内容
本書は、熱処理・表面改質技術の中でも最も重要で応用範囲の広い窒化、浸炭、プラズマCVD法やTRD法などによる「ハードコーティング」の基礎から応用までを、豊富な図版などを用いてやさしく解説した熱処理・表面改質の実務書。設計や生産技術に携わる若手・中堅技術者にとって必要な知識が盛り込まれている。
河田一喜 著者プロフィール
(かわた かずき)
1954年 岡山県に生まれる
2002年 名古屋大学大学院工学研究科材料プロセス工学専攻博士後期課程修了
現在 ・オリエンタルエンヂニアリング㈱ 取締役 研究開発部 部長
・東京工業大学 ㈶理工学振興会技術顧問:東工大 製造中核人材育成講座「金属熱処理スーパーマイスタープログラム」における講義担当
・埼玉県首席技能検定委員(職種:「金属熱処理」、「金属材料試験」)
<資格>
博士(工学)<名古屋大学>、技術士(金属部門)、特級金属熱処理技能士、1級金属材料試験技能士
<主な受賞>
2004年:日本学術振興会第6回「プラズマ材料科学賞」(技術部門)受賞
2005年:㈳日本熱処理技術協会第1回「技術開発賞(杉山賞)」受賞
2007年:型技術協会第17回「技術賞」受賞
2007年:㈶素形材センター第23回「素形材産業技術賞(中小企業庁長官賞)」受賞
2008年:㈳表面技術協会 平成20年度「技術賞」受賞
2009年:㈳日本ダイカスト協会 平成20年度「小野田賞」受賞
<主な著書(共著)>
「PVD・CVD皮膜の基礎と応用」(槇書店、1994年)
「熱間用金型の寿命対策」(日刊工業新聞社、2001年)
「第4版鉄鋼便覧CD—ROM版」(日本鉄鋼協会、2002年)
「高機能化のためのDLC成膜技術」(日刊工業新聞社、2007年)
「DLCの応用技術」(シーエムシー出版、2007年)
「薄膜ハンドブック(第2版)」(オーム社、2008年)
「金型高品質化のための表面改質」(日刊工業新聞社、2009年)
目次
序 文
第1章 窒化(Nitriding)
1−1 窒化とは
1−2 窒化の基礎
1−2−1 Fe−N系およびFe−N−C系状態図
1−2−2 合金元素の影響
1−2−3 窒素の拡散
1−3 窒化処理特性
1−3−1 組織と結晶構造
1−3−2 硬さと深さ
1−3−3 耐摩耗性と耐焼付き性
1−3−4 耐疲労性
1−3−5 耐食性
1−4 窒化法の種類
1−4−1 塩浴軟窒化法
1−4−2 ガス窒化・軟窒化法
1−4−3 プラズマ窒化法
1−5 酸窒化
1−6 浸硫窒化
1−6−1 塩浴浸硫窒化法
1−6−2 ガス浸硫窒化法
1−7 複合処理
1−7−1 窒化+高周波焼入れ
1−7−2 窒化+浸炭焼入れ
1−8 ステンレス鋼の低温窒化・浸炭
1−9 ガス(軟)窒化と窒化ポテンシャル制御
1−9−1 熱伝導式H2センサの原理
1−9−2 窒化ポテンシャルと窒素濃度
1−9−3 浸炭ポテンシャルと炭素濃度
1−9−4 窒化センサ制御システム
1−9−5 実際の窒化ポテンシャル制御
1−9−6 窒化+酸化複合処理
第2章 浸炭(Carburizing)
2−1 浸炭とは
2−2 浸炭の基礎
2−2−1 Fe−C系状態図
2−2−2 浸炭と焼入れ
2−2−3 ガス浸炭炉内反応
2−2−4 カーボンポテンシャル制御
2−2−5 合金鋼の炭素活量とカーボンポテンシャル制御
2−2−6 炭素移行係数と浸炭速度
2−2−7 炭素の拡散と浸炭条件の求め方
2−2−8 炭素濃度分布から硬さ分布の求め方
2−2−9 浸炭シミュレーションソフト
2−3 浸炭処理特性
2−3−1 組織と硬さ
2−3−2 耐摩耗性と耐焼付き性
2−3−3 耐疲労性
2−3−4 耐衝撃性
2−4 浸炭窒化
2−5 浸炭法の種類と特徴
2−5−1 固体浸炭
2−5−2 液体浸炭
2−5−3 ガス浸炭
2−5−4 環境対応高性能ガス浸炭法
2−5−5 真空浸炭法
2−5−6 プラズマ浸炭法
2−6 真空浸炭と品質保証
2−6−1 真空浸炭炉内のガス反応と制御
2−6−2 浸炭ポテンシャルと窒化ポテンシャル
2−6−3 熱伝導度センサの原理
2−6−4 H2濃度と浸炭特性との関係
2−6−5 エッジ部のセメンタイト析出防止技術
2−6−6 真空浸炭窒化における雰囲気制御
2−6−7 まとめ
第3章 ハードコーティング(Hard Coating)
3−1 各種硬質皮膜被覆法の特徴と応用
3−1−1 TRD法
3−1−2 CVD法
3−1−3 PVD法
3−2 DLC膜の成膜法と応用
3−3 プラズマCVD法(PCVD法)
3−3−1 PCVD法の種類と特徴
3−3−2 PCVD法とPVD法の違い
3−3−3 量産型パルスDC−PCVD装置
3−3−4 PCVD法により作製した各種硬質皮膜の特性と応用
3−3−5 まとめ
索引
はじめに
本書では、熱処理、表面改質技術のなかで最も重要で応用範囲の広い窒化、浸炭、ハードコーティングの処理プロセスと装置についての基礎、応用および最新技術について解説している。
「窒化」に関しては、窒化の基礎、窒化+酸化複合処理などの各種複合処理、低温でのオーステナイト系ステンレス鋼の窒化などについて記述した。また、量産性の高いガス窒化・軟窒化処理において窒化ポテンシャルを制御することがますます重要になってきているので、窒化ポテンシャル制御に関して、窒化センサ、制御システム、装置および処理特性について詳細に記述した。特に、日本独自に開発された国産の熱伝導式水素センサの原理、仕様、その窒化センサシステム搭載の装置により窒化ポテンシャル制御できるガス窒化・軟窒化処理の具体的な実用例についても記述した。
「浸炭」に関しては、浸炭の基礎、ガス浸炭におけるカーボンポテンシャル制御理論、浸炭速度に関係する炭素移行係数、環境対応高性能ガス浸炭、真空浸炭・浸炭窒化と雰囲気制御などについて記述した。特に、日本独自に開発された減圧下で作動する熱伝導式水素センサを含む雰囲気制御システム搭載の装置により、品質保証できる真空浸炭・浸炭窒化技術について詳細に記述した。また、ガス浸炭において粒界酸化が従来の半分以下にまで低減でき、CO2ガス排出量を大幅に削減できる環境対応高性能ガス浸炭方法と装置についても記述した。
「ハードコーティング」に関しては、TRD法、CVD法およびPVD法などの各種硬質皮膜被覆法の特徴と応用、DLC膜の成膜法と応用、プラズマCVD法による各種硬質皮膜の特性と応用について記述した。各種硬質皮膜被覆法のなかで、CVD法やPVD法はそのほとんどが欧米で開発量産化されたものであるが、日本独自で開発量産化された技術としては、TRD法がある。この技術は別名TDプロセスとも呼ばれ、現在でも国内外において広く応用されている。また、量産型プラズマCVD装置も日本独自に開発され、その装置による各種硬質皮膜は主に各種金型に広く応用されている。このプラズマCVD法は、1つの装置で1回の工程で真空を破らずに拡散硬化層+硬質皮膜という複合処理ができるという特徴を生かし、低温で密着性、つき回り性、緻密性および離型性に優れた各種硬質皮膜を被覆できるので、その装置、膜特性、応用について詳細に記述した。
以上、窒化、浸炭、ハードコーティングについての基礎、応用および最新技術について解説させていただいた内容が、熱処理、表面改質、設計、生産技術に携わる若手および中堅技術者のために少しでも参考になれば幸いである。
本書を出版するにあたり、いろいろお世話していただいた日刊工業新聞社出版局 書籍編集部の野﨑伸一氏を始めとして関係者の方々に感謝申し上げます。
2012年1月
河田 一喜