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図解!製造業の管理会計入門

定価(税込)  2,052円

著者
編著
サイズ A5判
ページ数 174頁
ISBNコード 978-4-526-07746-3
コード C3034
発行月 2017年09月
ジャンル 生産管理

内容

製造業の管理者が学ぶべき、「管理会計」の基本(利益計画、原価管理、カイゼンおよびコストマネージメント、在庫管理、設備投資管理など)をわかりやすく「図解」で解説した実務入門書。

吉川 武文  著者プロフィール

(よしかわ たけふみ)
公認会計士・生産技術者
王子経営研究会の創立メンバーの一人。工学部修士卒。大手メーカーでカイゼンやコストダウンによる子会社再建、自動化、製品開発、研究開発等28 年の技術系キャリアを有する異色の会計士。出願特許多数。既存の生産技術や原価管理、設備投資の在り方に疑問を感じ、業務の傍ら会計を研究。監査法人トーマツを経て現在は有志と共に新しい管理会計を提案、製造業の復活を目指し活動中。著書に「モノづくりを支える管理会計の強化書」「生産技術革新によるコストダウンの強化書」など5冊。

王子経営研究会  著者プロフィール

〈著者紹介〉「ヒトが生き生きと働くための仕組みを提供する」

 なかなか利益が出ない! 会社全体に活力が感じられない! といった悩みが広がっています。経営層の方は、株主や銀行など外部からのプレッシャーに耐えながら、精緻な予算制度や人事評価制度を導入して成果を出そうとします。従業員の方は、困難とも思える予算やKPIを突き付けられ時に上司に机を叩かれながら、あらゆるテクニックを駆使して与えられた目標を達成しようと頑張ります。そしてふと「会社はこれで良くなるんだろうか」という想いに囚われたりするかもしれません。20世紀のヒトは作業者でした。作業を合理的に管理するための仕組みが幾つもデザインされました。実は、日頃当たり前の経営管理ツールとして使われている予算管理制度や人事評価制度もまた作業を管理するためのものだったのです。しかし経済社会の環境が大きく変わってしまった今日、単なる作業者を超える創造力を従業員から引き出そうと模索している経営者の方々が多いのではないでしょうか?
 王子経営研究会は、既存の思考に囚われず「ヒトが生き生きと働くための仕組み」で、日本の会社を元気にする専門家集団です。

☆山口揚平 公認会計士
王子経営研究会を主宰。監査法人トーマツ勤務後、日産自動車本社で予算管理の実務を経験したのちに独立。「人が生き生きと働く会社こそが強い」という想いを軸に、従来の予算制度の廃止など新しい管理会計の考え方や新たな人事制度などを柔軟に組み合わせ、一つひとつの会社にオーダーメイドの総合的な経営体制を提案し、構築から運用支援までを行っている。

☆網野 誉 公認会計士・税理士
王子経営研究会の創立メンバーの一人。監査法人トーマツを経て独立。税理士を兼務し節税対策、管理会計導入、組織再編、その他各種支援で実績多数。日本CCO協会の創立者でもあり企業内コミュニケーションのエキスパート。

☆眞山徳人 公認会計士
監査法人トーマツにて、監査業務のほか、経営ビジョン策定から管理会計の導入に至るまで多様なコンサルティング業務を展開。現在、合同会社ebs副代表。著書に「江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本」「スピーチ・ツリー」など。

☆篠﨑英憲 公認会計士・税理士
監査法人トーマツにてIPO支援業務を中心に監査業務に従事。税理士法人を経て、平成27年10月にIPO・内部統制等業務改善コンサルを中心としてジョアット総合会計事務所を開設。IPO支援に限らず上場企業の会計税務支援、事業再生など多岐にわたる。

☆奥富進介 公認会計士
監査法人トーマツを経て、IT企業などにおいて幅広い業務経験を有す。埼玉県川口市を愛し川口市を地盤として地域経済活性化のため奔走中の熱血会計士。

☆大城章顕 弁護士
中小企業、ベンチャー企業から大手企業まで、様々な業種の企業に対して法的サービスを提供している。業務上の契約書作成といった一般企業法のほか、労務・人事法務、紛争解決、M&A・組織再編、コンプライアンス・不正調査、コーポレートガバナンスなどを取り扱っている。

☆小島 彰 社会保険労務士
IPO労務コンサルタント。現在の一般的な人事制度とは全く違った切り口での、『新人事制度』の提案を王子経営研究会のメンバーと行っている。(ご興味のある方は、kojima.akira@kojimaakiira-sr.comまで、お気軽にご連絡ください。)著書は「解雇・退職勧奨の上手な進め方と問題解決マニュアル」他6 冊。特定者労保険労務士。

☆有馬美帆 社会保険労務士
特定社会保険労務士。社労士シグナルの代表としての数百の企業の人事労務を支える。IPOコンサルティング、労務トラブル解決、就業規則作成等を企業フェーズに応じて支援を行い、一歩先回りした提案によりお客様の成長を加速させている。

☆廣島達也 ITコンサルタント
研究会きってのIT のスペシャリスト。独学でプログラミングを学び20歳でコンピュータ専門学校の講座を担当。日々の生産管理と会計業務の融合を目指して奮闘中。儲けを出せる工場の実現を目指す。

目次

〈目次〉

目をつぶって運転する車

Ⅰ 管理会計とは何か?
1 今、何をすべきかわかりますか? 気合は大切、でもそれだけで事業は黒字にならない
2 会社がやばい! 管理会計がどうしても必要な理由
3 会社は、社会のミッション 経済合理的な活動で、製品やサービスを提供する
4 会社の活動を、そのまま会計で表現すると? 「かせぐ」と「わける」をしっかり区別する
5 変動費と固定費の本質的な違いとは? コストvs経営資源
6 まず全力で付加価値を最大化。分配は後でゆっくりやる 損益分岐点と経営目標
7 来年はどのくらい頑張らなければならないか? 利益計画と安全余裕率
8 管理会計のP/LとB/Sはサプライチェーンを映す鏡 ビジネスモデルが管理会計の形を決める
9 え? 自分の会社のWACCを知らない?! 加重平均資本コストを直ちに幹部に周知せよ
10 財務レバレッジの話、無借金が常にベストな訳じゃない 株主からの預かりもの、社内留保はタダじゃない!
11 未達成なら、会社は消えてなくなると覚悟すべき WACCと経営責任、敵対的買収との関係
12 誰も在庫金利を計算してみたことがなかった? 在庫管理の基本、コストとしての在庫金利
13 経営資源としてのモノ、減価償却の基本 生産設備の減価償却、定額法・定率法と即時償却
14 財務会計のP/Lは、たった5行だった! 肝心なことが全くわからない財務会計のP/L
15 100年前に何があったのか? 財務会計と工場叩きの深い関係
16 やっぱり新しい会計が必要だ! 財務会計の形がパラダイムシフトを妨げていた
17 これじゃあ、目をつぶって運転する車 変動費と固定費をきちんと分離しないと起こること
18 これからも「七つのムダ」だけでよいのか? 100年前の会計と60年前のモノづくりでは、ヒトも育たない
19 勝負どころが変わった! 製造業から創造業へのパラダイムシフト
20 サプライチェーン・マネージメントは会計から 会計が変わらなければ、ヒトの行動も変わらない
コラム① 私達の原点

Ⅱ 変動費の管理…儲けの最大化(かせぐ)
21 コストと戦うなら、毎日、差異をチェックせよ! 標準値管理をしないものは「変動費」と呼ばない
22 戦場は、工場の中だけじゃあない! 無駄なく強固なサプライチェーンを構築する
23 そのトラブルを放置するな! 現場へ急げ! 変動費は毎日チェック、固定費は毎月チェック
24 差異がなかったのか? それとも目標がなかったのか? 人に見せるためのP/Lの限界、差異がゼロならゼロと書く
25 カイゼンの本質は労務費叩きだった コストの内訳を把握して活動していますか?
26 その一歩はいくらですか? 精神論vs経営戦略
27 「ゼロ在庫」の惨状、誰も理由が言えなかった 在庫削減は5Sか? 経営戦略か?
28 実体のない活動が私達を負け犬にした! 大事なことなら毎日やろう! 管理会計は毎日棚卸をする
29 これなら見える、在庫の金利! 日次の在庫管理、年次の在庫管理
30 なぜ、まじめな班長が叱られるのか? 見えない在庫を忘れていないか?
31 減らすべきものは減らず、減らすべきでないものが減る 罪子と財子を分けるべき理由
32 目標は死蔵在庫を出さずに最短納期で届けること 在庫戦略を決める五つの要素
33 会社の活動がバラバラだった コストダウンで大きな成果を上げたのに経営が楽にならない理由
34 そのサプライチェーン・マネージメント、本当に本気なら! やるべきことの優先順位が見えた
コラム② IoT時代の原価管理

Ⅲ 固定費の管理…生産性の最大化(わける)
35 あなたが目指すのは体重ゼロですか? 固定費の管理はダイエットに似ている
36 どちらが大飯喰らいか? 配賦を巡る不毛な騒動 固定費の原則は配賦しないこと
37 事実と駆引きを混ぜるな! 個別の製品への固定費配賦は砂上の楼閣
38 304.05万円分だけ食堂を閉められるか? 固定費は発生単位で管理すべきもの
39 不採算製品を廃止すると何が起こるか? これが実際に財務会計で行われている判断
40 それなら在庫を積み上げろ!? 財務会計が引き起こす、もう一つの致命的判断ミス
41 かかったものは仕方ない? お客様を裏切るな! 固定費配賦は製造業の身勝手
42 最新工場を動かすな? 配賦が止めた新工場 担当者が負うべきでない責任
43 この提案を受けるべき? 受けないべき? 差額原価、埋没原価もこれなら簡単!
44 丁寧な仕事をされたら迷惑だ? 配賦をすると資源は遊び、ヒトは育たない
45 え、配賦すべき固定費がある? 便宜的固定費とABC(Activity Based Costing)
46 配賦すべき固定費、配賦すべきでない固定費 固定費とは標準値管理をしないもの全て
47 真実を直視しカイゼン不正と戦え! 会計と繋がらないカイゼンの限界
48 どうすれば生産性を測れるか? 今までのカイゼンは製造業の独り善がりだった
49 手待ち、手待ち、手待ちを創れ! ヒトは手待ち時間に技を磨き、成長のチャンスを掴む
50 コストの道vs資源の道 真のカイゼンを復活させる処方箋
51 付加価値生産性を負うて遠き道を行くがごとし 正社員はチェーンの構成員として自覚を持つ
52 それでもまだ固定費を配賦しますか? 今、財務会計で起こっていること
53 逃げ回る固定費を捕まえろ! これからは全員がホワイトカラー
コラム③ 価値の創造のヒント、隣の人は何する人ぞ?

Ⅳ キャッシュフロー経営
54 黒字倒産とキャッシュフロー経営 財務会計のP/Lが当てにならないので作られたC/F
55 三つのキャッシュフローの変化に注目! 営業活動の変化、投資活動の変化、財務活動の変化
56 伸びる会社、危ない会社 キャッシュフロー計算書に表れる会社の成長/不成長
57 見えない取引に注意せよ! これが黒字倒産の原因! キャッシュ危険な取引
58 生産設備の取得がキャッシュ危険な理由 減価償却費に見る、キャッシュの動きとP/Lのずれ
59 低成長になったら、生産設備の取得は慎重に! 「お金が寝る」は在庫どころの話じゃない
60 正味現在価値って何だ? 設備投資と割引計算
61 設備投資計画、WACCは資金提供者への約束 カンではなくカネで設備投資を評価する
62 正味現在価値法vs回収期間法 WACCを考慮しないと評価が甘くなる
63 会社が続く限り、引き継がれていくカネ 個々のプロジェクトの視点、会社全体の視点
64 内部収益率法IRRを使いこなしていますか? 最もスマートな比較方法
65 これを知らなきゃ世界と戦えない! エクセルならIRRの計算は簡単
66 例えばエアコンをIoTで提供すると何が起こるか? IoTの会計、コストと売価の新戦略
67 目標なければ進歩なし! 研究開発費も野放しにしない 設備投資プロジェクトと同様にできるヒト・モノ・カネの管理
68 自動化投資という巨大リスク 自動化を推進するなら管理会計を駆使して慎重に
69 製造業を目指すのか? 投資業を目指すのか? もし投資業を目指すなら、会計リテラシーは必須
70 P/Lでキャッシュフロー経営をする方法 減価償却費を考慮しないキャッシュフロー、考慮するP/L
コラム④ 王子経営研究会

Ⅴ 新しいビジネスモデル編
71 株主利益ゼロは損益分岐点ではなかった! これでは株価も上がらない…
72 今はどうやって運転? 粉飾よりもはるかに深刻 どう見せるかは大人の世界、でも自分にも見えなかったら
73 目指すのは利益か? 付加価値か? 行き止まりのコストダウン、付加価値なら青天井
74 どの扇風機が好きですか? それなのに、全員がコストダウンと答えた
75 IoTがやってきた! さて売価はどうする? 新しい勝負所はどこなのか?
76 付加価値経営、目標は全ての関係者のWIN-WIN 付加価値は、社会の支持のバロメータ
77 日はまた昇る! 新しい製造業を支える八つのキーワード 未来工場のヒント。製造業から創造業へ、ルールは変わった!

そろそろ、前へ

はじめに

目をつぶって運転する車

誰も理由が説明できなかった!

 「在庫は罪子(ざいこ)、罪子減らしは待ったなし!」
 そんなタイトルのセミナーに参加しました。会場は満席で、参加者のみなさんは熱心にメモを取っています。誰もが本当に真剣です。しかし不思議と熱気のようなものは感じられません。その奇妙なギャップに疑問を感じた私は、周囲の方に少し意地悪な質問をしてみました。
 「大変にお恥ずかしいのですがぜひご教示をください。なぜ私達は在庫を減らさなければならないのでしょうか? 私には理由がよくわからないのです。」
 「はあ… それは何と言っても、在庫は罪子ですから…」
 誰もそれ以上は答えられません。そこで私は講師の方にお伺いをしました。
 「本日はありがとうございました。ところで…恥を忍んでお伺いをしますが、なぜ私達は在庫を減らさなければならないのでしょうか? 私には理由がわかりません。」
 「え? 何ですって? 決まっているじゃあないですか! なんたってぇ…在庫は罪子ですから。」
 今さら、どうしてそんなことを聞くのかという感じでしたが、結局のところ、誰もきちんと答えられなかったのです。全員でやっている活動の目的を誰も説明できない???
 いよいよ疑問を感じて調べると、
 「在庫はお金の塊だ。在庫を寝かすことはお金を寝かすこと。だから在庫は罪子!」
 「値引きにつられて無駄な在庫を抱えるのは言語道断!」
 そんな説明文を見つけました。お金を寝かして問題になるなら、それは金利のムダに違いありません。それなら在庫の金利はどうやったら評価できるのか? 利率は何%を使えばよいのか? 例えば10%の値引きを提案され、利率は5%だったら値引きを受けるべきなのか? 受けるべきではないのか? そういえば…自分の会社の在庫金利って何%なのだろうか? 今まで一度も聞いたことがなかった気がする…。
 こうした奇妙な話が、昨今のモノづくりの現場にはあふれています。如何でしょう?
 本当に、これで世界と戦えますか? 厳しい競争を生き残れるのでしょうか?
 「会社は存亡の危機にある。コストハーフを必達せよ! 日本の技術者に不可能はない!」
 「了解いたしました! ところで…コストって何でしたっけ?」
 「そんなことは自分の頭で考えろ! コストはコストに決まっている!」
 「当社も自動化率100%の無人工場を目指す! 未来工場の先取りだ! この絵を見てみろ、すばらしい工場だろ?」
 「は、はい! でも…自動化をするとずいぶんお金もかかりそうです。コストは下がるでしょうか? 上がるでしょうか? どのくらいお金をかけてよいのでしょうか? 未来工場って、一体何を目指すものなのでしょう?」
 「決まっているだろ! 未来工場は未来を目指す工場だ。だから未来工場というのだ!」
 「はあ…」
 まるで冗談話のようですが…これがモノづくりの現場で交わされている上司と部下の実際の会話です。コストダウンに取り組む方々がコストの内訳さえ知らないという不思議な現象が起きています。技術力はあるはずなのに勝てなくなった日本の製造業…。
 今、日本のモノづくりには決定的に何かが足りません。

さて、簿記でも勉強してみようか?

 この本は、会計を主題とする本ですが、単なる数値処理の紹介本ではありません。かつて日本のモノづくりはジャパン・アズ・No.1と称えられ、活気に満ちていました。「モノづくりの国、日本」「技術の国、日本」「カイゼンの国、日本」です。しかしそれから30年… 日本のGDPは伸び悩み、今日の国内製造業には総じて元気がありません。一体そこにはどんな原因があり、私達はこれから何をしなければならないのでしょうか?
 会計の視点からは「何をしなさい」ということは言えません。しかしながら「今、進んでいる道は正しいのか?」「日本のモノづくりがどこで道を誤ってしまったのか?」は見えてきます。そして、これからの国内製造業が力強く生き残るためのヒントを得ることができます。私達はぜひとも会計を学ばなければなりません。
 ところが… 残念ながら従来の会計は面白くありませんでした!
 会計を学ぼうと志した勇気ある方々は最初に簿記に取り組むのではないかと思います。簿記が会計の基本であることは揺るがしがたい事実です。しかしそこに待っているのは無味乾燥な知識の羅列と暗記、暗記、暗記… 多くの方が道半ばで挫折します。役に立つはずの会計を学んでなぜ全く面白くないのか? ワクワクしないのは何故なのか? それは必ずしも私達の努力不足の故ではありません。恐らくそれは、今日の普通の会計(財務会計)が時代のニーズに合っていない故なのです。実は、今日の会計(財務会計)は100年前にデザインされたものでした。100年前の時代の課題を解決するためにこそ100年前の会計が役に立ったのです。しかし今日、事業環境は全く変わってしまいました。それにも拘らずいつまでも古い会計を使い続けていることが、経営の思考を縛り、ビジネスモデルを時代遅れなものにし、パラダイムシフトを妨げているようです。どうやら新しい会計(管理会計)が必要です。
 会計だけではありません。実は日頃、私達が使っているお馴染みのモノづくりのセオリーも、今から100年~60年ほど前に産み落とされたものです。それはパソコンどころか電卓すら存在しなかった時代で、全てのマネージメントは紙と鉛筆とそろばんで行われていました。当時の世界は果てしなく広く、作れば必ず売れる時代でもありました。そんな時代の事業環境に合わせてデザインされた会計やセオリーは今日も日本のモノづくりを支える大切なものではありますが、これからもそれだけで戦い続けることはできません。
 本テキストの意図は、新しい管理会計のあるべき姿を紹介することであり、財務会計や伝統的なモノづくりのセオリーの欠点を並べ立てることではありません。しかし今改めて原点に立ち返り、100年前の会計や60年前のモノづくりのセオリーの限界を明らかにし、活かすべきものはしっかりと活かし、進化させるべきものは力強く進化させていかなければならないだろうとは考えています。
 「ムダを削れ!」
 「利益を出せ!」
 では利益とは何なのか? ムダはどのように定義すればよいのか? それを知らずして正しい方向に向かって頑張ることはできません。気合は大切なものですが、それだけで世界と戦えるものでもありません。ぜひ会計で戦いましょう。様々な価値観や方法論の森の中で、会計で考えることがいちばんわかりやすく合理的です。なぜなら製造業に従事する私達は、会社という組織の中に在って、常に会計で課題を設定され、会計で成績を評価されている
からです。知らず知らずのうちに、会計の形が企業人の行動を決めています。

IoT時代の新しい経営ツール

 100年前にデザインされた会計と60年前にデザインされたもの作りのセオリー、それらはコンピュータもインターネットもなかった時代に産み落とされた経営ツールでした。しかし今日では優れた情報システムがたくさんあります。新しい潮流に乗って新興企業や中国やインドなどの新しい国々が次々に台頭してきています。アマゾンの設立は1994年、グーグルの設立は1998年です。中国のGDPが日本を抜き去ったのは2009年、今や日本の3倍にも迫ろうかという勢いです。その一方で、60年前の古いセオリーと成功体験に縛られた日本の乗り遅れ感は否めません。さらに、現在急速に到来しつつあるIoTの時代は、日本のモノ作りのセオリーと会計を今以上に陳腐化してしまうでしょう。どうしても新しい経営ツールが必要です。
 IoTの時代に生き残る新しい経営ツールの三種の神器は、①サプライチェーン全体のコスト管理、②ホワイトカラーの生産性管理、③設備投資プロジェクトや研究開発プロジェクトの管理、に関わる三つの会計リテラシーです。そこで本テキストでは、第Ⅰ部で製造業の管理会計の概要を紹介した上で、第Ⅱ部でコストの管理(在庫管理を含みます)、第Ⅲ部で生産性の管理、第Ⅳ部でプロジェクトの管理(正味現在価値や内部収益率など)について紹介します。
 具体的な場面で管理会計と財務会計の比較をしながら、財務会計が如何に重大な限界に直面しているかを示しつつ、管理会計のあるべき形を御理解いただける構成としました。ポイントは変動費と固定費の分離の徹底です。二つの会計を比較することで知識の羅列はメリハリある立体的な理解へと生まれ変わり、会計の怖さ、会計の面白さ、会計の秘めている可能性を感じていただけるものと確信しております。

日本の底力を世界に示そう!

 繰り返される財務会計の不祥事に胸が痛みます。複雑な経理処理を経て実態をありのままには示さない数値が外部に公表されているだけではなく、恐らくは会社内部でも正しい会計数値が把握されていないらしいことの傍証がたくさんあるからです。コストの全体像や損益分岐点が見えない奇妙な製造業のP/L、このP/Lでは事業活動が生み出す付加価値が増えているのか減っているのかが見えません。今のまま頑張って良いのか悪いのかも判断できません。近年の原価構成の大きな変化が全く認識されずに行われている昔ながらのカイゼン活動、コストダウンを推進する担当者がコストの内訳を知らない現場、ゼロ在庫を巡る奇妙な騒動、内部留保がタダだと思い込んだ担当者の誤解…。事業活動が目標とすべき資本コスト(WACC)を管理職の方々がきちんと認識している現場がどれだけあるでしょうか。近年の製造業は投資業の様相を呈しつつありますが設備投資プロジェクトはどのように計画され意思決定されるべきなのか? 研究開発や生産技術の方々はエクセルのIRR関数を使ったことがあるでしょうか… これでは目をつぶって車を運転しているようなものです。このままIoTの時代に突入したら、どのように原価を定義し管理すればよいでしょう? 誰にも会計的真実が見えない会社をどう経営すればよいのでしょうか?
 否、もし経営上の課題がはっきり見え、それにきちんと手当てできる管理会計があったなら、私達は膨大な力を発揮できるに違いありません。今までも私達は幾多の困難を乗り越えてきましたし、きっとこれからも乗り越えていくことができます。日本のモノづくりの底力は、まだまだこんなもんじゃありません!
 財務会計が間違っているという訳ではありません。しかしながら財務会計は様々な利害関係者の妥協の産物であり、事業の成果をなるべくキレイに見ていただくという使命を負った会計です。それは残念ながら、経営上の課題を明らかにし、適切に手当てしていくためにデザインされたものではありません。見かけを良くすることと、実際を良くすることは全く別なことです。しかし、実際(管理会計)が良くなれば見かけ(財務会計)も必ず良くなります。会社という車を運転していくためにはプライベートな会計(管理会計)がどうしても必要です。それは公的な会計(財務会計)と車の両輪をなすものであり、どちらが欠けても私達は前に進むことができないのです。
 古い会計と古いモノづくりのセオリーの賞味期限はとうの昔に切れました。多くの製造業が目標を見失っています。悲しい事件が続いています。しかし、ひとたび進むべき方向をはっきり見極めることができたなら、私達は膨大な力を発揮することができるでしょう。ぜひ本書で、今の日本のモノづくりに元気がなくなってしまった理由、そしてその処方箋を知っていただければと思います。執筆者一同、国内製造業と日本経済が力強く復活し、一日も早くその輝きを取り戻すことを心から願っております。

2017年7月

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