピダン
[おそらく19世紀末~20世紀初頭 福岡市美術館]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説


第4章 紅花

鮮やか過ぎる紅花の染め色
打掛 紅綸子地立涌菊牡丹模様
[江戸時代19世紀 東京家政大学博物館]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説
◉烏梅の作り方

江戸の女性が憧れた赤から採れる緑「笹紅」
紅猪口
[明治時代19~20世紀 東京家政大学博物館]
伊勢半本店の紅商品「小町紅」
現存物と色彩の解説
再現作業の解説
◉紅餅の作り方


第5章 黒と緑

豪傑剣士の染めた黒 憲法染 
黒麻地丸に酢漿紋火消装束
[江戸時代19世紀 東京国立博物館]
女中火事頭巾
[時代不詳 東京国立博物館]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説

西洋を虜にしたログウッドの黒染め
乗馬服(アマゾーヌ)
[1810年頃 フランス
京都服飾文化研究財団]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説

藍染と黄で染め重ねた緑
ペチコート(スカート)
[1720年頃 イギリス
京都服飾文化研究財団]
現存物と色彩の解説
再現作業の解説

コラム
骨学の発展とセイヨウアカネ
藍のカガクその❶ 色素の変身ショー
藍のカガクその❷ 酸化とは?
ムラサキの染め方は古代の常識?
梅から桜へ 日本人のココロうつり
笹紅のふしぎが今こそ…… 
藍は建てるもの?それとも出すもの?

主な参考文献
材料購入先リスト
用語解説
完成品・使用材料DATA一覧
索引

はじめに

 『天然染料』という言葉から皆さんはどのようなイメージを連想されるでしょうか? 自然回帰、環境にやさしい、カラダにもやさしい、サステナブル……。主に石油を原料としてさまざまな化学合成技術を経たプロダクトにあふれている現在の私たちにとって、天然由来のモノゴトというのは人工的な印象と相反する状態を思い描かせてくれるのかもしれません。
 1856年に初の合成染料がたまたま発明されるまでは、世界中の染め屋が天然染料で繊維を染めていました。ですが実はそこには「天然」という枕詞はありませんでした。当たり前ですよね。染料は天然由来のものしかなかったのですから。人間が自分たちの使い良いようにデザインして作る合成染料と違って、植物(たまに動物もありますが)の体内から抽出する染料は残念ながら私たちが染め易いように作られてはいません。そんな不親切な材料を使って美しい染め色を作りあげるというのは本当に至難の業だったことでしょう。そのような状況においても、私たち人類は実に何千年(もしかしたら何万年)ものあいだ衣服に美しい色をあしらってきたのです。これはあくまで私的な意見ですが、そこに「やさしい」とか「自然回帰」とかそういう気持ちはほとんどなかったのではないか、と思っています。それよりも、良き色を染め出すために時には自然に寄り添い時には自然に抗い常に真剣勝負で天然由来対象物と向き合っていたのではないか、と思うのです。天然染料を工房で日々扱っている私も末席ながらいつもそんな感じです。よく自分が染料のことを「彼らが……」と言ってしまっていることに気付くのですが、無意識にこのあたりの心情が鎌首をもたげるのかもしれません。
 天然染料という言葉が生まれる以前の世界では、洋の東西を問わず世界中で染職人と動植物の間で常に仁義なき戦いが繰り広げられていたのではないか、と私は思っています。タイムマシンのない現在、残念ながら往時の同業者の挫折と栄光を等しく共有することが叶わぬ私たちは、彼らが残した珠玉の作品を観察しそれに付随する文献記録を調べることで淡い追体験を行うことしかできないのですが、それでもその再現作業はとても甘美且つ刺激的な時間を与えてくれます。このかけがえのない時を独り占めするのはあまりにもったいない、というのが本書執筆に至った正直な気持ちです。私は未だ先人の素晴らしい仕事のほんのかけらしか理解できていないのですが、それでも一緒に話題にせずにはいられない力強い何かを、今に残る作品と文献が示してくれていると思うのです。
 ですので、本書のあちらこちらで述べている通り私が不勉強なため調査中のまま解説しているところが多くあります。この点は力量不足が否めない染め屋の勇み足とご笑覧いただき、お気づきの点などございましたらぜひご指導ご鞭撻をいただければ幸いです。

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