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未来の科学者との対話18
第18回 神奈川大学全国高校生理科・科学論文大賞 受賞作品集

定価(税込)  1,760円

編者
サイズ A5判
ページ数 288頁
ISBNコード 978-4-526-08061-6
コード C3050
発行月 2020年05月
ジャンル その他

内容

学校教育の「理科離れ」が進み、理科教育のあり方が問われている今、学生には創造性のある「探求活動」「課題研究」が求められている。そんな中、高校生の理科・科学の研究発表の場として、モチベーションを高め、理科人材を育成するために設けられた論文大会の受賞作をまとめた本。

学校法人 神奈川大学広報委員会全国高校生理科・科学論文大賞専門委員会  著者プロフィール

上村 大輔(うえむら だいすけ)  1945年岐阜県生まれ。1973年名古屋大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。理学博士。静岡大学教授、名古屋大学教授、慶應義塾大学教授、神奈川大学教授、金沢大学監事、日本化学会「化学と工業」編集委員長、神奈川大学評議員を歴任。現在、名古屋大学名誉教授、神奈川大学特別招聘教授。専門は天然物有機化学。  編著書に、“Bioorganic Marine Chemistry”(共著)(Springer-Verlag、1991)、『現代化学への入門15生命科学への展開』(共著)(岩波書店、2006)、『科学のとびら60天然物の化学─魅力と展望─』(編集)(東京化学同人、2016)、『化学の要点シリーズ18基礎から学ぶケミカルバイオロジー』(共著)(共立出版、2016)、ほか。  紫綬褒章(2009)、瑞宝中綬章(2018)

紀 一誠(きの いっせい)  1943年群馬県生まれ。1968年3月東京大学工学部計数工学科数理工学コース卒業。工学博士。1968年4月 NEC入社(データ通信システム事業部)。1999年4月 NEC C&Cシステム研究所主席研究員を経て、神奈川大学理学部情報科学科教授。2013年神奈川大学理学部数理・物理学科教授。2014年4月 神奈川大学名誉教授。1996年日本オペレーションズ・リサーチ学会フェロー。専門分野 待ち行列理論。  著書:「待ち行列ネットワーク」(朝倉書店、2002年)、「性能評価の基礎と応用」(共立出版、亀田・李 共著、1998年)、「計算機システム性能解析の実際」(オーム社、三上・吉澤 共著、1982年)、「経営科学OR用語大事典」(朝倉書店、分担執筆、1999年)、他。

齊藤 光實(さいとう てるみ)  1943年滋賀県生まれ。1967年京都大学薬学部卒業。1972年京都大学薬学研究科博士課程満期退学。薬学博士(京都大学)。1972年住友化学宝塚研究所研究員。1973年より京都大学薬学部助手、助教授。その間、米国テキサス大学医学部ヒューストン校博士研究員。1989年神奈川大学理学部教授。神奈川大学名誉教授。専門は生化学、微生物学。  著書に“Intracellular Degradation of PHAs”(共著)(Biopolymers, Polyesters II、Wiley-VCH、2002)“Generation of poly-b-hydroxybutyrate from acetate in higher plants. Detection of acetoacetyl CoA reductase-and PHB synthase-activities in rice”(共著、J. Plant Physiol. 201, 9-16, 2016)

庄司 正弘(しょうじ まさひろ)  1943年愛媛県生まれ。1966年東京大学工学部卒業、1971年東京大学工学系大学院修了、工学博士。東京大学工学部専任講師(1971年)、助教授(1972年)、教授(1986年)を経て2004年退官、名誉教授。同年、独立行政法人産業技術総合研究所招聘研究員。2006年神奈川大学工学部教授、工学部長、理事・評議員(職務上)を歴任。専門は熱流体工学。日本機械学会名誉員、日本伝熱学会会長を務め永年名誉会員。著書に「伝熱工学」(東京大学出版会)、編著に“Handbook of Phase Change”(Taylor & Francis)、“Boiling”(Elsevier)等。Nusselt-Reynolds国際賞、東京都技術功労賞、Outstanding Researcher Award(ASME:米国機械学会)など受賞。

内藤 周弌(ないとう しゅういち)  1943年 北海道生まれ。1967年東京大学理学部卒業。理学博士。東京大学理学部助手・講師・助教授、トロント大学リサーチ・フェロー、神奈川大学工学部教授、神奈川大学名誉教授。専門は触媒科学。  著書に『反応速度と触媒』(共著)(技報堂、1970年)、『界面の科学』(共著)(岩波書店、1972年)、『触媒化学』(共著)(朝倉書店、2004年)、『触媒の事典』(分担執筆)(朝倉書店、2006年)、『触媒化学、電気化学』(分担執筆)(第5版実験化学講座25、日本化学会編、丸善2006年)、『触媒便覧』(分担執筆)(触媒学会編・講談社、2008年)、『固体触媒』(単著)(共立出版、2017年)ほか。

西村 いくこ(にしむら いくこ)  1950年京都市生まれ。1974年大阪大学理学部卒業、1979年大阪大学大学院理学研究科博士課程修了、同年学位(理学)取得。岡崎国立共同研究機構助手(1991年)、同助教授(1997年)、京都大学大学院理学研究科教授(1999年)、甲南大学大学院自然科学研究科及び同学理工学部教授(2016年)を経て、甲南大学特別客員教授(2019年、現職)、日本学術振興会学術システム研究センター副所長(2017年、現職)。専門は、植物細胞生物学。日本学術会議連携会員(2006-2014年)、日本植物生理学会会長(2014-2015年)、日本生化学会名誉会員(2015年)、アメリカ植物生理学会名誉会員(2015年)、京都大学名誉教授(2016年)、日本学術会議会員(2014年、現職)。中日文化賞(2006年)、文部科学大臣表彰科学技術賞(2007年)、日本植物生理学会賞(2013年)、紫綬褒章(2013年)受賞。

松本 正勝(まつもと まさかつ)  1942年大阪府生まれ。1965年京都大学工学部卒業。1970年同大学大学院工学研究科修了。工学博士。(財)相模中央化学研究所を経て1989年神奈川大学理学部教授。同大学大学院理学研究科長、同大学学校法人常務理事を経て、2013年定年退職。現在、同大学名誉教授。  著書に「生物の発光と化学発光」(単著、共立、2019年)、「有機化学反応」(共著、朝倉、2005年)、「バイオ・ケミルミネセンス・ハンドブック」(分担執筆、今井、近江谷編、丸善、2006年)、「Synthesis with singlet oxygen」(分担執筆、A. A. Frimer編, CRC, 1985年)、「Bioluminescence and Chemiluminescence, Progress and Perspective」(共編、Tsuji, A.; Matsumoto, M.; Maeda, M.; Kricka, L. J.; Stanley, P. E. 編、World Scientific, 2005年)など。

目次

はじめに 上村 大輔

●審査委員講評
国際語
紀 一誠

役に立つ研究と何の役に立つかはよくわからない研究
齊藤 光實

絶えざる挑戦こそ成功の秘訣
庄司 正弘

触媒科学者の夢の実現を!
内藤 周弌

観ることから発見へ
西村 いくこ

自然という言葉
松本 正勝

●大賞論文 Soddyの六球連鎖で「半径の逆数和」が表す美しい式
滋賀県立彦根東高等学校 SS部数学班

●優秀賞論文 チュウガタシロカネグモの巧みな巣の建築法
兵庫県立姫路東高等学校 科学部

ブランコ漕ぎの謎を定量的に解明
名古屋市立向陽高等学校 国際科学科 ブランコ班

銅樹は銅のみから成らず!
愛媛県立西条高等学校 化学部

●努力賞論文 火が消えやすい音の条件とは
岩手県立一関第一高等学校 理数科

効率的なペットボトルロケット打ち上げと風洞製作
渋谷教育学園幕張高等学校 ペットボトルロケット愛好会 KRC-H

もう車線をはずさない!
玉川学園高等部

波力発電の可能性を探る
玉川学園高等部 SSHリサーチ物理班

伝統工法で河川堤防の決壊を減らす
玉川学園高等部 SSHリサーチ物理班

鉄分を多く含む食材と効率的な調理法
玉川学園高等部

サンゴの白化メカニズム
玉川学園高等部

巻雲は優れた気象予報士
京都府立桃山高等学校

播磨地方に見られるシハイスミレとその変種の正体
兵庫県立小野高等学校 スミレ班

溶液の「濃い」と「薄い」の境界を探る
兵庫県立柏原高等学校 理科部

カラメル化の本質に迫る!
兵庫県立宝塚北高等学校 化学部

ダンゴムシのフンが持つ抜群の「防カビ能力」
島根県立出雲高等学校

色素を長持ちさせられる太陽電池の開発
島根県立浜田高等学校 太陽電池チーム

枝の水分状態を非破壊で測定する
広島県立西条農業高等学校 園芸科 樹体内水分測定班

美しい紫色の釉薬の開発
愛媛県立松山南高等学校 理数科 砥部焼シスターズ

デンプン食品によってできる流体は、なぜ違うのか
沖縄県立美里高等学校 地球科学同好会

●第18回神奈川大学全国高校生理科・科学論文大賞 団体奨励賞受賞校、応募論文一覧
神奈川大学全国高校生理科・科学論文大賞の概要

おわりに 井上 和仁

はじめに

はじめに 審査委員長 上村 大輔

 2019年度新たな令和の元号を戴き、初めての神奈川大学全国高校生理科・論文大賞の審査が進行しました。本年度も全国66校の高等学校から秀逸なる論文の応募をいただき、その総数は135編を数えました。生徒諸君のたゆみない努力と精進の結果に感服するとともに、ご指導いただいた各先生諸氏のご尽力に改めて敬意を申し上る次第です。特に昨今では国内のみならず、世界でのコンペティションが盛んになって来ております。もちろん、理科系のみならずさまざまな分野でのコンテストが開催され注目されています。そのため、世界規模での自然科学の発展のためには多くの人々のご援助が必要であり、この点からも国を挙げての啓発が盛んとなっていることはご承知の通りであります。大学においても組織としての参加や、個人での学会を通してこの活動に参加しておりますが、たとえば、科学オリンピックはまさにこの範疇に入るものでしょう。  さて本年度も素晴らしい内容の論文が数多く提出されました。提出された論文は、学内に組織された専門委員会での専門の立場からの詳細な審査に引き続き、選ばれた優秀な論文を課題の選択法、論文の展開法、結論の正確さ、さらには科学用語、単位系の厳密さなどといったことに加えて、高校生らしい研究論文のあり方などを最終審査の基準にしながら最優秀賞1編、優秀賞3編を選びました。また、努力賞16編を選びましたが、そのなかには優秀賞と遜色ないものも含まれ、今後の発展次第では素晴らしい論文になるとの評価が下されたものばかりでした。加えて、団体奨励賞5校も選ばれております。ここで、専門委員会委員長井上和仁氏(神奈川大学理学部教授)をはじめ各専門委員に感謝申し上げます。  さて、本年度の最優秀賞は滋賀県立彦根東高等学校SS部数学班安済翔真、二宮康太郎君の2名による「拡張されたSoddyの六球連鎖における半径の逆数和の性質(原題)」となりました。この論文は2017年度に本最優秀賞を獲得した研究の継続拡張に相当します。神奈川大学での理科論文大賞に輝いたその直後、実は米国での世界最大の高校生科学コンテスト(ISEF)に参加、見事に数学部門で1等賞を獲得しています。最終審査の段階で、以前からの進展について詳細に検討しましたが、大変見事な展開内容であると判断されました。第n世代に拡張された六球連鎖の場合にも半径の逆数の和が、数列を含む美しい一般式で書けることを証明しています。特に数列の一般項の解法には目を見張るものがあると判断しました。  優秀賞の3編はいずれも観察の重要性を認識させる内容で、高校生らしい研究論文であり、力の入った秀作であります。兵庫県立姫路東高等学校科学部「チョウガタシロカネグモ(Leucauge blanda)は発する糸を変えて機能的な巣を形成する(原題)」は赤瀬彩香君を中心とした14名の共同研究です。30個体のチョウガタシロカネグモを採集し、3カ月をかけて蜘蛛の巣の張り方を顕微鏡によって観察展開をしています。縦糸に続き横糸を張る様子を詳細に観察し、虫を絡め取る横糸の粘球の分布を調査し、その重要性を指摘しました。一方で、従来縦糸には粘球がないとされていたのを、これは誤りで徐々に作られていることを示し、さらには修復のために古い糸を束ねて使っていることも見出しています。  同じく優秀賞は名古屋市立向陽高等学校国際科学科ブランコ班「ブランコ漕ぎのメカニズムについて(原題)」であり、金子優作君を代表とした4名の共同研究で、ブランコ漕ぎの様子を動画写真で可視化し、重心運動を解析、垂直屈伸がブランコの振幅を大きくしていく現象をブランコから人に働く力のなす仕事と考え、実験値との測定誤差を10%と見積もりました。一方で、試作装置を使った試験で、これをより詳細に検討して、精度を上げた実験値を得ることに成功しています。ブランコ運動の研究は多く存在しますが、高校生らしさが見て取れる内容と理解し、評価しました。  3件目の優秀賞は愛媛県立西条高等学校化学部の「銅樹はCuだけではなかった(原題)」となりました。能智航希君を含む5人の共同研究であります。亜鉛と塩化銅(II)水溶液を使った銅樹の生成実験では、銅樹の色は黒や茶色であり、綺麗な銅色にならないのはなぜかについて検討を重ねています。その結果、黒色の銅樹は酸化銅(I)、銅、塩基性塩化銅(II)を含み、少し色が薄いと銅と酸化銅(I)からなると結論しています。溶存酸素による銅表面の酸化が原因で、その機構を考察しました。これも高校生活で出てきた問題を解いて行くという内容に共感が持たれました。
 ところで、日本における大学評価の文化が導入されたのは国立大学法人化以後ではないかと言われています。評価とは、対象とする団体や個人の価値を高めるためのものであり、決して価値を落とすためのものではありません。現在展開されている大学評価もそうであると判断しますが、マスメディアを含む社会は必ずしもそれだけでは満足しません。個人として、また団体として社会貢献を大きく取り上げ評価することに邁進しています。直感的にはその時代の要請に沿って、その時その時を評価するのでしょうが、教育の立場に身を置くものとしてはもっとうんと先を見つめて評価することが重要ではないかと、つくづく思う今日です。ある場面で人は大きく成長し、本来隠されていた能力が意想外に出現したり、組織としての特別の発展につながる結果が見て取れる場合があリます。また、そういった場面を演出し、遊びを持たせておくことも必要ではないでしょうか。このような観点からも、神奈川大学全国高校生理科・科学論文大賞の意義が今更ながら痛感され、本企画に携わってこられた先人の叡智に感服する次第であります。しかしながら、絶え間ないさまざまな評価に耳を傾け、より良い方向に進んでいくことが肝要でしょう。

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