内容
“メタマテリアル”とは、光を含む電磁波に対して、自然界の物質にはない振る舞いをする人工物質のこと。多くの研究者・技術者から注目されている技術で、光や電波を使うさまざまな産業分野で応用が考えられている。本書は、「メタマテリアルとは」からはじまり、どのような応用が期待されているかについてわかりやすく図解で解説する。
堀越 智 著者プロフィール
(ほりこし さとし)
上智大学理工学部物質生命理工学科 准教授
◦日本電磁波エネルギー応用学会(副理事長)
◦International Microwave Power Institute (USA) (理事)
◦Journal of Microwave Power and Electromagnetic Energy (Editor)
◦The Scientific World Journal, Chemical Engineering(Editor)
◦東京理科大学(客員准教授)
◦東京学芸大学(非常勤講師)
編集、第1章、第5章を執筆担当
萩行正憲 著者プロフィール
(はんぎょう まさのり)
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 教授
◦テラヘルツテクノロジーフォーラム(会長)
◦International Society of Infrared, Millimeter, and Terahertz Waves(国際組織委員)
第1章、第3章を執筆担当
田中拓男 著者プロフィール
(たなか たくお)
理化学研究所 田中メタマテリアル研究室 准主任研究員
◦北海道大学電子科学研究所(客員教授)
◦埼玉大学大学院理工学研究科(連携教授)
◦学習院大学(客員講師)
◦バイオテンプレート研究会(理事)
◦Optical Society of America(International Council member)
◦Japanese Journal of Applied Physics(Associate Editor)
◦Nanophotonics(Associate Editor)
第2章を執筆担当
高野恵介 著者プロフィール
(たかの けいすけ)
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 特任研究員
第1章、第3章を執筆担当
上田哲也 著者プロフィール
(うえだ てつや)
京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科
電子システム工学部門 准教授
◦IEICE Electronics Express(ELEX)(Associate Editor)
◦電子情報通信学会 電磁界理論研究専門委員会(専門委員)
◦IEEE Microwave Theory and Techniques Society Kansai Chapter(Secretary)
◦IEEE(Senior Member)
第4章を執筆担当
目次
序文
第1章 メタマテリアルの概念と応用
1-1 電磁波
1-2 誘電率と透磁率
1-3 電磁気学
1-4 マクスウェル方程式と電磁波伝播
1-5 メタマテリアル前史
1-6 メタマテリアルの概念
1-7 メタマテリアルの父、ベセラゴの考えたこと
1-8 左手系・右手系
1-9 メタアトムとスミスの負の屈折率物質
1-10 メタマテリアルが拓く驚きの世界
第2章 光メタマテリアル
2-1 光の基礎
2-1-1 可視光の特性
2-1-2 光領域の屈折率、誘電率、透磁率
2-1-3 金属の光学特性
2-1-4 光と金属とプラズモン
2-2 光メタマテリアルの基礎
2-2-1 意義
2-2-2 原理
2-2-3 構造
2-2-4 設計
2-2-5 特性
2-3 光メタマテリアルの作製法
2-3-1 リソグラフィ法 1
2-3-2 リソグラフィ法 2
2-3-3 集束イオンビーム法
2-3-4 多光子重合法
2-3-5 多光子還元法
2-3-6 ナノコーティングリソグラフィ法
2-3-7 これからの課題
2-4 光メタマテリアルの応用
2-4-1 負屈折物質
2-4-2 完全レンズ
2-4-3 光学迷彩
2-4-4 無反射素子
2-4-5 屈折率制御
第3章 テラヘルツ波メタマテリアル
3-1 テラヘルツ波の特徴
3-2 テラヘルツ波技術の利用
3-2 応用例1 ─分光計測
3-2-2 応用例2 ─透視イメージング
3-3 テラヘルツ波メタマテリアル
3-4 テラヘルツ波メタマテリアルの基礎
3-4-1 作製法
3-4-2 計測
3-4-3 電磁的性質
3-4-4 人工誘電体
3-4-5 複異方性メタマテリアル
3-4-6 負屈折率メタマテリアル
3-4-7 三次元バルクメタマテリアル
3-5 誘電体で作るメタマテリアル
3-5-1 誘電体球のミー共鳴
3-5-2 誘電体球配列の誘電率と透磁率
3-5-3 二酸化チタンを用いたメタマテリアル
3-6 アクティブメタマテリアルデバイス
3-6-1 光制御型メタマテリアル
3-6-2 電圧制御型および温度制御型メタマテリアル
3-7 テラヘルツ波メタマテリアルの応用
3-7-1 偏光子と位相子
3-7-2 無反射コーティングと完全吸収体
3-7-3 微量物質のセンシング
第4章 マイクロ波メタマテリアル
4-1 マイクロ波とは?
4-1-1 手ごろなサイズの波長
4-1-2 特長
4-2 メタマテリアルの基礎理論
4-2-1 電気回路の基礎
4-2-2 インピーダンスとアドミタンス
4-2-3 伝送線路モデル
4-2-4 自由空間中の電磁波伝搬
4-2-5 電磁波の伝搬条件
4-2-6 エネルギー伝搬速度と位相速度
4-2-7 周波数により屈折率が変わる負屈折率媒質
4-2-8 負の透磁率および誘電率の構成方法
4-2-9 バックワード波の空間的な位相変化の様子
4-2-10 右手/左手系複合媒質や構造体
4-2-11 右手/左手系複合線路の分散特性
4-3 実効誘電率・透磁率の操作方法
4-3-1 共振器とは?
4-3-2 微小共振器による電気・磁気双極子 ─スプリットリング共振器
(SRR:Split ring resonance)とは?─
4-3-3 金属遮蔽構造による負の誘電率
4-3-4 負の誘電率と負の透磁率の組み合わせによる負屈折率複合構造
4-3-5 振動磁気双極子間の結合による負誘電率
4-3-6 誘電体共振器による電気・磁気双極子
4-3-7 低損失な右手/左手系複合(CRLH)メタマテリアル構造とマッシュルーム構造
4-3-8 三次元負屈折率メタマテリアル構造
4-4 メタマテリアルの応用
4-4-1 速波領域、漏れ波放射、ビーム走査アンテナ
4-4-2 屈折率がゼロの人工構造体と0次共振
4-4-3 人工磁気導体
4-4-4 非相反メタマテリアル構造体
第5章 メタケミストリー
5-1 メタケミストリーとは
5-2 ナノ材料の合成方法
5-3 ナノクラスター
5-4 自発的自己集合
5-5 分子鋳型を用いたメタマテリアルの作製
キーワードインデックス
著者プロフィール
はじめに
「メタマテリアル」と聞くと、「あの透明マント」だなとイメージされる読者が多いかと思います。もう少し詳しい方ですと、「屈折率を変える材料だな」と連想されることでしょう。様々な解説書では、メタマテリアルを使った魅力的な応用例が紹介され、私たちの暮らしが一変するような夢のある話が数多く提案されています。例えば、透明マント、超小型アンテナ、イージス艦並みの車用追突防止レーダー、超高効率太陽光発電装置、地震波が通り抜けるビルなど、挙げればきりがありません。
しかし、実際のメタマテリアルを作ろうとするとしても、原理が分からず、どうしたらいいか戸惑うものです。その理由として、メタマテリアルを理解するには、難解な学問の一つである電磁気学そのものを理解する必要があるからです。しかしながら、心配はご無用です。先人たちは、電磁気学が確立するずっと以前から電磁波を使いこなし、様々な応用利用をしてきました。学問にとらわれることなく興味を持つことが重要です。また、奥が深いからこそ、そこに挑戦する価値が高まり、得られる効果も大きいわけです。
ところが、メタマテリアルの可能性の高さとは別に、それを理解するための初心者に向けた解説書がありません。そこで本書の企画に至ったわけです。「メタマテリアルは面白そうだけど難しそうだ」と考える方に興味を持続していただくため、なるべくわかりやすく図を使って説明しました。また、光領域・テラヘルツ波領域・マイクロ波領域について、各領域の内容をあえて統一せず、各特徴をそのまま構成に反映しました。さらに、最後の章では、新しい分野であるメタケミストリーについても触れました。
入り口である、光領域のメタマテリアルでは、感覚的にイメージがしやすいように難解な式は避け、光の基礎からメタマテリアルの製造法の難しさまでを織り交ぜました。テラヘルツ領域のメタマテリアルでは、光と電波の中間の立場から、両方の性質を取り入れた内容となっています。一方、マイクロ波領域では、読み応えがあるように少し専門的な立場でメタマテリアルを解説しました。本書で、光メタマテリアルからマイクロ波メタマテリアルまで通して読んでいただくと、同じ図や方程式が異なった表現で出てくることに気が付きます。本来、二重表記になってしまいますが、各電磁波領域(または、物理や電気)の立場によって、表現が異なることを理解していただくため、あえて編集はせず、オリジナルを尊重いたしました。
実は、本書の刊行は予定より大きく遅れてしまいました。これは、電磁気学を基礎としたメタマテリアルを図でわかりやすく説明するため、その原稿作成に予定より多くの時間が掛かってしまったわけです。また、この数年で、ものすごいスピードでこの分野の技術が発展し、全体像を把握することが非常に難しかったことも要因といえます。この難業を成し遂げていただいた、4名の著者に謝意を表します。
最後に、本書の完成に有益なご助言をいただきました、多くの技術者や研究者の皆様に感謝いたします。さらに、日刊工業新聞社の奥村功様、三沢薫様にはご激励をいただき、やっと出版までたどり着きました。また、様々な助言をしてくれた、研究者である妻(奈津子)にも心から感謝いたします。
なお、この本では多くのご教示を学術的な文献やインターネットから得ております。本書の紙面を借り、著者を代表してお礼を申し上げます。
2013年9月 残暑の東京にて
上智大学 堀越 智