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おもしろサイエンス
もの忘れと記憶の科学

定価(税込)  1,728円

著者
監修
サイズ A5判
ページ数 144頁
ISBNコード 978-4-526-08000-5
コード C3034
発行月 2019年08月
ジャンル その他 ビジネス

内容

一度憶えたら忘れない運動の記憶、美しく書き換えられる想い出、必死に努力して憶えた知識など、これらの人の記憶の仕組みと、その逆のなぜ人はもの忘れをするのかを中心に、脳の情報の伝達手段、記憶障害と記憶喪失などを具体的な話を出しながら解説していく。

五日市哲雄  著者プロフィール

(いつかいち てつお)
1947年、北海道函館市生まれ。北海道立函館工業高校工芸科卒、専修大学法学部卒業。大学卒業後文科省関係、化学メーカーに勤務後、広告業界でディレクター、大手総合出版社の編集者。医学雑誌の編集長を経て、サイエンスライターとして、医学系の『医療ミス・医療事故対処法』『体の謎がわかる本』『快眠と不眠メカニズム』『最強の血統学』などを執筆。近年は、理学系の「おもしろサイエンス(日刊工業新聞社)」、『磁力の科学』『枕と寝具の科学』『大豆の科学』を執筆。

田中冨久子  著者プロフィール

(たなか ふくこ)
1964年横浜市立大学医学部卒業、1985年横浜市立大学医学部教授。2004年同大学医学部長を歴任して、2005年同大学定年退職。2011年田中クリニック横浜公園開業(院長)。2017年瑞宝中綬章受章。専門は、生理学、神経内分泌学、脳科学。日本神経科学学会、日本生理学会、日本神経内分泌学会、日本生殖内分泌学会の会員。ブレインサイエンス振興財団常務理事。主な著書に、「女の脳・男の脳」「女の老い・男の老い」(NHKブックス)、「脳の進化学」(中公新書ラクレ)、「はじめての生理学 上・下」(講談社ブルーバックス)。学会活動は、貴邑冨久子として行なっている。

目次

はじめに
第1章
記憶のメカニズムは謎に満ちている
1  ヒトは3つの記憶システムを持つ
2  ヒトの脳は、どのようにでき事を覚えるのだろうか
3  なんと、記憶の仕方はこんなにもたくさんある!
4  記憶は単純系から複雑系へと進化した
5  記憶と心はどこにあるの?
6  考えもしないところに、記憶が保存されていた|LTP
7  心を創るメカニズムとは?

第2章
もの忘れと忘れる記憶の違いとは?
8  ど忘れは、なぜ起きる
9  もの忘れするのは、年老いたから?
10  海馬ニューロンは生涯新生されるというけれど
11  もの忘れを起こす誘因とは?
12  発想のもとは、「ひらめき」だ!
13  経験がものをいう「直感」!
14  忘れる記憶って、何?
15  忘却は、記憶を無意識のなかに保存する
16  記憶もストレスに曝されている
17  恋は、記憶力を増す?


第3章
今と未来の行動につながる過去の記憶
18  なんで、想い出はみな美しいのだろう
19  子ども時代の記憶ほど忘れない!
20  記憶は、すり替わる
21  思い込みや先入観は、なぜ起きる? 
22  悩みや不安は、記憶が未来を予測することから生まれる 
第4章
体で覚えた記憶は忘れない
23  技能や運動のための記憶とは?
24  随意運動で行う日常の動作 
25  小脳の運動学習機能が役立つスポーツ
26  条件反射は、なぜ、体の記憶と呼ばれるの?
第5章
言語の記憶は不思議がいっぱい
27  ヒトだけが持つ不思議な言語野
28  日本人は、記憶が得意?
29  言語機能によってワーキングメモリーの量を測る試み
第6章
記憶を操作する
30  心の状態に左右される記憶の想起
31  記憶機能を支援するアセチルコリン神経系
32  記憶力増強には、睡眠が一番! 
33  光遺伝学によるセル・アセンブリ仮説の証明
34  光遺伝学手法で想起される恐怖の記憶 
35  記憶の想起には2つの回路がある
36  記憶の想起を支える無意識の記憶 
第7章
ある日突然起こる記憶障害とゆっくり進行する記憶障害
37  ある日突然起こる記憶障害 
38  更年期に起こる記憶障害 
39  性ステロイドホルモンと記憶機能の関係は?
40  65歳から発症する記憶障害
41  年をとると、時間が速く感じるのはなぜ? 
42  加齢による記憶障害も脳の電気刺激によって改善
43  近時記憶障害から起こるアルツハイマー型認知症
44  アルツハイマー型認知症の近時記憶障害は、想起ができないだけ
第8章
AIは記憶をどのように進化させるのだろう
45  AIとは何か?マシンの記憶とは何か? 
46  AIの記憶でMRA画像から脳動脈瘤検出能力が向上
47  記憶に関係する海馬機能を「脳型AIハードウエア」で再現
48  子どもの声から、不安やうつ病を予知するAI 

Column
思い出の中に生きていた患者HMさんという人
宝物の「トレジャーDNA」
記憶する情報は電気信号になって伝わる
感覚するって、どういうこと? 
「コリン仮説」と「アミロイド仮説」のドッキング

参考文献

はじめに

 “記憶”は、古代から注目され、関心をもたれていました。
 紀元前15世紀頃から創作が続けられてきたとされるギリシャ神話のなかで、紀元前9世紀頃に書かれた、記憶を司る女神「ムネーモシュネー」について触れられており、そのムネーモシュネーは、ギリシャ神話の主神であるゼウスとの間に9人の娘を産みました。
 この娘たちは、文芸・芸術などを司る女神「ミューズ(ムーサ)」であり、叙事詩を司る女神「カリオペー」、歴史や英雄詩を司る女神「クレイオー」、悲劇・挽歌を司る女神「メルポメネー」、抒情(じょじょう)詩(し)を司る女神「エウテルペー」、独唱歌・舞踊を司る女神「エラトー」、合唱・舞踊を司る女神「テルプシコラー」、天文・占星術を司る女神「ウーラニアー」、喜劇を司る女神「タレイア」、幾何学・修辞学・瞑想・農業を司る女神「ポリュムニアー」の9人で、それぞれ重要な役柄を担う女神たちです。
 古代ギリシャ人は、記憶が精神の創り出すあらゆる事の基盤となり、諸学問の根源となっていることを理解していたのでしょう。また、記憶をことのほか重要視していたことが推測されますが、すべて女神であるというのも大変興味深いところです。
 また、ギリシャ神話には、記憶に関連する「忘却の川」という物語もあります。冥界との境目にある「レーテー(忘却)」という川の水を飲むと、過去の記憶がきれいに消え去ってしまうということが記されています。
 記憶は、覚えることだけでなく、忘れることも大事であることを示唆しているのかも知れません。

 近年、脳科学が著しく発展しましたが、同時に脳と関係が深い記憶についても多くのことが解明されました。そこで本書では謎が多く、不思議に満ちている記憶について、科学実験や論証による科学的根拠をもとに、できる限り理解を深められるよう論述しました。
 ヒトは、「遺伝子の記憶」、「脳の記憶」、「文字による記憶」という記憶システムを持っていますが、脳の記憶には「頭の記憶」と「体の記憶」があります。またそれらの記憶は「入力」、「保持」、「再生」を行うことによって、私たちの個性の一端を担っています。
 私たちが見たり、聞いたりした感覚情報は脳の感覚野を通して、記憶の中枢といわれる海馬で一時的に保管され、必要とされない短期記憶と、長く保存される長期記憶が1カ月ほどかかって選別されているといわれています。
 長期記憶の貯蔵については、脳の神経細胞のニューロンがつくる神経回路網、さらにニューロンとニューロンの間をつなぐシナプスという部位と、シナプスにある2つのニューロン間の情報伝達能力を持続的に向上させる長期増強(LTP)という現象が関与しています。記憶は現在、このニューロン、シナプスという部位とLTPという現象によって保存されているのではないかと考えられているのです。
 一方、無意識でも身体が反応するような記憶として、運動性記憶の「体の記憶」があります。
例えば、一度自転車の乗り方を覚えると生涯忘れないというような記憶などです。この体の記憶には小脳の働きが関わっています。

 このように、記憶は脳と深い関係を持っています。脳とともに、記憶自体の解明も進められていますが、まだまだ謎に満ちています。また、記憶が私たちの精神(心)と、どのような関係にあるのか、とても興味深いことです。

 本書は、監修に生理学・脳科学の重鎮である横浜市立大学名誉教授・医学博士の田中(貴邑)冨久子先生を迎え、そのご指導のもと執筆いたしました。田中先生からは専門分野のみならず、本書の内容に多くのご指導とご指摘をいただきました。ここに深く感謝の意を表します。
 また、日刊工業新聞社の藤井浩氏からも的確なサジェスチョンをいただきました。

2019年8月 五日市哲雄

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