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バルセロナのパン屋にできた 
リーン現場改革

定価(税込)  1,760円

著者
著者
訳者
サイズ A5判
ページ数 136頁
ISBNコード 978-4-526-07962-7
コード C3034
発行月 2019年03月
ジャンル 経営 生産管理

内容

スペインの小さなベーカリーが、自動車業界で熱心に取り組まれるリーン/トヨタ生産方式をやってのけた成功要因を明快に検証する。製パン工程のみならずサービスや業務分担など、ビジネスモデル全体を変革した一部始終を学ぶ。

ファン・アントニオ・テナ  著者プロフィール

Juan Antonio Tena
 バルセロナに約100店舗のカフェ、ベーカリーを構える365カフェ・チェーンのCEO(最高経営責任者)。
 さまざまな産業で働いた経験を持つ。バルセロナの自動車メーカーSEATでフライス盤加工の作業員として長年働いた後、兄弟とともに運送業を経営。その間も、心はカフェとパンづくりにあった。2000年に妻エミと365カフェを創業。2004年に書籍「リーン・シンキング」を読んで「リーンの旅」に踏み出し、組織そのものも、自身の経営のやり方も一新させた。
 IESE(Instituto de Estudios Superiores de la Empresa)ビジネススクールにて経営学修士号取得。

エミ・カストロ  著者プロフィール

Emi Castro
 バルセロナに約100店舗のカフェ、ベーカリーを構える365カフェ・チェーンのリテイル責任者(販売担当役員)。
 彼女の最初の仕事は15歳のとき。毎週末、果実店で働くうちに、モノを売ること、お客様に接することへの自身の情熱に気づいた。25歳のときに社会学の学位を取得したが、これは人を理解し、より良い接し方をする自身の能力を高めるためであった。2000年に夫ファン・アントニオとともに365カフェを創業。現在、店舗ネットワークの経営責任を担う。リーン・シンキングを365カフェのリテイル部門へ持ち込むのに大いに貢献してきた。

成沢俊子  著者プロフィール

(なるさわ としこ)
NEC、金融庁を経て、PEC産業教育センターにて改善を研究。トヨタ生産方式が世界へ伝播していく足跡を追いかけながら、トヨタ式「仕事のやり方」のルーツの探求と発展過程の研究を続ける。「モノと情報の流れ図(VSM)」をはじめ、Lean Enterprise Instituteのワークブックシリーズの翻訳者でもある。現在、ピーキューブ㈱代表取締役社長。

目次

推薦の言葉  ジョン・シュック(リーン・エンタープライズ・インスティチュート会長)
序文  オリオール・クアトレカサス(リーン・マネジメント研究所代表)
はじめに

第1章 何が問題だったのか?
365カフェができるまで
突然のひらめき
転機をもたらした買い物

第2章 より良い仕事のやり方を求めて
より良いやり方とは何か
最初のいくつかの実験
結果を見る
時計のように動く工場
工場現場ツアーに出てみる
リーンであり続けるためには工場は小さめがよい

第3章 ベーカリー店舗へ「リーン」の考え方と行動を持ち込む
店舗はどのように運営されているか
A,B,Cという3つの役割
お客様に近づいていく

第4章 「究極のリーンの実験」をベーカリー店舗で行う
どんなプロセスか
適応可能なサクセス

第5章 今までとは違うマネジメントの文化を築く
リーンな組織
店舗への配送ミスを減らそう
辛くないリーン
365カフェのカルチャー〜実践の極み
カスタマー・フォーカス(すべてはお客様のために)
データに基づく意思決定
問題解決とコミュニケーション
社員の主体的参画
壮大な実験

第6章 365カフェはどのように実験を行っているか?
PDCAサイクル記録帳
あなたの番です
欠品ゼロの在庫削減

むすび
著者について
原書発行元であるリーンの研究組織について
訳者あとがき
索引

はじめに

推薦の言葉
 食べものは新鮮であるべきだ。それなのに、私たちは食べものを大きなバッチでまとめてつくっている。車の部品を小さなバッチで、1個流しの速い流れでつくれるのなら、私たちにとって最も大切な消費財――「食べもの」で、どうしてやれないことがあろうか。ここに紹介するバルセロナのベーカリー/カフェ・チェーンの心躍る物語をぜひ読んでいただきたい。そして、ご自身の実験に取り組んでいただければと思う。
ジョン・シュック
リーン・エンタープライズ・インスティチュート会長


序文
 
 1年ほど前のこと、バルセロナの「365カフェ・チェーン」のオーナー経営者であるファン・アントニオ・テナが電話をかけてきて、365カフェが目下取り組んでいる最新の「実験」の話をしてくれました。それぞれの店舗(カフェ)で売るパンの全量を、各店舗で焼く実験をやっているというのです。詳しくはわかりませんでしたが、テナはパン生地づくりから店舗でやろうとしている様子。僕はわが耳を疑って、「それは深く考えてのことですか?」とテナに聞きました。というのも、365カフェはチェーン全体で毎日12,000〜19,000個のパンを売っているのですが、これまでのところそのすべてをたった1カ所のパン工場で、しかも、わずか3人でつくることができているからです。もし、各店舗でパンを生地からつくって焼いたら、大変なコスト増になります。なぜ、そんなことをやろうとするのでしょうか?!
 怪訝そうな僕の問いに、テナはとても愉快そうに答えました。「バゲット1個をつくるのに必要な小麦粉と水、酵母の量が同じで、エネルギーも同じだとしたら、考えるべきことはただ1つ、自分たちの『つくり方』の効率を上げるだけ。違うかい? やってみたら、ちょっと手間はかかるけど、これが実に面白いんだ。それに、バッチを小さくしてお客様に近づいていくのが大切だってずっと言い続けてきたのは、オリオール、君じゃないか!」
 いや、申し訳ない。僕が教わってきたのはまさにそれ。もちろん、テナは非常に正しいことを言っているのです。どうやったら実現できるかはわからなくても、これは眼前の具体的挑戦であり、そして、その挑戦に終わりはないのです。
 実際、テナはこれまで、「リーン」の実践を通して重要なことを大いに学び、この5年で僕の先生の1人になったのです。昔、僕の周りには「リーン」について教えてくれる先生はあまりいなくて、僕は父ルイスからリーンを初めて教わりました。
 父は“Volver a Empezar(リーン・マネジメント―根底からやり直そう)”という本の作者で、後にその本が365カフェに最初にリーンを持ち込むことになりました。
 今でも鮮明に思い出せますが、365カフェの店舗に初めて「リーン・プロセス改善」を持ち込んだ頃、テナの奥さんでビジネス・パートナーでもあるエミ・カストロは、「店舗のスタッフたちに販売の喜びを失わせたくない」とずっと言っていました。どうしたらスタッフ同士が助け合って働き、お客様により良いサービスを提供できるのか、エミは自ら何度も何度もやってみせ、うまくやれるかを確かめながらみんなの理解と賛同を獲得していきました。エミの熱意と確信は、最大の抵抗に直面したときでさえ、少しも揺らぎませんでした(これを実際に行動で示すのは、言葉で言うほど簡単ではありません)。エミたちは日本由来の特殊な「リーンの言葉」をバッド・ワードと呼び、できるだけ使わないようにしてきました。しかし、今だから言えますが、エミは最初の頃、そのような特殊な用語を使ってスタッフに説明してほしい、と僕に言ってきたこともあったのです。
 やがて彼女は、「日本の奇妙な用語はもうたくさん。これからは使わないわ。ものごとが複雑になってしまうのは、自らそうしているからよ」と言うようになりました。当初、リーンという、それまでとは違う考え方や行動の仕方に対してスタッフたちがどれほど戸惑っていたか。そして、どうしたらみんなの理解を助けることができるか。それがだんだんとわかってくるに連れ、エミは立派なスペシャリストになっていきました。このような面で、エミは僕に実にたくさんのことを教えてくれました。読者のみなさんも、エミのアドバイスに注意深く耳を傾け、従うことで、より良い道を歩めるはずです。
 僕はこの本の物語の登場人物ではなく、たまたま幸運に恵まれた観察者に過ぎません。時に助言者でもありましたが、365カフェの「リーンの実験」はいずれも常識の逆を行くように見えて実は本質を突いたものであり、ぜひやるべきだし、ずっと続けていくべきと励まし続けただけとも言えるでしょう。
 ここで、物語の登場人物を紹介します。まず、アランチャ。知性と根気に富んだエンジニアで、365カフェに最初にリーンを根づかせるのに、大いに貢献した人物です(よく「根づかせるには何年もかかる」と言われますよね?)。それから、エヴァとコンチ。非常に優秀な店舗のスーパーバイザーです。彼女たちは自ら取り組み、僕たちと一緒に行った「実験」をわかりやすく翻案して、カフェの店舗とそこで実際に働く人々にぴったりくるような、真に役立つPDCAをつくり上げてくれました(デミング博士も誇りに思うでしょう!)。弛まず、決してあきらめない現場マネージャーのアーガスは、僕たちが埋めるべきどんなギャップでも見つけることができる問題発見の達人です。最後にウナイ。生産部門のマネージャーにしてエンジニアでもある彼は、「365マシン」がトラブルで停止することがないよう、そして、より良くなるよう、「365マシン」の保全と改善に粘り強く取り組んできました。
 365カフェのような組織の研究は簡単ではないし、本に書くのも難しいものです。ファン・アントニオとエミの原稿を最初に読んだとき、僕は、彼らの変化の過程が、ものごとをシンプルに考え、扱うという、彼ら独自のやり方で描かれていると感じました。もっと複雑な、あるいは、テナたちとは違う環境にある読者のみなさんは、本書のストーリーに対して違和感を持つかもしれないと思ったくらいです。
 しかし、365カフェのみんなと一緒に僕が経験してきたことを振り返ると、彼らの物語においては、「シンプル」こそ唯一の道だったのだとすぐに思い直しました。複雑で難しいというそれまでの思い込みを取り払い、自らの仕事のやり方と現状をよく見て、「365カフェはいかにあるべきか?」というしっかりしたビジョンを打ち立てることができたのは、彼らが「シンプル」を貫いたからです。リーンは、要らないものを捨ててものごとをシンプルにし、本当に必要なものだけを取り出して、さらに良くするために弛まず励み続けなさいと教えます。読者のみなさんは、本書の中にそのことを見出すはずです。もちろん、それを実際にやるのは簡単ではありません。
 それでも僕は、「365スピリット」がみなさんにひらめきを与えてくれるよう願っています。みなさんの期待を裏切ることはありません。ぜひ本書を読み、楽しんでください。そして、バルセロナを訪れる機会があったら、ぜひ365カフェのパンや製品を味わってください。
 物語を読む楽しみとともに、“bon profit!”(「どうぞ召し上がれ」)
オリオール・クアトレカサス
リーン・マネジメント研究所代表
スペイン バルセロナ


はじめに

 スペインには、こんな諺があります。
   ―硬いパンには最も鋭い歯を使え― (A pan duro, diente agulo)
 ざっくり訳すと、「正しい道具を使って困難に立ち向かいなさい」という意味です。
 ビジネスは公園の散歩のようにはいきません。困りごと、責任、日々の問題、長時間労働。医療や製造業、小売り、ソフト開発などどんな事業であれ、たいていは否応なく毎日困難に出会うはずです。
 「硬いパン」の諺から想像できるかもしれませんが、私はパン屋で、バルセロナの家族経営ベーカリー・チェーンである「365カフェ」のオーナー経営者です。2000年に創業し、今日までに約400人が働く成長企業に育ててきました。店舗は約100店、毎日何千ものパンやペストリー、ケーキ、サンドウィッチを売っています。これは一例で、他にもいろいろな商品を扱います。そして、店で販売するパンとペストリーのほとんどを、私たちは、バルセロナ中央部の西にあるたった1カ所のパン工場(オブラドール)でつくっています。この2年で24を超える新規店舗をオープンしました。今、かつてないスピードで成長している最中にあると改めて感じています。
 当然ですが、ずっと順風満帆でやってきたのではなく、むしろ挑戦の連続でした。先の諺に沿って言うなら、妻のエミと一緒に創業した頃、自分たちの歯は十分に鋭いと思っていましたが、それは大間違いだったということです。
 最初の数年間、私たちはものすごく頑張って働きましたが、頑張って働くだけではまるで足りませんでした。私たちに必要だったのは、自分たちの仕事のやり方をコントロールし、後工程が何を求めているかをわかるようにする「システム」でした。そして、そのシステムこそ「リーン・シンキング」に違いないと気づいたのです。リーン・シンキングはこの10年、いつも私たちの仕事のやり方の中心にあって、すばらしい成果をもたらしてくれました。カルチャーをすっかり様変わりさせ、仕事のやり方を大きく変え、今も成長の糧であり続けています。さらに、毎日新たな扉を開き、道を照らし、私たちが日々少しずつ、より良くなるよう導いてくれています。
 スペインのリーン・マネジメント研究所とアメリカのリーン・エンタープライズ・インスティチュートから本を書くように勧められたとき、私はかなり戸惑いました。何しろ、産業のあらゆる領域にわたってリーン・シンキングの優れた事例はすでにたくさんありました。それに、365カフェではずいぶん長い間、自分たちが見つけた「問題」にばかり意識を集中させてきたので、「良いこと」については忘れがちでした。時折、外部の人がやってきて、私たちが小さな小屋で最初のパン工房を始めた頃に比べてどのくらい遠くまで来たかを気づかせてくれますが、それを聞いて「ああ、そうだった」と思い出すような調子です。
 私たちがやっていることの中でみなさんの興味を引くかもしれないと思うのは、最も基本的な食べ物であるパンをつくるという、ありふれた仕事にリーンを活かしていることかもしれません。あるいは、1カ所のパン工場だけで、毎日数十店舗にほとんどのパンを供給できる超高効率な現場をつくり上げてきたことでしょうか。さらには、近年の急成長を挙げることができるかもしれません。確かに、私たちは過去5年で店舗数をほぼ倍増させました。
 こうして、何について書くべきかを考えるうちに、私は徐々に、自分たちの物語をリーン・コミュニティのみなさんに伝えるのにぴったりくる成果がたくさんあることに気づきました。しかし、私は、自分たちが経験から学んだ最も価値あるものは、「実験の力」を深く信じることだと考えています。私たちは何年もの間、さまざまなことを実際にやってみました。失敗もありましたが、それらの試行錯誤があったからこそ、私たちの今があるのです。
 「リーンは旅」とよく言われます。私は、これこそが核心と思うのです。つまり、実験の旅であり、弛まぬ発見の旅であり、それまでとは違う、新しい、より良いやり方でものごとをやっていこうと続ける旅。私たちのアプローチは現実に即したもので、日本語由来の特別な用語は使わず、書物に書かれている手法もほとんど使いません。私たちは生の現実と本質から学んできました。そして、変化し続けるニーズと環境に合わせて、手法に工夫を重ねてきたのです。
 私の言う本質とはムダを価値に転換することで、それは、お客様に焦点を合わせ、社員を尊重することによってのみ実現できるものです。これは私たちの経営の基盤であり、問題を1つ解決するたびに、改善を1つ行うたびに、毎回得られる学びをもって私たちはこの基盤への確信を深めてきました。
 読者のみなさんが、ご自身の「リーンの旅」のために、本書から何かヒントになることや役に立ちそうなものを得られたら幸いです。
2017年
ファン・アントニオ・テナ
スペイン バルセロナ

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