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おもしろサイエンス
足と靴の科学

定価(税込)  1,760円

編著
監修
サイズ A5判
ページ数 180頁
ISBNコード 978-4-526-07093-8
コード C3034
発行月 2013年06月
ジャンル ビジネス

キーワード

内容

靴は足の形など基本的な仕様に加えて、使用される状況に応じて身体機能が最大限に発揮されるよう材料、設計面などから様々な工夫がなされている。
本書ではまず足に関する知識から、動きに応じて靴に求められる機能、運動の目的に適した靴の選び方までを、靴に込められた技術とともに科学的な側面からやさしく解説する。

西脇剛史  著者プロフィール

(にしわき つよし)
㈱アシックス スポーツ工学研究所 所長、フェロー 工学博士
大阪大学理学部高分子学科卒業後、1987年4月㈱アシックス入社、スポーツ工学研究所に配属。現在に至る。

【主な研究テーマ】
「使う人に優しい」ことを考えたスポーツ用具の設計
シューズ、用具に関する機能の定量化手法の開発およびこれを用いた機能設計
人体の力学的応答シミュレーション手法の開発
不均質材料構造物の動的特性の解明

【主な社外活動】
英文雑誌“Sports Technology” 編集ボードメンバー
日本繊維機械学会誌 編集委員長
日本複合材料学会 理事

【受賞歴】
2001年 日本複合材料学会 林賞
2002年 豪州スポーツ医科学会 ベストペーパー賞
2004年 日本機械学会計算力学部門 ベストテクニカルプレゼンテーション賞
2005年 日本機械学会設計システム部門 ベストテクニカルプレゼンテーション賞
2005年 国際バイオメカニクス学会フットウエアグループ アプライドリサーチ賞
2009年 国際バイオメカニクス学会フットウエアグループ イノヴェーション賞
2013年 日本繊維機械学会 技術賞

目次

はじめに

第1章 足のサポートギア「靴」
1  靴の歴史
2  靴の構造と名称
3  靴の底部、ソールの材料
4  靴に使われるアッパー材料とその特性―天然皮革・人工皮革・ダブルラッセル―
5  靴ができるまで

第2章 身体の中における足の役割と動き
6  足の骨格構造─親指で地面を押して、ほかの指で地面をつかむ─
7  日本人の足の特徴─各国の足形の比較─
8  歩行時の足の動き
9  走るときの足の動き

第3章 靴に必要な8つの機能
10  靴の機能
11  衝撃緩衝性─接地開始時の地面反力の緩和─
12  安定性─接地中の足部、脚部関節の過度な動きを抑制─
13  通気性─シューズ内の温湿度を制御─
14  フィット性─はき心地の向上─
15  軽量性─シューズの重量軽減─
16  耐久性―シューズの使用可能期間の増大―
17  グリップ性―路面環境を問わず、スリップによるケガを抑制―
18  屈曲性―蹴り出し時(かかと上昇時)の足沿いの良さ―

第4章 用途・目的別靴の機能設計の例
19  靴に必要とされる機能―用途・目的に応じて最適な設計がされている―
20  走るための靴―マラソンシューズ、レーシングシューズ、ランニングシューズ―
21  歩くための靴(ウォーキングシューズ)―低速歩行、高速歩行、姿勢改善など―
22  でこぼこした道や坂などでの使用が想定される靴―トレイル系シューズ―
23  屋外の路面環境での使用が想定されるスポーツシューズ―フィールド系シューズ―
24  屋内での使用が想定されるスポーツシューズ―コート系シューズ―
25  ボートレース用シューズ、レスリングシューズ、防寒作業靴―その他のシューズ―

第5章 足と靴にまつわるトラブル
26  靴と足が合わないときの皮膚摩擦による出血、マメ―靴ずれ―
27  靴が路面をすべり、踏ん張りがきかない―すべり―
28  関節で起こるケガ―足首の捻挫―
29  ふくらはぎの内側の下部に生じる痛み―シンスプリント―
30  そのほかの障害―水虫、タコ、魚の目、外反母趾など―

第6章 靴の選び方とお手入れの方法
31  足の測り方―靴選びはまず自分の足を知ることから―
32  フィッティングチェック―履き心地のチェック―
33  オーダーシューズやカスタムオーダーインソールの効果
34  靴の保管の仕方
35  普段のお手入れや洗濯の方法

Column
フィット性向上のために着用時の変形の状態を測定する装置―光学式3次元ひずみ分布計測システム―
身体の各所の動きから動作の分析をする装置―モーションキャプチャーシステム―
運動中に地面を蹴る力を測定する装置―フォースプレート―
運動中の動作を細かく観察するための装置―ハイスピードカメラ―
シューズのクッション性の経過を観察する試験―圧縮永久歪試験機―

付録
おわりに
索引

はじめに

 欧米では家の中でも靴を履いて過ごす人も多いようですが、私たち日本人は、主に外出するときに靴を履きます。
 ここで質問です。
 「なぜ私たちは靴を履くのでしょうか?」
 答えは人それぞれでしょうが、靴を履くことは私たちにとって当たり前となっているために、その理由を特に意識したことがない人も多いと思います。
 そこで、仮に靴を履かずに一日を過ごした場合をシミュレーションしてみましょう。
 朝目が覚めて、顔を洗い、食事を済ませて、会社や学校へ向かいます。駅までの道を裸足で歩くと危険が一杯です。落ちている金属片やガラスをうっかり踏んでしまえばケガをしてしまいます。路面の凹凸によって足裏に痛みも生じます。駅に着いて満員電車に乗り込めば足を踏まれてしまい、車内では叫び声があちこちから聞こえてくるかもしれません。目的地に着いて、さぁ仕事。しかし足が冷えて集中できそうにありません。冬であればその寒さはかなり厳しいでしょう。ようやく一日を終えて帰宅して足元を見てみると、ところどころに傷やアザもできて、足裏は真っ黒です。そのまま家の中に入ると、お母さんや奥さんに大目玉を食らうなんてことに…。こうして考えてみると現代は、靴なしでは生活そのものが成り立たないように文化ができあがっているのかもしれません。
 このように靴を履く文化の始まりは、少なくとも靴を履いていた痕跡が発見されている、紀元前3500年に遡るといわれています。つまり、なんと5500年も前から人は靴を履いていたのです。
 さて、前述の靴を履かない生活のシミュレーションからお分かりの通り、私たちが靴を履く理由の答えとしては、主にケガや外の環境から身を守ることが挙げられます。靴に取り付けられたソールのおかげで路面を気にせずに歩いたり、走ったりすることができます。また、甲を覆っている甲被(アッパー)のおかげで、足を踏まれても痛みで声をあげずに済みますし、体温の維持にも効果的です。
 ここで、特定の状況で使用される靴のひとつ、スポーツシューズについて考えてみましょう。例えば、走るためのランニングシューズやレーシングシューズ、野球やサッカー用に開発された屋外球技用シューズ、バレーやバスケットボール用に開発された屋内球技用シューズなどがあります。
 スポーツシーンにおいて靴を履かないことにより生じる問題は、先に述べた日常生活で履く一般的な靴と比較すると、もっと深刻になります。一般的な靴はケガの予防や体温管理が主な役割でしたが、スポーツシューズにはさらに靴を履くことにより、競技力の向上が求められます。例えば靴を履かずに裸足でバレーボールをすると、床面と足裏の摩擦が小さいため体育館で滑ってしまい、グリップが働きません。その結果、鋭いスパイクも打てなくなるでしょうし、打てたとしてもその後の着地で耐えがたい衝撃を受けることになります。このように、スポーツシーンにおいては、靴の重要性は非常に高いといえます。
 本書はこのように足の動きをサポートする靴について、足に関する知識とあわせて理解していただきたいと考え、そのテーマを“足と靴”としました。
 靴は足の形など基本的な仕様に加えて、どういった人がどのような目的で履くか、その環境や動作が想定されており、材料、構造、製造方法などさまざまな角度から、目的に合った機能を実現するための工夫がなされています。
 第1章では、まず靴の基本的な構造や材料、製造方法を解説しています。第2章では靴の影響を直接受ける足の構造と役割、特徴を説明しています。第3章ではスポーツシューズを例に、靴に求められる機能性を詳しくまとめました。これらの機能は、スポーツシューズに限ったことではなく、皆さんが日常履いている靴にも要求される機能です。第4章では代表的なスポーツシーンを7つに分類し、それぞれのシーンに求められる機能を満たすようなスポーツシューズの設計について解説をしました。
 さらに本書では、靴に込められた機能だけでなく、皆さんが靴を選ぶときに参考になる内容も解説しています。第5章では、足の研究にもとづいて、靴に関係するトラブルとその原因と対策を、また、第6章では、皆さんが靴を選ぶときにぜひ参考にしていただきたい事柄、足の測り方、フィッティングチェック、さらには靴の保管や洗濯といったお手入れ方法についても紹介しています。
 そしてコラムとして、シューズ設計時に行われる各種試験方法や設計に使用される機器についてまとめ、どこからお読みいただいても本書がお役にたつよう工夫しました。
 本書をお読みいただき、皆さんが何気なく使っている靴についてより関心を持っていただき、正しい靴を選ぶことの一助となり、さらにはその靴で長くスポーツを楽しんでいただくお手伝いができれば、これに勝る喜びはありません。
 
2013年6月
株式会社アシックス スポーツ工学研究所 所長 西脇剛史

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