買い物かごへ

製造業のUX

定価(税込)  2,376円

著者
サイズ A5判
ページ数 176頁
ISBNコード 978-4-526-07879-8
コード C3053
発行月 2018年09月
ジャンル 機械

内容

製造業において、UX(User Experience)の考え方を取り入れた商品開発のやり方を解説した本。ユーザーの行動や使い方、時間をストーリーでとらえて分析、UXが最大化するように落とし込んでいく。実際のオペレーションがイメージできるように、各章で具体的な例を示しながら解説していく。さらに、ニーズの未来予測の方法と、それを戦略に組み込んでいく仕方を紹介する。

緒方隆司  著者プロフィール

(おがた たかし)
 1956年、東京生まれ。
 赤井電機株式会社を経て、1989年からオリンパス株式会社にて、磁気デバイス、MO用光ピックアップ、光通信用デバイス、プリンター等の情報機器関連の開発業務、開発部長としてマネジメント経験を積む。
 2010年から科学的アプローチを使った開発効率向上の全社推進業務を先導し、開発者目線での取り組みで1000件以上の事例に適用。取り組み成果はQFDシンポジウム、TRIZシンポジウムで毎年発表し、TRIZシンポジウムでは「あなたにとって最も良かった発表」賞を5年連続受賞。
 2016年にオリンパス株式会社を定年退職し、現在、株式会社アイデア*にてプロジェクト・コンサルティング・ディレクターとして活動中。日本TRIZ協会理事。
 著書に「製品開発は“機能”にばらして考えろ」(日刊工業新聞社)がある。

*株式会社アイデア:http://www.idea-triz.com/
TRIZを核とする体系的開発手法の導入・活用コンサルティングとイノベーション支援ソフトウェアGoldfireの提供を通じて、クライアント企業の数百件におよぶ製品開発プロジェクト、技術開発プロジェクトを支援している。

目次

はじめに

第1章   製品開発は顧客の声を聞くべからず?
1.1 顧客の声から作った製品は売れない!?
1.2 顧客の行動と製品の架け橋となる「機能」とは
1.3 ニーズをシーズ(技術)に翻訳しよう
1.4 モノではなく、コトでとらえよう
1.5 なぜハードウェアの開発にUXなのか

第2章  UXで本当の顧客ニーズを抽出しよう
2.1 UXによるニーズ分析から商品コンセプト案までの流れ
2.2 ニーズ分析で取り組み範囲を決めよう
2.3 ターゲットユーザーの人物像を設定しよう
2.4 顧客の行動と操作を分析しよう
2.5 顧客価値からニーズを想定しよう

第3章  顧客ニーズから開発目標を絞り込もう
3.1 ニーズの優先度を付けよう
3.2 優先ニーズの最終検証をしよう
3.3 操作ニーズを製品ニーズに置き換えよう

第4章  目標が決まったら、解決策を発想しよう
4.1 目標実現のための課題に取り組もう
4.2 ニーズからの課題を深掘りしてみよう
4.3 TRIZを使ってアイデアを出してみよう
4.4 アイデアが出たらコンセプト案にまとめてみよう

第5章  さらに顧客に感動を与えよう!
5.1 機能の程度を感動キーワードにしてみよう
5.2 未来のニーズを予測して感動を与えよう

第6章  テーマ探索、特許戦略、リスク分析にUXを応用する
6.1 自社技術とニーズの接点を探ろう
6.2 行動分析によって、より広範囲の特許を出そう
6.3 ペルソナを設定してリスクを想定しよう 
6.4 安かろう悪かろうのコストダウンから脱却しよう

第7章  UXを活用した問題解決のイメージを固めよう
〈企業活用事例〉
7.1 家電メーカーA社の取り組み例
7.2 水まわり部品メーカーB社の取り組み例
7.3 自動車部品メーカーC社の取り組み例
7.4 素材メーカーD社の取り組み例
7.5 機械メーカーE社の取り組み例

索 引

はじめに

本書を手に取っていただいて、ありがとうございます。
 私は2つのメーカーで30年以上、開発畑を中心に歩んできましたが、オリンパス株式会社を定年退職するまでの最後の6年間、役員からの指示もあって科学的なアプローチで開発の効率を上げる活動に従事してきました。この活動を通じて、社内の多くの技術課題の相談を受けながら、「効率的な開発を行うには何が本質的か?」を考えて試行錯誤しながらたどり着いたのが機能を中心に製品やプロセスを分析することでした(1)。
 その中で、開発企画段階では「顧客ニーズと技術を機能で紐づけ、課題を抽出していく」というアプローチ方法は開発者の考え方を整理するのに非常に役に立ちました。この考え方は筆者がメーカーを離れ、コンサルタントとしてさまざまな業種の企業にも紹介していく中でも有効と評価され、ますます自信を持って紹介できるようになってきました。特に顧客が対象製品をどのように扱うかを時系列の機能に表して分析する方法は、顧客ニーズを網羅的に捉えるのに非常に有効であることがわかってきました。多くの技術者から機能の時間分析方法はとても新鮮で役に立ったと好評でした。
 こんなに手応えのある方法であるならば、やり方を整理してもっと多くの人に紹介して行きたいと思っていたところ、たまたま書店でアマゾン・ドット・コムに関する本を手にしました。そこにはアマゾンの経営者ジェフ・ペソスが創業時点から顧客第一主義、すなわちUX(User Experience)をアマゾンの中核に据えており、その結果、アマゾンが高い競争優位性を築いてきたことが書かれていました。私はそのときに初めてUXという言葉を知りましたが、Webビジネスの世界ではよく知られている言葉のようです。このUXの考え方が、筆者が進めてきた機能による時間的な行動操作分析からニーズを引き出すことに近いこともわかってきました。
 アマゾンのUXは、例えばネット・ショップ画面での1クリックサービスや配達状況がすぐにわかるような仕組みにも活かされています。この考え方は顧客第一主義で顧客が数秒のタイムラグでもストレスを感じないように徹底されているそうです。そのアマゾンが今、仮想空間のショップで実現してきた快適性を実店舗(無人コンビニ「アマゾン・ゴー」)でも展開しようとしています。
 UXを重視しているのはアマゾンだけではありませんでした。米国の巨大IT企業のグーグルもアップルも同じようなUX的アプローチを創業間もない時期から実践し、顧客の快適性を追求してきていることを知ったのです。
 UXという言葉は、米アップルコンピュータ(現在のアップル)に在籍していた認知心理学者のドナルド・ノーマン博士が考案したと言われています。同博士は、UXと密接に関連する「ユーザー(人間)中心設計」というコンセプトも提唱したことで知られています。アップルのプロダクトやアプリが明確、かつシンプルでとても魅力的であることの秘密はデザインにあり、そのクオリティを保ち続けられる秘訣はアップルのヒューマンインタフェースガイドラインにあるとされています。
 私もiPodが出てきたころからiPad、iPhoneに至るまでアップルのファンですが、画面がシンプルで使っていてストレスなく使えすっかり虜になっています。
 また、グーグルの場合は会社設立から数年後に「10 の事実」というものを策定し、事実であることを願い、常にその通りであるよう努めているそうです。その1番目に掲げているのが「1. ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。」です。グーグルは、当初からユーザーの利便性を第一に考えており、新しいウェブブラウザを開発するときも、トップページの外観に手を加えるときも、グーグル内部の目標や収益ではなく、ユーザーを最も重視してきたそうです。
 こういったUX創始者達とも言える企業が米国、世界のIT業界を牽引してきました。みなさんもご存知のように、これらの企業はITの世界にとどまらず、自動車のようにハードウェアの塊のような製品分野にも進出してきています。
 このように時代はIT技術の進歩とともに、自動車業界を始め、あらゆる産業分野で大きな変革「モノ」から「コト」への変革が進みつつあります。
 デジタル機器のソフトウェアでUXが使われるようになったのは、機械や人手のかかっていたハードのモノづくりと比べて、コストの制約でできなかったことが、デジタル機器ではソフトを工夫して短時間で理想的な機能を実現できるようになったからと言われています。つまり、人の感性に訴えるような複雑なことも低コストで実現できるようになったわけです。
 このことは、スマートフォンがかつての電話機、カメラ、ビデオ、音楽プレーヤー、パソコンの機能を備えて画面上で操作するだけで、ユーザーがやりたいことを数秒でサクサクと実現できるようになり、普通に人と人が話をするのと近い快適さで機器を操作して実現できるようになったことを考えると理解できると思います。このような変化の中で、ソフトウェア開発者やWebデザイナーは自然にUXデザインを意識するようになってきたのだと思います。先に述べたIT巨大企業のハードウェア製品、現場サービスへの進出に対して先が見えずに、ただ脅えている方たちは多いですが、彼らの本当の強みとは何か、をよく見た方が良いと思います。少なくともUXの考え方は浸透していると思います。
 以上のように私はUXのことを知れば知るほど、UXの概念はモノからコトへの変革期に技術者が身に着けるべき重要な考え方だと思うようになりました。しかし、残念ながら、私が訪問する多くのハードウェア製造業のエンジニア達にUXという言葉を聞いたことがあるか、とをたずねても、ほとんどのエンジニアは知りませんでした。UXとは製品やサービスを使うユーザー体験のことを示しますが、開発者にとって別世界のことではないのです。また、特別に難しいことでもありません。
 私が最近、企業の開発者から潜在ニーズも含めてユーザーに要求をもっと把握するのにはどうしたら良いか、といった相談案件では、UXの考え方も入れて時間的な機能分析をベースとしたニーズ分析を使って応えています。
 今回、さまざまな企業で実践してきたUXの考え方を入れた機能ベースのアプローチ方法を整理して、日刊工業新聞社の協力も経て、メーカーのエンジニアにも実践しやすい形で本書に書き留めてみることにしました。
 本書が少しでも読者諸氏の日々の仕事の参考になれば幸いです。

2018年9月
緒方 隆司

(1)緒方隆司著、オリンパスECM推進部監修「製品開発は機能にばらして考えろ」日刊工業新聞社、2017

買い物かごへ