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岐路に立つ日本医療
破綻か飛躍か!?激変する世界が迫る選択

定価(税込)  1,980円

著者
サイズ 四六判
ページ数 192頁
ISBNコード 978-4-526-08051-7
コード C3034
発行月 2020年03月
ジャンル 経営

内容

日本の急速な少子高齢化は、これまで国民皆保険制度のもとでうまく機能してきたはずの医療をかつてないほどの危機へと向かわせている。本書では日本の医療や社会保障の危機的状況を明らかにし、制度の根本的なオーバーホールが必要なことおよびこれからの進むべき道筋を明らかにする。

大村昭人  著者プロフィール

(おおむら あきと)
現在の職名 帝京大学医学部名誉教授、客員教授、 同 付属溝口病院院長補佐
学歴 1967年 東京大学医学部医学科卒業
職歴 1978年 ユタ州立大学麻酔科助教授
2003年〜2007年3月 帝京大学医学部長
2007年4月 帝京大学医学部名誉教授
2009年4月〜2012年3月帝京大学医療技術学部長
2012年4月〜帝京大学医学部附属溝口病院院長補佐
社会的役割 ・ISO/TC121(専門委員会121)/SC3国際議長
・ISO/TC121 国内委員会委員長
・ISO/TC157国内審議委員会委員長
・公益財団法人医療機器センター理事 
・医療機器・再生医療等製品 国際標準獲得推進検討会構成員(厚労省)
主な著書 ・医療立国論:崩壊する医療制度に歯止めをかける 
大村昭人 日刊工業新聞社 2007年5月
・医療立国論Ⅱ:厚生労働省解体―医療庁を設置せよ― 
大村昭人 日刊工業新聞社 2008年12月
・医療立国論Ⅲ:民主党政権で医療制度はこう変わる 
大村昭人 日刊工業新聞社 2009年11月
・いのちを守る医療機器:なぜ患者に届かない 
大村昭人 編著 日刊工業新聞社 2011年9月
・新医療立国論 第3の矢、成長戦略の道筋は医療・介護機器産業振興と男女格差の解消にある 
大村昭人編著 薬事日報社 2015年5月
・企業家としての国家 マリアナ・マッツカート著、
大村昭人訳 薬事日報社 2015年9月11日
「賞罰」
1)(社)日本医療機器学会 平成23年度著述賞(いのちを守る医療機器、なぜ患者に届かない 日刊工業新聞社、2011年9月)
2)一般社団法人 日本産業・医療ガス協会 功労賞 2013年6月12日
3)経済産業大臣賞 2013年10月3日

目次

第1章 日本の医療現場、保険制度が危ない
1.OECD諸国でも社会保障維持のための財政資源が足りない
2.国民皆保険制度破綻の危機。このままでは医療がもたない

第2章 増大する医療費と医療・介護分野の大きな可能性
1.世界の医療費総額は2020年には950兆円に
2.医薬品も医療機器も大幅な輸入超過国である日本
3.AIは医療で大きなポテンシャルを発揮する一方で、社会構造を破壊するリスクもある

第3章 世界で拡がる経済格差と医療制度崩壊の危機
1.医療だけでなく社会保障の根本的見直しが必要になる
2.ドーナッツエコノミーが示す人類と地球の危機
3.進化の止まった経済の物差しGDPと進化し続ける医療の物差しEBM(実証に基づいた医療)
4.Intangible Investment(無形投資)の拡大と経済指標、GDPの凋落
5.格差は世界を蝕む

第4章 後退するアメリカと進まぬ中国の医療
1.トランプ政権が医療と民主主義を蝕む。日本にも少なからぬ影響が
2.医療後進国であるアメリカ。広がる社会民主主義への支持
3.中国は日本にとって重要で最大の医療市場新型肺炎(COVID-19)感染拡大で露呈した医療体制の不備
4.自国第一主義とスローバリゼーション:世界が後ろ向きになっている

第5章 いまこそ日本の医療がやらなければならないこと
1.歯止めがかからない世界人口の健康悪化現象。医療の需要と日本の役割は急速に拡大
2.男女格差解消だけで日本の経済は16%も拡大する!
3.女性の社会進出のための政策と少子化対策は表裏一体で切り離せない人口危機を放置する日本
4.医療こそ日本の歩む道。革新的医療を生む効率的な投資

はじめに

 OECD諸国をはじめ、多くの国々で医療や社会保障の維持が困難になってきている。そのためそれらの国々では社会保障予算のカット、医療費抑制政策がとられ始めている。特に対GDP比で医療費がこれまでと同じペースで増加している日本とアメリカは国際社会の中で際立っている。これまで日本の対GDP比医療費は諸外国に比べて少なく、その中で国民の健康を守ってきたと評価されてきたが、実際には世界で第3位という高い比率にあるという事実が明らかになってきている。
 OECD諸国がこのような厳しい現状におかれている背景には2008年のリーマンショックに始まった世界恐慌以来、各国で経済成長率の鈍化が続き、税収が減少していることがある。2008年の大不況以来、国家の財政状況も悪化し、社会保障にまわすお金もままならなくなってきているのだ。各国は金融緩和、財政出動などを行って経済活性化を図っているが、経済の長期停滞は変わる様相を見せないだけでなく、これらの経済政策はかえって格差の拡大、環境問題などむしろ負の効果さえ生み出しているように見える。GDP(国内総生産)という古い物差しを使って経済政策を行うことが本当に正しいのか疑問さえわいてくる。
 こうした傾向を反映して、これまで世界経済を牽引してきたOECD諸国で中産階級が減少、国民の不満が、増大している。第二次世界大戦後、世界はベトナム戦争や中東戦争など局地紛争は度々経験してきたものの、比較的長い間平和を維持してきた。しかし、経済がグローバル化するとともにITの普及で富と情報が瞬時に国境を超えて動くようになってきて、世界的な富の格差拡大が進行しただけでなく、先進諸国国内でも格差は進み、不満を抱える人々の数が急速に増大した。多くの生産拠点が荒廃する、あるいは国外へ出ていく中で、これまで安定した中産階級を形成していた社会構造が崩れ、新時代に適応した者たちが巨大な富を独占し、たった26名が70億の人口の半分の富を所有するなど極端な貧富の格差が広がっている。この傾向は西欧諸国だけでなく、中国のような共産主義国家でも明確になってきている。
 アメリカではトランプ政権が誕生し、イギリスのEU離脱問題、世界中で移民排斥運動が広がるなどに象徴されるように各国が内向きになってきている。EU圏でも各国で自国第一主義がはびこり、オーストリア、ハンガリー、ポーランドでは移民排斥を掲げる右翼政権が誕生し、ドイツやフランスでも右翼政党が躍進を続けている。
フランスでいまだに収まる気配を見せない労働組合が主導する黄色いベスト運動も国民の不満を強く反映している。
 ロシアは1989年のベルリンの壁崩壊以降に旧ソヴィエト連邦の解体が急速に進行した結果、世界秩序での主導的役割を失った。これに強い危機感を覚えたプーチン指導体制下のロシアがオイルマネーを使って、なりふり構わずに非合法的手段まで駆使して影響力の回復を狙っている。2014年に武力を用いてウクライナ領、クリミアを併合したり、2016年のアメリカ大統領選挙にフェイスブックなどのIT手段を使っていわゆるフェイクニュースをばらまき、各州の投票システムにまでハッキングしてトランプ大統領を実現したと報じられているのがよい例である。
 さらに、2017年以降はこのアメリカ大統領選への妨害はロシアとの領土争いで苦境にあるウクライナが仕掛けたものだという偽情報戦を仕掛けている。
一方、アジアではGDP世界第2位となった中国は、その豊かな経済力を駆使してアフリカだけでなくEUの国々にまで経済的影響力を浸透させてきていて、その債務から抜けられない国々も続出している。
 また、50年間は保証されていた香港の1国2制度が、まだ22年しか経っていないのに既に破綻し始めており、2019年6月から始まった反体制運動は暴動化し、一般市民まで巻き込んで終息の兆候は見えてこない。11月24日に行われた香港区議会選挙では、これまで親中派が多数派を占めていたのに対して、民主派が8割以上の議席を勝ち取るという大逆転が生じた。2019年11月20日にはアメリカ下院が香港人権法を圧倒的多数で可決し、トランプ大統領が11月27日、これに署名したことも香港民主派の大きな追い風になっている。世界の中国への投資の7割が香港経由であるため、中国にとっては圧力であり、大反発していて、天安門事件のような最悪のシナリオも現実になってきた。一方でイスラム教信者が多いウイグル地区では100万人もの人々が強制収容所で再教育を受けさせられており、世界から、非難を浴びている。世界的に政情不安が高まっていて、まさに世界が歴史を逆走しているかのような様相を呈している。
 一方、各国の国家財政が厳しくなる中で、OECD諸国では社会保障、特に医療への国家支出が削減される傾向にあり、このことが政情不安を加速する悪循環が進行しているように見える。
 日本も危機的な状況にある点では同じである。消費税10%増税のみでは年金、医療などの社会保障の先行き不安は解消されないとする意見も少なくない。こうした状況を背景として医療費の自然増を毎年5000億円以下に抑制するために、高齢者の医療費値上げが検討される一方で、病院の再編統合も検討され始めている。
 地域包括ケアの名のもとに多すぎる医療施設の再編統合政策が既に始まっており、2019年9月にはまず424の公的、准公的病院で「診療実績が特に少ない」、「提供医療内容が近隣と類似している」ことを理由に再編統合を検討して報告するように要請があった。地元自治体からは「実情を反映していない」と不安と困惑の声が上がっている。
 日本の病院数は8000以上もあって他のOECD諸国と比較して対人口比では3〜4倍と多い。そして、これが医療現場で医療従事者不足に拍車をかけている厳しい現実がある。病院の再編統合は国民皆保険制度を守るためには避けて通れない道筋という認識も出始めている。
 これだけの病院数があっても地域によっては医療へのアクセスが制限されている現状もあって安易な再編統合は地域格差をさらに悪化させる可能性もある。しかし、44兆円にも達している医療費を削減して、無駄をなくすためには緻密な再編統合はどうしても必要になる。対象となった424病院はまずはの“手始め”であり、好むと好まざるとにかかわらず、今後この動きは民間病院に拡大していくと考えた方がよい。
 日本は世界に例を見ない少子高齢化が加速していて、国の財政赤字が拡大して年金の先行きも不透明だ。老後に必要な貯金が2000万円という数字が話題になった事に象徴されるように社会保障制度の将来が見通せなくなってきている。
 その中で、これまで国民皆保険制度のもとでうまく機能してきたはずの医療にもかつてなかったような危機が迫っているが、誰もその深刻さに気付いているようには見えない。医学部入試での女性差別問題や医師の残業時間が年間、最長1860時間まで認めざるを得なくなった医師の働き方改革の議論がまさにその象徴である。この背景には病院当たり、病床当たりの医療従事者数が欧米に比べて3分の1から5分の1という極端に劣悪な環境の中で医療を提供してきたということがある。これでは安全で質の高い医療など保証できるわけがない。他のOECD諸国に較べて医療従事者の働く環境は最悪なのである。とはいいながら、アメリカ、EU諸国では社会保障制度への支出は減少しているものの、医療産業は経済を牽引する有力な分野と考えられて経済戦略が練られている。欧州委員会の報告では既に2005年にはEU諸国の医療への投資は経済成長率の16〜27%を占めているとされており、当時のGDPの7%を占めていたのに対して、金融は5%でしかなかった。
 世界の医療費は2020年には950兆円になると予測され(WHO)、2010年にはEU政府は医療機器、医薬品は今後のEU経済の発展に極めて重要と認識して政策を進めると宣言している。
 アメリカの医療への先行投資も莫大でNIH(国立衛生研究所)の年間予算は4兆円と、日本がAMED(日本医療研究開発機構)に支出している年間予算1300億円弱に比べて30倍と比べものにならない。さらにアメリカでは国防省が医療は国家防衛の重要政策の一つとして国防費とは別に3000億円以上の予算を技術開発に向けていて、医療もそのプロジェクトの中に入っている。こうした政策の反映として製薬産業、医療機器産業で世界を牽引するのはほとんどが欧米の企業である。
 医療機器関連のISO国際委員会の議長を務めている著者にとって、国際市場での日本の出遅れは大きな懸念材料である。日本は世界の中で技術大国であるにもかかわらず、医療という非常に有望な分野で大きく後れを取っている。しかし、日本独自のモデルを築くことも可能なのである。著者は医療に身を置く立場から、これまで10年以上にわたって医療分野にこそ国を豊かにする大きな将来があることを著書で述べてきた。今回は、世界的にこれまでにない大きな変化を見せる社会状況、経済状況が進んでいる中で、日本の医療や社会保障の危機的状況を明らかにし、制度の根本的なオーバーホールが必要なことおよびこれからの進むべき道筋を明らかにしたいと考えて本書を執筆した。


2020年3月
大村 昭人

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