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基礎から学べる!世界標準のSCM教本

定価(税込)  2,420円

著者
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サイズ A5判
ページ数 240頁
ISBNコード 978-4-526-08124-8
コード C3034
発行月 2021年03月
ジャンル 生産管理

キーワード

内容

SCMは供給業者から最終消費者までの業界の流れを統合的に見直し、プロセス全体の効率化と最適化を実現するための手法。本書は世界でビジネスをする企業に最適な、世界標準のSCMについて解説する。

山本圭一  著者プロフィール

(やまもと けいいち)
1975年生まれ。CPIM, APICS認定インストラクター, 米国公認会計士/ビジネスエンジニアリング株式会社勤務。エンジニアリング会社の海外プラント設計部門を経てビジネスエンジニアリング株式会社に入社。国産ERPパッケージソフトウエア「mcframe」の導入コンサルテーション業務に従事している。同パッケージソフトウエアの生産管理システム、販売管理システム、原価管理システムの認定トレーナーでもあり、mcframe導入に関わるパートナー企業の技術者を早期に育成することを目的とした教材企画・開発の責任者を副部長として担当している。また、教育機関と連携して、中小企業経営者向けビジネススクールにおいてERPの活用方法を習得するための講座を担当している。共著『APICS Dictionary 対訳版 - グローバル経営のための日英用語集』。

水谷禎志  著者プロフィール

(みずたに ただし)
1968年生まれ。CPIM, CLTD, CSCP, APICS認定インストラクター、工学修士。コンサルティング会社に勤務。交通・物流関係の調査研究に従事した後、製造業・流通業のサプライチェーン改革プロジェクト、業界間のサプライチェーン改革のための標準化活動(EDI)・実証実験(RFID)に従事。外資系製造業のサプライチェーン設計プロジェクト、日系製造業の海外拠点サプライチェーン改革プロジェクトなど、サプライチェーンのことを英語で会話せざるをえない経験をきっかけとしてAPICS資格を2012年に取得。その後、日本生産性本部のAPICS紹介セミナー講師、APICSコミュニティ委員会、APICS Dictionary日本語翻訳プロジェクト等を通じ、日本でのAPICS普及活動に参画。共著『APICS Dictionary 対訳版 - グローバル経営のための日英用語集』。

行本 顕  著者プロフィール

(ゆきもと けん)
1974年生まれ。CPIM-F・CSCP-F・CLTD-F, APICS/ASCM認定インストラクター、法学修士。銀行勤務を経て国内大手消費財メーカーに勤務。生産管理・海外調達他を経て経営企画を担当。2010年~2012年にかけて米国のディストリビューターに常駐、S&OPを担当。ASCMより日本地区で唯一フェロー認定を受けている。公益財団法人日本生産性本部「APICS科目レビュー講座」、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)「S&OPセミナー」「『超』入門!サプライチェーン・マネジメントセミナー」講師。2019年「JILS ロジスティクスコンセプト2030」を各分野の研究者・実務家と発表。2020年よりJILS調査研究委員会委員。日本オペレーションズ・リサーチ学会会員、経営情報学会会員。共著『APICS Dictionary 対訳版─グローバル経営のための日英用語集』。

目次

はじめに
著者の紹介
本書を読んでいただきたい方
推薦の言葉

【第1章】サプライチェーンマネジメントとMP&C
1-1 サプライチェーンとはどのような概念か
1-2 サプライチェーンの定義
1-3 さまざまな供給体制
1-4 サプライチェーンの構造に由来する問題
1-5 SCMとは
1-6 SCMの目的
1-7 SCMでの意思決定
1-8 製造オペレーションにおける意思決定の特徴
1-9  MP&Cの概略
1-10 MP&Cの構成要素
1-11 今後のSCMで考慮が求められる外部環境
1-12 MP&CとROICの関係

【第2章】戦略:ストラテジックプランニング
2-1 サプライチェーンのストラテジーとは
2-2 サプライチェーンの戦略的意思決定の例(社内)
2-3 サプライチェーンの戦略的意思決定の例(社外)
2-4 MP&Cでのストラテジックプランニングの位置づけ

【第3章】計画:デマンドマネジメント(需要計画)
3-1 デマンド(需要)とは
3-2 独立需要と従属需要
3-3 需要予測の方法
3-4 定量的手法①:移動平均法
3-5 定量的手法②:指数平滑法
3-6 定量的手法③:外因的予測手法
3-7 定性的手法
3-8 予実乖離の把握(MAD)
3-9 受注の条件

【第4章】 計画:サプライプランニング
4-1 サプライプランニングの構造
4-2 S&OP
4-3 リソースプランニング
4-4 マスター・スケジューリング
4-5 マスター・スケジューリングの手順
4-6 基準生産計画
4-7 ラフカットキャパシティプランニング(RCCP)
4-8 ボトルネック工程での資源所要量の算出例
4-9 MRP
4-10 MRP計算はどのように進められるのか?
4-11 MRP計算の具体例①(準備)
4-12 MRP計算の具体例②(親品目の正味所要量計算)
4-13 MRP計算の具体例③(子孫品目の正味所要量計算)
4-14 マテリアル・リクワイアメント・プランの管理
4-15 CRP
4-16 CRPの計算例①
4-17 CRPの計算例②

【第5章】SCMの観点から見た在庫
5-1 在庫管理とMP&Cの関係
5-2 在庫補充方式
5-3 安全在庫
5-4 経済的発注量(EOQ)
5-5 ABC在庫分析
5-6 在庫数量の把握方法
5-7 在庫金額の計算方法
5-8 在庫の評価方法
5-9 SCMにおける在庫の意義

【第6章】実行と管理:仕入
6-1 SCMにおけるプロキュアメントの役割
6-2 仕様の決定
6-3 サプライヤー選定とサプライヤーとの関係性
6-4 プロキュアメントの実行

【第7章】実行と管理:製造活動と品質
7-1 製造活動の実行と管理
7-2 計画プロセス
7-3 実行プロセス
7-4 監視・制御プロセス
7-5 品質とは
7-6 主な品質管理手法の概要

【第8章】実行と管理:販売
8-1 販売と販売管理
8-2 販売管理におけるデザイン活動
8-3 販売管理におけるスケジューリング活動
8-4 販売管理におけるコントロール活動

【第9章】ロジスティクス
9-1 ロジスティクスとは
9-2 ロジスティクスの設計
9-3 ロジスティクスの計画
9-4 ロジスティクスの実行・管理
9-5 ロジスティクスを取り巻く外部環境変化

【第10章】SCMの観点から見た原価
10-1 原価とは
10-2 製造品原価計算の概要
10-3 基本的な製造品原価計算方法のパターンと特徴
10-4 SCMに関連した原価分析手法
10-5 ROICを使ったSCMの評価・分析

【第11章】世界標準のSCMを学ぶことの重要性
11-1 なぜSCMに標準が必要なのか
11-2 SCMにおける「標準」

むすび
あとがき
さらに学びたい人のために
参考文献
索 引

column
ファッションアパレル企業のストラテジーの違い
清涼飲料と季節性
「デルファイ法」の由来
ASCM/APICSのSCM普及活動
S&OPにおける経営層の関与
鉛筆の製造工程
MRPの社会実装① APICS/ASCMを通じたコンセプトの標準化
循環棚卸とABC分析
SKU(Stock Keeping Unit)
MRPの社会実装② コンピューティング技術の進歩
ロジスティクス原価は低ければ低いほどよいのか
APICS/ASCMの共通言語と日本語

はじめに

本書は、サプライチェーンマネジメント(以下SCM)の国際標準の基礎を体系的に学ぶための本です。国際標準のSCMの用語・知識体系を日本語で提供することで、日本企業への普及を促進し、ひいては日本企業のグローバル展開を通じた成長を支えることを目指すものです。
SCMとは、サプライチェーン、すなわち原材料が製品に加工され、商品やサービスとしてユーザーに届く流れをより効果的に行うためのマネジメント手法です。この手法は、1950年代に基本的な考え方が提唱されて以来様々な研究やベストプラクティスによって練磨され、1990年代に現在の形になりました。そして、現在では世界中の企業で広く用いられています。
日本では2000年代初めにこのSCMという言葉がよく聞かれました。しかし、当時はソフトウェア販売やコンサルティングサービスのマーケティングに使われていた面が強く、サプライチェーン全体ではなく、その構成要素である特定業務が注目されることが多かったのではないでしょうか。それから20年が経過した今、サプライチェーンはより複雑になり、不確実性も大きくなりました。「今さらSCM?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、今だからこそ、SCMを改めて学ぶ必要性が高まっているのです。まずは「世界から取り残された日本」からお話ししましょう。

世界から取り残された日本
日本でSCMが流行った2000年代初めは、スマートフォンもクラウドも登場する前でした。その後の情報技術革新のスピードは速く、現在SCMにおいて情報技術革新の恩恵を受けていない企業は皆無であると言っても過言でないでしょう。情報技術革新と並行する形で、日本企業のグローバル展開もこの20年で進みました。あまり話題にあがりませんが、実はここに2つの問題が潜んでいます。それは基幹システムとSCMに関わるコミュニケーションです。順に説明しましょう。
1つめは基幹システムの話です。SCMは基本的に情報システムで支えられています。そのシステム構築にパッケージシステムを活用する日本企業が増えているものの、日本企業では標準機能を活用するほかに自社固有要件をアドオンしたり、カスタマイズしたりすることが一般的です。この状況に対して「企業が抱えるレガシーシステムがブラックボックス化し、競争力を失い、成長の足枷になる」と警鐘を鳴らしたのが、いわゆる「2025年の崖」です(1)。
筆者らはSCMの国際標準を策定する非営利団体であるAPICS(エイピックス)/ASCMの活動を国内の実務家に紹介するセミナーで登壇した際に、その参加者から「日本本社から海外拠点に赴任して、海外拠点の基幹システムのほうが日本本社より進んでいることに驚いた。数年経って、海外拠点から日本本社に戻ったら、基幹システムが昔のままで驚いた。というより愕然とした。」という話を異口同音に聞きます。日本企業の多くは海外拠点にパッケージシステムをアドオンなし・カスタマイズなしで導入しています。今やERPもクラウドで使える時代になりました。その結果、海外拠点の基幹システムがクラウドベースの最新版である一方、日本本社の基幹システムは旧世代のままという状況になっているのです。

2つめはSCMに関するコミュニケーションの話です。日本企業の海外拠点では、日本本社の部長クラスが拠点長として派遣され、数年間滞在して日本本社に戻るというパターンが典型的です。しかし、前出の参加者の声の中には「日本の製造業はすごい」と期待していた現地の人が、日本本社から派遣されてきた拠点長の言動を見て、「重箱の隅をつつくようなことばかり一生懸命」「拠点を経営する目線で考えてほしい」と不満を抱いているという衝撃的な証言もあります。海外拠点との齟齬のないコミュニケーションは、SCMにおいては重要ですので、これを欠く状況は問題といえます。
このことは、著者ら自身の体験を伴う実感でもあります。筆者の一人は2010年代初頭の米国駐在時に、現地企業のSCM実務が一種のデファクト標準化された知識体系を前提としていることに気づく機会を得ました。この知識体系は経営層から担当者レベルに至るまで「共通言語」として日常的に使われていたばかりでなく、企業をまたいだグローバルなコミュニケーションにおいても同様に用いられていたのです。その一方で当時、多くの日本企業ではこの「共通言語」の存在がほとんど知られておらず、グローバルなサプライチェーンにおける齟齬のないコミュニケーションを妨げる一因となっていたのです。「英語で話せるだけでは駄目、中身が肝心」とは分野を問わずよく耳にする話ですが、まさにそのような視線が日本企業のサプライチェイナーである自分に注がれていることに気付きヒヤリとしたというわけです。
それから10年が過ぎましたが、この間、世界のサプライチェーンにおいて日本企業はあまり元気がありません(第11章)。この状況の一端がコミュニケーションの齟齬に由来する可能性を考えた場合、日本におけるSCMの「共通言語」の普及は喫緊の課題といえます。世界のサプライチェーンに携わるには「英語を話せれば十分」ではありません。「SCMの共通言語」でコミュニケーションする必要があるのではないでしょうか。

世界標準のSCMの基本を日本語で学ぶ機会を
これまでに「SCM」と題された書籍は多数刊行されています。しかし、さきほどの「共通言語」のような業務プロセスの標準が意識されたものはみかけません。SCMは非常に範囲の広いテーマであり、よりよく理解するためには各論的・経験的な論点を学ぶだけでなく、これら全体を俯瞰的(ホリスティック:holistic)に整理する観点をあわせて学ぶことが重要です。そして、全体と構成要素相互の関係を知ること、すなわち「体系的に学ぶ」ことが強く求められる分野なのです。

現在のSCMの知識体系は、米国に本部を構えるAPICS/ASCMが策定したものが世界で最も多くの実務家の支持を得ており、事実上の標準となっています。そのため、世界に通用するSCMの知識体系を習得するためには、これを学ぶことが近道といえます。ところが、これまでAPICS/ASCMの知識体系を学ぶための教材は主に英語で提供されており、日本語を母国語とする学習者が手に取りやすいものではありませんでした。このことも今まで日本でSCMの世界標準があまり普及してこなかった一因といえます。
もっとも、近年この流れが変わりつつあります。かつては日本でAPICS/ASCMの知識体系を学ぶ人の大半は外資系グローバル企業に勤務している社会人でしたが、日系大手製造業を中心に、APICSが認知されるように変わり、今や学習者の中心は、日系企業に勤務する社会人にシフトしつつあります。そして、日系企業が世界標準のSCMに関心を寄せるにつれ、これを日本語で学習する手段をもとめる声が大きくなってきました。本書は、このような学習者の期待に応える本邦初の「日本語で書かれた世界標準のSCM教本」となることを目指し、出版するものです。
著者の紹介
著者の三人は、全員がAPICSのインストラクター資格を持つ現役実務家です。また、ともに公益財団法人日本生産性本部が主催する『APICSディクショナリー(第16版)』の翻訳プロジェクトのメンバーでもあり、本書には著者らの世界標準のSCMについての知見とともに、ERPソフトウェアベンダー、コンサルティングファーム、メーカーという異なるフィールドに根差した実務の観点からの考察がふんだんに盛り込まれています。この点において本書は他のSCM関連書籍とは一線を画すものであると、著者らは確信しています。
山本 圭一(やまもと けいいち:CPIM, CPA)は、本企画の発起人であり、ビジネスエンジニアリング株式会社において国産ERPパッケージソフトウエアmcframeの導入コンサルテーション業務の最前線に立つ現役の実務家です。また、公益財団法人日本生産性本部が主催するAPICS紹介セミナーの講師でもあり、ERPソフトウエアベンダーにおける実務で培われた観点からの考察を本書に加えています。
水谷 禎志(みずたに ただし:CPIM, CSCP, CLTD)は、国内コンサルティング会社において、製造業・流通業企業のサプライチェーン改革を専門領域とする現役のコンサルタントです。また、日本におけるAPICSコミュニティ立ち上げおよびAPICS紹介セミナーを通じて世界標準のSCM普及活動に携わっています。これらを通じた知見と多様な業種でのサプライチェーン改革コンサルティング経験に基づく考察を本書に加えています。
行本 顕(ゆきもと けん:CPIM-F, CSCP-F, CLTD-F)は、国内大手消費財メーカーにて財務・法務・海外事業・生産統括を経て経営企画部門に勤務する現役の実務家です。APICSの上位資格であるCPIM-F・CSCP-F・CLTD-Fを日本地区で唯一保有しており、APICS認定インストラクターとしても公益財団法人日本生産性本部および公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会他にて、本書の中心的なテーマであるMP&Cを主軸とした実務家向けSCM教育プログラムを担当しています。日・米におけるSCM実務経験と世界標準のSCMを推進する活動を通じて培われた観点からの考察を本書に加えています。
本書を読んでいただきたい方
以上に述べたとおり本書は、主に日本語でSCMを体系的に学びたいと考えている以下のような方に読んでいただきたいと思っています。

(1)SCMの基礎知識を得たいと考える実務家・新社会人・学生
(2)今までの業務経験を通じて得たSCMに関する知識を、標準的なフレームワークに基づいて棚卸し、応用可能な知識を補強したいと考える実務経験者
(3)自社の海外拠点、海外サプライヤー、海外販売代理店との間で、齟齬のない意思疎通を図るための共通言語を、日本語で学びたいと考えるサプライチェーン関連業務従事者
(4)試験が英語で行われるAPICSの資格を取得するために、何を学ぶ必要があるのかの概要を日本語で知りたい人

推薦の言葉
本書は、SCMの世界の共通言語ともいうべきAPICSの知識体系に準拠して書かれた本邦初の書籍です。私もよく存じ上げている著者の3人は日本にわずか8人しかいないAPICS認定インストラクターであります。本書の著者の方々がERPパッケージベンダー、コンサルタント、メーカーという異なるバックグラウンドの実務経験者であることも大きな魅力でしょう。本書は、彼らの実務経験や知識が反映され、図解も多いことから、SCM分野の初学者にとってはその知見に触れる貴重な機会であり、かつ経験を積まれた実務家にとっても貴重な機会を提供することができると考えております。
私は1998年に『サプライチェーン理論と戦略』(ダイヤモンドハーバードビジネス編集部編、ダイヤモンド社)、1999年に『サプライチェーン経営入門』(日本経済新聞出版)を著し、2001年には経営情報学会のビジネスモデル特集号で「招待論文 サプライチェーン・マネジメントに関するビジネスモデル:分析と設計理論の考察」という寄稿も行いました。さらに、約10年前に東京工業大学の社会人向けMOT、CUMOTで始まり、現在は日本ロジスティックスシステム協会に受け継がれた「ストラテジックSCMコース」では、年に2回講師を務めてきました。このほか、SCMについては、ビジネススクールや社会人向けの講演も多数行ってきました。また、何より90年代の末から、NRIの事業として海外でERPのクラウドサービスを新規に立ち上げるという貴重な機会を得て、NRIの仲間とともに、多数の日本企業の百数十拠点に及ぶ海外事業展開に取り組んできました。

私が、外部向けの講演の中で常に訴え続けてきたことの1つに、本書が取り扱う「SCMに関わる国際標準のAPICS言語体系、知識体系の存在」があります。日本ではあまり語られないのですが、多数あるERPやSCMのソリューションにおける業務の知識体系は共通で、このAPICS標準が活用されています。日本企業でのERP活用が実質的には経理業務に留まることが多いのはよく知られていますが、その理由の1つは、APICSがそもそも知らされておらず、学習機会も乏しく、知識体系が日本では定着していないことではないかと考えています。
この二十数年間で日本企業がERPやSCMへ行った投資額は巨額ですが、日本で活用しているERPをそのまま海外拠点で、経理業務だけでなく、調達、生産、配送、原価管理、財務管理などの企業の基幹業務で活用できたとしたら、日本企業の生産性向上への効果は極めて大きかったのではないでしょうか。

SCMは、複数の企業や、企業組織内のいわゆる機能組織が相互に緊密に連携しながら、国や地域や、もちろん部門、企業の境界を越えて商品を円滑にエンドユーザーに届けるための、いわば新しい産業機構(業務体系とメカニズム)を形成するための業務、オペレーションズマネジメント(OM)の設計・運用についての知識体系です。
もっともSCMは、単に物流や工場管理業務だけを取り扱っているわけではなく、戦略、戦術、実行を一貫した適応制御機構として、つまりSBU・事業部門の運営を円滑に行うための階層型意思決定システムについて、世界で、今、実践され、発展してきている標準的な知識と言語体系と考えていただければ、俯瞰的に理解しやすいと思います。
たとえば、S&OPというSBUの経営会議の新しい業務モデルはこの十数年でかなり定着してきたといえるでしょう。S&OPは、いわゆる規律とコントロールのための「単年度の予算統制型会議」から「毎月のローリング型で中期スパンの計画を見直す機能組織横断での戦略実行会議」へ転換させるというダイナミックケイパビリティを実現する経営会議のモデルです。
最近では、不確実性が高まる国際情勢の中、参加する企業の経営層から現場までが、互いに齟齬のない意思疎通を機敏に行うことが望まれます。グローバル化が進む中、SCMにおいても国際標準の言語体系を活用してダイナミックケイパビリティを獲得し、いつでもスケールアウトでき、いつでもピボットできる競争力を増している海外企業と、国際標準よりも自社特有の言語体系、自部門特有の知識体系を世界に定着させようとして体力を消耗してしまい、「もはや、人材がいない」という理由で、構造的閉塞に陥りがちな日本企業とでは、長期的にみると大きく差が開いてしまう危険性も高いと思います。
いわゆる「ダイナミックケイパビリティ」を獲得するためには、海外で既にサティフィケーション(認証)を保有するメンバーが十数万人に及び、新興国においても学習している人材の規模も格段に多いAPICSの国際標準の知識体系や言語体系を活用することは、極めて有効な手段の1つでしょう。海外企業では、APICSの知識体系を活用しつつ、この上に自社や自事業部門特有の業務や知識体系を追加する方法で、グローバルオペレーションの業務モデルを確立し、定着させる負荷を下げ、スケールアウトとピボットというダイナミックケイパビリティを獲得できている企業が多いようです。
SCMは複雑でテーマが極めて広い分野なのですが、その基礎を一貫した考え方で学べる本書は貴重と思います。これまで日本では、国際的には常識となっているSCMを俯瞰するための標準言語体系を書籍で学ぼうとしても、一見、関連書籍が膨大でどの書籍を選択すればよいか悩ましいという問題もありました。また、物流業務や生産管理、スケジューリング、S&OPなど、特定の分野に特化した書籍が多く、SCM全体を俯瞰して解説した本は必ずしも多くないと思います。ようやく複数の分野のSCM書籍を集めても、今度は書籍間で用語や概念が統一されておらず、つなぎ合わせて読むことが困難な問題がありました。本書1冊を学習することでSCMを俯瞰することができ、これらの問題を解決することができるでしょう。
本書は、グローバル競争に臨むには国際標準の言語体系、知識体系を理解し、共通言語でコミュニケーションすることがいかに効果的かを教えてくれます。当方の経験では、通訳で解決できる英語の問題ではなく、逆にAPICSの用語(テクニカルターム)を知っていれば格段にコミュニケーションが円滑になります。実は、KANBAN、JIT、ANDON、5Sなどの数百に及ぶ日本の現場で活用されている言語も既に収録されています。
日本企業でSCMに関わる少しでも多くの方が、本書を手に取りこの事実を理解し、ひいては日本企業のグローバル展開を通じた成長に寄与するために、本書が必携のバイブルとなることを期待しています。
藤野 直明

株式会社 野村総合研究所 主席研究員
公益社団法人 日本経営工学会 副会長
早稲田大学大学院 情報生産システム(IPS)研究科 客員教授
社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会 フェロー
JOMSA(日本オペレーションズマネジメント&ストラテジー学会)理事
2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会 構成員

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