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バーチャル・エンジニアリング Part2
危機に直面する日本の自動車産業

定価(税込)  1,512円

著者
サイズ 四六判
ページ数 150頁
ISBNコード 978-4-526-07952-8
コード C3053
発行月 2019年03月
ジャンル 機械

内容

自動車のスマホ化はすでに具体的なスキームのもと加速しており、自動車開発に求められる品質要件は爆発的に広がりつつある。世界の自動車産業に何が起こっているか、大きく遅れをとったわが国の自動車産業に一体何が待ち構えているかを示す。盲目的なジャパンクオリティ信仰をうち壊す本。

内田孝尚  著者プロフィール

(うちだ たかなお)
神奈川県横浜市出身。横浜国立大学工学部機械工学科卒業。1979年㈱本田技術研究所入社。2018年同社退社。現在、雑誌・書籍などマスメディアや、日本機械学会等のセミナーを通じて設計・開発・ものづくりに関する評論活動に従事。MSTC主催のものづくり技術戦略Map検討委員会委員(2010年)、ものづくり日本の国際競争力強化戦略検討委員会委員(2011年)、機械学会“ひらめきを具現化するSystems Design”研究会設立(2014年)及び幹事を歴任。東京電機大学非常勤講師、博士(工学)、日本機械学会フェロー。著書「バーチャル・エンジニアリング」(2017年日刊工業新聞社)、「ワイガヤの本質」(2018年日刊工業新聞社)

協力:ビジネスキューブ・アンド・パートナーズ株式会社
2001年の創業以来、車載組込みシステムを中心とした開発現場において、プロセス改善や安全設計の支援に長く取り組んできた。
開発プロセスモデルの自動車業界標準であるAutomotive SPICEについては、2005年の初版発行以来、公式日本語訳を手がけており、同時にAutomotive SPICEのアセッサーを認定する国際アセッサー認定機構(intacs)を設立から支援してきた。
intacsの日本地域代表も務め、日本を中心としたアジア地域のAutomotive SPICEアセッサーの支援も行っている。Automotive SPICEアセッサーの公式トレーニング機関としては、延べ800名以上のアセッサーを育成してきた。
また、2008年からはAutomotive SPICEを中心としたSPICEユーザーのコミュニティ、日本SPICEネットワーク(当初は日本SPICEコミュニティ)の設立を呼びかけるなど、SPICEの普及にも力を入れている。日本SPICEネットワークは2019年現在で会員数が200名を超える活発なコミュニティへと発展している。

目次

はじめに

第一章 世界の自動車産業に今なにが起こっているか
1・1 契約が打ち切られた日本の大手サプライヤ
メイドインジャパンは信用できない/ものづくりのルールが変わった/日本製でなくとも構わない
1・2 3Dモデルが設計品質を驚異的に向上させる
世界の品質は平均化されている/バーチャルエンジニアリングによる設計品質の向上/品質で日本車が世界のマーケットに参加できなくなる?
1・3 あらためて世界との差を認識しよう
研究されつくした日本流/欧州流と米国流の融合によるバーチャルエンジニアリングの強化

第二章 自動車に求められる新たな機能
2・1 必然的に浮かび上がるシステムの巨大化という問題
自動車のプログラムは、ステルス戦闘機の4倍、ビジネスソフトの2倍/どんな状況、どんなドライバーへの対応も求められる自動車の宿命/車載機器のエレクトロニクス化とソフトの巨大化
2・2 巨大システムのソフトウェア品質をどうするか
なぜソフトの品質保証にハードの経験が通用しないのか/プロセス品質は、レストランのレシピと考えるとわかりやすい/ASPICEはどのようにして生まれたか
2・3 ハードウェア品質に対する考え方が変わった
図面通りのものづくりは難しい/図面通りのモノが作れる3次元図面/開発のQCDはどう変わるか/3次元データでバーチャルテスト(VT)への道が開ける
column ブランドという名の品質保証

第三章 なぜ設計開発がモデルの検討で済むようになったか
3・1 なぜ設計開発がモデルの検討で済むようになったか
なぜ自動車の開発に時間が掛かっていたか/設計仕様の検証ループを極小化する
3・2 あらゆるシーンでの車両の挙動がシミュレーション可能に
バーチャルエンジニアリングによる試作なしの検証/形状モデルと制御モデルを使った車一台のシミュレーション/モデルの精度向上によりシミュレーション精度も大幅に向上した/データ連携は欧州議会の強力なリーダーシップによって実現した
3・3 バーチャル化がもたらすビジネスモデルの変革
現物からデータへ、ビジネスモデルが変わる/実際にはV字フローではなくW字フローモデルの開発が行われる/開発データの連携で自動車のモジュラー開発が可能になる/データの品質がすべてを決める
column もう海外から学ぶものはなくなった!?

第四章 巨大化するソフトウェアの品質保証をどうするか
4・1 ソフトウェアの品質保証はどのように行われてきたか
ソフトウェア開発ルールのさきがけ「CMM」/企業間契約のためのソフトウェア開発ルール「SPICE」
4・2 自動車システム開発へのプロセスアセスメントの適用
30年かけて成立したソフトウェアのビジネスルール
4・3 開発効率化の決め手となるソフトウェアの再利用
日本のソフトウェア開発の受注の仕方/サプライヤへの対価が、ソフトの機能価値で支払われる場合/サプライヤへの対価が、ソースコード行数で支払われる場合/サプライヤへの対価が、派遣技術者の人件費として支払われる場合/オートザー(Autosar)によるソフトウェアの再利用ルール/実際のモジュール開発とソフトウェアの発注の流れ
4・4 2020年欧州、バーチャルテスト認証移行のインパクト
自動車は型式認証をクリアしなければ販売できない/周到な準備のうえで実施される欧州のバーチャルテスト認証/日本の自動車産業が世界のマーケットから締め出される可能性

第五章 新たなビジネスモデルの出現
5・1 なぜ大部屋制度のバーチャル化が必要なのか
世界を席捲した日本の大部屋(OOBEYA)制度/バーチャルエンジニアリングで行う「OOBEYA」/シーンモデルベース開発による仕様熟成の超効率化/シーンモデルベース開発によるサプライヤへの開発の完全委託
5・2 OEMとサプライヤの役割分担が根本的に変わる
ガラパゴス化した日本のOEMとサプライヤとの関係/明確なアウトプットを求める世界の自動車産業/サプライヤ開発のブラックボックスのホワイトボックス化/ASPICEは可視化しづらいシステム開発の品質・進捗を保証する
5・3 OEMとサプライヤがともに儲ける仕組みを考える
OEMとサプライヤの新しい協業の姿/量産受注は、決してサプライヤを強くしない/機能モジュール開発で知財ビジネスの展開をねらう/開発プロジェクトを分割する欧州OEM、対応できずに失注した日本企業

第六章 なぜ日本のものづくりが崩壊の危機にあると言えるのか
6・1 現場主義がもたらすダブルスタンダード
新しい規格に更新されているのに古い規格を使い続ける/一義的に位置が決まらない図面を使い続ける/膨大なコストをかけて2Dと3Dのダブルスタンダードを維持する/属性情報の入力を請け負う仕事が生まれつつある/なぜダブルスタンダードの解消が遅れたか
6・2 規格化・標準化によるものづくり戦略の課題
ジャパンクオリティの錦の御旗の下/畳の寸法の不統一は、新たなビジネスの可能性閉ざす
6・3 競争力の劇的な低下が予測される日本のものづくり
何も失わないようにすると、すべてを失うことになる/今後の日本のものづくり
column 伝統は守ることではなく、挑戦すること

終 章
日本の課題と将来の日本
動き出した日本の施策/ワザとデジタルを融合し、仕事を取れる中小企業が増えている/バーチャルエンジニアリングは日本のためにこそある技術だ
column 街中で見られるVE/VRを駆使したカスタマイズ製品

はじめに

 2005年頃、筆者が欧州出張に出かけた際、ドイツのある自動車完成車メーカーの技術者と自動車開発でやり取りされるデータについて議論する機会を得た。
 当時、すでに自動車開発は3Dモデル(3次元CADによって作られた3D図面)を用いるのが当たり前になっていた。例えば自動車の車内のインテリアや、車体外形フロント部やリア部など、3D形状モデルを用いてサプライヤ(部品メーカー)と共同開発で進められる。しかし、一般に自動車の3Dモデルは機密であり、サプライヤへの公開に際しては範囲や閲覧者を制限する必要がある。
 その頃、筆者は3Dモデル中心となるこれからのものづくりで、機密保持に関する取り決めをどうするのか素朴な疑問を抱いていた。そのためデータ中心のものづくりにいち早く取り組んでいたドイツ人との議論はたいへん示唆に富むものとなった。
 さらに今から10年ほど前、2008年前後より、欧州ではバーチャルエンジニアリング(VE)が本格的に開始された。VEとは、従来、「物」で行っていた検査や検証を「モデルデータ」で行ってしまうという手法の総体をいう。データに置き換わることで品質保証(ここではデータの来歴や品質)や、データに関わる会社間の手続きがどうなるか実際に大きな課題となる。
 以前より筆者はこのようなデータの品質や来歴の保証を契約に盛り込むためのASPICEという規格があり、そして同時にこれが欧州の自動車ビジネスのデファクトスタンダードとして機能していることを知っていた。ただし、その普及の範囲や進捗、また運用に際する現場の実態を正確に把握しているわけではなかった。
 そのような折、知人からASPICEの専門家であるビジネスキューブ・アンド・パートナーズ シニアディレクターの田渕一成氏を紹介していただいた。当初は興味本位でお伺いしたのだが、その実態をお聞きするにつれ危機感を募らせることになった。そこで世界の自動車ビジネスの動きと、それに相反するわが国の危機的な状況を伝えるため、共同で本書を執筆することを提案した。
 当初、田渕氏からは快諾をいただいたものの、同氏は日本企業のASPICE対応支援のまさに第一線で欧州と日本を行き来しながら活動されており、執筆活動に時間を割けない難しい状況であった。そこで筆者が田渕氏に取材しながら拙著「バーチャルエンジニアリング」(日刊工業新聞社刊、2017年)の続編としてまとめることになった。
 本書をまとめるにあたり、ご多忙にもかかわらず快く協力を頂いた田渕一成氏には心から感謝を申し上げたい。また、本書の出版に際し、ご尽力をいただいた日刊工業新聞社の天野慶悟氏に御礼を申し上げる。
 本書の出版が多くの読者にとって、自動車開発のイノベーションや、ひいてはものづくり全体の変化を考えるきっかけとなり、新しい挑戦に繋がっていけば筆者として望外の幸せである。
2019年3月吉日
内田孝尚

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