内容
日本国内で食品の産地偽装やBSE問題、微生物汚染事件が起こり、食の安全性が改めて問われている。こうした問題の根絶には、食品メーカーだけでなく食品流通・小売まで含めたフードチェーン全体で徹底した管理体制を取らねばならない。特に食品流通においては、古い慣習や管理の不徹底さが指摘され、食の安全を脅かす危険さえある。本書は世間ではあまり知られていない食品流通の実態とその問題を明らかにした。
米虫節夫 著者プロフィール
(こめむし さだを)
大阪大学工学部発酵工学科卒業、同大学院工学研究科発酵工学専攻中途退学。工学博士(大阪大学)。同大学 薬学部 助手、近畿大学農学部 教授(1997年?2009年)などを経て、現在、大阪市立大学大学院 工学研究科 客員教授。食品安全ネットワーク 会長。
主な学会活動:日本科学技術連盟、日本規格協会、日本品質管理学会 元幹事長、「食品安全ネットワーク」設立・会長、PCO微生物制御システム研究会 設立・会長、日本防菌防黴学会 理事・会長などを歴任、現在顧問。
主な受賞:日経品質管理文献賞(1977年度)、日本医科器械学会著述賞(1980年度)、日経品質管理文献賞(2000年度)、日経品質管理文献賞(2006年度)、日本ブドウ・ワイン学会功労賞(2008年度)。
主な著書:「食の安全を究める食品衛生7S 全3巻」日科技連出版社(2006年)、「食品衛生7S入門 Q&A」日刊工業新聞社(2008年)、「現場がみるみる良くなる食品衛生7S活用事例集」日科技連出版社(2009年)、「食品安全の正しい常識」工業調査会(2009年) ほか多数。
野口英雄 著者プロフィール
(のぐち ひでお)
味の素(株)にて物流本部を経験後、物流子会社に出向、(株)サンミックス (現:味の素物流(株))にてコールドライナー事業部長・取締役を歴任。味の素を退職後は昭和冷蔵(株)などを経て、エルエスオフィスを設立・代表取締役。現在、群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、(社)日本ロジスティクスシステム協会講師。
食品ロジスティクスに軸足を置き、低温物流の体系化に力を注いでいる。特にトラック・倉庫業を中心に物流業界の地位向上を目指した活動を行う。
主な学会活動:日本物流学会・日本ロジスティクスシステム協会・日本物流技術管理士会会員。
主な著書:「こうして防ぐ!食品危害」日科技連出版社(2003年)、「食品安全の正しい常識」工業調査会(2009年)など。
平井由美子 著者プロフィール
(ひらい ゆみこ)
同志社女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業。
食品加工製造会社にて20年余りにわたり工場業務全般を経験。それと同時に製販調整業務を通して、食の流通の在り方を経験する。現在、食環境プロデューサーとして、農場から食卓までのあらゆる場面においてベストな食環境づくりをプロデュース。
管理栄養士、消費生活アドバイザー、フードアナリスト、公害防止管理責任者(水質)。
主な学会活動:食品安全ネットワーク会員
主な著書:「食品安全の正しい常識」工業調査会(2009年)など。
目次
知らなきゃヤバイ! 食品流通が食の安全を脅かす CONTENTS
Chapter 1 食品の安全を左右する食品流通 ▼▼▼▼
01 消費者の権利に関するケネディーの4条件
02 フードチェーン全体での食品安全
03 「食の安全」・「食品の安全」とは?食料自給率も「食品の安全」の1つ
04 「消費期限」はだれが決めているのか!?
05 食品の安全の第一歩は「微生物管理」から!
06 食品安全の仕組みづくり〜HACCPの誕生と問題点〜
Chapter 2 食品流通の構造上の問題点 ▼▼▼▼
07 食品流通の特徴は最寄品を大量に扱うことと、多段階の流通経路
08 流通コスト増が食品不祥事の温床になっている
09 品質・衛生管理を製造工程並みにしないとヤバイ!
10 食品流通にはセキュリティー対策も重要
11 加工食品でも鮮度が求められている!
12 流通工程で管理すべきことがある〜SCMの重要性を理解しよう〜
13 不公正な商習慣を変えなければ、全体がよくならない!
Chapter 3 食品流通で今なにが起きているの? ▼▼▼▼
14 低温流通にかかるコストは社会全体で負担しなければならない
15 フランチャイズシステムは食生活を豊かにしている?
16 中食が増加すればするほど消費者の良い食べ方が求められる
17 1年中あらゆるものが食べられることの方がエネルギーを多く使っている
18 コンビニ弁当が毎日捨てられるほどつくられる理由
19 栄養成分強調表示がかえって摂取量をわからなくしている
Chapter 4 生鮮食品物流の問題点 ▼▼▼▼
20 詰め合わせ弁当の消費期限表示の年月日はトリックを持つ
21 卵はいつまで食べられる?
22 土付き野菜も魚も食品だから、衛生的に安全に取り扱わないといけません!
23 それでも安くて見た目がきれいな野菜が好きですか?
24 野菜・果物も適温が保たれてこそおいしく食べることができる
25 わかりやすい魚類名の表示が、かえって混乱を生む!?
26 欠品してもすぐさま生活に影響を及ぼすことはない
Chapter 5 拡大する冷蔵物流のニーズと課題 ▼▼▼▼
27 自然食品や調理済みへのニーズで低温化が進む
28 保存温度は2種類だけじゃない、何種類もある
29 1次産品は生きている商品を扱う
30 コールドチェーンが欠落している現状
31 鮮度低下を防ごうとすると、コストもリスクも増える!
32 「高コスト・高環境負荷」をどう変えていくか
33 「在庫ゼロ」の流通にどこまで近づけるか
我慢と計算/生協と食品の安全性/スーパーマーケットにおけるフロアメンテナンスの提供
家庭の食生活から見た加工食品と物流/グローバル・コールドチェーンで大成功〜韓国産パプリカの対日輸出〜
はじめに
はじめに
「食の安全」・「食品の安全」は、私たちが生きていく上で大変重要な問題です。
食品安全基本法(平成15年5月23日)では、食品の安全性を確保していくために、新たな2つの考え方に立脚して、対応することが必要であるとしています。1つは、フードチェーン全体における安全性の確保という考え方であり、2つ目は、食品の安全には「絶対」はなく、リスクの存在を前提としつつ科学的知見に基づいてこれを制御していくという考え方です。
食品関連の産業は消費者の安全を求める圧倒的な声に応えて、安全管理・品質管理などに努めていますが、まだまだ多くの問題が残っています。この問題を食品安全基本法の考え方から少し具体的に見ていきたいと思います。
食品の安全性は、食品製造・食品加工業だけの問題ではなく、農産物や漁獲産物などの食品材料の製造部門から、それらを集荷し食品製造・加工工場に入荷させる商社などの流通部門、でき上がった食品類を小売店まで届ける物流を担う流通部門、さらに私たちが食品を購入するスーパーマーケット、コンビニエンスストアなどの小売店などにも、食品の安全性を損なう多くの問題点が見つかります。さらに、消費者の時点でも、正しい食品や食材の取り扱いをしないと、フードチェーンの全ての段階が頑張って保証してきた食品の安全性が急速に損なわれることもあります。食品の安全は、まさに原材料の生産から消費の段階までの全ての人たちの協力なしには達成されないものです。
少しのリスクであっても、そのリスクの存在を認めようとしない「食品安全基本法」の「ゼロリスクはない」という概念を知らない人たちもまだ多いようです。食品を食べて起こる窒息事故で最も件数の多いのは、毎年お餅であり、おにぎりとパンがそれに続いて多いです。ところがこんにゃくゼリー事件では、年間数件の窒息事故が大きな問題とされました。消費者運動の先頭に立つ人でさえ、「窒息死の原因になるような食品が売られているのは問題だ」との驚くような見解を発表しています。エコナ事件のときにも、まだ明確でない発ガン性を、大きな問題として扱いすぎていたように思われます。そのような人が、消費者行政の中心に存在しているということこそ大きな問題ではないでしょうか?
筆者らは、先に「食品安全の正しい常識」(食品安全ネットワーク編、工業調査会、 2009・12)を出版し、「流通・物流における正しい知識」という章で13項目の説明を行いました。本書は、そのとき書けなかった項目も加えて、食品の安全性を流通と物流の観点からまとめてみました。物流と流通を技術的な面から紹介する書籍は多くありますが、食の安全性から物流・流通を見た成書はまだ見当たりません。本書が、この分野に関心ある人々の参考になることを願っております。
最後になりましたが、本書の出版は筆者らが参加する食品安全ネットワーク(http://www. fu-san.jp/)の例会での議論や活動がなければ、生まれることはなかったと思います。その意味でいつもお世話になっている食品安全ネットワークの会員諸氏に感謝いたしします。また、不慣れな筆者らを指導・叱咤激励していただき、すばらしい成書にまとめていただいた日刊工業新聞社書籍編集部の三沢薫氏に心からお礼申し上げます。
2010年2月
食品安全ネットワーク 会長
米虫節夫