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幻想のバイオ燃料
―科学技術的見地から地球環境保全対策を斬る―

定価(税込)  2,420円

著者
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サイズ A5判
ページ数 208頁
ISBNコード 978-4-526-06255-1
コード C3034
発行月 2009年04月
ジャンル ビジネス 環境

内容

国策として進められているバイオ燃料の利用は、現状ではCO2排出を削減するどころか、かえって増加させている。本書は、科学技術的な見地から地球環境保護対策、なかでもバイオ燃料を評価し、地球環境問題の解決に向けて、効果的な科学技術開発のあり方や進むべき方向を探索するためのガイドとしてまとめた。

目次

CONTENTS



第1章 「バイオ燃料ありき」の矛盾

1−01 誰が何のために「バイオ燃料の国策」を始めたのか?

1−02 農業政策としてのバイオ燃料生産の欠落した視点

1−03 国策研究の推進と「カーボンニュートラルの詭弁」

1−04 バイオマスリファイナリー製品:バイオマスプラスチックの怪



第2章 農作物原料バイオ燃料のCO2削減効果

2−01 バイオ燃料の生産でカーボンニュートラルは成り立たない

2−02 バイオ燃料の石油代替によるCO2削減効果の定量的表現

2−03 バイオ燃料使用でのCO2削減量の計算

2−04 化石燃料代替としてのバイオ燃料のCO2削減効果

2−05 日本のバイオエタノール生産または輸入の行方

2−06 バイオ燃料生産のための森林や草地の転換はCO2を増加する



第3章 バイオ燃料生産と食料価格高騰の関係

3−01 食料価格高騰を招いた米国のバイオ燃料生産

3−02 世界の食料需給の今後の見通しとバイオ燃料の生産

3−03 燃料生産に回せる食料の余剰はあるはずがない

3−04 自給率100%を達成できない日本の現実



第4章 セルロース系原料からのバイオ燃料――夢と現実

4−01 セルロース系バイオ燃料の見通しは立っていない

4−02 国内セルロース系バイオ燃料供給でも量的制約が大きい

4−03 セルロース系バイオマスの有効なエネルギー利用とは

4−04 CO2排出量削減を目的とした自動車用エネルギー使用システムの評価

4−05 バイオ燃料で自動車を走らせるべきでない



第5章 バイオマス資源のエネルギー利用の在り方

5−01 バイオマス資源のエネルギー利用には大きな制約条件がある

5−02 エネルギー資源として利用できないバイオマス廃棄物

5−03 国内バイオマス資源としての森林の生産量

5−04 森林バイオマスのエネルギー利用可能量には大きな限界が

5−05 国内森林のCO2固定による大気中CO2削減効果



第6章 地球環境問題の政治的課題と科学技術者の責任

6−01 政治に振り回される地球環境問題

6−02 地球環境問題に対する正しい科学技術の認識と判断を

6−03 化石燃料低減化社会のための科学技術開発

6−04 終わりに――科学技術者の責任を強く問う

はじめに

まえがき



いま、地球温暖化が政治問題化している。歴代首相が科学技術の裏付けのないまま、温暖化原因ガス「二酸化炭素(CO2)」の削減率に関して、実現困難な数値目標を国際的に発表してきた。科学技術者は、現代文明生活を維持しながら、こんな大幅なCO2削減を行なうことが非常に難しいことを知っているはずだし、知っていなければならない。

農作物や草木などのいわゆるバイオマスを原料として造られるバイオエタノールやバイオディーゼル油といったバイオマス燃料の生産・利用の計画が、「カーボンニュートラル(バイオマスはCO2を固定して再生産されるから、それを燃しても大気中のCO2濃度の増加とならない)」の原理から、CO2の削減に有効だとして、欧米に倣って国策「バイオマス・ニッポン総合戦略」として多額の税金を使って進められていている。メディアも、それを煽ってきた。多くの科学技術者がその開発研究、事業化の仕事に従事している。

第2次石油危機を契機に、石油代替燃料としてバイオマス原料から造られる燃料用アルコール(現在は、バイオエタノールと呼ばれている)の生産・利用に大きな期待が集まった。私どもは、果たしてこれに社会的意義があるかどうかについて考察し、「アルコールで自動車は走らない」とする見解を発表した(久保田宏編「選択のエネルギー」日刊工業新聞社、1987年)。この基礎となったのは、当時、国内にその原料を求めることのできない日本が、東南アジア諸国の協力を得て、エタノールを確保しようとする国の計画に対する素朴な疑問からであった。定量的な評価、解析、検討の結果、対象諸国における農作物から得られるエタノールの生産可能量の推計値があまりにも小さく、また、原料農作物をエタノールに変換して輸出することが、これら諸国の経済に不利益をもたらすことになるとして、私どもは、この計画を「東南アジア国家アルコール計画の幻想」と結論した。27年前のことである。その後の原油価格の低迷で、国内でのバイオエタノールの利用は沙汰やみになっていた。

近年の中国、インドをはじめとする途上国の急速な経済発展に伴う石油需要の増大に、投機的な要因も加わり、国際貿易市場の原油価格が高騰した。この原油価格の抑制策として、当時の米国ブッシュ政権は、国内のトウモロコシを原料とした燃料用エタノールの大規模な生産計画を発表し、実行に移した。以前から、食料自給率の向上政策に伴う余剰食糧対策としてバイオ燃料を生産していたEU諸国とともに、世界的なバイオ燃料ブームを巻き起こすことになった。何でも欧米諸国のやっていることは正しいとして、それに追従する科学技術の後進性から脱出できない日本は、EUの主導する京都議定書に決められたCO2排出量削減への貢献のためとして、「カーボンニュートラル」を利用した国策「バイオマス・ニッポン総合戦略」の中心課題としてのバイオ燃料生産計画を決めた。

この国策の推進に際しては、前述した私どもの昔の調査研究結果はまったく無視されている。また、本来、事前調査として行なわれるべき、バイオ燃料の生産・利用によるCO2の削減効果の評価も行なわれず、「バイオマスのカーボンニュートラル」が成立するとのひと言で片づけられている。自然の植生では成立する「カーボンニュートラル」が、バイオマスのエネルギー利用では成立しないことは科学の常識である。

本書で詳しく述べるように、農作物原料からのバイオ燃料の利用では、ブラジルにおけるサトウキビからのバイオエタノールの生産以外では、目的としているCO2の排出を削減するどころか、かえって増加させる。また、食料と競合しないセルロース系原料からのバイオ燃料の生産・利用は、まだ、まったく実用化の目処すら立っていない。将来的な技術革新によってCO2の削減にいくらかの効果が期待できたとしても、日本の場合、国内で利用できるバイオマス資源量はあまりにも少ない。ブラジルからバイオエタノールを輸入すれば良いとの考えもあるが、そのCO2削減の量的な効果に対する費用が、国家経済に対する大きな負担になる。その上、輸入先の森林破壊、すなわち地球環境の破壊を招くことは確実である。バイオ燃料が地球環境保全に貢献しない(CO2の削減にならず、化石燃料の節減にもならない)、国益(国民の利益)にならないことが判ってきたので、政府は、バイオ燃料の生産を農業への助成の手段として位置付ける「農林漁業バイオ燃料法(2008年)」を制定した。その中では、CO2削減の目的はどこかへ行ってしまっている。農民票を当てにしたブッシュ政権のバイオエタノール生産計画と同じ構図が出来上がっている。

国策としてのバイオ燃料の推進計画には、科学技術者が、それも日本を代表する環境科学の技術者が諮問に応えている。彼らは、その計画の当初はともかく、現在では、上記のバイオ燃料利用の不当性が判ってきている。少なくとも、定性的には判っているはずである。しかし、要職にあって、忙しく働いておられる方々には、定量的にそれを確かめる時間がない。

いま、地球環境問題として低炭素社会に一般的な関心が大きく集まっている。しかし、この問題に対する正しい対応の方法が判らないまま、メディアに扇動されて、多くの人々が、無批判に、あるいは、疑問を抱きながらも、バイオ燃料に代表される無益なCO2削減の国策を支持する結果になっている。また、この国策の推進に直接、間接に携わっている科学技術者の多くは、それがどのような社会貢献をもたらすかについては、およそ無関心に、あるいは無関心を装い、ただただ研究開発と、その事業化の実務をこなしている。一方で、この国策に対して批判的な発言をしても、国策の推進者からは、一切、無視されるだけである。これを、日本の環境科学技術発展の危機と捉えるのは考え過ぎであろうか。

本書は、国策として推進されているバイオ燃料を例にとって、日本の環境科学技術開発が、その正しい、あるべき姿から逸脱している現状を訴えるとともに、誰が、何のためにこのような無益な国策を推進しているかを、率直に言えば、環境科学技術の開発の方向が政治によってゆがめられている現実を、科学的な根拠に基づいた評価結果を通して、定量的に明らかにすることを第1の目的にしている。

現在、科学的に誤った情報を流布して、この無益な国策の推進を支えているメディアに訴えるとともに、この国の将来の、人類の未来のための地球環境問題に関心をお持ちの多くの方々にも広く読んでいただき、この現状の見直しを迫る世論を構成していただくことを強く期待している。結果として、バイオ燃料に代表される誤った国策に従事している科学技術者が、正しい社会貢献の道に立ち戻ることを強く願っている。

バイオ燃料については、その製造に関する科学技術の紹介を含めて、数多くの著書が出版されているが、そのほとんどが無批判にバイオ燃料の国策を推進する立場で記述されている。バイオ燃料によるエネルギー生産、及びCO2削減の目的に対する社会的貢献を定量的にきちんと評価、記述した著書は見当たらない。

本書は、その評価結果を数多くの数値で示している。記述に際しては、科学技術になじみの少ない方にも理解していただけるように、その導出過程をできるだけ詳しく記したが、一部、複雑な導出過程が内容を判りにくくしている点は否めない。そのような箇所は飛ばして読んでもらって、概要を把握していただければと考える。また、本書の執筆中に、原油価格、貿易穀物価格の大きな変動があった。さらに、最近の世界的な経済変動に伴う大幅な円高が進んで、本書の経済性検討における国際的な価格比較の数値に変化が生じているが、ここでの評価結果には、本質的な影響がないことを付記する。

本書を読めば、科学技術者でなくても、自動車をバイオ燃料で走らせようとしている現在の国策が、如何に無謀なものであるかが判っていただけると考える。折しも(2008年末に)起こった米国の金融危機に端を発した世界的な経済恐慌の中で、国益(国民の利益)に反する国策の推進に無駄な税金を使う余裕はないはずである。本書が、人類の未来のための持続可能な循環社会を創るためにの正しい科学技術開発のあり方、進むべき方向を探求するためのガイドとなることを強く願っている。

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