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今日からモノ知りシリーズ
トコトンやさしい微生物の本

定価(税込)  1,620円

著者
サイズ A5判
ページ数 160頁
ISBNコード 978-4-526-07864-4
コード C3034
発行月 2018年07月
ジャンル ビジネス 化学

内容

人類は、発酵食品の製造や感染症との戦いを通じて、古くから微生物と付き合ってきた。本書は、微生物の基本的事項をはじめ、取扱い方法、有用微生物の育種と利用(産業、食品)、病原菌との戦いなどについてイラストや図を使ってわかりやすく紹介する。

中島春紫  著者プロフィール

(なかじま はるし)
明治大学農学部農芸化学科 教授(農学博士)



1960年 東京羽村市生まれ

1984年 東京大学農学部農芸化学科 卒業

1989年 東京大学大学院農学研究科農芸化学専攻
 博士課程 修了

1997年 東京大学大学院農学生命科学研究科 助教授

2007年 明治大学農学部農芸化学科 教授



専門分野:応用微生物学

所属学会:日本農芸化学会、日本分子生物学会、日本生物工学会、日本極限環境微生物学会



●主な著書

「おもしろサイエンス 微生物の科学」(日刊工業新聞社)
ブルーバックス「日本の伝統 発酵の科学」(講談社)
ほか

目次

第1章 微生物って何?
1 どこにでもいる微生物 「土壌細菌、腸内細菌、水中の微生物、発酵食品…」
2 微生物の大きさと形 「顕微鏡で見る微生物の姿」
3 生物の分類と微生物 「動物 ・ 植物と微生物」
4 微小な細菌の構造の違い 「核のない微生物」
5 カビ ・ 酵母 ・ キノコは真核生物の一群 「生態系の分解者」
6 水中で生活する原生生物 「ミドリムシ・アメーバなど小さなものから大きなものまで…」
7 ウイルスは生物ではない 「寄生する遺伝子の殻」
8 微生物の増殖① 「分裂と伸長」
9 微生物の増殖② 「定常期と増殖期:ワッと増えてじっと待つ微生物」
10 微生物の生息域と生育条件 「温度 ・ 酸素 ・ pHの影響」
11 極限環境でも力強く生きる微生物 「高温 ・ 高塩濃度 ・ アルカリ性 ・ 強酸性の環境を好む微生物」

第2章 身の回りの微生物
12 もっとも研究されている大腸菌 「環境汚染の指標とされる腸内細菌の代表」
13 ほとんどのヒトから検出されるブドウ球菌 「手のひらの細菌」
14 枯れ葉や動物の遺体などを利用する枯草菌 「酵素を大量生産する働き者」
15 1本の鞭毛を回転させて遊泳する緑膿菌 「バイオフィルムを作る細菌」
16 糖分が多い豊かな環境を好む乳酸菌 「糖から乳酸を作る贅沢な細菌」
17 土壌中にたくさん生息している放線菌 「抗生物質を作る多才な土壌細菌」
18 太古の地球で反映していた!? メタン菌 「沼の底でメタンを生成する古細菌」
19 植物と同じ光合成を行うシアノバクテリア 「水面に拡がる光合成細菌」
20 酒造りやパンの製造に用いられてきた酵母 「アルコール発酵する単細胞の菌類」
21 世界中で10万種のカビが報告されている 「地球上には150万種程度のカビが生息すると推定されている」

第3章 微生物の取扱い方
22 微生物を培養する培地 「液体培地と固体培地」
23 微生物の初心者が最初に学ぶ無菌操作 「雑菌の混入を防ぐ微生物取扱いの作法」
24 水蒸気により加熱され滅菌 「高圧蒸気滅菌とフィルタ除菌」
25 微生物の分類と学名 「学名の付け方と菌株」
26 微生物の単離は 一 期 一 会 「ときには煩雑な手続きが必要となる微生物の採取法」
27 一定の条件が求められる微生物の培養 「液体培養と固体培養」
28 微生物の観察に欠かせない顕微鏡 「微生物はほとんど透明で拡大しても非常に見にくい」
29 微生物の数え方と測り方 「 一 筋縄ではいかない微生物の計測」
30 貴重な微生物の菌株の保存と入手法 「特殊能力をもつ微生物の菌株は宝物」

第4章 産業に貢献している微生物
31 旨味物質の1つであるグルタミン酸発酵 「日本の発酵工業の草分け」
32 微生物を用いたアミノ酸発酵 「アミノ酸サプリメントの生産法」
33 日本人が発見した洗剤用酵素 「洗剤になぜ酵素を入れるのか」
34 デンプンを分解する酵素 「デンプンの分解は重要な工業プロセス」
35 環境にやさしいポリ乳酸 「生分解性プラスチックとして大量に生産されている」
36 アルコール発酵とエタノール生産 「本当に地球に優しいバイオエタノールの生産をめざして」
37 クエン酸を作る黒カビ 「クエン酸は麹菌の近縁種」
38 感染症からの生還を実現した抗生物質 「ペニシリンとストレプトマイシン」
39 下水をきれいにする微生物 「汚染水中の有機物を微生物に食べさせて処理する」
40 環境修復最前線で活躍する微生物 「実際の環境修復では土着微生物の活性化が現実的」
第5章 発酵食品をおいしくする微生物
41 大豆の消化をよくする納豆菌 「おいしい納豆には温度と通気の管理が重要」
42 牛乳に乳酸菌を加えるとヨーグルト 「ヨーグルトの整腸作用」
43 パンを膨らませる酵母 「酵母の細胞がパン生地の中で発酵する」
44 ワイン・ ビール・日本酒を造る酵母の違い 「それぞれ異なる発酵形式を採用」
45 麹菌は日本の国菌 「清酒 ・ 醤油 ・ 味噌を造る」
46 焼酎を造るカビ―黒麹菌・白麹菌 「温暖な地方では日本酒ではなく焼酎を造る理由」
47 味噌・ しょう油を熟成させる微生物 「耐塩性酵母と好塩性乳酸菌」
48 糠床の中の乳酸菌 「糠漬けの微生物と手入れ」
49 酒を酢に変える細菌 「最古の調味料とされる食酢は酒から造られる」
50 消費期限と賞味期限の違い 「猛毒をつくるボツリヌス菌に注意!」

第6章 病原菌との戦い
51 死病と恐れられた伝染病︱結核菌 「免疫力の低下が発症につながる」
52 重篤な症状を示す赤痢菌・コレラ菌 「毒素を作る伝染性の病原菌」
53 虫歯を作るミュータンス菌 「ミュータンス菌が喜ぶと虫歯になる」
54 皮膚の炎症を引き起こす黄色ブドウ球菌 「ほとんどの抗生物質への耐性を獲得した新種も登場」
55 魚介類による食中毒の原因︱ビブリオ菌 「増殖は早いが酢に弱い」
56 酸素を嫌う土壌中の殺し屋︱破傷風菌 「地上最強と言われるボツリヌス毒素」

第7章 微生物の研究者列伝 
57 微生物学の父・レーヴェンフック 「微生物を初めて観察したオランダの商人」
58 微生物の自然発生説を否定したパスツール 「多才 ・ 多芸なフランスの博物学者」
59 細菌学を創始したコッホ 「微生物と病原菌の関係を明らかにしたドイツの医師」
60 抗生物質の父・フレミング 「アオカビからペニシリンを見つけた細菌学者」
61 生涯を病原菌の研究にささげた野口英世 「危険な病原菌に取り組んだ日本のチャレンジャー」
62 破傷風菌の純粋分離に成功した北里柴三郎 「酸素に触れると死滅する破傷風菌を単離した雷おやじ」
63 赤痢菌の学名に名を残す志賀潔 「粘り強く木訥・清廉な研究者」
64 日本独自の発酵学の発展に尽力・坂口謹一郎 「日本の発酵微生物をコレクションした東大教授」
65 抗寄生虫薬イベルメクチンを発見した大村智 「2015年にノーベル医学生理学賞を受賞」
66 自食作用オートファジーを発見した大隅良典 「2016年にノーベル医学生理学賞を受賞」
67 極限環境微生物研究のパイオニア・掘越弘毅 「特殊能力をもつ微生物を追い求めた」

【コラム】
●深海 ・ 地底の微生物の探索
●光を感知するカビ
●大規模培養の苦労
●生ゴミからメタンを作る話
●麹菌はどこから来たのか?
●風邪に抗生物質は効くか?
●幸運は用意された心のみに宿る

はじめに

はじめに

 生命の星、地球にはさまざまな生物が住んでいます。うっそうとした樹林や、歩き回る動物のように見映えが良く目立つ生物ばかりでなく、小さな草や昆虫なども生息しています。実は、生物は小さいものほど数が多く、土の中などには虫眼鏡でやっと見える線虫や菌類、顕微鏡を持ち出さないと見えない膨大な数の細菌が生きています。

人知れず活動するこのような微生物は、地球上のありとあらゆるところに生息しています。特に微生物の密度が高いのは土壌であり、肥えた土には1グラムあたり数億個の細菌が生息しています。また、腐った食物や動物の腸内には、土壌よりも高い密度で微生物が文字通りウヨウヨしています。ヒトの身体は約70兆個の細胞から構成されていますが、ヒトの腸内には約100兆個の腸内細菌が生息していると推定されています。

 密度はずっと低くなりますが、沖合の海や乾いた砂、コンクリートの建造物の表面などにも微生物は生息しています。それどころか、1万メートルを超える深海、沸騰した温泉、塩田、大気圏上層、大深度岩盤など、とても生物が生息できるとは思えないような環境からも微生物が次々に発見されています。

 植物は光合成により太陽エネルギーを使って空気中の二酸化炭素を炭水化物などの有機物にして他の生物群に供給しているので、生態系の中では生産者の立場にあります。一方、動物は植物や他の動物を補食して栄養源を得ているので、生態系の中では消費者です。生産者と消費者がいれば人間社会では経済が循環しますが、自然界では消費者の排泄物や死体を分解して炭水化物やアミノ酸などの炭素源と窒素源を回収し、次世代の植物などが利用できるようにする分解者が必要なのです。生態系の中で分解者の立場にあるのは菌類や細菌などの微生物です。また、微生物には自ら光合成や化学合成を行って生産者の立場にあるものや、他の微生物を補食して消費者の立場にあるものもいます。微生物は、それぞれの環境の中で自分たちの役割を果たしながら脈々と命を繋いでいるのです。

 人類は微生物の存在を意識するよりもずっと以前から微生物とともに生活し、微生物による悲惨な感染症との終わりなき戦いに挑み続け、微生物がもたらしてくれるチーズやワインなどの芳醇な発酵食品を賞味してきました。近代科学の発展により微生物の素顔を捉えることや分離や培養などの取扱いが可能になると、病原菌の正体を突き止め、抗生物質や抗菌剤などの感染症に決定的な勝利を収める武器を入手できるようになりました。試行錯誤の末に編み出された発酵食品の製造法も、より洗練され失敗することなく確実においしい食品を製造できるようになりました。さらに、微生物の力を利用して旨味調味料や洗剤に配合する酵素などの産業上の有用物質が次々に作られるようになってきました。

 本書では、まず微生物の種類・大きさ・形・生息環境など微生物とは何かを概観し(第1章)、次に大腸菌や乳酸菌など身近な微生物を紹介します(第2章)。さらに、無菌操作、顕微鏡観察、培養法など微生物の取扱い法について解説します(第3章)。グルタミン酸や産業用酵素、抗生物質などの有用物質の生産および汚水処理などについて説明し(第4章)、納豆やヨーグルト、酒類、漬物などの発酵食品への応用について解説します(第5章)。 一方で人類を悩ませてきた結核や虫歯菌、食中毒の原因菌の正体と病原菌との戦いについて記述し(第6章)、微生物の発見や病原菌との戦いに挑んだ偉人たちの足跡について日本人研究者の活躍を中心に紹介します(第7章)。

本書が、微細な微生物の素顔に親しむ一助となれば幸いです。
 
2018年7月                            
中島春紫

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