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中小企業がIoTをやってみた
試行錯誤で獲得したIoTの導入ノウハウ

定価(税込)  2,160円

編著
編著
サイズ A5判
ページ数 198頁
ISBNコード 978-4-526-07744-9
コード C3034
発行月 2017年09月
ジャンル 経営 ビジネス

内容

日刊工業新聞社【ニュースイッチ】にて特集記事を掲載中!
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IoTは、中小企業の経営者にとって未経験の新しいシステムであり、自社が果たして使いこなせるのか、など不安は尽きない。本書は、岩本氏が主宰し2016年4月から開催してきた研究会で検討してきた中小企業のIoT導入の軌跡と、そこからみえた課題などを紹介する。

岩本 晃一  著者プロフィール

(いわもと こういち)
独立行政法人経済産業研究所 上席研究員
略歴:1958年香川県生まれ、京都大学卒、京都大学大学院(電子工学)修了後、1983年通商産業省入省、在上海日本国総領事館領事、産業技術総合研究所つくばセンター次長、内閣官房内閣参事官等の後、2015年11月から現職。 2014年から一橋大学ICSのMBAプログラムにてゲスト・レクチャラー。
主な著書:『洋上風力発電』日刊工業新聞社2013、『インダストリー4.0』日刊工業新聞社2015、『ビジネスパーソンのための人工知能』東洋経済新報社2016(共著者;松尾豊(東京大学教授)他)

井上 雄介  著者プロフィール

(いのうえ ゆうすけ)
独立行政法人経済産業研究所リサーチ・アシスタント/東京大学大学院経済学研究科博士課程在籍


【執筆者一覧】五十音順
角本 喜紀(かくもと よしき)
株式会社 日立製作所 産業・流通ビジネスユニット 企画本部
略歴:1989年日立製作所入社。研究開発本部にてCAD/CAE、鉄道運行管理、スマートグリッドなどの研究開発業務に従事。現在、研究開発企画業務に従事。博士(情報学)。

木本 裕司(きもと ひろし)
トーヨーカネツソリューションズ株式会社 エグセクティブ・フェロー
略歴:東北大学工学部通信工学科卒業後、通商産業省に入省。大臣官房情報システム厚生課長、内閣情報セキュリティーセンター参事官等の後、2011年7月より3年間ジェトロ・ベルリン所長としてドイツのインダストリー4.0の動向などを調査。2015年10月、トーヨーカネツ株式会社に入社。2017年7月より現職。

久保 智彰(くぼ ともあき)
ロボット革命イニシアティブ協議会 事務局長

高鹿 初子(こうろく はつこ)
富士通株式会社ものづくりビジネスセンター、中小企業診断士
ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)IoTによる製造ビジネス変革WG中堅・中小企業AGメンバー
インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)クロスインダストリ委員長

澤谷 由里子(さわたに ゆりこ)
東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科アントレプレナー専攻教授
略歴:東京工業大学大学院修了。東京大学大学院総合文化研究科Ph.D(学術博士)。日本アイ・ビー・エム株式会社入社、情報技術の研究開発および戦略に携わり、2005年からサービスサイエンス研究に従事。2013年4月早稲田大学教授を経て、現職。経済産業省 産業構造審議会 商務流通情報分科会「情報経済小委員会」、「攻めのIT投資評価指標策定委員会」委員等。INFORMS Service Science Editorial Board、サービス学会理事、研究・イノベーション学会理事、早稲田大学大学院経営管理研究科非常勤講師、ナノ・ライフ創新研究機構客員上級研究員等を兼任。専門分野は、サービスサイエンス、サービスデザイン、R&Dマネシジメント、技術経営。

波多野 文(はたの あや)
独立行政法人経済産業研究所リサーチアシスタント/高知工科大学客員研究員
略歴:奈良女子大学文学部卒。名古屋大学大学院環境学研究科にて博士(心理学)取得。民間企業の研究員やモナッシュ大学マレーシア校の客員研究員を経て現職。

藤田 英司(ふじた えいじ)
三菱電機FA産業機器株式会社 ホイスト営業部 東日本支店 支店長
三菱電機株式会社 FAシステム事業本部e-F@ctory戦略プロジェクトグループ専任(2016年12月31日まで)

堀水 修(ほりみず おさむ)
株式会社日立製作所 IoT推進本部 担当本部長・(一社)IVI 理事
略歴:
1988年4月 ㈱日立製作所入社 本社生産技術部配属
1992年9月 カーネギーメロン大学 ロボティクスインスティテュート 客員研究員
2005年4月 日立中国有限公司 モノづくり技術センタ センタ長
2013年10月 ㈱日立製作所 Smart Transformation強化本部 サブプロジェクトリーダ
2014年4月 ㈱日立製作所 モノづくり戦略本部 担当本部長
2017年4月 ㈱日立製作所 IoT推進本部 担当本部長 現在に至る

目次

目 次

はじめに

第1章 中小企業へのIoT導入の難しさ
1-1 中小企業が持つ6つのハードル
ハードル1 平行線の議論から始めないといけない
ハードル2 自分の会社が抱える具体的な「課題」がわからない
ハードル3 現場の抵抗を抑えないといけない
ハードル4 社長自身が決めないといけない
ハードル5 労働集約的な生産活動を前提としないといけない
ハードル6 システムエンジニアがいない  
1-2 中堅・中小企業へのIoT導入成功事例に見る共通要因
1-2-1 三浦工業
1-2-2 キュービーネット株式会社
1-2-3 旭酒造 獺祭

第2章 中小企業がIoTをやってみた
2-1 IoTで経営課題に挑戦 ―株式会社日東電機製作所
2-1-1 IoT導入のきっかけ
2-1-2 IoT導入の過程
2-1-3 導入の成果・結果
2-2 サービス向上に向けたIoT化への取組み ―株式会社東京電機
2-2-1 IoT導入のきっかけ
2-2-2 IoT導入の過程
2-2-3 IoT化による課題へのアプローチ
2-2-4 導入の成果・結果
2-3 IoTはきっかけにすぎない ―株式会社正田製作所
2-3-1 IoT導入のきっかけ
2-3-2 IoT導入の過程と成果
2-3-3 IoTの導入に向けて
2-4 多品種少量生産の小規模工場にとってIoTとは?
―株式会社ダイイチ・ファブ・テック
2-4-1 IoT導入のきっかけ
2-4-2 IoT導入の過程と成果
2-4-3 IoTを実際に導入してみて

第3章 IoTでここまでできる
3-1 中小企業でIoTを導入するために
3-1-1 IoTを知る
3-1-2 IoTでできること
3-1-3 IoTの取組み方
3-2 画像解析技術の応用
3-2-1 中堅・中小企業の状況
3-2-2 IoT技術の具体事例
3-2-3 IoT導入に向けた課題
3-2-4 AIの可能性
3-2-5 おわりに
3-3 製造業におけるIoT活用の必要性
3-3-1 現状分析
3-3-2 中小企業における課題
3-3-3 事例紹介
3-3-4 ITやIoTを導入するためには

第4章 中小企業がIoTを導入・活用するために
4-1 中小企業への導入を促す対策
4-1-1 研究会の議論を通じて浮かび上がってきた課題
4-1-2 モデル4社が導入を表明したIoTシステム
4-1-3 研究会を振り返って;政策提言
4-1-4 企業に円滑なIoT導入を促す中長期的対策
4-1-5 大きく落ちた日本の製造業の実力
4-2 IoT導入におけるデザインの重要性
4-2-1 IoT開発モデル
4-2-2 IoTによるインパクト
4-2-3 IoT時代のデザイン
4-3 つながる工場
4-3-1 世界のトレンドと日本の対応
4-3-2 デジタル時代のつながる現場とは
4-3-3 工場間がつながることで得られるメリットと課題
4-3-4 つながる中小企業に向けて動き出そう
4-4 ミッテルシュタント4.0
―ドイツのインダストリー4.0政策と中小企業
4-4-1 CeBIT2017にて
4-4-2 インダストリー4.0
4-4-3 中小企業4.0と労働4,0
4-4-4 インダストリー4.0の変容と日独協力
4-4-5 RIETI研究会から見た日本のミッテルシュタント4.0
4-5 中堅・中小製造企業支援
―ロボット革命イニシアティブ協議会の活動
4-5-1 G20 Digital Manufacturing / CeBitの概要
4-5-2 第4次産業革命に挑戦する中堅・中小製造企業支援

おわりに
編著者紹介・執筆者一覧

はじめに

はじめに

第4次産業革命では、現象の本質を理解することが重要
 最近の新聞には、「モノのインターネット(IoT ; Internet of Things)」、「ビッグデータ(Big Data)」、「人工知能(AI ; Artificial Intelligence)」という言葉が毎日のように踊っている。いまや世の中は一種のブームの状態にあるといえよう。だが、読者の皆様は、これらの言葉が一体、何を意味しているか、正確に理解した上で新聞記事を読んでいるのだろうか。
 たまに、これらの言葉の定義は何かと聞かれるが、筆者は、これらの言葉の定義を議論することは、ほとんど意味がないと思っている。なぜなら、議論しても結論にたどり着くことがないからだ。例えば、「ビッグデータ(Big Data)」といっても、何が「Big」で、何が「Small」なのか、その基準はどこにあるのか、わからない。また、「モノのインターネット(IoT ; Internet of Things)」という言葉は、大きな誤解を生んでいる。すなわち、IoTを導入すると、インターネットに接続しなければならず、外部からのウイルスの侵入やハッカー攻撃に晒されると思い込み、そうした誤解のため、IoT導入の検討を躊躇する人が多いと感じている。だが、実際はそうではない。
 工場の内部にIoTを導入する場合、工場のなかだけで閉じたネットワークで十分であり、必要もないのにあえてウイルスの侵入やハッカー攻撃に晒されるインターネットに接続する必要はどこにもない。IoTの所有者の意に反して、無理矢理インターネットに接続させようという強制力はどこにも存在しない。嫌なら接続しなければいいだけである。一部では、IoTとは、親会社や取引先と接続することであり、自分の会社の内部情報が相手方にばれてしまうと信じ込んでいる人もいる。
 もし仮に外部と接続する必要性があったとしても、大手通信会社が販売しているIoT専用回線に接続すればよい。この場合もまた、ウイルスの侵入やハッカー攻撃に晒されるインターネットに無理矢理接続する必要はない。会社や社員の安全を守るために、資金を投じて警備員を雇って治安を確保するのと同様、ネットワークの安全を守るためには、資金を投じる必要がある。先日、「無料のソフトウエアをパソコンにダウンロードしてインターネットに接続したが、セキュリティは大丈夫でしょうか」と聞かれたことがあったが、これなどは「警備員を雇わなくても会社や社員の安全は大丈夫でしょうか」といっているようなものだ。
 人工知能AIに至っては、話をする人によって、イメージする対象がすべて違う。かつて世の中にコンピュータという機械が生まれ、「データ処理(Data Processing)」する機械であると説明されてきた。そもそも「データ処理」自体が、オリジナル・データに何らかの付加価値を付ける作業であり、現代風にいえば、人工知能である。その付加価値が、一体、どのくらい大きければ「人工知能」と呼ぶのか、そこの基準は何もない。最近の新聞に載っている「人工知能」は、これまで「最適制御」と呼ばれていたものと一体どこがどう違うのか、よくわからない。
 一応、「人工知能」は、機械学習、パターン認識、推論機能、という3つの機能を持ったプログラム(アプリケーション・ソフトウエア)であるといわれてきた。最近、コンピュータの処理速度が速くなり、かつ記憶容量が大きくなったお陰で、機械学習は「深層学習、ディープラーニング(Deep Learning)」と呼ばれるようになった。2016年、深層学習のお陰で人工知能が「猫」を認識できるようになった、とAIエンジニアは大騒ぎをした。だが、同年、米国自動車メーカーのテスラ・モーターズが自動運転の実験中、人工知能が、前に駐車してあった白のトレーラを、青空と判断して、トレーラに突っ込み、同乗者が死亡する事件があった。筆者は、人工知能の研究者に会うたびに、自動運転の次に来る商業化・実用化される技術は何か、と聞いているが、誰も答えてくれない。まだ人工知能の技術レベルもこの程度であることを、読者の皆様は、知っておいてほしい。
 日本では、最近まで、ユビキタス、IT(Information technology)、 ICT(Information and Communication Technology )という言葉が使われていたが、これらと、IoT、ビッグデータ、AIとの違いを明確に説明できる人はまずいないだろう。それが示すように、IoT、ビッグデータ、AI、ユビキタス、IT、ICTという言葉を正確に定義しようとしても、それ自体が曖昧なのである。だから、筆者は、これらの言葉の定義を議論することは、生産的ではないと思っている。
 ところで、欧米の専門家は、IoT、ビッグデータ、AI、ユビキタス、 IT、 ICTのように縦割りに分断化するような言葉は、ほとんど用いない。彼らが使用する言葉は、デジタル化(Digitalization)、コンピュータ化(Computerization)、ネットワーク化(Networking)である。彼らにとっては、IoTもAIもITも関係ないのである。彼らの目に映っている時代の大きな技術変化とは、「アナログをデジタルに置き換えていくこと」であり、人間の活動のなかに「コンピュータを導入すること」であり、別々に稼働していた機械を「ネットワークで接続すること」なのである。筆者には、こちらの表現こそが、いま目の前で現実に起きている物事の変化を正確に捉えていると思う。ここにこそ、物事の本質がある。
 先述したように、IoT、ビッグデータ、AI、 IT、 ICTという曖昧な言葉に惑わされて、自分の会社に導入すべきものの本質を見失った中小企業の経営者を見かけたことがあるが、物事の本質を見極めて欲しいと考えている。

なぜ「第4次産業革命」に世界中が騒いでいるのか
 時代の大きな技術変化の本質が、「デジタル化、コンピュータ化、ネットワーク化」であるならば、この世にコンピュータが誕生して以来、その本質は何も変わっていない。にもかかわらず、なぜ、いま、世界中の人々が、「第4次産業革命だ!」と大騒ぎをしているのだろうか。それを説明するには、ムーアの法則を理解する必要がある。
 ムーアの法則とは、インテル創設者の一人であるゴードン・ムーアが発表した経験則であり、この法則が意味するのは「コンピュータの処理速度や蓄積容量は、時代とともに、累乗的に増加していく」というものである。確かに、過去、ムーアの法則は事実と合っていた。現在のスマートフォンは、筆者が学生時代、大学の大型計算機センターで使っていたスーパーコンピュータよりも処理速度が速く、蓄積容量が大きい。筆者の学生時代、一体誰が将来、手のひらに乗るわずか数万円のスーパーコンピュータが出現するなどと想像しただろうか。
 そのムーアの法則に従えば、1995年のインターネット元年から今日までの約20年間に起きた変化の何倍もの規模の変化が、向こう20年間程度で起きると予想されている。すなわち、いま神戸にあるスーパーコンピュータ「京」が、近い将来、手のひらサイズになり、数万円で買えるようになる可能性がある。そうすると、私たちの生活やビジネスは劇的に変わるだろう。
 これまでの約20年間で、事務分野ではパソコンやタブレットが、個人生活分野では携帯電話やスマートフォンなどが出現し、これまで出来なかったことが新たに出来るようになり、仕事の仕方やライフスタイルが劇的に変化するという歴史を私たちは体験してきた。十数年前には存在すらしていなかったスマートフォンを、人々は今では当たり前のように使いこなし、スマートフォンは私たちの日々の生活に深く浸透している。
 また、多くの新しいビジネスや企業が生まれ、膨大な雇用を創出してきた。例えば、膨大なアプリ、ネット金融、ネット販売、SNS、検索エンジン、音楽配信など新しいビジネスを生み出し、グーグル、ヤフー、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフト、楽天、ソフトバンクなどの様々なベンチャーが急成長し、若者が活き活きと働く多くの職場を創出し、膨大な新規雇用を生み出してきた。だが、こうした現象は、第4次産業革命時代のほんの入口でしかない。
 いま正に離陸しようとしている第4次産業革命では、今後、あらゆる分野において、「デジタル化、コンピュータ化、ネットワーク化」が進み、かつ知能を持つことで、これまで出来なかったことが新しく出来るようになり、さらに多くの新しいビジネス・企業が生まれ、雇用が生まれることが予想されている。十数年前に存在すらしていなかったスマートフォンが、いまや生活必需品になっているように、いまどこにも存在していない機器が、5年後には私たちの生活の一部になっている可能性がある。すなわち、そこに大きな市場の予感がするのである。
 だからこそ、世界中の人々が、商機(いや、勝機かも)を得ようと必死になっている。そうした大きな変革の時代にあっては、時代の流れに逆らうのではなく、時代よりもさらに1歩先を走ることが、ビジネスの成功の秘訣である。

大きな商機を逃さぬよう目標を定めることが大切
 ところで、IBM研究所は、同社の製品を納入している世界の大企業のCEOを対象にした1〜2年おきの定期調査を実施している。最近の調査は、Redefining Boundaries, IBM Institute for Business Value, November 2015 である(調査概要;70ヶ国以上、21産業分野、5,247人のCxOsから回答、個別面談も実施)。その調査のなかで、今後、企業に最も大きく影響を与える外部要因を質問している項目がある。それに対して、世界のCEOは、営業でも財務でもどれでもなく、「技術」であると回答している。今後、企業に最も大きく影響を与える外部要因の第1位が、「技術」となったのは、2012年調査が初であるが、その後、2013年調査、2015年調査と継続的に第1位を維持している。
 それでは、その「技術」とは具体的に何か。残念ながら、IBM研究所の調査は、「技術」の具体的な中身までは明らかにしていない。しかし日本では、「IoT」と「人口知能」の2つの「技術」が今後の企業競争の勝敗を決すると多くの経営者がみているのである。
 また産業構造審議会新産業構造部会資料によれば、「2013年〜2022年でIoTが創出する分野別の経済価値(世界市場)」(注)は、製造業分野が最も大きく3.9兆ドル、第2位が流通・小売・物流分野で2.3兆ドル、金融分野が1.3兆ドル、医療健康分野が1.0兆ドルなどと続いている。
 2017年2月、「Digital Transformation;How information and communication technology is fundamentally changing incumbent industries」というレポートがドイツから発表された。この調査は、ドイツ連邦政府経済エネルギー省がミュンヘン大学とミュンヘン工科大学に委託して両大学が共同実施したものである。実際のインタビューは、シーメンスの各国法人がサポートした。ドイツ、EU、米国、日本、中国、韓国の199人を対象に約2年間かけてインタビューしたものである。筆者は、2016年11月、本調査の実施者であるミュンヘン大学アーノルド・ピコー教授を訪問した際、同教授から、報告書の結論について、次のように説明を受けた。すなわち、「報告書は、世界の新しいデジタルビジネスが一体どの方向に向かっているかを調べたものである。企業はデジタル技術を、企業と顧客をつなぐ接続部、すなわち従来と比べ、さらに新たな接続の機会を増やすという形で使おうとしている。言い換えると、顧客が一体何をもっと欲しているか、という情報を取り、さらに一層顧客の要望にカスタマイズして提供することにデジタル技術を使おうとしている。ということは、今後は、企業がいかに顧客にカスタマイズしたものを提供できるか、というところで企業の勝敗が決まっていく、ということに要約される」とのことであった。本書の読者は、時代の流れがこのような方向に向かって流れていることを知っていただきたい。

経済産業研究所「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会」
 このように大きな市場の予感がする第4次産業革命であるため、今日、新聞に、毎日のように、IoTに関する記事が載るほど、多くの企業が夢中になっている。だが、残念ながら、それらはほぼ例外なく大企業である。日本の中小企業の現場に新たに本格的なIoTを全面的に導入したという事例はほとんど聞かない。
 全国各地で中小企業支援を業務としている方々は、口々に、「なぜ中小企業にIoT導入が進まないのか、わからない」「一体、どうすれば中小企業はIoTを導入するのか」という。だが、その答えはシンプルである。すなわち、その理由は、「よくわからない」の一言に尽きる。「よくわからない」には2通りの意味があり、1つ目は、「技術が難しくてよくわからない」、2つ目は、「自分の会社にどのようなメリットがあるのかよくわからない」という意味である。
 その壁を乗り越えないと、日本におけるIoTは、全企業数の99.7%を占める中小企業の生産性を高めることなく終わってしまう。IoTによる恩恵は、全国津々浦々にまで広がらなければならない。
 そこで、筆者は、経済産業研究所において、自身が主宰する「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会」(以下、IoT研究会)を2016年4月から開催してきた。モデル企業としては、初年度はまず中小企業の基本形である「製造業の工場のなか」をIoTの対象とし、日東電機製作所、正田製作所、ダイイチ・ファブ・テック、東京電機に参加を願った。4社とも機械系の製造業であるが、うち2社は最終製品を作っているBtoCの形態であり、他の2社は企業に納入する部品を作っているBtoBの形態である。BtoCとBtoBでは、IoT導入の形態や分野が異なっている可能性があるため、このようにバランスをとった。

研究会メンバー;
〈モデルケースとなる中堅・中小企業〉
青木和延 株式会社日東電機製作所 取締役会長
正田勝啓 株式会社正田製作所 代表取締役会長
金森良充 株式会社ダイイチ・ファブ・テック 代表取締役 
鈴木清生 株式会社東京電機 技術グループ新エネ開発チーム課長
〈IoTシステム提供側〉
高鹿初子 富士通株式会社 ものづくりビジネスセンターものづくりプロモーション企画部
角本喜紀 株式会社日立製作所 産業・流通ビジネスユニット企画本部研究開発技術部長
藤田英司 三菱電機株式会社 FAシステム事業本部 e-F@ctory戦略プロジェクトグループ専任(2016年12月まで)
吉本康浩  三菱電機株式会社 FAシステム事業本部 FAソリューション事業推進部 FAソリューションシステム部 技術企画グループ 主席技師長(2017年1月から)
〈識者〉
澤谷由里子 東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科教授
木本裕司 トーヨーカネツソリューションズ株式会社 エグセクティブ・フェロー(前ジェトロ・ベルリン所長)
久保智彰 ロボット革命イニシアティブ協議会事務局長 
山路薫 日刊工業新聞社 茨城支局長・茨城産業人クラブ事務局長
※所属・役職は2017年8月1日のもの

 当研究会で採用した手法は、「モデル企業のケーススタデイの積み上げ方式」である。
 これまで、筆者の経験上、提示された他社の「導入成功事例」を見るだけで、IoT投資を決断する中小企業の経営者は、まずいない。なぜなら、他社の最終的な完成形だけ見せられても、「あの企業は、あのやり方でよかったかもしれない。だが、自分の会社は違う」「あの会社は、スムーズにIoT導入を実現できたはずはない。途中で多くの壁にぶち当たり、紆余曲折があったに違いない。IoTを導入しようとすれば、自分の会社にも、どのような困難が待ち構えているかわからない」「あの会社は壁を乗り越えたかもしれないが、自分の会社は果たして壁を乗り越えられるかどうかわからない」と不安を持ったとたんに、一歩踏み出すことができなくなる。得体の知れないものを導入して、自分の会社がめちゃくちゃになったら困るからだ。
 筆者が地方で中小企業向け講演をしても、「ああ、面白かった」「本日は大変面白い話しを聞かせていただき、ありがとうございました」で終わってしまい、講演をきっかけに具体的な行動を起こした、という例は聞いたことがない。

「研究会」での試行錯誤のノウハウを公開
 古くなった設備の更新や同じ設備の増設などは、設備導入後の状況を理解できるため、導入が進む。
 だが、IoTは、中小企業の社長にとって、未経験の新しいシステムであり、自社が使いこなせるのか、もし使いこなせなかったらどうなるのか、技術をきちんとコントロールできるのか、果たして投資を回収できるのか、現場は大丈夫か、などなど、不安は尽きない。その不安を解消しない限り、中小企業の社長は、IoT投資を決断できない。
 そこで、研究会では、モデル企業を取り上げ、検討の途中経過のノウハウを「すべて公開」することで、全国の中小企業の社長に、自社の現実の問題として実感していただきたいと考えた。途中の検討経過とは、例えば、どのような困難が待ち受けていたか、その困難をどのように乗り越えたか、どのような検討が俎上に載ったか、検討の上、廃棄した投資案は何か、その理由は何か、最終的に社長が判断した投資の内容は何か、その理由は何か、投資対リターン(ROI:Return on Investment)(注)の数字はどうか、などである。
 本書は、こうした過去1年間の検討結果、得られたノウハウを、全国の中小企業の経営者、中小企業へのIoT導入を考えている企業の人、中小企業支援を業務として行っている全国都道府県の自治体、産業支援機関、公設試験研究機関(地方公共団体が設置した試験所や研究所)等に公開すべく、書籍として出版するものである。
 第2章は、研究会に参加したモデル4社に対するインタビューをまとめたもの、第3章は、IoTシステム提供企業からの助言、第4章は、研究会に参加した識者からの提言である。
 今年度は、日本に最も多い「機械系の製造業」を取り上げ、かつIoTの基本である「工場のなか」を対象とした。BtoBのビジネスを行っている企業を2社、BtoCのビジネスを行っている企業を2社である。まずは、日本の産業の基礎の部分を対象とすることが重要と考えた。だが2年度目(2017年度)は、「機械系製造業の工場のなか」以外なども取り上げ、ケーススタディとして積み重ねていきたい。

2017年9月
執筆者代表 岩本 晃一

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