内容
本書はオーソドックスな生産管理について全体を網羅できるように、やさしく解説した入門書である。学生にもイメージが浮かびやすいように、各所で自動車の例を取り上げていく。各章のはじめには「学びのポイント」と「キーワード」を掲載。本文を読み進める前に、要点をつかむことができ、各章末には「練習問題」を掲載し、理解度を確認できるようになっている。
泉 英明 著者プロフィール
(いずみ ひであき)
1942年 秋田県に生まれる。
1969年 中央大学理工学部管理工学科卒業。
1971年 名古屋大学大学院経営工学専攻修了。日産車体工機㈱(IE、能率管理に従事)、㈱安川電機(生産管理、システム開発に従事)を経て、
1988年 東和大学(現純真学園大学)助教授。1990年教授。
2004年 博士(総合政策:中央大学)取得
現在 総合政策研究所 代表、福岡県商工会連合会指導専門家(エキスパート)登録、北九州市立大学非常勤講師、一般社団法人日本生産管理学会会員(常任理事)、公益社団法人日本経営工学会会員
主な著書
「人にやさしいCIM」(共著)、日刊工業新聞社、1992
「生産管理 理論と実践5 生産工学」日刊工業新聞社、1994
「経営工学概論」(編著)、同文館、1997
「生産管理ハンドブック」(共著)、日刊工業新聞社、1999
「生産システムの基本構想」建帛社、2003
目次
はじめに
第Ⅰ部 経営・生産と生産管理体系
第1講 会社のしくみ、モノづくりのしくみ
1 会社(企業)と社会 2
2 会社のしくみ
3 モノづくりのしくみ
第2講 経営と生産と生産価値
1 経営と生産
2 製品の価値と価値条件
3 価値支配条件
4 受注形態と生産
5 受注形態と品種・量と生産方式
6 時代の要請にマッチした生産方式
第3講 生産管理の体系
1 製造業の生産過程
2 製品価値を高くする上流工程と下流工程
3 生産管理と生産経営
4 生産管理体系
第4講 生産のしくみ
1 生産システムの構造
2 生産システムと工程
3 生産システムと作業
4 生産システムと管理
第Ⅱ部 生産管理の直接的管理技術
第5講 品質管理(1)品質管理とTQMとISO9000s
1 品質管理とは何か
2 品質管理の重要性
3 TQMとは
4 ISO9000sとは
5 TQMとISO9001の関係
第6講 品質管理(2)統計的品質管理
1 統計的品質管理の基礎手法
2 データの種類
3 QC7つ道具
4 検査
5 管理図
第7講 原価管理
1 原価管理の意義
2 原価の構成
3 原価管理の進め方
第8講 工程管理
1 工程管理の意義
2 受注生産方式の工程管理
第9講 資材管理
1 資材の概要
2 資材管理とは
3 材料計画
4 購買管理
5 外注管理
6 在庫管理
第10講 設備管理
1 生産設備の役割
2 生産設備の変遷
3 設備の構造と性能と変化
4 設備管理の目的
5 設備保全
6 TPM
7 設備故障
8 設備投資計画の策定(投資の経済性計算)
第11講 労務管理
1 労務管理の目的
2 労務管理の特徴
3 労務管理の発展
4 人間課題と労務問題
5 労務管理の体系と能力開発
第12講 作業管理
1 作業管理とは
2 作業の構成
3 作業計画
4 作業統制
5 品種切替作業管理
6 作業管理に役立つ5S、ロケーション管理、見える化
7 作業改善
第Ⅲ部 生産のグローバル化と
情報のコンピュータ化
第13講 海外生産
1 戦後製造業の目標
2 製造業の海外展開
3 日本工業の発展と変化
4 空洞化の問題と構造
5 空洞化対策
6 海外での生産
第14講 生産管理のコンピュータ化
1 生産管理のコンピュータ化とは
2 生産管理へのコンピュータ利用
3 生産ラインの自動化・コンピュータ化の反省
4 生産管理の自動化/コンピュータ化のあり方
第15講 生産管理の境界・隣接職能
1 製品開発管理
2 販売管理(マーケティング)
3 財務管理
4 エルゴノミクス
練習問題の解答例
参考文献
索 引
はじめに
モノをつくることを「生産」といっている。生産されたモノが製品であれ、部品であれ、材料であれ、それらをつくる行為は「生産」である。生産されたモノが買われたり、使われたりするのは価値があるからである。モノの生産は「価値」の生産である。この生産は成り行きや思い付きで行ってはならない。計画的に、効率良く生産しなければ、モノづくりの競争社会では生き残れない。経済のグローバル化が進む中ではなおさらである。
企業は顧客からの需要を増やすため魅力ある製品を企画・開発し、期待する価格に設定し、短納期で引き渡す。しかも製品が顧客の手に渡る前にも後にもサービスに努め、顧客との信頼関係を築く。このことが結果的に企業の売上増加、さらに利益確保につながる。品質保証がなかったり、安全性に欠けたり、使いにくかったり、維持費が膨大だったりしたのでは製品を買ってもらえなくなる。また契約納期を破ったり、途中で価格の上乗せを要求したり、勝手に仕様変更を行ったりしたのでは顧客の信用を失い二度と契約を結べなくなる。顧客を裏切らないためにも、顧客に満足をしていただくためにも、適切な管理が必要である。
本書は初めて生産管理を学ぶ学生や、これから学ぼうとしている社会人を対象にまとめた入門書である。特に生産管理論の教材を強く意識してまとめた教科書でもある。学生は実務経験もなくモノづくりの現場を知らないため、製品がどのようにしてつくられているのか、また製造過程で何をどのように管理しているのかのイメージがわかない。そのため生産管理は難しい、わからない、面白くないという。このようなことから授業に熱が入らず、やる気が起きず、身に付かないという負の連鎖が起こる。このことは筆者が長年にわたり多くの大学で生産管理論を講義した経験から感じたことである。
生産管理の授業をやさしく、わかりやすく、面白く、かつ学生に実力がつくようにするには、教材、学生、先生など、複雑に絡む課題を解決しなければならない。
1つだけ学生側と先生側の共通の問題を指摘すれば、「到達目標」が授業を担当する先生の個々人により設定されているため、個人差があることである。英検や簿記検定や経営学検定試験のように、このレベルまで到達しなければならないとする共通の「到達目標」がない。学生は、生産管理に対する知識や応用力が一定水準に達していなくても、期末試験の結果やレポート課題などの提出によって単位が取得できている。全国レベルの「到達目標」や一般社会から見た生産管理の知識と能力から判定すれば当然不合格になるべく学生が単位を取得し、卒業して社会に出ていくのである。
本書は、次のような特徴でまとめている。
1. 1講を1コマで授業できるように15講に講立てする
2. 各講の始めに「学びのポイント」を掲載
この講で学んでいただきたい内容を上げ、本講を学ぶ上での道筋をつけている。
3. 各講の講末に到達目標達成確認のため練習問題を設定する
各講ごとに必要な知識が身に付いているかの確認と応用能力があるかの確認をする。
4. 学生には親しみやすい自動車製造の話題を多く入れてわかりやすい内容にする
5. 生産管理の体系化を図る
時代が変わっても、グローバル化が進展しても、生産管理の本質を見失わない体系化を試みる。特定の分野に偏った専門書にしないでオーソドックスな内容にする。
6. グローバル化、情報化、時代に相応しい内容にする
海外に進出する製造業が増えている。海外生産にも適用できる製品価値を高める生産管理の内容にする。また、生産管理にICT(Information and Communication Technology:情報と通信技術)を取り入れた内容にする。
本書の構成は3部から成り立っている。
第Ⅰ部の「経営・生産と生産管理体系」では、企業の社会的役割、顧客のための経営、生産管理の本質を見失わない不変的な管理体系、生産システムで変換を行いながら製品をつくるしくみなどを述べる。
第Ⅱ部の「生産管理の直接的管理技術」では、生産管理の基礎になる管理技術を述べる。すなわち、製品の価値条件QCDを管理する管理技術、QCDを支配する生産要素を管理する管理技術を主題に述べる。また素材に設備、労働が働きかけ、変換を行う作業システムのあり方についても論述する。
第Ⅲ部の「生産のグローバル化と情報のコンピュータ化」では、生産管理が今後注目すべき課題を取り上げる。海外に進出する企業の生産管理のあり方、管理のコンピュータ化の意義と進め方、生産管理との関連が強い境界分野(開発/設計、販売、財務、エルゴノミクス)について生産管理とのかかわりから述べる。
本書執筆に当たっては多くの先生方から有益な示唆をいただいた。謝辞を申し上げたい。
本書構成の核となるコンセプトは熊谷智徳先生(名古屋工業大学名誉教授)の講義、修士論文、セミナー、著書などのご指導から得たものが多い、心から深く感謝申し上げたい。
日本生産管理学会の前会長の澤田善次郎先生(澤田経営研究所、元椙山女学園大学教授)、現会長の福井幸男先生(関西学院大学教授)、筆者の大学院時代の先輩である池田良夫先生(愛知工業大学名誉教授)には適切なアドバイスと激励をいただいた。暑く御礼申し上げたい。
おわりに、厳しい出版環境の中で快く引き受けて下さった日刊工業新聞社出版局書籍編集部の方々には厚く感謝申し上げたい。
2015年1月
総合政策研究所 代表 泉 英明