内容
自動車メカニズムの基本を【エンジン編】【ドライブトレーン編】【足回り編】【セイフティ編】に分けて、項目別に解説。基本を理解したいと思っている人のためのメカの入門書。「どうしてそうなるのか?」という理屈の部分を中心に、豊富な図・イラストを用いながら段階を追って解説している。
橋田卓也 著者プロフィール
(はしだ たくや)
1958年大阪生まれ。1980年、理工関係の専門学校を卒業後、自動車メーカーの乗用車技術センターに入社、4WD車の開発を行う。1987年、自動車専門学校の教員となり、整備士養成のための教育に携わる。1993年、自動車鈑金塗装業界向け業界紙の編集者となり、以後編集長として業界の発展に尽力する。その後、独立して現在に至る。
◎著書:『図解でわかるクルマのメカニズム』『図解でわかるエンジンのメカニズム』『自動車知りたいこと事典』(以上山海堂)ほか。
目次
はじめに
第1章 自動車はどうなっているのか 【導入編】
1. 自動車メカニズムの基本中の基本
1-1 メカニズムの全体像
1-2 ボディ構造の概要
1-3 ボディ形状とクルマの特徴
1-4 エンジン搭載位置と駆動輪の関係
1-5 サイズによるクルマの分類
1-6 クルマの性能を知るための用語
COLUMN1 日本の自動車業界を支える軽自動車
第2章 「力」を生み出す 【エンジン編】
1. 「力」を作り出すエンジンの中心部
1-1 乗用車用エンジンの種類と特徴
1-2 4サイクルエンジンの動き
1-3 乗用車の種類に応じたエンジン
1-4 4サイクルエンジンの基本構成
1-5 往復運動→回転運動の変換
1-6 シリンダーヘッドと燃焼室
1-7 バルブシステムの役割
1-8 カムシャフトとバルブタイミング
1-9 バルブシステムの種類
1-10 進化したバルブシステム
2. 「力」の元となる燃料に関するシステム
2-1 燃料がガソリンである理由
2-2 燃料を供給するシステム
2-3 吸気装置の役割
2-4 フューエルインジェクションの構造と作動(1)
2-5 フューエルインジェクションの構造と作動(2)
2-6 フューエルインジェクションの制御と新機構
2-7 排気装置の役割
2-8 燃焼効率と出力向上からのエコ技術
3. エンジンを側面から支援しているシステム
3-1 潤滑装置の役割
3-2 冷却装置の役割
4. クルマの生命線となっているシステム
4-1 電気装置の概要と始動装置
4-2 充電装置の役割
4-3 点火装置の役割
4-4 進化した点火装置
5. ガソリンエンジン以外の動力源と新世代の技術
5-1 ディーゼルエンジンの特徴
5-2 新世代ディーゼルエンジンの概要
5-3 ハイブリッドシステム
5-4 プラグインハイブリッドと電気自動車
5-5 アイドリングストップの効用
COLUMN2 大きく様変わりした自動車整備
第3章 「力」を伝える 【ドライブトレーン編】
1. 「力」をつなぎ、伝えるシステム
1-1 エンジンからタイヤへ動力を伝達する
1-2 クラッチの役割
1-3 減速作用の効果
1-4 トランスミッションの役割とギヤ比
1-5 マニュアルトランスミッションの構造と変速
1-6 シンクロメッシュ機構(同期装置)の働き
1-7 オートマチックトランスミッションの特徴
1-8 トルクコンバーターのしくみ
1-9 トルク変換のメカニズム(1)
1-10 トルク変換のメカニズム(2)
1-11 副変速装置のしくみ
1-12 3速A/Tの構造と作動
1-13 A/Tに付属するさまざまなシステム
1-14 CVTの考え方
1-15 CVTの構造と作動
1-16 トランスミッションの新技術
2. スムーズに旋回するためのシステム
2-1 ディファレンシャル(差動装置)の概要
2-2 ディファレンシャルの差動作用
2-3 差動制限ディファレンシャルの必要性
2-4 その他の動力伝達機構
2-5 4WDの概要としくみ
COLUMN3 進化を続ける日本の自動車技術
第4章 「力」を操る 【足回り編】
1. 「走り」の質を決めるシステム
1-1 サスペンションの役割
1-2 フロントに用いられるサスペンション
1-3 リヤに用いられるサスペンション
1-4 サスペンション用スプリングの特徴
1-5 コイル以外のスプリング
1-6 ショックアブソーバーの役割
1-7 ショックアブソーバーのしくみ
1-8 タイヤ・ホイールの構造
2. ホイールアライメントとクルマの挙動
2-1 走行中のクルマの挙動
2-2 ホイールアライメントの必要性
2-3 キャンバーとキングピン角
2-4 トーインとキャスター
3. 「曲がる」をつかさどるシステム
3-1 クルマの旋回
3-2 ステアリング機構の概要
3-3 ステアリングギヤ機構のしくみ
3-4 油圧式パワーステアリングの原理と作動
3-5 油圧式の制御と電動パワーステアリング
4. 「止まる」をつかさどるシステム
4-1 ブレーキの概要
4-2 ディスクブレーキの構造と作動
4-3 ディスクブレーキの種類と特徴
4-4 ドラムブレーキの構造と特徴
4-5 ブレーキの油圧機構
4-6 制動倍力装置の工夫
4-7 アンチロックブレーキシステム(ABS)の概要
COLUMN4 きちんと考えたいA/T車の急発進事故
第5章 安全をバックアップする 【セイフティー編】
1. 安全運転をサポートするシステム
1-1 照明装置の進化
1-2 ソナー、レーダー&カメラの利用
1-3 トラクション&スタビリティコントロールシステム
1-4 エアバッグとシートベルトの進化
COLUMN5 何となくわかる若者のクルマ離れ
索 引
はじめに
日本に乗用車が本格的に普及し始めたのは1970年頃です。当時のクルマは現代のものと比べて、性能も快適さも比較にならないほど簡素なものでしたが、日本の経済が発展するにつれて「より速く、大きく、豪華に」と変貌していきました。
その間、二度にわたる石油ショックや排気ガス規制といった世界規模の逆風が自動車を襲いました。しかし、少ないガソリンと空気の混合ガスをタイミングよく燃焼させる技術や、有害ガスを再燃焼させたり還元する触媒などが開発され、これらの問題をクリアしていく過程で日本車は着実に性能向上を続け、結果として世界的にも「低燃費でクリーンな自動車」という評価を獲得していったのです。
◎制御技術の変化が飛躍的に自動車を進化させた
初期の国産車の開発は、先行していた欧州や米国車の模倣から始まりました。スタイルはもちろん、エンジンや駆動系、足回りの技術も外車を手本として形づくられたのですが、物づくりの技に長けた日本の技術者は、手本となっていた技術に独自の改良を加えたり、それらをヒントにまったく新しい仕組みを生み出すなど、短期間のうちに手本を超える製品を生み出していきました。
さて、80年代頃までの自動車は、いわゆる“アナログ技術”によって制御されていました。例えば、エンジンが生み出すバキューム(負圧)と大気圧の圧力差、回転する部品が発生する遠心力の強弱、荷重によるバネの伸縮、テコの原理といった、ある意味、目に見える制御技術の集大成であったような気がします。そして、80年代半ばから現代に至る間に乗用車はさらに大きな進化を遂げました。その要因は、電子制御技術の普及です。
エアコンなどの家電機器でも“○○センサー”と呼ばれる感知装置の名前を耳にすることが多いと思いますが、これは空気、液体などの温度や流量、回転する部品の回転数や速度といった状態を感知して、電気的な信号として出力する部品です。
数多くの用途に用いられているのですが、この“センサー”とそこからの信号を受けて分析・判断してさまざまな部品に指令を出す機構を「電子制御システム」と呼び、この技術が生み出され、精度が向上したことによって、自動車は飛躍的に進化しました。
◎基本となる機械部品の働きは変わらない
このように現代の自動車に、センサーやコンピューターの存在は欠かすことができません。エンジンはもちろん、走行中の自動車全体の状態を瞬時に判断し、最適な制御を行うことのできるこの機構は、ドライバーがどれだけ五感を研ぎ澄ませ、反応速度を高めても追いつかないほどの効果を持っています。しかし、その高い能力も制御される機械部品が正しく動いてこそ、本来の効果を発揮できることを理解しておく必要があります。
この本では、自動車の技術に興味を持たれている読者はもちろん、自動車のことを知りたいドライバーの皆さんにも理解いただけるように、自動車技術の基本となる事柄をできる限り平易にまとめました。
若い人たちの自動車に対する興味が薄れていると言われる時代ですが、この本がきっかけとなって自動車技術に関心を持たれる方が一人でも増えることを願ってやみません。
2013年8月吉日 橋田卓也