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いま世界ではトヨタ生産方式がどのように進化しているのか!
取り残される日本のものづくり

定価(税込)  1,728円

著者
サイズ A5判
ページ数 224頁
ISBNコード 978-4-526-07722-7
コード C3034
発行月 2017年06月
ジャンル 生産管理

内容

「トヨタ生産方式」、そして「日本のものづくりの競争力」が国際的にどのように理解され、学ばれているかがわかる本。「海外のコンサルタントが指導するトヨタ生産方式は、結局上手くいかないことが多い。一体それは何が原因なのか」を皮切りに説き明かしていく。インダストリー4.0などの新しい世界潮流の中、「トヨタ生産方式」が世界でどのように研究され、導入されているかを、その誤解や変化、今後の取り組み方も含めてわかりやすく紹介する。

中野 冠  著者プロフィール

(なかの まさる)
博士(工学)
1978年 京都大学工学部数理工学科 卒業
1980年 京都大学大学院工学研究科数理工学専攻 修了
研究分野:オペレーションズリサーチ
1980年 株式会社豊田中央研究所入社
生産システム、サプライチェーンマネジメント、
マーケティング、業務改革方法論などを研究
1997年 名古屋工業大学工学研究科生産システム工学専攻 博了(在職)
学位論文:生産システム構築のための理論とツールに関する基礎研究
2008年 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授
現在に至る
研究分野:持続可能な社会とビジネスのためのシステムデザイン
2013年 スイス連邦工科大学 Department of Management, Technology and Economics客員教授
著書(共著):「経営工学のためのシステムズアプローチ」
「システムデザイン・マネジメントとは何か」
受賞:業務改革のための包括的方法論、生産システム評価手法で最優秀論文賞を3度受賞

目次

目 次

まえがき  

PartⅠ トヨタ生産方式は世界でどのように理解されているか?
 ~トヨタ生産方式とリーン生産方式はどのように異なるのか?
第1章 海外の大学でトヨタ生産方式はどのように教えられているか?  
第2章 トヨタ生産方式とリーン生産方式の違いとは?  
第3章 日産もホンダもトヨタ生産方式を採用しているか?  
第4章 海外におけるトヨタ生産方式の適用失敗は誤って学んだからなのか?  
第5章 海外のビジネスゲームで誤解される「かんばん」の意味とは?  

PartⅡ 世界はトヨタ生産方式から何を学んだのか?
 ~どのように取捨選択と拡張を行ったのか
第6章 欧米でリーンマネジメントとして拡張される「カイゼン」  
第7章 日本人だけが知らないバリューストリームマッピングとは?  
第8章 トヨタ生産方式からトヨタ車両開発方式への拡張  
第9章 在庫低減は何のために必要か?欧米が日本から学んだものとは?  
第10章 トヨタ生産方式から生まれたアジャイルマネジメント  

PartⅢ トヨタ生産方式とリーン生産方式はなぜ違うのか?
 ~ビジネスモデルと企業文化の違いを考える
第11章 欧米と日本のビジネスモデルの違い  
第12章 日本企業に向いたサイマルテイニアスエンジニアリング  
第13章 生産部門だけでは達成できないトヨタ生産方式  
第14章 有名なビジネスゲームの最適解は欧米型方式かトヨタ生産方式か?  
第15章 部分最適の「カイゼン」と全体最適マネジメント  

PartⅣ 日本は海外から何を学べるのか?
 ~取り残される日本のものづくり
第16章 日本企業の終身雇用制と長時間労働  
第17章 日本企業の海外工場は本当に利益を上げているか?  
第18章 自前主義によって日本は孤立するか?  
第19章 海外工学系大学におけるインテグレータ養成教育  
第20章 日本のものづくりの定説は正しいか?スイスから学ぶ  

あとがき  

はじめに

まえがき

世界で知られているトヨタ生産方式
 この本を手に取る人は、おそらくトヨタ生産方式という言葉を知っている人でしょう。もし知らなくてもトヨタ自動車で生産している方式のことだろうと想像がつくでしょう。トヨタ自動車は欧米の自動車会社に比べて後発でありながら、今やその品質を世界で高く評価されています。海外では、今日のトヨタ自動車の隆盛は、ひとえにトヨタ生産方式によるところが大きいと考える人がたくさんいます。
 また、この本を手に取る人は、リーン生産方式あるいは単にリーンという言葉を知っているかもしれません。リーン生産方式とは、アメリカが1980年代後半にトヨタ生産方式を学び、より欧米に即したやり方に発展させたものです。なお、リーンは「やせた」「贅肉の落ちている」という意味の英語です。従って、リーン生産方式とは、贅肉の落ちたすなわち筋肉質で無駄が少ない効率の良い生産方式という意味です。この生産方式を支えるコンセプト「リーンコンセプト」が組織マネジメントやイノベーション理論まで世界中で日々発展している考え方です。今日では、リーンマネジメント、リーンスタートアップなどリーンと名の付く理論は海外から日本に豊富に入ってきています。現在、欧米諸国ではこのリーン生産方式やリーンコンセプトが今も精力的に研究されていますが、日本の大学では、トヨタ生産方式の研究者はほとんどいなくなってしまいました。

世界で誤解されるトヨタ生産方式
 日本ではあまり行われないことですが、海外の企業において、生産システムを検討する場合、コンサルタントを活用することが一般的です。その中には、トヨタ生産方式を教える人々も多くいます。しかし、彼らの教えるトヨタ生産方式は、海外の企業では、上手くいかないことが多いようです。一体それは何が原因なのでしょうか。
 2015年9月に国際学会が東京で行われ、私はカールスルーエ応用科学大学(ドイツ)のクリストフ・ローサー教授とともにトヨタ生産方式・リーン生産方式のセッションを設けました。私たちが企画したセッションでは、欧州の研究者からトヨタ生産方式の失敗に関する研究発表がなされました。それら多くの失敗事例は、「無駄を失くすこと」を「コストカット」と同じと捉え、従業員を解雇するなど無理なマネジメントによるものでした。私の目から見て、それは誤解に溢れていました。失敗事例で行われていたトヨタ生産方式は、トヨタ自動車のめざすマネジメント方式ではなかったからです。海外で学ばれているトヨタ生産方式は間違っているのではないか?それが、私が本研究をスタートしたきっかけです。トヨタ生産方式は、リーン生産方式と名前を変えて拡張している一方、海外では誤解されることも多いということです。

本書の目的
 現在書店に行けば、多くのいわゆるトヨタ本が出回っています。そのなかで、この本はどういう位置づけになるのでしょうか?
 私は、株式会社豊田中央研究所というトヨタグループの基礎研究所に26年間努め、生産システム分野の研究・開発を行いました。また、トヨタ生産方式の重要な要素であるジャスト・イン・タイムを研究していた故大野勝久教授(京都大学、名古屋工業大学)のもとで博士の学位を取りました。その後、国際共同研究プログラムに参加したり、慶應義塾大学教員として研究活動をしたりする中で、欧米の大学や企業と共同研究を15年ほど行いました。
 本書では、これらの経験の中で得た知見から、世界の生産システム分野の研究者や企業実務者がトヨタ生産方式やリーンコンセプトをどのように理解しているか、それが各国の実社会や現場でどのような影響を及ぼしているか、我々も彼らから学ぶ点はないかを説明しようとするものです。また、トヨタ生産方式に関する理解の違いを紹介するだけではなく、なぜそういう違いが起こっているのかを、各国の教育やビジネス文化から起因する原因を私なりの解釈で、できるだけわかりやすく説明しようとするものです。昨今、日本の電機メーカーが海外の企業から買収されたことを例に出すまでもなく、日本のものづくり競争力の低下が懸念されています。私が2015年副実行委員長として携わった国際会議で、欧米韓が開くIoTワークショップに、日本の大学や企業が招待されず無視されるという事態が起こりました。本書は、このままでは、「日本のものづくりが世界から取り残されるのではないか」という危機感を共有し、日本が学び直すべきものづくりコンセプトの本質に迫りたい、という願いからも書かれています。
 もしあなたがトヨタ生産方式やリーン生産方式を知らなくても、基本的なことは説明しますのでご安心ください。もしあなたがトヨタ生産方式を知っていてリーン生産方式やリーンコンセプトを知らない場合は、本書によってその違いとその背景にある企業文化について知識を得ることができるでしょう。もしあなたが両方ご存知ならば、我が国のものづくり競争力を考える上での切り口を得ることができるでしょう。

本書の構成
 本書は四部構成です。PART Ⅰでは、「トヨタ生産方式とリーン生産方式について、何がどう違うのか?」について、国際会議などで実際に私が経験した事例を基に、説明します。ここで、注意していただきたいのは、私は、海外が日本の方式を誤解しているからだめだと言っているわけではありません。むしろ、海外がトヨタ生産方式をリーン生産方式として昇華しているのであれば、それを学び、なぜ違うのかを考え、さらに日本のものづくりの将来に活かしてほしいと思います。
 そこで、PART Ⅱでは、「海外はトヨタ生産方式をどのように取捨選択し、拡張したのか?」を説明します。海外の人は、トヨタ生産方式を学んで、どのように取捨選択を行い、どのように製品開発管理や変革管理やプロジェクト管理方式として拡張していったかを考えます。日本で生まれたトヨタ生産方式とそのコンセプトを取捨選択して発展してきたリーン生産方式およびリーンコンセプトを比較することによって、日本のものづくりの持つ強みと課題を明らかにしていきます。
 PART Ⅲでは、「トヨタ生産方式はなぜ誤解されるのか?」の原因について、日本と海外のものづくりに対するコンセプトの違いに注目して、私の考えを述べたいと思います。生産方式を超えて、ビジネスモデル、マネジメント方式、日本の企業文化的側面に拡張して話題が進んでいきます。この章で述べる内容を欧米の先生たちに話すと、とても興味深く聞いてくれて、ぜひ本を書いて世の中に貢献すべきだと言ってくれたり、一緒に議論してくれたりしました。これがこの本を書こうと思うきっかけになっています。
 PART Ⅳでは、日本は海外から何を学べるのかについて考えます。トヨタ生産方式は、効率の良い生産方式として、また従業員のマネジメントとして、海外から高い評価を得ています。しかし、日本人は長時間愚直に懸命に働いているにもかかわらず、今でも過労死による自殺が後を絶たないというように、ものづくり企業全体のビジネスにおいて必ずしも効率が良いとは思えません。私には、それは海外から軽蔑の目さえ向けられているように感じられます。そこで、トヨタ生産方式を超えて日本のものづくり競争力という観点から考えてみましょう。今後日本の人口が少なくなることを考えて、スイスなど人口増加が顕著でないヨーロッパの事例を取り上げました。大学教育の違いについても私の経験をお話しします。かつて世界一ともてはやされた日本のものづくりは、ある側面から見れば、世界から取り残されつつあるのではないでしょうか?
 PART Iはトヨタ生産方式を説明する内容が濃く、PART Ⅳに向かって徐々に我が国のものづくりの競争力に話題が移っていきます。もしあなたが、トヨタ生産方式やリーン生産方式そのものに興味があるのならば、PART Iの 第1章と第2章をまずじっくり読んだ後、好みの章を読み進められることをお勧めします。一方、もしあなたが、ものづくりよりもビジネスモデルや経営学の視点から日本と海外との違いを検討することに重きを置いているのであれば、PART Ⅳから読むことをお勧めします。その場合、章の順番を気にせず、例えば第20章から逆順に読むこともできます。
 本書を読み進めるうえで、少し留意いただきたい点があります。この本の内容は、あくまで私の個人的な意見だということです。また、厳密性を犠牲にしてわかりやすく書いたり、説明を省略した部分もあります。我が国でも多くのコンサルタントや通訳がトヨタ生産方式を、また、海外の多くのコンサルタントがリーンコンセプトを解説しており、必ずしも私と見解が同じでないかもしれません。トヨタ生産方式を実際に海外で導入されている方は、我が国と海外の生産方式について、もっと具体的な経験をされているでしょう。また、トヨタ自動車の生産システムは、消費者の嗜好変化とグローバル競争の中で日々進歩しています。私が豊田中央研究所から大学に移ったのは九年前ですから、その後の変化について見落としている可能性があります。本書の内容については、国内外の多くの方々と議論をしたつもりですが、もし理解不足の点があればすべて私の責に帰するものです。
 本書の主たる読者として、ものづくりに関する実務者、中堅マネージャ、コンサルタント、研究者、教員、大学院学生を対象にしています。自動車業界やものづくりに関して日頃縁のない方々にも理解できるよう、平易に解説したつもりです。
 この本を読まれた方々が、これからの我が国のものづくりを支えてくれることを願っています。
著者 中野 冠

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