現在在庫がありません

医療立国論III
民主党政権で医療制度はこう変わる

定価(税込)  1,980円

著者
サイズ 四六判
ページ数 192頁
ISBNコード 978-4-526-06365-7
コード C3034
発行月 2009年11月
ジャンル 経営

内容

今、日本医療現場は、行政の無策を大きな起因とし、崩壊寸前のところまで追い込まれている。しかし、政権が代わり、医療制度の改革にも期待が集まっている。本書では、医療の現場を復活させる緊急に必要な制度改革、そして現実に変わっていく医療現場をわかりやすく解説する。

大村昭人  著者プロフィール

大村 昭人(おおむら あきと)

 
帝京大学医療技術学部長、帝京大学前医学部長、帝京大学医学部名誉教授。1967年東京大学医学部医学科卒業。東京大学付属病院、岐阜村上記念病院、北里大学で外科、麻酔科研修後、1973年ワシントン州立大学麻酔科レジデント、76年ユタ州立大学麻酔科講師、78年同助教授、79年帝京大学医学部麻酔科助教授、86年同溝口病院麻酔科教授、96年同副院長、2003年帝京大学医学部長。2007年4月帝京大学医学部名誉教授、帝京大学医療技術学部臨床検査科主任教授。
 
専門医資格 1976年 Diplomate of The American Board of Aesthesiology(専門医:American Society of Anesthesiologists)

1982年 日本麻酔科学会指導医

1993年 日本ペインクリニック学会認定医

1995年 日本集中治療医学会専門医
 
所属学会 (社)日本麻酔科学会、日本臨床麻酔科学会、日本集中治療医学会、日本呼吸療法医学会、The American Society of  Anesthesiologists 等
 
社会的役割 ・総務省行政評価局行政評価委員
・ISO/TC121(専門委員会121) 国内委員会委員長
・3学会合同呼吸療法認定士認定委員会事務局長
・日本工業標準調査会医療用具技術専門委員会委員
・厚生労働省臨床工学技士国家試験委員長
・その他:(財)医療機器センター評議員 、(社)臨床工学技士会理事、(社)日本病院会医療税制委員会委員 等

・Editorial Board, Ambulatory Surgery, The official clinical journal of The International Society for Abmulatory Surgery

目次

はじめに



第一章 
社会保障は国家の要であり、市場経済を活性化させる

オバマはアメリカの医療保険制度を変えられるのか/医療・介護・福祉は国家の負債と考える日本/国民の幸せを中心に経済を豊かにした北欧モデルに学ぶ/経済財政諮問会議、規制改革・民間開放推進論議の的はずれな議論/医療産業の振興は重要な国家政策なのに、現状では有効な政策がない/拝金主義、狂乱の時代からの目覚めと経済活性化の鍵である社会保障の強化/福祉、医療の財源と裁量権は地方に移譲せよ!地方分権改革の必要性/医療は保険で支えるべき。福祉目的税は諸刃の剣で新たな特別会計で無駄と癒着の温床になるリスク。一般税のなかから地方に権限を委譲せよ!/「医療崩壊を止めるにはいくら必要かを医療側が示すべき」という問いに対して:科学的根拠を示すデータが存在しない!/病院機能の再生には診療報酬アップは避けて通れない! オレゴン州の実験結果から学べ


第二章
 後期高齢者医療制度の誤りと行き場をなくす患者

高齢者医療対策の根本的な誤り:行き場のない高齢者たち/保険者全体の再編統合が急務/高齢者層と若い世代の対立を煽る議論は後ろ向きで建設的ではない/高齢者を大事にしなければ日本の未来はない/療養病床の大幅削減で行き場がなくなった患者たち/在宅介護を家族のみに押し付ければ労働生産性が下がる/悪化する福祉介護の現場環境/お手本とすべき北欧の介護現場の実態/日本でも実現可能なみんなが幸せになる介護システム




第三章 
地域医療再生のための具体的政策提案

二次医療圏で急性期から慢性期医療までを完結させるシステムは完全に破綻している。地方分権を徹底して各地域の実情に見合った再編計画を構築せよ/基幹病院と大学病院の連携で地域中心の新たな医師派遣機能を再構築せよ/運営母体が細切れの自治体病院。大きな地域単位での再編統合も避けて通れない/地域医療の質を維持するために、痛みを伴う病院の再編統合とアクセスの制限は避けられない。地方自治体が地域に最良の方針を決定しなければならない/兵庫県豊岡市と奈良県の試み/自治体病院の大学付属病院化。新たな医師派遣機能構築への道筋?/遅れている医学部高学年の臨床教育。仮免許を与えて大学病院と関連病院で協力して臨床教育を充実させよ




第四章 
民主党政権の実行力が問われる医療現場の再生案

新薬や先端医療の導入を遅らせている国民の体質。“お上は何をしていたのか”という発想は改めなければならない/先端医療や新薬は十分に安全を確認してもリスクはゼロにならない。国民に情報を公開して導入を早めるシステムを構築せよ/冷静な対応ができなかった新型インフルエンザ対策/日本の国家公務員数は少ないことも承認審査の遅れの原因。優秀な公務員は国の宝。一方で多い隠れ公務員数/医療施設の保育室整備の支援は焦眉の急!/関与する二つの省庁、総務省(消防庁)と厚労省を統合して、救急患者の重症度の識別を行うコールセンターを設立せよ!/医師の計画配置は国が行うべきではない。地方自治体、医療施設、学会が協力して地方の実情に合わせた計画作成が望ましい/家庭医は専門医:役割を拡大するためにはアメリカやEU諸国のような集中的な研修制度が必要/医学部の地域入学枠に加えて専門科別医学部入学枠も必要/医療再生は、関連四省庁の再編統合と地方分権改革なしには絶対に実現しない/総論的過ぎる社会保障国民会議の将来予測と提案。少子高齢化社会では女性、高齢者への社会進出は必須で、具体的な提言が望まれる/専門科の地域別定員制度の導入と診療報酬カットを提案した財政制度審議会の答申/自民、民主のマニフェストに書かれた医療政策では不十分である/医療機器、製薬産業は経済活性化の大きな原動力である/医療・介護への支出は投資であり、国民の幸せを実現し、強力な国家を作る前提であるという認識から出発すべきである。医療・介護で産業革命を起こせ!/
民主党政権で医療が変わる/
歴史の経験から学ぶ必要がある/民主党政権の前向きの姿勢は評価できる。地方分権改革と社会保障への投資で生活大国を目指せ!/国民は政権の行方を厳しく監視してアカウンタビリティを要求することを忘れてはならない



第五章 
医療を再生させるためにも整えるべき環境

1.日本社会は、女性にもっと働く機会を与えなければならない
2.貧困の再生産につながる、今の日本の教育は見直さなければならない
3.弱者切捨てと貧困層を増加させる日本の現状を変えろ
4.政治家の質確保は国家の命運を決める。二世、三世とハンディキャップなく選挙を戦えるシステムを確立せよ!
5.グローバリズムの時代だからこそ国家の役割が重要
6.資本主義経済は狂気と傲慢から目を覚まし、謙虚さを取り戻せ!

おわりに





はじめに

 

アメリカの金融危機に端を発し、「一〇〇年に一度」と称された世界同時不況が、既に崩壊しかけている日本の医療を、さらに深刻な状況へと突き落とした。産婦人科、小児科、救急医療の崩壊で必要な医療が受けられずに患者が死亡する例が出始めている一方で、医療や介護が必要な高齢者の行き場が制限され、介護疲れでの自殺や介護殺人がしばしば報道されるようになった。こんなニュースを聞くにつれ、国も社会も高齢者を粗末にする風潮が広まってきているように感じ、社会が人に対する優しさを失いつつあるのではないかと心配する。

 そして今、これらの報道により、わが国の医療現場の危機的現状が国民にもようやく理解され、医療や社会保障の重要性が改めて認識されてきている。
拙著「医療立国論」、「医療立国論Ⅱ」で説明してきたが、EUの国々で立証されているように医療、介護、福祉の分野は、環境技術、食料生産技術などに加えて、非常に大きな経済効果をもつ分野である。それなのにわが国は、これを国の重要政策として認知せず、先進国の中で最も力を入れてこなかった。オピニオンリーダーと称される人々も外需依存型産業から内需拡大政策に転換すべきであると主張するが、急速に進む高齢化社会で最も需要拡大が見込まれる医療や介護を軸に経済活性化政策を立案提言する人は皆無に等しい。


 二〇〇九年四月に発表された麻生政権の景気刺激策も、補正予算として一四兆円を支出する中で、地域医療再生に三一〇〇億円、介護職員の待遇改善のために四〇〇〇億円など、短期的な臨時支出の基金を作るだけで、EU諸国のように医療をバネにして、長期的に経済を活性化するという視点がまったくない。しかも相変わらずハコ物への支出が大きく、本当に必要な公共事業(老朽化が深刻な既存の道路や橋の点検と補修など)などよりも新しい施設建設に比重が置かれているのが目立つ。


 さらに、独立行政法人などへ予算の二割が割かれ、都市再生機構に一〇〇〇億円、無駄遣いの温床と非難された厚労省管轄の雇用能力開発機構へ一五〇億円、国立メディア芸術センターに一〇〇億円以上など首を傾げたくなる予算内容である。また、地方分権改革推進委員会(丹羽宇一郎委員長)が、正規国家公務員三二万人のうち地方に二一万人の国家公務員が出向している現状の大幅見直しを検討している最中にもかかわらず、本年度予算では五四五億円もかけて出先機関のための合同庁舎建設が一〇ヶ所も決まっている。日本の政策立案にかかわるあらゆる階層の人々の、こうしたビジョンの欠如と目先の利益優先の考え方が今日の医療崩壊という深刻な危機を招いたと言える。


 また、世界経済フォーラムによって男女格差が世界九一位のレッテルを貼られるほど男女の雇用格差、女性の社会進出、保育所整備の遅れなど女性の働く環境が劣悪で、有能な女性の社会での活躍を阻んでいる状況に対して、政治家や政策立案者が正面から取り組む姿勢もこれまで一度も見られなかった。日本人の計り知れない能力、知識、技術は第二次世界大戦の廃墟の中から世界第二位のGDP大国まで登りつめた歴史が証明している。残念ながら発想の貧しい政治家や市場原理主義者、学識者と称される人々は、未だに旧態依然とした政策にとらわれているのが現実である。

 
しかし、二〇〇九年八月三〇日、衆議院選挙で、民主党が三〇八議席を確保し大勝した。これは、格差の拡大、年金問題や医療崩壊を目の当たりにして、国民が将来に対して強い不安を持ち始めたことを反映している。今日本には、将来を見据えた政策が求められているのだ。これから一〇年、二〇年先を見つめて、貧困の拡大、広がる格差そして綻びが出てきた社会保障制度などの問題を解決しながら日本経済を再び世界のトップランナーに押し上げるにはどうしたらよいかを我々は真剣に考える必要がある。新たにスタートする民主党新政権によって、いろいろなことに厳しい点検が行われることを期待したい。

 そして今こそ発想を転換し、環境技術や農業分野に加えて、医療、介護に投資し、長い将来にわたって日本の経済を豊かにすることが求められる。
一方で、新薬導入を不必要に遅らせている厚生労働省行政のメカニズムを理解しないで、一部の経済学者や財界人たちが安易に混合診療解禁や株式会社の病院経営参入などを主張しているのは情けない限りで、日本の将来にとって極めて憂慮すべきことである。

 本書ではこうした発想の貧しい政策立案者たちの考え方を根本的に覆して、国民に新たな選択肢を示すことを企図して執筆した。我々多忙な医療従事者には、いまさら経済を基本から学びなおして発言していく時間も余裕も無いが、医療の現場の深刻な問題を最も肌で体験し、悩んでいるのは医療従事者たちである。我々が現場から発言しなければ誰が医療従事者に代わって正しい判断に基づいた政策を実施してくれるだろうか。
医師は患者の病気や一部の臓器のみを見ていたのでは仕事にならない。

 まさに、全身をホリスティックに見ながら診療を進めないと誤りを犯す危険がある。医療従事者だからこそ、違った角度から世の中が広く見えるということもある。本書はまさにそうした観点から、医療現場の深刻な混乱に対して、誰も思い切った打開策を示せない現状に心を痛めて、一介の医師に過ぎず、まったく経済の素養の無い著者が怖いもの知らずで、率直に医療再生の活路を開くために私見を披露したものである。  


二〇〇九年一一月

大村 昭人



現在在庫がありません