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3つのアポロ
月面着陸を実現させた人びと

定価(税込)  1,980円

著者
サイズ 四六判
ページ数 360頁
ISBNコード 978-4-526-07985-6
コード C3034
発行月 2019年06月
ジャンル その他 機械

内容

人類初の月面着陸から50年。アポロ計画はどのように始まり偉業を成し遂げ、その後どんな経緯をたどったのか。表に出ることの少なかった様々な立場の人びとにもスポットライトをあて、その全貌を語る。宇宙開発分野で人気の著者による書き下ろし。

的川泰宣  著者プロフィール

(まとがわ やすのり)
1942年(昭和17年)2月23日、広島県呉市生まれ。
1965年(昭和40年)東京大学卒業。
1970年(昭和45年)東京大学大学院博士課程最後の年に、日本初の人工衛星「おおすみ」の打ち上げに参加。以後、ハレー彗星探査、科学衛星計画、「はやぶさ」など、数々のロケット開発・衛星開発に携わる。東京大学宇宙航空研究所・宇宙科学研究所・宇宙航空研究開発機構(JAXA)を経て、現在JAXA名誉教授、はまぎん こども宇宙科学館館長。工学博士。
「ハレー彗星の科学」(新潮文庫)、「宇宙へのはるかな旅」(大月書店)、「星の王子さま宇宙を行く」(同文書院)、「飛び出せ宇宙へ」(岩波ジュニア新書)、「月をめざした二人の科学者」(中公新書)、「やんちゃな独創 糸川英夫伝」(日刊工業新聞社)、「的川博士が語る宇宙で育む平和な未来 喜・怒・哀・楽の宇宙日記5」(共立出版)、「ニッポン宇宙開発秘史 元祖鳥人間から民間ロケットへ」(NHK出版新書)、「宇宙飛行の父 ツィオルコフスキー」(勉誠出版)、「トコトンやさしい宇宙ロケットの本 第3版」(日刊工業新聞社)など、著書多数。

目次

まえがき 

第1章 助走──V-2とその争奪戦
1 「七人の侍とマーガレット」が綴ったアポロの物語 
2 大戦はざまのロケット・ブーム 
3 V-2の誕生 
4 フォン・ブラウンのチーム、アメリカへ 
5 ソ連のV-2 

第2章 大統領の号砲──勇気ある決断
1 フルシチョフと米ソの衛星計画 
2 スプートニク 
3 NASAの設立とフォン・ブラウン 
4 ケネディ 
5 アポロ計画始動への道 

第3章 冒険者と匠の対立と接近──マーキュリー
1 はじまった闘い 
2 せめぎ合う技術者と飛行士 
3 アポロの飛行計画をめぐって 
4 悲しみを乗り越えて 

第4章 アポロへの美しい橋──ジェミニ
1 立ちはだかるソ連の「晴れのち雨」 
2 ジェミニ、滑り出し好調 
3 襲いかかる恐怖──ジェミニの仕上げの苦闘 
4 アポロへ渡る橋 

第5章 慟哭からのスタート──苦悩するアポロ
1 二つの蹉跌──アポロ1号とソユーズ1号 
2 「アポロ宇宙船」の姿 
3 アポロ初期の試験飛行 
4 頼もしい巨人──サターン 

第6章 史上最高の遠征──冒険者、月へ行く
1 冒険者の月周回──アポロ8号 
2 ついに真打ち登場──アポロ9号・10号 
3 アポロ11号 
4 アラームの裏側 
5 マーガレットとアポロ 

第7章 嵐の中のアポロ──匠たちの格闘
1 舞台は回る──月面到達の後に来るもの 
2 陽気な三人組──アポロ12号の愉快な旅 
3 奇跡の生還──アポロ13号 

第8章 語り始める岩石──科学者たちのアポロ
1 月の石が話し始めた物語 
2 シェパード、ふたたび宇宙へ──アポロ14号 
3 科学者の願い 
4 手をつないだ科学者と宇宙飛行士 
5 15号はあのクックのように 
6 「高地」の謎を求めて 
7 アポロ最後のミッション 

第9章 呼びかけるアポロ
1 追憶 
2 政治のリーダーシップと三つのアポロ 
3 人びとのアポロ 
4 アポロの歩き方 
5 アポロは呼びかける 


章扉イラスト──的川舞花

はじめに

 事実は小説より奇なり、という。全盛期のアメリカ人が10年間かけて描き上げた「オデュッセイア」であるアポロ計画にも、それは言える。ケネディが1961年にアポロの号砲を撃ちあげたとき、誰が、これから始まるプロジェクトの困難さを具体的に思い描くことができたであろうか。それは想像の世界を超えて、複雑で波乱に満ちたストーリーとなった。
 世に喧伝される「アポロ」は、宇宙飛行士の英雄譚ないし冒険譚として貫かれることが圧倒的に多い。それは、アポロ計画が、1960年代の初めにアメリカが置かれていた政治状況の中から生まれたプロジェクトだったことに起因している。ミサイル・ギャップ、ヴェトナム反戦運動、公民権運動、キューバ危機、……アメリカ国民の危機感を希望に変えるための、最も身近にある未来への扉が「宇宙」であることをケネディが見抜いた。
 「人間の月面着陸・地球帰還」という目標が掲げられると、仕事の複雑さに困惑し、同時に、挑戦するテーマの比類なき面白さに心を沸き立たせたのは、実は技術者であった。ミサイル等の軍事研究のど真ん中で殺傷兵器を開発してきた無数の若い技術者が、大量にアポロ計画に流れ込んできた。彼らは、「人間を月面に立たせて、地球に帰還させる」という非常にわかりやすいターゲットを射抜くために、その持てる「匠」を、青春を、捧げ尽くした。
 国の掲げた「宇宙飛行士を英雄にする」という目標にふさわしい活躍をするために、宇宙飛行士たちは当初、「打ち上げの瞬間から帰還まですべてを操縦する」夢を持った。それは早い段階でフォン・ブラウンによって「幻想」とされ、彼らは「ロケット・フェーズではお客様、宇宙船フェーズでは船長さん」というのが本当の役回りであることを知った。技術者の準備した緻密なスケジュール、コンピューターと管制官の指示に沿って、命をかけて遂行する課題が、宇宙飛行士に重くのしかかった。彼らはその任務を才能とスキルのすべてを発揮して乗り切り、その「冒険」によって英雄になった。
 1969年7月に、月面に二人の飛行士が着陸し、史上最高の冒険が成し遂げられると、人々の関心は、アポロの飛行から、アメリカ社会が抱える数々の難題に移行し、このビッグ・プロジェクトは、「冒険のアポロ」から「科学のアポロ」へと変貌していった。ここに至って、科学者、とくに地質学者と呼ばれる人たちが主役に躍り出る。ここでは宇宙飛行士たちは、技術者・科学者を格闘・連携の相手として、二正面作戦を展開することになった。
 アポロは決して宇宙飛行士だけが作り上げたものではない。技術者と飛行士と科学者の三者が紡いだ「三つのアポロ」だった。本書はそのように「アポロ」を語るささやかな試みである。閉塞感漂う現代世界が、20世紀最大の冒険から学ぶことは多い。汲めども尽きぬ歴史の泉を、一緒に掘りつづける同志が、若い世代から輩出してくれることを願っている。
 「はやぶさ」で御縁のあった西田敏行さんが帯の文を寄せてくださった。ありがたいことである。
 本書を執筆するにあたって、日刊工業新聞社の国分未生さんの丁寧な編集のお世話になった。また娘の舞花が嬉しいことに章扉のイラストを描いてくれた。ともに記して謝意を表したい。

平成から令和になった2019年5月に
的川 泰宣 

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