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空飛ぶクルマのしくみ
技術×サービスのシステムデザインが導く移動革命

定価(税込)  2,200円

監修
著者
サイズ A5判
ページ数 160頁
ISBNコード 978-4-526-08024-1
コード C3053
発行月 2019年12月
ジャンル 機械

内容

これまではフィクションの世界でのみ語られてきた空飛ぶクルマが、技術開発の躍進により、まもなく実用化を迎えようとしている。本書では、機体のメカニズムや要素技術、交通システムやインフラ開発の要点を一冊に集約し、実現までの道のりを解説する。

1月27日頃重版出来予定

中野 冠  著者プロフィール

(なかの まさる)
博士 (工学)
1978年 京都大学工学部数理工学科 卒業
1980年 京都大学大学院工学研究科数理工学専攻 修了
1980年 株式会社豊田中央研究所入社
1997年 名古屋工業大学工学研究科生産システム工学専攻 後期博士課程修了(在職)
2008年 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授
現在に至る
2013年 スイス連邦工科大学 Department of Management, Technologyand Economics訪問教授
著書(共著を含む):『経営工学のためのシステムズアプローチ』(講談社)『いま世界ではトヨタ生産方式がどのように進化しているのか!』(日刊工業新聞社)『システムデザイン・マネジメントとは何か』(慶應義塾大学出版会)「空の移動革命に向けた官民協議会」構成員

目次

まえがき

第1章 空飛ぶクルマのコンセプト
1-1 「空飛ぶクルマ」とは何か?
1-2 空飛ぶクルマの歴史
1-3 ドミナントデザイン
1-4 システムデザイン
1-5 空飛ぶクルマのシステムデザイン
1-6 社会・技術システムアプローチ
1-7 持続可能な社会形成のための空飛ぶクルマ
コラム 若手官僚が空の移動革命の議論をリードする

第2章 輸送サービス
2-1 都市における空飛ぶタクシー
2-2 災害救助
2-3 過疎地の交通手段
2-4 救命救急医療の新たな交通手段
2-5 地域医師派遣
2-6 ビジネス用途の地方都市間交通
2-7 観光・レジャービジネスのツール
2-8 離島交通
インタビュー  救命救急医療における空飛ぶクルマへの期待

第3章 機体と要素技術
3-1 空飛ぶクルマの種類
3-2 マルチコプタータイプの構造
3-3 固定翼付きタイプの構造
3-4 電動化が進む背景
3-5 バッテリー
3-6 モーター
3-7 分散電動推進
3-8 ハイブリッド動力システム
3-9 軽量化
3-10 姿勢制御
3-11 センサー
3-12 操縦系
3-13 安全性
3-14 騒音・吹き下ろし
3-15 自動操縦
コラム CARTIVATOR/SkyDriveの挑戦

第4章 インフラ構築
4-1 空の交通システム
4-2 現在のドローンの航空交通システム
4-3 空飛ぶクルマの交通システム
4-4 通信と飛行方式
4-5 離着陸場
4-6 保険への加入
4-7 運航補助データサービス
4-8 サービスアーキテクチャ
インタビュー 航空機電動化(ECLAIR、エクレア)コンソーシアムの目指すもの

第5章 空飛ぶクルマ実現のための課題
5-1 システムとしての安全性(認証)
5-2 運航の信頼性(就航率)
5-3 空飛ぶクルマとドローンの共通点と違い
5-4 用途ごとの実現性
5-5 標準化
5-6 システムデザインの観点から見た実現可能性と課題
インタビュー 空飛ぶクルマの認証について企業が知っておきたいこと

あとがき
参考文献

はじめに

空飛ぶクルマが話題になっています

 最近、テレビ放送や雑誌の特集記事、講演会などで、空飛ぶクルマを取り上げることが増えました。インターネットを使って検索すれば、海外の開発事例のニュースが数多く出てきます。2018年7月、菅義偉内閣官房長官が記者会見で、空飛ぶクルマの2020年代の実現に向けて「ロードマップを作るために官民協議会を開催する」と話すのを聞いた人は「国が言っているのだから、もうすぐ実現するのだろう」と思った人も多いでしょう。それは「新しい交通システム手段の誕生」です。自分も乗ってみたいとわくわくするのは当然でしょう。
 実際、2018年11月、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所空飛ぶクルマ研究ラボ(以下、空飛ぶクルマ研究ラボ)がJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)主導の「航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアム」と共催したシンポジウムでは、約600人の観衆が聴講しました。2019年6月にUber(ウーバー)社がアメリカ・ワシントンで行った会議には、日本から産官学を含め30名以上の日本人が参加しました。
 このように話題が先行するなか、「技術的に実現しそうなのか?」「ドローンとは技術的に何が違うのか?」「私たちの生活はどう変わるのか?」など、疑問を持っておられる読者も多いに違いありません。
 皆さんが雑誌やインターネットを通して得られる情報は、コンセプトレベルや飛行実験を行ったというニュースが多く、世の中のトレンドを知るにはよいでしょう。しかし、技術的な解説を望む方は不十分だと思っているに違いありません。
空飛ぶクルマは、まだ世の中に普及していないため用途も明らかでなく、機体技術すら開発途上です。本書はビジネス書とはいえ技術解説を書くのは難しいことです。現在の知見が陳腐化したり、当然と考えられていることが将来誤りであるとわかったりする可能性は大いにあります。その中で本書は、あえて現在わかっている技術を中心に、空飛ぶクルマ研究ラボで得た知見を交えて勇気を持って紹介しようとするものです。

空飛ぶクルマは本当に実現するの?

 「空飛ぶクルマは、本当に実現するの?」と疑問を持たれている方も多いでしょう。実際、2017年ごろは、私たちも周囲から「(実現しそうもない)楽しそうな研究をしていていいね」と笑われたものでした。しかし、ドローンが簡単に操縦できることが知られてくると、「ドローンに人を乗せれば、すぐにもできそうだ」と言われるようになってきました。一方、「自動運転もまだなのに、空飛ぶクルマなんて、もっと先でしょ?」と言う方もいます。一般道には人や自転車など、事前に認識されていない物体があふれていますが、実は、空は法令などによって事前に飛行物体を登録させておくことができます。このため、衝突しないように自動化させることは地上の自動車の自動運転より難しいとは言えません。あるいは、三菱航空機が三菱スペースジェット(旧名:三菱リージョナルジェット、MRJ)のビジネス開始を頻繁に遅らせている現状を鑑みて、実際に事業展開できるのは遠い先だと考えられている方も多いと思います。現在の飛行機の技術が過去の世界大戦で飛躍的に進歩したように、軍事技術にも近いドローンや空飛ぶクルマの技術的進歩は間違いないという見方もできます。しかし、沖縄のオスプレイのことを考えれば、一般の人々が受け入れるかどうか、すなわち社会受容性が実現のカギかもしれません。
 本当はどうなのでしょうか? それを考えるには、機体技術、安全に関わる法律など個別の問題を深く知っても解き明かすことは難しいと思います。空飛ぶクルマ本体だけでなく、それを取り巻くステークホルダーなどビジネス環境を含めて、全体を「システム」として検討することが必要です。

空飛ぶクルマという新しいイノベーション

 企業の中では、以前と比べて社内でイノベーションが起きないと危惧する見方があります。2018年、経済産業省(以下、経産省)と国土交通省(以下、国交省)が合同で開催した「空の移動革命に向けた官民協議会(以下、官民協議会)」開催以降、新しい産業セクションを生み出す可能性を秘めたイノベーションとして空飛ぶクルマに関心が高まっているようです。我々がお会いした企業の方々の話から推測すると、国内だけでも数百の企業が空飛ぶクルマの社内調査プロジェクトを進めていて、競合企業がこの業界に参入を表明したら、自分たちもすぐ参入できるよう準備していると考えられます。多くのB2B企業が、自分たちが強みを持つ要素技術や部品を、機体メーカーやB2Cメーカーに買ってもらうチャンスを伺っているようです。しかし、機体の開発状況を国内で公表しているのは、CARTIVATORという有志連合だけで、UberやAirbus(エアバス)社のような企業が参加を表明している海外とは、大きな差があります。国内企業の経営会では、「わが社で本当に利益が上がるのか?」「競合他社はどうしているのか?」という議論に終始すると聞きます。現在、世界では急速に参入企業が増えているなかで、ビジネスの意思決定が海外企業と比べて遅いと言われる日本企業にチャンスはあるのでしょうか?
 この本を出す理由の一つは、自前主義で要素だけを見るのではなく、空飛ぶクルマを実現するための全体デザイン、すなわち「システムデザイン」を考えながら、それぞれの会社独自のアイデアを自ら創っていただきたいと思うからです。

空飛ぶクルマとシステムデザイン

 これまで空飛ぶクルマのビジネスを考えるうえで、システムデザインが重要であると述べてきました。システムは要素から構成され、それらの要素が合わさって初めてシステムとしての機能を発揮します。空飛ぶクルマがシステムとして機能を発揮するためには、機体要素だけでなく、安全に関する法律、運航管理や離着陸場などのインフラ、保険や空飛ぶタクシーなどのビジネスの要素が揃わなければいけません。本書では、全体のシステムを考慮したうえで、それぞれの構成要素を説明することによって、空飛ぶクルマのシステムを包括的に理解していただくことを目的としています。空飛ぶクルマ研究ラボは、包括的なシステムデザイン、社会・経済・技術アプローチ、多原理アプローチ、持続可能なシステムアプローチを駆使して空飛ぶクルマに取り組んでいます。

空飛ぶクルマと持続可能性社会形成

 この本を書店で見つけて、SF映画にあるような「道路を走る車が空も飛ぶ」ことに関心を持った方も多いでしょう。一方、裕福な人が自分の頭上を飛んでいるせいで騒音が大きく、また落ちてきたら怖くて嫌だと思う人もいるでしょう。
私の良く知るイギリスやドイツの先生は、欧州では「空から私生活を覗かれるのをとても嫌う」と言っています。これは、海外での開発が主として大都市の渋滞を避けるための空飛ぶタクシーを目的にしており、そのイメージで賛成できないと思っておられる方が多いのではないかと思います。
 これに対して、日本では当面、少子高齢化に伴う地方の衰退を解決するための手段、すなわち「持続可能な社会形成のためのツール」という使い方が考えられます。本書で詳しく紹介しますが、僻地への医師派遣、救命救急医療、地方企業の交通手段、離島交通、災害救助などです。この観点から空飛ぶクルマの利用を考えるためには、社会を持続可能とするために、現在どのような課題があるのか分析を行い、空飛ぶクルマを一つのツールとして、将来の望まれるゴールを達成するシナリオを提示する必要があります。

本書の読者像

 本書の読者は幅広い層を想定しています。本書はビジネス書ですので、空飛ぶクルマ開発や部品納入に関心がある企業、観光業者・タクシー業者・ヘリコプター運航業者・通信機器業者などの関連企業、地方公共団体・自動車会社・鉄道会社など、例えばMaaS(Mobility as a Service)のような新しいモビリティサービスに関係する方々、コンサルタントやベンチャーキャピタル、都市開発業者、メディア関係者などを読者として想定しています。工学・ビジネス・システムデザインの研究者に対して、技術的・ビジネス的・システム的な気づきが得られるように記述しています。さらに、航空工学、システム工学、システムデザイン、ビジネススクールで学んでいる大学生・大学院生も読者として想定し、機体設計や運航管理の研究者が丁寧に説明しています。空飛ぶクルマやドローンに興味がある一般の方々も想定し、「なぜ車ではなくクルマなのか」と疑問に思われる初心者の方にも楽しく読んでもらえるよう、平易に記述することに努めました。

本書の構成

 本書は5章構成で、空飛ぶクルマ研究ラボのメンバー4名が分担して執筆しています。第1章では「空飛ぶクルマの定義」「空飛ぶクルマのシステムデザインとは何か?」について解説しています。国内外の開発動向など他の著作にもあるもの、今後状況が変わっていくものはできるだけ割愛して、本書のコンセプトを伝えることに集中します。
 第2章では、空飛ぶクルマの用途を紹介します。それぞれの用途から、機体や社会インフラに対する要求仕様を導き出します。「どのぐらいの飛行距離を、どのぐらいのスピードで、どのぐらいの高さを何人乗せて飛ぶことが期待されているのか?」「夜に飛ぶ必要があるのか?」「地上も走れば、どんなメリットがあるのか?」など、第3章以降の議論に必要な要求仕様が議論されます。海外で主に検討されている大都市の渋滞対策だけでなく、日本の持続可能な社会形成のための用途も紹介します。多くのステークホルダーにインタビューを行い、データを収集・分析して要求仕様を提案している研究者が執筆しています。機体開発や運航ビジネスをしようとしている企業だけでなく、地方公共団体の職員など持続可能な社会形成に関心のある読者にも有益な章と考えます。
 第3章では、機体設計と重要な要素技術について解説します。現在、世の中は技術開発の途上であり、まだ正解はわかっていません。従って、機体構造・バッテリー・制御・安全性・騒音問題などの項目について、何が課題でどのような対策が考えられつつあるのかについて解説します。この章を担当するのは、日本の空飛ぶクルマ機体開発のパイオニアと言えるエンジニアです。高校生や大学生にも興味を持ってもらえるよう、平易に解説しています。
 第4章では、運航管理・通信・離着陸場・保険などインフラについて解説しています。このインフラ部分は、日本で参入を考えている企業が一番多いところですが、幅広い話題がありますので、我々の研究ラボですべて研究しているわけではありません。そこで、重要な項目と我々が考える項目を選択して執筆しています。
 第5章は、第1章から第4章までのまとめの章です。これまでの内容を受けて、実現に向けて超えるべきハードルをまとめます。用途、機体技術、インフラの制約を総合したシステムデザインの考えが改めて説明されます。また、認証や標準化など第1章から第4章で、まだ記述されていない重要な点についても紹介します。コラムとインタビューは、研究ラボに所属するジャーナリストが各界の著名人にインタビューしており、読みごたえのあるものになっています。
 空飛ぶクルマは、まだ本格的には実現されておらず、技術開発の途上にあります。したがって、本書の内容は将来誤りが見つかる可能性があります。また、本書の内容については、国内外の多くの方々と議論をしたつもりですが、もし理解不足の点があればすべて監修者である私の責に帰するものです。なお、2019年現在、日本では空を飛ぶタクシーのことを「エアタクシー」と呼んでいます。しかし、航空関係者にとって「エアタクシー」はヘリコプターで移動する意味ともなるため、本書では混乱を避けて「空飛ぶタクシー」と表現します。

 この本を読まれた方々が、空飛ぶクルマの面白さと実現可能性を理解して、これからの日本の空の移動革命を支えてくれることを願っています。

監修 中野 冠 

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