内容
「自社製品がない」「技術がない」「営業ができない」会社でも顧客の要求に寄り添い、従業員を大切にすれば必ず元気な会社に生まれ変われる。累計65万部「日本でいちばん大切にしたい会社」の著者が送る、自立企業に変身するためのヒントにあふれた応援本。
坂本光司 著者プロフィール
(さかもと こうじ)
法政大学大学院政策創造研究科教授
ほか「人を大切にする経営学会」会長など
主要著書「日本でいちばん大切にしたい会社・2・3・4」あさ出版、「経営者の手帳」あさ出版、「日本でいちばん大切にしたい会社がわかる100の指標」朝日新書ほか多数
林 公一 著者プロフィール
(はやし こういち)
アタックスグループ代表パートナー、公認会計士・税理士
主要著書「事業再構築のM&A実務」(共著)中央経済社
「社長の幸せな辞め方〜事業承継3つの選択」(共著)かんき出版ほか多数
目次
はじめに
第1章 なぜ脱下請けを目指さねばならないのか
1 激減する下請企業
2 下請企業・協力工場激減の要因
⑴国際分業の拡大
⑵市場の物的成熟化・ソフト化・サービス化
⑶開業の減少と廃業の増大
⑷生産取引の変化
⑸部品の共通化・共有化・一体化の進行
⑹大手メーカー同士の戦略的連携の活発化
3 求められる脱下請企業
第2章 脱下請けに成功した企業
[1] 既存市場・既存製品で脱下請け化を実現した企業
世界で4社しかできない超精密プレス部品をつくる
大垣精工㈱
異彩を放つ同社の金型・プレス部品およびビジネスモデルの特徴/独立型・自立型の金型メーカー・プレス部品メーカーへ/社員の雇用を守るために何をすべきか/同社が成功した3つの要因/モノづくりの発展には金型の人材育成が必須
下請けからのあくなき挑戦と
変革でオンリーワン企業へ 久米繊維工業㈱
Tシャツという商品に付加価値を/イノベーションを繰り返しながら全体最適へ/自社商品の進化と「逆張りの選択と集中」/強い人材力と仕入力を双輪に/正解がない脱下請けへの道、やりたいことをやるしかない
ぶれない視点に基づく
地道な努力で「世界最速工場」へ 沢根スプリング㈱
脱下請けの契機となった「ストックスプリング」の特徴/アメリカで出会った、ばねの通販モデルが契機に/「ストックスプリング」の誕生と停滞、そして発展/「ストックスプリング」を日本一へ、続く同社の挑戦
開発力・技術力の蓄積で、
中小で初めてISO9002を取得 ㈱タカハタ電子
日米貿易摩擦を機に脱下請けを決意/開発力と技術力とを蓄え脱下請けへ/中小企業ではトップだったISO9002の取得/時流に合った社内制度改革と研究開発を推進/技術を結集した「モノ創りソリューション事業」への挑戦
技術力・品質向上で常に攻める姿勢を
維持し、システムを革新 東海バネ工業㈱
「単品なら東海ばね」と言われる技術力/自分たちの製品には自分で値段をつける/酒屋はお酒を売らないでシステムを売る/ばねという商品ではなく技術を売る/モノづくりの差別化を何で図るか/本当の問題解決は「今」しかできない、その連続だ
卓上ベルが鳴らした未来への合図 ㈱能作
スズを100%使用した看板商品/市場になかった自社商品が誕生/「旅の人」だったからこそできたアイデンティティーの構築/自社商品で産地を守る/創業100年企業へ向けて、より魅力ある企業へ/地域が協力し合い、産地としてのブランド力を高める
阪神・淡路大震災が教えてくれたこれからの進む道 万協製薬㈱
スキンケア商品のあらゆる形態の受託が可能/ゼロからの再スタートで新ビジネスモデルを構築/専門性・効率性とドラッカーの教え/オリジナルの組織づくり・人材育成と営業方法/強い仕組みをつくり上げたことが成功要因
[2] 既存市場・新製品で脱下請け化を実現した企業
マーケットの模索と成功ストーリーの
構築で自立化を実現 ㈱アイエイアイ
数多くの用途で使われる自社商品/会社同士が対等でないということ/自社商品第1号は順調だったが別の問題が発生/小型産業用ロボットの次のステップとは
ノウハウゼロから研究を重ね、
サンキューレターが絶えない会社へ 徳武産業㈱
あゆみ製作の動機とプロセス/同社の仕事の推移/1人のおばあさんの言葉で奮起/あゆみと一緒に届けたいもの/あゆみを基幹にさまざまな商品展開を
仕事の「横請け」構造と、経営者と「同じ心」を
持つ社員が会社を強くする 名古屋精密工業㈱
下請構造が変わらなければ安定した経営は難しい/初めての自社商品はグラビア輪転印刷機/決断が難しい「損切り」で急場をしのぐ/三菱電機稲沢製作所の一部門としての位置づけに/「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」全般にわたる同社の強み/「企業は人なり」
「モノからコトへ」のシフトで価値を創造 中田工芸㈱
業務用ハンガーと個人向けハンガーの特性の違い/ビジネスモデルの変遷/ビジネスモデル転換のきっかけ/「モノからコトへ」のシフト/東京・青山への出店と後継者の入社/人との出会いを大切にする、気づきを得る、行動に移す
「新需要の積極的な開拓」と
「品質・信用へのこだわり」が成功への道 メトロ電気工業㈱
一般照明用電球から特殊電球へ/電球の製造拠点として中国へ進出/ヒーターユニットの製造でマレーシアへ進出/新たにヒーター管の製造を開始/成功の要因/加熱効果の優位性をアピール
[3] 新市場・既存製品で脱下請け化を実現した企業
「異形状」へのこだわりで世界シェア60%を獲得 ㈱片岡機械製作所
ピストンリングとは/汎用的専用機で他社と差別化/ピストンリング加工専用機への挑戦/納品した製品に発せられたひと言が転機に/CNC化によって業界の常識を変える/「ひるむことのない開発」で前進/居心地の良い会社をつくり世界で役立つ
[4] 新市場・新製品で脱下請け化を実現した企業
母への優しさから生まれた、
クリアな音声が生み出す明るい生活 ㈱伊吹電子
音声増幅器の使命/「脱下請け」とは別の目的が、同社を脱下請けへと向かわせることに/マスコミで紹介されたことで販路が広がる/下請けと自社商品のバランスを大切に
宇宙からの贈り物とともに、
地域になくてはならない福祉サービス業へ ㈱パーソナルアシスタント青空
基板加工の仕事に陰りが現れる/人生のすべてを変えるほどの大きな出来事/地域住民から大きな支持を得てスタート/無農薬自然栽培の農業へ進出/全国展開できる一石三鳥の事業モデル/資産調達に救いの手が/宇宙からの贈り物
まったく新しい製品で
脱下請けを果たし、社会にも貢献 東海電子㈱
飲酒運転の撲滅に向けて/自分で自分の将来をつくれない仕事/2年間、薄氷を踏む思いで開発を継続/性能を向上させ、未知の市場へも開拓を進める
暗中模索しつつ幸運な偶然から高付加価値を開発 ㈱不二工芸製作所
そばの芽に着目/環境、少子高齢化、健康を新事業のテーマに/壊滅的な打撃からの起死回生/脱下請けを考えるならまずスピードを活かす/付加価値こそがすべて
軸受部品とはまるで異なる
高級毛抜き具に活路を見出す ㈱ミサト工業
高級毛抜き「NOOK」の特徴/不況を機に川嶋社長は創造的な仕事へ/自社商品「NOOK」ができるまで/モノづくりも商品開発も販売も、人と人との縁が基底にある
第3章 脱下請けへの脱皮・発展のために
1 自社の勝負すべき市場を明確にしているか
2 自社のできないところは他社とのアライアンスを検討しているか
3 企業の組織化ができているか
4 中期経営計画の活用
⑴経営理念の検討
⑵経営環境・経営資源と経営ビジョンの明確化
⑶経営戦略の策定
⑷経営課題を踏まえた上での行動計画と業績(数値計画)計画の策定
⑸モニタリング
はじめに
近年、大手ブランドメーカーの製品を構成する部品の生産や、その部品の一部工程の加工を担当する、いわゆる下請企業・協力工場数が激減しています。下請企業・協力工場に関する明確な統計はありませんが、大半は下請企業・協力工場と類推される、従業員数29人以下の工場数の動向を「工業統計調査」(経済産業省)で見ると、その減少ぶりがわかります。
同調査によると、2000年当時、わが国の従業員数が29人以下の工場数は54万でしたが、2010年には33万に激減しています。わずか10年間で約21万工場が消えたことになり、率に換算すると39%もの大幅な減少です。
単純計算すると、この10年間で、毎年約2万もの工場がわが国から消滅してしまったのです。この数は、わが国第5位の工場立地県である静岡県で操業するすべての工場が、毎年なくなったことに匹敵する規模だと言えば、よりわかりやすいでしょうか。
もとよりその最大の要因は、よく言われる長引く不況や、為替レートなど循環要因ではありません。
というのは、わが国の工場数は今からおよそ30年前の1983年当時の78万をピークに、2010年には43万と、この30年間ほぼ一直線に減少し続けているからです。
では、なぜ好不況にかかわらずこれほど多くの工場、とりわけ下請企業・協力工場が減少しているかと言えば、それらを取り巻く経営環境がかつてとは根底的に変化し、従来通りの下請企業・協力工場という経営形態では、存続できない社会になってしまったからです。
つまり、今さえ我慢をしていれば、経営形態を変えずとも、仕事が向こうから舞い込んでくるという以前のような状況は、二度と再現されません。環境依存追随型・寄らば大樹の陰型経営の時代は、終焉してしまったのです。
わが国の下請企業・協力工場は今度こそ本気・本格的に、脱下請け・自立化経営にパラダイムチェンジすることが必要不可欠なのです。また、そうした変革なしに経営者も社員も、さらにはその家族も幸せになる方法を探すのは、困難だと言わざるを得ません。本書はこうした現実を踏まえ、わが国の下請企業・協力工場の今後の成長発展を願って出版しました。
本書は3章に分けて構成しています。まず第1章は、「なぜ脱下請けを目指さねばならないのか」と題し、近年の激減する下請企業・協力工場が持つ負の要因を6つの角度から述べました。そして第2章では、「脱下請けに成功した企業」と題し、脱下請けへと舵を切り、パラダイムシフトを成功させた、またはそれに向けチャレンジを続ける全国の18社を紹介しました。とりわけ、チャレンジの理由と経過を詳しく述べました。そして、第3章「脱下請けへの脱皮・発展のために」では、下請企業・協力工場が脱下請け、自立化をするための方向や方策などについて、具体的に述べました。
なお、本書の執筆は坂本光司が顧問を務める「アタックスグループ」(名古屋・東京・大阪・静岡)の代表パートナーの一人である林公一氏をはじめ、そのスタッフ(公認会計士・税理士・中小企業診断士・社会保険労務士・経営コンサルタント)と法政大学大学院政策創造研究科坂本研究室に所属する社会人学生や修了生(経営者・公認会計士・税理士・社会保険労務士・経営コンサルタント・経営者など)が分担して行い、全体調整は林と坂本が行いました。
いつものこととはいえ、今回もまた多くの関係者の並々ならぬ支援とご協力をいただきました。とりわけ、事例に取り上げさせていただいた18社の企業の社長様ほか担当者の方には、長時間に及ぶ取材のみならず資料の提供などで、大変お世話になりました。この場を借りて厚くお礼申し上げます。
また、本書の出版を快く引き受けてくれた日刊工業新聞社の書籍編集部の矢島俊克氏をはじめスタッフの方々には、本書の内容や構成などで多大なアドバイスや貴重なサジェスションをいただきました。関係者の方々には、この場を借り厚くお礼申し上げます。
本書が、脱下請け・自立化を考えているモノづくり企業の関係者や、それを促進支援する関係者の方々にとって少しでも参考になれば幸いです。
なお、本書は本来ならば2年半前に出版する予定で原稿を書き始めましたが、諸般の事情で大幅に遅れてしまいました。そのようなこともあり、本書の内容では各社のここ最近の動向について、基本データを除き触れておりませんことを申し添えます。
最後に、モノづくり産業の国際分業の加速・拡大と、わが国企業の起業家精神の低下がもたらした「空洞化」をしのぐような、脱下請け・自立型中小企業が全国各地に増大し、わが国が再び活力に満ち満ちた社会になることを切に願ってペンを置きます。
平成27年4月
編著者 法政大学大学院政策創造研究科教授 坂本光司
アタックスグループ代表パートナー(公認会計士) 林 公一