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今日からモノ知りシリーズ
トコトンやさしい養殖の本

定価(税込)  1,650円

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サイズ A5判
ページ数 160頁
ISBNコード 978-4-526-07944-3
コード C3034
発行月 2019年02月
ジャンル その他 ビジネス

内容

日本の食にとって欠かせない魚。その魚を育てる養殖が今、世界中で注目されている。本書は養殖の歴史や種類に始まり、マグロをはじめ様々な魚の養殖について紹介する。養殖技術や未来の養殖についてもやさしく示す、養殖に詳しくなるための最適の一冊である。

近畿大学水産研究所  著者プロフィール

https://www.flku.jp/

目次

はじめに

第1章 養殖の基本を知ろう
1 養殖とは、増殖とは「水産資源を増やす方法」
2 伸び続ける水産物需要を支える養殖「世界の養殖生産量は急増中」
3 養殖のはじまり「太古より行われていた養殖の歴史」
4 養殖の種類「魚種ごとに違った養殖方法がある」
5 養殖水産資源の種類「魚だけじゃない!多彩な養殖対象種」
6 養殖に関する法律「養殖を行うためには様々なルールがある」
7 養殖魚がお店に並ぶまで「養殖魚の流通の特色」
8 天然魚と養殖魚って違いがあるの?「生産量と味の比較」
9 世界の養殖業「ダントツの養殖大国はあの国」

第2章 卵から魚を育てる生産技術を知ろう
10 種苗生産技術開発の歴史「数々の困難を乗り越えて多種多様な魚種を生産」
11 有害プランクトンが歴史を変える「有害プランクトンにも使い方がある」
12 ワムシの種類と生態「世界中に生息するワムシの仲間達」
13 ワムシの培養技術「省力化が進むワムシ培養技術」
14 ワムシの栄養価と仔魚の栄養「ワムシは仔魚の栄養カプセル」
15 その他の生物餌料「種苗生産に利用されるさまざまな生物餌料」
16 親魚を育てて卵を採る方法「良質な卵の確保は親魚養成から」
17 産卵を操る技術「必要な時期に必要数の受精卵を得る」
18 仔魚を育てる方法「仔魚の飼育施設と餌料系列」
19 形態異常とその原因「飼育環境と餌の栄養による影響」
20 商品となる養殖魚の選別「養殖魚のサイズや形が揃っている理由」

第3章 クロマグロとその完全養殖を知ろう
21 マグロ類の種類と生態「熱帯から寒帯まで広く分布する」
22 マグロ養殖の始まり「時代の流れで高まるマグロ養殖への期待」
23 海外のマグロ養殖の歴史と発展「世界中で養殖が行われている」
24 世界のマグロ類の養殖「国によって養殖するマグロの種類が異なる」
25 完全養殖が注目される理由「資源保全の観点から注目されている」
26 クロマグロの完全養殖の歴史「30年以上の歳月を経て成功した完全養殖」
27 生簀におけるクロマグロの産卵と生態「養殖によって不明だった生態が少し明かされた」
28 クロマグロの仔魚から幼魚までの育て方「完全養殖に欠かせない種苗生産技術」
29 養殖クロマグロの成長と生残「出荷まで生き残るのは半分以下」
30 売値を左右する出荷方法「正しい処理で商品価値を高める」
31 持続性と安全性「サステナビリティーとトレーサビリティー」
32 ハイリスクなクロマグロ養殖「天災・魚病などが大きな損失の原因」
33 その他のマグロ類の養殖「ミナミマグロとキハダ」

第4章 さまざまな養殖を知ろう
34 ブリの養殖「海水魚養殖の先駆けとなった出世魚」
35 マダイの養殖「選抜育種により養殖期間が半分に!」
36 トラフグの養殖「種苗の安定生産により養殖拡大」
37 ウナギの養殖「日本の食文化「蒲焼」を支える養殖ウナギ」
38 サケ・マスの養殖「川と海の両方で発展した養殖の古株」
39 エビ類の養殖「世界中で愛され、生産されているエビ類」
40 貝類(ホタテガイ・マガキ)の養殖「貝類養殖生産量の99・9%を占める」
41 藻類(ノリ・ワカメなど)の養殖「主な海藻の養殖種と生産方法」
42 陸上でも魚を養殖「次世代の養殖生産法として期待」
43 非食用の養殖「おいしく食べるだけではない養殖の可能性」

第5章 餌や飼料の大切な役割を知ろう 
44 餌の種類と役割「成長度合や魚種によって餌は異なる」
45 配合飼料の研究と課題「魚種ごとに最適な餌を作る」
46 配合飼料の評価「餌を評価するための指標がある」
47 魚粉と魚油の課題「魚が育つための栄養をいかに確保するか」
48 養殖魚の病気「養殖魚だって病気になる」
49 病気の原因「養殖に仇なす感染症・寄生虫症」
50 病気の対策と課題「人・魚・環境にやさしい病気対策を目指す」

第6章 漁場環境を整える
51 養殖漁場の環境「海の特徴と魚が飼育できる条件」
52 養殖は海を汚す!?「残餌や排せつ物による自家汚染」
53 海への負担を減らす「餌の種類とやり方がカギ」
54 漁場環境を整える「海の“健康状態”に目を向ける」

第7章 より優れた品種を誕生させる
55 品種改良の歴史「多くの魚が品種改良から生まれた」
56 選抜育種「古典的だが大きな効果が得られる方法」
57 交雑育種「異種間交雑種形成による品種改良」
58 性の統御と倍数体「すべて雌、すべて成熟しない魚の生産方法」
59 借り腹技術「サバのお腹を借りてマグロを増やす」
60 遺伝子操作「遺伝子操作で品種改良の効率化を目指す」

第8章 養殖の課題と対策、最新の技術を知ろう
61 国内の養殖事情「養殖の重要性が高まり大規模経営体化が進む」
62 輸出される養殖魚「輸出を促進して養殖生産量を増やす」
63 養殖魚の価値を高める認証制度「環境や天然資源の保全から始まった」
64 魚粉・魚油に替わるタンパク質・脂質源「魚の餌も開発研究が進む」
65 養殖でICTを利用「スマート養殖による効率化」
66 養殖魚の将来像「日本の魚食文化を支える養殖魚」

コラム
●育てる漁業
●孵化した仔魚の発育
●特殊に進化したクロマグロ
●種苗の由来と現在の養殖魚種
●魚と家畜の餌の違いは?
●海の環境を支えている微生物
●海水魚の交雑育種は学生実験から始まった
●魚と植物を同時に育てるアクアポニックス

参考文献
索引

はじめに

 近年の世界人口の増加や魚食による健康ブームもあり、魚介類の養殖生産量は急速に伸び続けています。この、より身近になった養殖について、どれくらいの方が正しく理解されているのでしょうか。
 2005年に、水産庁は「食料品消費モニター調査」を実施し、その中に「不安を感じる食品」という項目を作りました。その結果、国内産天然魚介類の鮮魚に不安を感じる人はわずか1%でした。一方、養殖物に対しては5.8%の人が不安を感じていると回答しています。年齢別にみると、30~50代では22~28%と高く、この世代では年齢が増すほど、不安に感じると回答された方が多い傾向がありました。この世代の人たちがお刺身やお寿司を食べ始めた頃の1970年代は、小割式網生簀養殖の普及によってブリの養殖が急伸し、また1980~90年代にはマダイの生産量も増加するなど、給餌養殖が盛んに行われていました。この時期は、冷凍イワシなどの生餌を過剰に与え、抗生物質や抗菌剤を投与、生簀網に有機スズ系の防汚剤の使用、赤潮の発生など、養殖魚は海洋汚染の元凶として、国民の意識に深く刻まれていたことが理由ではないかと思います。特に、冷凍設備や鮮度管理技術が十分ではなかったことから、保存されたイワシは酸化し、養殖ブリもイワシ臭が感じられたほどでした。そのため「養殖ブリは臭い」という印象を多くの方が持たれたことでしょう。一方、20代は「不安に感じる食品」として、天然vs養殖、国産vs外国産で比較するといずれも7?10%と差がなく、特に産地や天然物にこだわっていないようです。1980~90年代になると、イワシなどの生餌を主体とした餌から、徐々に配合飼料への転換が進みました。さらに1990年代後半には養殖業に関する法律も整備され、水産用に使用可能な医薬品の種類と濃度、休薬期間などの制限や漁場環境の管理などが徹底されるようになり、養殖方法や養殖魚の質的な改善が実現されました。これらの成果によって、20代の人に養殖魚が認められるようになり、天然魚との差が小さくなってきたのでしょう。
 では、調査から15年経った現在はどうでしょうか。多くの回転ずしチェーン店や大型、中小スーパーの鮮魚コーナーには、ノルウェー産やチリ産の養殖サーモン・トラウト、国内で養殖されたブリやカンパチ、シマアジ、マダイ、国内や海外からの養殖クロマグロ、ミナミマグロなどが天然物と同じ規模で売り場に並べられています。いまだに天然魚へのこだわりが強い人を除いて、15年経った現在では、養殖魚は広く普及しているのを感じることができます。
 最近の東京都中央卸売市場における鮮魚の品目別扱い量と月別単価をみると、ブリ(ハマチ)では天然、養殖ともに、入荷量は季節によって大きな変動があります。そして天然物は入荷量が多くなると単価が下がり、少ないと単価が上昇するという傾向があります。一方、養殖物は価格が安定し、しかも天然物よりも高い値段で取引されています。カンパチでも同様な傾向がみられます。マダイでは養殖物が天然マダイの単価を超えることはまれですが、単価は安定し、市場での取扱い量は天然をはるかに超えています。このように鮮魚卸売市場でも、養殖魚が重要な地位を占めるようになっています。これらの例でもわかるように、養殖はこの四半世紀あまりの間に大きく変貌を遂げているのです。
 本書では特に海水魚類の養殖を中心に、養殖に関係した話題を広く取り上げ、可能な限り平易に理解していただけるように心がけました。特にマグロについては世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功した近畿大学水産研究所(近大水研)として、特に詳しく解説をしています。また、近大水研が60年前から取り組んできた、親魚から採卵し、仔魚を稚魚まで育て(種苗生産)、その人工の稚魚を成魚まで養殖する「完全養殖」に関する技術の歴史、現状、課題などについて最新の情報も含めて説明しています。
 2015年の国連サミットでは国連加盟の193の国によって「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されました。その中には「海の豊かさを守ろう」という項目があり、天然資源だけではなく養殖にもこの目標が課せられています。天然資源を持続的に利用することを目指し、そのために天然種苗に依存しない、影響を与えない「完全養殖」の重要性は今後ますます高まっていくことと思います。
 本書によって、皆さんが「養殖」への理解をトコトン深め、天然魚と養殖魚の違いやそれぞれの資源の重要さなどを脳裏に描きながら、おいしい魚をたくさん食べて頂けると幸いです。

近畿大学水産研究所・農学部水産学科水産増殖研究室

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