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気付力が夢を叶える!
研究開発力を格段に高める思考と実践法

定価(税込)  2,200円

編著
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サイズ 四六判
ページ数 320頁
ISBNコード 978-4-526-06948-2
コード C3034
発行月 2012年09月
ジャンル ビジネス

内容

気づきにより問題を発見し、課題を設定して解決につなげるプロセスを「気付力強化」と定義して解説。現状認識の際に真因追究の妨げとなる思い込み(「似非性」や「恣意性」の罠)から脱する方法を説くなど、実りある開発を実現する構想の描き方を指南する。加山雄三氏のコンセプト船開発にも応用。

石原信行  著者プロフィール

(いしはら のぶゆき)
知力経営研究所代表。早稲田大学エクステンションセンター講師。
兵庫県生まれ。1974年東京教育大学卒業後にホンダ入社。88年ホンダ東南アジア研究所をタイとシンガポールに設立した初代所長。独特のマーケティング手法を考案し、歴史的ヒット商品となったNOVAをはじめ数々のヒット商品を企画立案。現地研究開発を主導しタイホンダを世界最大の二輪車工場へと押し上げた。88年~92年タイ国立ラッカバーン工業大学特任講師。タイの工業化に貢献し国から感謝状授与。96年本田技術研究所取締役。98年ホンダヨーロッパ研究所副社長。ヨーロッパでも販売1位2位を独占するヒット商品を創出した。2003年知力経営研究所設立し人財育成分野へ。05年より日経ビジネススクール講師。06年より富士通研究所テクノロジーマーケティング講師。研究開発力強化、リーダーシップ、マーケティング発想法など、多数の企業研修を手掛けている。著書に「知力開発」ユウメディア、「コンピテンシーモデルタイ戦略」知力経営研究所など。

猪又明大  著者プロフィール

(いのまた あきひろ)
富士通研究所、主任研究員、工学博士。
東京生まれ。早稲田大学にて博士号取得。ハードディスクの最高記録密度を追求する先行研究に長く携わる。米国アルゴンヌ国立研究所にて人工機能磁性膜材料および層間交換結合の応用研究。当時限界とされていた記録密度を越える層間交換結合媒体(SFM)を新規開発し、実用化。熱アシスト磁気記録の研究により電気学会優秀論文発表賞を受賞(2005年)。SFM技術の先進性および全世界のハードディスクに適用された実績が評価され企業として大河内記念生産特賞受賞(2006年)。その後、カリフォルニア州立大学サンディエゴ校磁気記録研究センターにて情報を記録再生する新しい仕組みの研究。専門は磁性物理および2次元および3次元の人工ナノ材料の機能構造創成とその制御。2009年から、現実世界を情報化するセンシング技術研究を推進し新分野の開拓を目指している。

下山武司  著者プロフィール

(しもやま たけし)
富士通研究所、主任研究員、工学博士。
愛知県生まれ。横浜市立大学院卒、中央大学にて博士号取得。1991年富士通研究所入社後、数式処理の研究を経て、1996年から現在まで暗号技術の研究開発に従事している暗号解読のエキスパート。2005年および2006年の素因数分解世界記録を含む長年にわたる暗号研究の実績から、2007年電気科学技術奨励賞を受賞。また2008年には世界初となるRSA暗号解読専用装置の開発成功が認められ、情報処理学会から喜安記念業績賞を受賞。さらに2012年、ペアリング暗号解読世界記録を達成した。

清板ゆかり  著者プロフィール

(せいた ゆかり)  
株式会社スカイコム マーケティング部長
岡山県生まれ。「スーパーコンピュータの父」と称されスーパーコンピュータ市場を生み出した、シーモア・ロジャー・クレイが設立した企業「クレイ・リサーチ・インク」で、世界の知力レベルの高さと凄さ、上下の階級を意識させないフラットな議論やフレンドリーさ、高いモチベーション維持、プロフェッショナル性、フレキシビリティ、グローバル・チームワークのつくり方など、世界をリードする米国企業の巧妙なマネジメント力を身につける。その後、3次元 (3D)画像処理の分野を築き上げた「シリコングラフィックス(SGI)」や「マクロメディア」でプロダクトマーケティングの経験を経て、現在、PDF技術をコアとした自社開発商品のマーケティング責任者として、 国内はもとよりグローバルへの新市場開拓に取り組んでいる。

松本訓明  著者プロフィール

(まつもと のりあき)
トーソー株式会社にてアジア各国へ窓辺のソリューションを提供中。
大阪生まれ。 1999年甲南大学卒業後にトーソー入社。海外事業担当を経て03年商品開発室。商品開発時代の6年間で3度のグッドデザイン賞を受賞。世界に通用するジャパンブランドの確立を目的に創設されたsozo_comm(経済産業省後援)に入選。2009年から海外営業アジア地区担当。3年間で販売額を2倍に押し上げた。2012年3月には柏の葉で「世界中に友達が作れる子供達を育てよう!」をコンセプトにキッズ英会話クラブ「えいごカフェ柏の葉」を創設。代表として子供たちの国際感覚の育成とともに住民自身がワクワクできる街づくりに挑戦中。

難波貴代美  著者プロフィール

(なんば きよみ)
東京生まれ。大正海上火災保険(現三井住友海上火災保険)、日本モンサントを経て2002年新生銀行へ。個人部門マーケティング部(現顧客開発部)にてセールスプロモーション制作を中心に、新店舗出店プロジェクトにアイデアを振るい「32色の選べるキャッシューカード」(2005年度グッドデザイン賞コミュニケーションデザイン部門受賞)立ち上げなどに奔走。現在は化学系総合分析会社である株式会社住化分析センターにて「営業の生産性向上」という大命題に奮闘。また、「ワクワクする」「お客さまに感動を与える」を信条とし、世界一薄いおかきをつくる店「万寿越」(ますこし)の歌って潜って撮るマーケティング担当としても活躍中。

目次

夢をこころに    加山雄三

はじめに      石原信行


序章 加山雄三の視点

第1章 気付力の構造
 ●思考スパイラル
       左右離断脳の研究/言語思考と知覚思考/思考のシナジー効果/
       暗黙知と形式知/思考スパイラル・アップ/PモードとRモード
 ●似非性の罠
       創造性の過程と最初の洞察力/三現主義行動を狂わす似非性/あ
       なたはパンダを知っていますか?/似非性から逃れる五現主義行
       動
 ●恣意性の虚妄
       忠孝勇武の徳/ニーズと感覚をつかむ/利他的が恣意性を排除す
       る/顧客志向より顧客起点行動/要注意!アンケートでは顧客の
       想いと感覚はつかめない
column 「五現主義」が世界を大きく変化させる! 古川武史  

第2章 気付力を鍛える
 ●5つのみる
       楽しみながら気付力を鍛える/オヤマリンドウとミヤマリンドウ
 ●10のAR
       自分レポートを書く/サンプル1~権堂駅から小布施へ/サンプ
       ル2~長野駅から宿坊まで
 ●絵を描く習慣をつける
       絵は知覚思考の表出化/絵かき遊び/「放課後子ども教室」とい
       う取り組み
 ●六識発想
       簡単な思考変換方法/六識発想で気付力を鍛える日常行動/6つ
       めの意識/曲は降りてくるんだ
 ●セレンディピティー
       リトルカブの話/ガラスの話/天然痘の話
 ●気付力を鍛える水平思考
       水平思考で思考スパイラルは活性する
column 漢方と知覚思考 西本春子 
 ●不常識の意識
       相対性原理と恣意性/不常識の意識/イソップ寓話で不常識トレ
       ーニング/「ネズミどもとネコのたとえ」/「北風と太陽」
column インターナル・マーケティングと気付力 藤原温恵  
 ●バイオミメティクス思考
column カワセミのRモード観察 石原誠一  
 ●レトリック思考
       思考を結ぶ働き/レトリックの分類/デザイン力を高める

第3章 気付力を活かす
 ●視覚的イメージ思考
       利用シーンと無形の価値/インフォグラフィックス/プリウスP
       HVが新しいライフスタイルを現実に/消費価値連鎖モデルの戦
       略思考技術
column 五現主義で無形の価値を創造する 山原裕之  
column Rモードと消費価値連鎖モデルをネットビジネスに活かす 林 大介  
 ●やる気の思考技術
       自在意識とやる気のRモードサイクル
column 思考スパイラルはダイエットに効く! 山木輝彦  
column Rモードサイクルは岩をも動かす 澤邉大樹  
column 何事も始めるのに遅いということはありません。50歳からの挑戦 三ツ矢孝子  
 ●気づかせる技術 説得する技術

第4章 気付力最前線
        ~世界を舞台に活躍する若き企業戦士たちの報告から~
 ●主体的反省が業績を高める 松本訓明
 ●気づきがもたらした世界最先端研究と自分スタイル 猪又明大
 ●五現主義自己進化論 清板ゆかり
 ●暗号解読 気付力で世界一  下山武司

最終章 感動創造・商品開発ゲーム
            ~ごく身近な出来事から~
 ●遊びと感動のこだま 難波貴代美

あとがき

はじめに

 石原信行

 人間には誰しも秘められた能力が余裕で備わっている。だが、ほとんどの人はその能力を使っていない。うまく使った人は加山雄三さんのように天才と呼ばれ、ある程度使えた人は、それぞれの分野で高い業績を上げている。その秘められた能力を引き出す秘訣が気付力(きふりょく)である。
 私がそれに気づいたのは1986年の夏だった。シンガポールを拠点に東南アジア全土をかけずり回っていた。その頃はなかなか商売がうまくいかず、何をやってもパッとしなかった。特にひどかったのはタイの市場で、どんな商品をつくってもほとんど売れなかった。別に手を抜いていたわけではなく、それなりに市場調査を実施して頑張っていた。三現主義という現場をしっかりと確認していく重要性も知っていたし、創造的な仕事に携わるには、論理的な思考だけではなく、芸術的な感性が求められることもわかっていた。しかし、実際の仕事の現場では、一筋縄ではいかないものである。
 ところがその力を手に入れた途端に、状況は一変した。目の前の霧がすっと晴れたように、アイデアがどんどん湧いてきて、つくる商品はすべて大ヒットになった。気がつくと、タイの工場は世界最大の二輪車工場になっていた。一緒に頑張っていた販売会社の社長は、タイの工業化に貢献したと褒められ、プミポン国王から勲章を頂いた。これは日本人として初めてのことだった。
 私はといえば、タイに研究所を設立し、溢れてくるアイデアを次々に商品化していった。タイの大学からは、そのすごい秘訣と生産デザインを教えて欲しいと頼まれ、5年間大学に通った。数百人の質の良いエンジニアとデザイナーを世に送り出した。彼らは最前線の企業でリーダーと呼ばれるようになり、タイ躍進の牽引役を担っている。私は国から、タイの大学教育に大いに貢献したと褒められ、木でできた立派な感謝状を頂いた。タイでホンダの名前を知らない人は、おそらくいなくなった。

 1960年のはじめ、ロサンゼルスの脳外科医、ジョセフ・ボーゲンとフィリップ・フォーゲルはジョン・マクレガー(匿名)の脳を手術した。ジョンは重度のてんかん患者で、何を施しても改善しないので、最後の頼みとしての大脳を左右に分断する手術だった。大脳は右半球と左半球を脳梁や前交連、海馬交連といった神経線維で結ばれているが、それらをすべて分断したのだった。それは危険な手術ではあったが、ジョセフとフィリップはそれまでの動物実験で自信があった。大脳は2つに分断されても、日常生活に関する限りひどい低下は起こらないと判断したのだ。手術は成功し、ジョンに笑顔が戻った。
 ロジャー・ウォルコット・スペリー博士は、左右に分断されたジョンの脳の働きを調べていった。発見は画期的だった。
 左右に分断された脳は、相互に情報のやりとりができないから、それぞれが同時に同じ問題を解くことになる。その結果、左右に隠されていた働きの違いが浮き彫りになったのだ。左の脳は言葉を話したり文字を書いたり、あるいは計算したり分析したりする人間の一般的な能力があったが、右の脳にはそれがなかった。
 ところが右の脳は、左の脳にはない特殊な能力がいろいろ備わっていることがわかった。複雑なことを一瞬にしてわかってしまうのだ。それは直感的で感覚的だった。極めて洞察力に優れていたのだ。脳は左右でまったく異なる能力があり、互いを支え合うような仕組みになっていた。一方を言語思考と呼び、もう一方を知覚思考と呼ぶ。ところが多くの人は幼児期からの学校教育の影響を受け、右にある特殊な能力はほとんど活用されない状態にあるということもわかったのだ。
 スペリー博士はこのような研究をさらに進め、1981年にノーベル医学・生理学賞を受賞した。
 普段、人は言葉で考えている。そのため今自分が何をしているか、何を考えているかを意識しているときは、言葉で考える左の脳が支配的であり右の脳はほとんど働いていない。意識下では、人間の持つ本来の能力はあまり発揮されていないのである。人間は優れた能力を備えていながら言語的思考に偏重した教育を受け続けたために、また社会に出てからも言語的思考を重視する企業体質が多いことから、その優れた能力はほとんど発揮されていない。だから右の脳を積極的に活用し、それに左の脳が協調するようなことができるようになれば、すごい能力を発揮することが可能となる。すなわち潜在能力が引き出されるのだ。これが秘められた能力を引き出す秘訣である、というのがこの本の基本的なストーリーラインで、その秘訣を思考スパイラルと呼び、そこから生まれる力が気付力なのである。

 気付力は感性を高め、発想を豊かにし、分析力をも向上させる。新たな疑問に気づき、問題を発見する力でもあり、そこから課題を設定し方向性を導き出す力である。日常生活や仕事の現場で役立つ力で、あらゆる問題解決に役立つ力である。とりわけ研究開発などモノづくりでは、きわめて重要な要素となる。
 
 知識や技術が豊富でも実用化に手間取り、競争力に結びつかないのは、気付力が弱く、課題設定に誤りがあるからだ。そもそも問題が間違っていれば、そこから導き出した答えはおのずと間違っている。ここが日本のモノづくり産業の弱点である。例えば、「こういう製品を開発すれば多くの顧客に喜ばれる」…そんな企画があったとする。そこで技術力を総動員し、なんとかものにすることができたがまったく売れない。営業がいくら努力しても売れないなら、それは企画が間違っている場合が多い。前提が間違っていれば、いくら優秀な技術力を駆使しても、導き出した答えはおのずと間違ってくる。 
 多くの企業は、専門知識や技術の習得には一生懸命になるが、気付力強化には関心がない。だから業績が上がらない。というよりも、そもそも気づく力こそが重要だということを理解していないようだ。ここを強化しなければ、いくら技術力を高めても残念ながら成功を見ない。研究開発にとっては致命的な問題である。
 そこで三現主義行動が重要となってくるが、三現主義行動は本質を誤ると、逆に悪い結果を招くということも知られていない。
 三現主義とは、空理空論を排した実証主義的な考え方のことで、頭の中や机の上のみでものごとに対処するのではなく、必ず現場に赴き、現物を確認して、現実的に考えるという3つの現を意味し、思考と行動の態度を指したものである。この三現主義を行動規範として実践している企業も多いのではないか。
 しかし、三現主義が業績に寄与したかどうかの検証はなされていない。むしろ、三現主義の本質を理解しないまま現場に赴くことで、逆に悪い結果を招く人も多く、私の周りではそういう人が多かった。
 現場に赴き現物を確認していながら失敗すると、三現主義を実践したつもりでいるから、失敗の原因に気づかないのだ。まるで迷路に迷い込んだように失敗を繰り返す。これは三現主義行動の中で、似非性(えせせい)や恣意性(しいせい)という罠にはまるからで、仕事の場面のみならず、日常生活で失敗を招く原因でもある。似非性や恣意性から逃れる方法を身につけておく必要がある。
 そこで意識的な行動規範として五現主義を提案している。五現主義とは、三現主義の3つの現に現象と現当という2つの現を加える。現象とは「もの」や「こと」の本質の表れを意味し、先入見にとらわれず本質をつかむこと。現当とは、4つの現で把握した現状から未来を先見することである。

 日本は戦後の復興を経験し、目覚ましい経済成長を成し遂げた。復興という試練が多くのチャレンジ精神を生み出した。もののない時代は知恵を使い「ともかくやってみる」精神で対処し、そして技術力を高めてきた。
 気付力で重要となるのがこの「ともかくやってみる」精神である。人間何事も経験しなければ新しいことを身につけることはできない。秘められた能力を引き出すポイントである。経験したことがないから失敗もするが、ひるむことはない。失敗すれば、それは新しい知識やノウハウが一つ増えたと思えばよいのだ。こうすれば失敗するということを学んでいる。その失敗をバネに創意工夫を続ければ、間違いなく成功に近づいていく。そうやって人類は成長してきたのは明らかである。
 外国のヒット商品を分解してみると、中には、日本の部品が数多く使われている。他国が描く夢の実現に、日本が部品を納入している構図だ。日本は小さな利益は得ても、大きな果実は他国に奪われていると言ってよい。原因は明らかで、構想力と決断力の欠如である。
 日本企業はバブル崩壊後、すっかり決断力が鈍ってしまった。なぜなら、苦しい状況を経験しすぎたことで、いかにリスクを回避するかを最優先事項として考えるようになったからだ。「ともかくやってみよう」というチャレンジ精神は薄れ、新しいものは生まれにくくなった。夢を描かない下請け企業集団である。だから他国が描く夢に部品を納入し続けることになる。
 頭は良いが夢を描かない人が増えている。そういう人は行動する前に計算し、「いやいや、こういうリスクがある。これは無理だ」と動かない。動かなければ何も起こらない。何も生まれないし進化することはない。
 ところが、夢を描き、その実現に強い思い入れを持つ人は、普通の人が考えもしないようなことを思いつき、普通の人ができないと思うようなことを平気でやろうとする。変革はそういうところから起こる。そこから新しい価値が生まれてくるのだ。やる前に計算して無理だというのは、言葉を話す片方の脳の勝手な判断である。
 夢を描く力こそがまさに構想力であり、その構想力を引き出すのが気付力である。
 そこで「今必要なことは、自分たちの技術をどう使い、どんな商品やサービスを提供できるかを考える知が必要だ」となる。「知を使う知」の必要性を指摘する人も多い。ところが一見正しいことのように聞こえるが、これではあまり成果を期待できない。発想がまるで逆だからだ。
 「技術をどう使い、何を提供できるか」という発想ではなく、「何のために、何を生み出すか、誰にどんな価値を提供したいか」が先にあって、「それを実現させるには、どんな技術が必要か」という視点でなければならない。
 自分たちの技術を何に使えるかという発想では、現状の技術レベルに縛られてしまい、大胆な発想は生まれてこない。したがって、技術の進歩は期待できない。技術は何かを実現するための手段に過ぎないのだ。
 「将来どんな社会にしたいのか」「どんな商品やサービスなら何ができるのか、そしてその先、誰がどのように喜ぶのか」という構想が先にあって、それを実現するには、自分たちの技術はどうあるべきかと考えるようになれば、「こういう方向へ技術進化をさせなければならない」とか、「ここを強化する必要がある」という気づきが生まれてくる。
 次もよく聞く指摘だと思うが、これも研究開発の本質が理解されていない例である。
 「研究開発部門の強い企業は製品志向に陥りやすく、顧客志向のニーズ発想ではなく、つくり手側の一方的なシーズ(Seeds)発想で失敗する」という指摘である。これは、研究開発の現場を経験したことのない人たちの指摘だと思う。目先のことばかり気にしているのだ。
 シーズとは植物の種を意味し、新しい芽が出る、すなわち新しい技術を生み出す可能性を秘めた言葉である。ニーズ発想が現在からの発想であるならば、シーズ発想は未来を見据えた発想である。大切なことは、将来何を生み出したいのか、何を実現したいかという構想力である。
 研究を始めるきっかけが顧客のニーズ発想でなくとも、研究者に優れた構想力があれば問題ない。その時代の社会的な要求とは無関係であっても、未来を構想する力があれば、むしろ画期的な技術の誕生が期待できる。それを製品として世の中に登場させるときに、顧客の喜びと社会の利益に結びつく確認ができていれば、ビジネスとして成功する。アップルはその典型で、iPhoneやiPadはコンセプトが先にあって、その実現のために数々の技術革新が生まれた。顧客ニーズからの発想ではなく、シーズ発想に近い。
 序章で紹介している「SAISHIP(加山雄三氏が提案するゼロエミッション船・ウルトラエコシップ。自然再生可能エネルギーのみで航行する揺れない船)」もその代表的な事例である。
日本は細部にこだわり、現場ですり合わせながら品質を高めていく部品づくりは、世界最強と言ってよい。しかし、細部にこだわるあまりに、全体の構想が苦手である。「木を見て森を見ず」なのだ。
 それならば、日本人の得意とする細部をつくり上げていく力を活かし、苦手とする全体を把握する力、大きな流れをつかみ全体を構想する力を強化することで、競争力は高まる。この双方に効果を発揮するのが気付力である。
 
 人間には誰にも秘められたすごい能力が備わっている。その能力を発揮すれば、さまざまな分野でいろいろなことを実現できる可能性がある。気付力は決して研究開発者たちだけの有用な思考方法ではない。一般の人たちにとっても必要なものである。遅すぎることはない。自分の可能性を信じてやってみることだ。
 私の周りには気付力に溢れた人が集まっている。私との出会いがきっかけで、自分の潜在能力に触れて驚いた人たちだ。「えっ? 自分にもこんな力があった!」と感動したのだ。そしてもっと研鑽を積みたいという気持ちが集まり、今では石原軍団が形成されている。知名度の高い石原軍団ではない。間違われるので、こちらは「石原の軍団」である。集まった仲間は200名ほど。ここでは男女平等、学歴無用、会社の重役だろうが新入社員だろうが構わない。アイデアの前では全員平等で、和気あいあいで討議する。彼らや彼女たちはそれぞれの分野で業績を高めているし、日常の生活も充実しているという。
 この本には、そうした彼らや彼女たちの実績も書き加えている。今年はそのうちの一人が暗号解読の世界記録を樹立した。暗号解読といえば、最先端の数学を駆使して数式をいかにして解くかという、いわば究極の数学の姿であり、ガチガチの左脳(論理的分析的な言語思考)と思われがちだが、実はれっきとした思考スパイラルであり、知覚思考が重要な役割を果たしている。音楽家や芸術家が感覚的にものごとをとらえて表現するように、彼は数式や数字の美しさを感覚的にとらえ、数式を眺めていると「解ける!」というイメージが浮かんでくるという。言葉では説明のつかない感覚的な世界が存在する。サヴァンでありアスペルガー症候群だが、天才と呼ばれているダニエル・タメットの共感覚とも似ている。第4章にその主張を掲載した。
 さて、この本にさまざまな知恵を紹介しているが、それは私がホンダ時代に独自に考案し実践の中で身につけてきた古い知恵ではなく、それを土台にしているものの、その後およそ10年間にわたる多くの最先端研究機関や大学での指導実績と成果に加え、さらに研究を重ねて導き出した、いわばバージョンアップした最前線の知恵である。
 この本と出会ったすべての人が最前線の気付力を身につけ、自分の中の潜在能力を引き出し楽しんでほしい。始めるのに遅すぎることはない。きっと新しい自分に気づき笑顔が溢れてくるだろう。そして、一つひとつ夢を実現されることを願っている。


 2012年7月30日 箱根・山のホテルにて

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