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わかる!使える!熱処理入門
<基礎知識><段取り><実作業>

定価(税込)  1,980円

著者
サイズ A5判
ページ数 144頁
ISBNコード 978-4-526-07917-7
コード C3057
発行月 2019年01月
ジャンル 金属 機械

内容

熱処理は、温度をコントロールするというアナログ的な要素が多く、現場での経験や知識が多く要求される作業である。本書は、基礎知識から、現場で求められる準備・段取り、さまざまな熱処理作業の実務と品質管理までを体系的にわかりやすく解説する。

田原 譲  著者プロフィール

(たはら ゆずる)
田原技術士事務所 所長、技術士(金属)

1950年 岡山県生まれ
1974年 愛媛大学工学部冶金学科卒業。非破壊検査会社に入社、原子力発電所の圧力容器・配管、タンクなどの検査業務に従事
1979年 ㈱本田技術研究所(朝霞研究所)入社。2輪車のクランクシャフト、ギア、ピストンなどの材料研究・開発を担当
1996年 本田技研工業㈱(浜松製作所)にて受入れ部品の品質管理、完成車ラインの品質管理を担当
2000年 本田技術研究所(朝霞東研究所)にて汎用機器(船外機、発電機、耕運機など)の材料研究・開発を担当
2004年 本田技研工業(汎用品質改革部)にて汎用機器の市場品質対応を担当
2009年 本田技研工業を退職。技術士事務所を設立し現在に至る

日本技術士会会員(金属)、埼玉県産業技術総合センター・技術アドバイザー、熱処理メーカー・技術コンサルタント、講演会講師(熱処理関連)、安全保障輸出管理・セミナー講師 など

主な著書
「これだけ!めっき」秀和システム(2015)

目次

はじめに


第1章 
これだけは押えておきたい
 熱処理の基礎知識

1 熱処理の基礎知識

・鉄の特性

熱処理の原理

要求性能と材料と熱処理

熱処理の利用例

機械的性質

鉄鋼材料の熱処理の基本

焼入れ性と質量効果

熱応力と変態応力

金属組織の種類

鉄-炭素平衡状態図

等温変態状態図(TTT線図)

連続冷却状態図(CCT線図)

2 材料の基礎知識
熱処理と鉄鋼材料
・鉄鋼材料と炭素

機械構造用鋼

添加元素の働き

工具鋼

金型鋼

高速度鋼

軸受鋼

ばね鋼

ステンレス鋼

鋳鉄

アルミニウム合金


第2章 
熱処理の実作業

1 熱処理作業のいろいろ
焼ならし

焼なまし

焼入れ

焼戻し

サブゼロ処理

等温処理

固溶化処理と時効処理

高周波焼入れ

浸炭

軟窒化処理

2 熱処理の品質管理

品質確認と対策

外観品質と材料成分

硬さ・表面硬さ

硬さ分布
・火花試験

金属組織

引張試験

疲労試験

衝撃試験

耐食性試験・耐候性試験


第3章 
きちんとした準備・段取りが不具合を防ぐ

1 熱処理の不具合

・どんな不具合があるのか?

ひずみ

曲り

割れ

焼むら
・焼戻し脆性

水素脆性割れ

高周波焼入れのひずみ

熱処理工程前後に注意すべき項目
・熱処理のトラブルシューティングリスト

2 現場で進める準備と段取り

・熱処理工程

熱処理作業の設備の準備

熱処理作業の手順

均熱化(予熱、段階的加熱)

焼戻しの注意点

浸炭の品質

クランクシャフトの熱処理に見る段取り

ミッションギアの熱処理に見る段取り
コラム


受け身と能動

熱処理品質の評価



参考文献・引用文献

索 引

はじめに

「熱処理」はよく耳にする単語ですが、その作業自体は極めて現場的で、熱処理の理論を学生のうちから体系的に学んでいる人はあまり多くはないのではないでしょうか。それなりにおもしろい分野だと思いますが、実際に実業として取り組むと意外と難しい面があります。

私は学生時代から金属を学んでおり、社会に出てからもずっと金属に触れる仕事に従事してきたため、金属の熱処理には強い親しみを持っています。

 熱処理の基礎は「鉄」にあります。その鉄は地球にたくさん存在し、宇宙全体でも支配的元素と位置づけられています。機械部品や建築構造材など、人間社会になくてはならない元素です。ただ鉄は、そのままではあまり頼りにならない元素でもあります。素質はあるけれども、能力的には不十分といったところです。そこで、不十分なところをカバーするのが熱処理という手段です。熱処理することによって硬くもなるし、強くもなります。ばね性を持たせたり、衝撃にも耐えられるようにもなります。

 私自身は自動車メーカーで機械部品の開発製造に携わり、その後、金属部門のコンサルタントとして数社の熱処理現場の実務を見聞きしてきました。その経験をもとに、実務に沿って熱処理全般の基本的な事項を入門書としてまとめたのが本書です。
 
熱処理の基本は、まず3つあります。「焼ならし」と「焼なまし」と「焼入れ焼戻し」です。これらをしっかり理解できれば、熱処理の半分以上はわかります。他にも、いろいろな種類の熱処理がありますが、この3つの派生と考えることができます。

 一般的に熱処理は難しいと思われているようですが、それはなぜなのでしょうか。熱によって金属の原子レベルの構造が変化すること、加熱や冷却によってものの内部に3次元の温度分布ができること、原子の状態が変わることで各部位の体積も変わってしまうこと。そういうさまざまな変化を見せるため、理解しづらいと感じてしまうのでしょう。

 たとえ話にするとわかりやすいと思います。ラッシュ時の満員電車内で考えると、車内の状態はさまざまで決して均一ではありません。混雑しているところと、比較的空いているところが混在しています。同様に、熱処理を行う前の素材内部も均質ではありません。満員電車に乗ると、周りからぎゅうぎゅう押されて身体に圧力を感じますが、みんなが少し隙間を詰めたり、空けたり、工夫をすることで落ち着ける状態になります。熱処理では、焼ならしという手法でぎゅうぎゅう状態をなくして均質な状態にします。

 さらに、焼なましを行うことで、みんなが悠々と足を伸ばせるほどゆったりした状態にすることができます。それによって、素材は加工しやすい状態になります。さらに、焼入れ焼戻しによって、硬く強くすることもできます。それぞれの方法にはバリエーションがありますが、それを使い分けながら、さまざまな熱処理を施していくのです。

 熱処理のプロになるためには、まず熱処理の理論をしっかり把握することです。次に、実務としての要領を考えること。さらに、品質に責任を持って顧客に提供できるようになることが求められます。

 熱処理の基本理論は同じですが、実際の熱処理の現場では、同じものをたくさん作る大量生産と、生産数が少ないロット生産、1つひとつ作るものが異なる単品生産では、その手法も考え方も異なります。

 大量生産では、製造技術そのものだけでなく、たくさんの製品をどれほど効率良く生産できるかが求められます。利用するエネルギーを最小化する一方で、得られる収益を最大にすること、つまり、生産性が重要課題となります。また、部品の寸法がメートルオーダーであるような単品生産もあります。いずれも要求される熱処理品質をいかに実現するかが求められますが、当たり前ですが両者では、生産設備も、手法も、手順も異なります。そのためにすべてをこなせるオールマイティな熱処理業者は少なく、それぞれ専業分化が進んでいます。しかし、熱処理する対象が異なっても、原子レベルの挙動をコントロールする熱処理技術の基本は同じです。本書が、その理解に少しでもお役に立てれば幸いです。
 
最後に、本書を執筆する機会を与えていただき、編集、校正に多大なご指導をいただきました日刊工業新聞社出版局のみなさまに深く御礼を申し上げます。


2019年1月 
田原 譲

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