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変わる!農業金融
―儲かる“企業化する農業”の仕組みー

定価(税込)  1,728円

著者
ページ数 176頁
ISBNコード 978-4-526-07803-3
コード C3034
発行月 2018年02月
ジャンル 生産管理

内容

“企業化する農業”の動きはすでに始まっており、農業と周辺産業が相互に影響を及ぼしながら進んでいき、大きな潮流となるだろう。本書では日本農業を描きつつ、金融分野に焦点をあてる。金融機関は“企業化する農業”におけるビジネスチャンスを狙う立場でありながら、農業の発展を後押しする存在として期待されている。

中里幸聖  著者プロフィール

(なかざと こうせい)
株式会社大和総研 金融調査部 主任研究員。日本証券アナリスト協会検定会員。

1967年生、埼玉県出身。1991年慶應義塾大学経済学部卒、大和総研入社。企業調査第二部、経済調査部、(財)年金総合研究センター(現(公財)年金シニアプラン総合研究機構)出向、経営戦略研究部、金融・公共コンサルティング部を経て、2011年より現職。

専門はインフラおよびインフラファイナンス、公共ファイナンス、農業金融など。専門に関連する記事を多くの専門誌に寄稿。共著に『日本の交通ネットワーク』(中央経済社、2007年)、『明解 日本の財政入門』(きんざい、2016年)など。

目次

第1章 動き出す、日本の農業

1.1 いまも続く“戦後の農業” 
農地解放と小規模家族経営 
小規模家族経営での生産性向上とその限界 
戦後の農業政策の主なトピック 
食料・農業・農村基本法に代わり「企業化する農業」へ 
政府の管理下から自由にコメを流通・販売 
コメの需給バランスの変化に伴う減反政策 

1.2 食料自給率と就農人口の低下、そして高齢化の危機 
日本の食料自給率はドイツの約半分 
農業生産者の著しい高齢化と増加する耕作放棄地 

1.3 農業参入を阻む、企業による農地取得の制限 
農地耕作者主義の変化 
新規参入の障壁となる農地法 

1.4 “持続性のある農業”に生まれかわる 
新規就農者の増加の鍵となる“企業化する農業” 
コラム 食料安全保障は自国で保つべき 25

第2章 農業に新しい風が吹く

2.1 攻めの「農業政策」 
政府が本腰を入れた農業の成長産業化と企業化促進 
「攻めの農林水産業」を掲げる政府の成長戦略 
大きな政策転換の第一歩としての「減反見直し」 
2015年法改正の主要項目を見る 
農地集積バンクの創設と活用 
農業委員会の見直し 
農地を所有できる法人の見直し 
農協の本来使命への重点化 
農業生産者の所得向上に有利となる取り組みへ 

2.2 政府が農業を後押しする理由「地域活性化」 
国土利用における農業の存在感 
地域基盤である農業 

2.3 就農現場に訪れる変化の兆し 
農業の企業化は若者の新規就農に道を開く 
農業の企業化はさまざまな可能性を広げる 
小規模家族経営から大規模化、組織化、企業化へ 

2.4 “企業化する農業”の実現法 
農業の大規模化への道筋 
6次産業化に向けた農業と周辺産業の連携・融合 
6次産業化の事例 
コラム 農業と最先端技術、人間が求める五感の充実感 

第3章 試される農業金融の変革

3.1 農業金融の変化 
農業金融に関わる機関 
JAとJAバンク 

3.2 農業金融の主体であるJAバンクと日本公庫 
近年の農業向け貸出金残高 
競争力を強化する融資に努める農協と日本公庫 
農業経営改善関係資金の都道府県別動向 

3.3 A-FIVEの動き、民間金融機関のシェア拡大 
官民連携ファンドの活用 
民間金融機関への期待と現状 
民間金融機関の当面の狙い目 
農業金融の役割分担 

3.4 変わりゆくJA 
農協改革、集中推進期間 
農協の信用事業に関する議論 8
コラム 政府と農協の攻防 

第4章 成功する“企業化する農業”を見極める

4.1 経営の近代化と金融の関係 

4.2 農業と金融の相乗効果、望ましい生産戦略 
農業の経済機能 
金融の経済機能 
「市場の失敗」と「政府の失敗」 
経済機能の観点から望まれる、農業と金融の関係 
経営の近代化と耕作の脱近代化・超近代化 
地産地消とグローバル展開―販路拡大の工夫― 
農業経営の全国化と地方化 

4.3 “企業化する農業”の見極め方 成功と失敗の可能性 
コラム 求められるのは、官民ファンドを見極める目 

第5章 農業の“これから”

5.1 日本の農業の未来―産業としての農業と社会的役割― 
“企業化する農業”は減反政策廃止を実のあるものとする 
高齢化による引退、必要となる組織経営体への移行 
高齢化が促す、農協の変革 
“企業化する農業”への移行パターンの例 
「豊かに自給する農業」の実現へ 

5.2 広がる、農業金融の可能性 
他産業での金融機関の経験が活かせる農業の企業化 
農業の国際展開の可能性について 
変わる!農業金融 
コラム リン不足は渡り鳥が解決する? 

はじめに

はじめに ―日本農業の変化は不可避である―

 


 農業は生命の根源である“食”を生み出すものである。近代資本主義の尺度である貨幣換算した価値、すなわちGDPなどにおいては農業の比重は1%強と小さいが、生命の根源に関わるものであり、経済の基盤を成すものと言える。

 しかし、わが国の農業は大きな岐路に立っている。このまま手をこまぬいていては、わが国の農業生産は絶えてしまいかねない。

 わが国の基幹的農業従事者は、65歳以上の高齢者が6〜7割を占める。農作業などで日々体を動かしていることもあり、元気な方も多いと思われるが、それでもあと10年もすれば実質的に引退する人が大半を占めることとなろう。彼らの子供は30代以上と思われ、現時点で農業を継いでなければ、今後も農業を継ぐ可能性は低いであろう。つまり、現状の小規模家族経営を主体とする農業を継続するならば、農業生産者が物理的にほとんどいなくなってしまうことになる。

 一方、組織化され大規模化した農業経営体も増えつつある。今後のわが国の農業経営は、従来の小規模家族経営から企業的な組織経営体が中心となると見込まれる。すなわち“企業化する農業”がキーワードとなる。

 農産物の自給率については、カロリーベースでの議論も去ることながら、大豆などの和食の根幹を支える食材の物理的な自給率の低さが問題である。大豆は醤油、豆腐、納豆をはじめとして和食の根幹を構成する食材である。

 食の安全保障の観点はもちろんのこと、日本文化の根源に関わる問題である。「根幹」「根源」という言葉を使ったが、要は「根っこ」である農業がこのような状況では、日本は「切り花国家」となってしまっているということで、激動する国際情勢の中での先行きは心もとない。

 ただ、幸いなことにわが国の農業は停滞から成長へ向かって動き出している。“企業化する農業”の動きはすでに始まっており、この流れは今後大きな潮流となるだろう。それは、農業と周辺産業が相互に影響を及ぼしながら進んでいくと思われる。

 本書では、そうした観点から、「農業の戦後〜現在〜未来」を描きつつ、農業に関わる金融分野に焦点をあてる。“企業化する農業”の動きは金融機関のビジネス拡大のチャンスであると同時に、金融機関が“企業化する農業”の動きを後押しすることが期待されている。

 なお、本書でいう農業の「企業化」は、農業が組織化されて営利的に営まれることを指す。最初から農業法人として企業的経営を志向する、既存企業が参入する、農地所有適格法人がより企業組織化される、農業協同組合が組合員を組織化する、小規模家族経営の農家を基盤に大規模化・組織化を志向する、など企業化のパターンはさまざまにあり得る。



 8世紀初頭に成立したとされる記紀において「豊葦原之千秋長五百秋之水穂国」(古事記)、「豊葦原千五百秋瑞穂国」(日本書紀)と美称されているように、わが国は、みずみずしい稲穂を意味する「瑞穂の国」と自己認識してきた伝統を持つ。日本列島は農業に適した国土であり、また農耕民族として歴史を重ねてきた日本人は本来的に農業抜きの世界は考え難い。

 日本国および日本人にとって、「豊かに自給する農業」が目指すべき姿である。農業の成長産業化、農産物の輸出拡大、農業金融の活性化と「豊かに自給する農業」とはお互いに響き合って実現するものである。「豊かに自給する農業」の大まかなイメージは第5章で描くが、「豊かに自給する農業」というキーワードを心の片隅にでも留めて、本書を読み進めて頂けると幸いである。

 本書の記述にあたって、事実に関する部分は正確性を期しているが、事実誤認などがあった場合は筆者自身の責任である。また、見解や意見に関する部分は筆者自身のものであり、筆者の所属組織を代表するものではない。これらをお断りしつつ、わが国農業と農業金融の可能性について記した本書をお読みいただき、何かしら得るものを感じていただければ幸いである。

 本書の企画、執筆に関しては日刊工業新聞社の土坂裕子様にたいへんお世話になった。そもそも土坂様の提案なくしては、本書の執筆は思い立たなかった。この場を借りて厚く御礼申し上げる。
 また、日ごろの活動のご指導、ご支援をいただいている株式会社大和総研の皆様に心より御礼申し上げる。
 最後に、妻と子供達の笑い声にいつも助けられる。感謝したい。


 
2017年年末 大嘗祭に関する報道を耳にしつつ

中里 幸聖

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