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バーチャル・エンジニアリング
―周回遅れする日本のものづくり―

定価(税込)  1,512円

著者
サイズ 四六判
ページ数 160頁
ISBNコード 978-4-526-07724-1
コード C3053
発行月 2017年06月
ジャンル 機械

内容

世界的に進む「設計」と「ものづくり」融合。本書は、そのキーテクノロジであるバーチャルエンジニアリング(VE)について、我が国製造業での導入課題と見通しを明らかにする。積極的な欧州の動きを報告しながら、VEの狙い、対応の遅れが何をもたらすのかを解説し、警鐘を鳴らす。

内田 孝尚  著者プロフィール

(うちだ たかなお)
神奈川県横浜市出身。横浜国立大学工学部機械工学科卒業後、1979年㈱本田技術研究所入社。主にエンジン/トランスミッションの機能解析研究に従事し、1991年に主任研究員に就任。CADモデルをCAEモデル化とするプロジェクトをダッソーシステムズ社とともに推進、2000年には、世界で初めてCAE−CAD−CAMの連携を実現した。2003〜09年には、図面の3D化を目的とする全ホンダプロジェクト統合リーダーを務め、その推進にあたって、各国の自動車メーカーのリーダーと自動車開発の将来像について多岐にわたる意見交換を経験する。その後、MSTC主催のものづくり技術戦略Map検討委員会委員(2010年)、ものづくり日本の国際競争力強化戦略検討委員会委員(2011年)、機械学会“ひらめきを具現化するSystems Design”研究会設立(2014年)及び幹事を歴任。現在、㈱本田技術研究所 四輪R&Dセンター シニアエキスパート。博士(工学)、日本機械学会フェロー、自動車技術会会員。

目次

目 次

はじめに

序章 メイドインジャパンの高品質は過去のものへ
下請け化するわが国の製造業/高品質の日本は過去の話となった/モノができる前にすべてが決定する!/イノベーションのジレンマ/匠の技をシステムに実装する/世界のエンジニアは知っていた

第一章 なぜ欧州はバーチャルエンジニアリングを急ピッチで推進するのか
一・一 欧州が本気で取り組むものづくりプログラムとバーチャルエンジニアリング
バーチャルエンジニアリングによるものづくりの連携/試作ができる前に仕様を決定する!/設計時に製造を考慮して検討する/個人技よりもチームプレイ/フレームワーク・プログラムにみる欧州の本気/欧州の研究機関と大学、世界中の企業参加のプロジェクト
一・二 標準化で進むバーチャルエンジニアリングの枠組み作り
バーチャルエンジニアリングの枠組み作り/なぜチームで検討しなければならないか/物の設計からイノベーションの設計へ
column バーチャルはリアル!?

第二章 日本の製造業は周回遅れを取り戻せるか
二・一 日本の製造業が優位でいられないこれだけの理由…
F1エンジンの設計とテスト/製造現場、テスト現場の能力に頼っている日本の製造業/現場は優秀! では何がまずいのか!?/デジタルデバイド日本/設計側での詳細仕様の決定は、製造側の自由度を奪うのか?/高い製造能力を前提とした日本の設計力
二・二 ものづくりを設計側にシフトするにはどうしたらよいか
設計側で機能・製造を考慮した仕様を決定する/「暗黙知」を「形式知」へ/必要なのは脱・デジタルデバイド
column 世界中の自動車メーカーが集うデジタル開発国際会議

第三章 まずはバーチャルエンジニアリングの全体像を把握する
三・一 バーチャルエンジニアリングは、どのような全体像なのか
CADとCAEを同一環境で扱う、それが基点になる/CAD・CAM・CAEと属性情報が一体連携/CAD・CAM・CAE・属性情報に制御データが連携/バーチャルテスト(VT)とCAEの違いは?/バーチャルマニュファクチャリングも存在/バーチャルリアリティ(VR)は?
三・二 バーチャルエンジニアリングのポテンシャル
壮大なスリアワセ環境/スリアワセの効果を知っているのは日本?/すでに身近にあるバーチャルエンジニアリング技術
三・三 バーチャルテストを用いた認証制度が法規化
すでに欧州では、リアルテスト無し、VRデータのみが実現/VT認証ロードマップの意味するところ/技術、ルール、マネージメントを統括した動き/欧州のシナリオ
column 3Dデータの標準化

第四章 すべては3D図面が起点となる
四・一 3D図面ルールの歴史
2D図にはルールがある/最初の3D図面ルールは日本が進めた「フェーズ1(Phase1)」/加工機に図面を直接読み取らせるためのルール「フェーズ2(Phase2)」
四・二 3D図面の属性情報を用いた新しいものづくりの例
もう一度、図面の役割を見直す/製造情報が図面に入るとどうなる?/製造品質を決める3D図面/図面がコントロールする形状・機能・製造
column タフでなければつとまらない

第五章 バーチャルエンジニアリングがもたらす製造業の大変革
五・一 設計の役割と範囲は大きく変化している
企画、設計、機能、製造、営業、品質、認証が同期、一体化/開発をV字フローで説明
五・二 すべてが開発のV字フロー左側だけで済んでしまう
バーチャルで検討と検証
五・三 制御設計と検証が設計段階で終了
制御設計等のソフトウェア開発比率が増大/ミルズ、シルズ、ヒルズって何だ?/時代の流れとシミュレーション環境の役割変化/ヴィルスの登場
五・四 物ができ上がる前に全ての仕様が決まる
制御設計と機構設計/検証品質が向上/設計の場にバーチャルで集合
column 鋳物の中子を3Dプリンタで製造

第六章 開発変革とビジネスモデルの変革
六・一 バーチャルエンジニアリングのためのインフラづくり
シーンベース開発のための準備/欧州のすべての道路の路面情報は、ミリ単位で測定、3Dマップ化されている/要求シーンへの気付きこそがものづくりの原点だ/リアルをバーチャルに引き入れる
六・二 ものづくりのビジネスモデルは変貌
様々な立場の人間が関与することでシーンモデル自体も成長する/どうすればサプライヤの力を引き出せるか/シーンベース開発がコラボレーションの新たな扉をひらく/完成車メーカーとサプライヤそれぞれの役割を再編する/大切なのは、品質でも、コストでもない!
column アニメの世界もバーチャル

第七章 魅力価値の創造とバーチャルエンジニアリング
七・一 製品に求める振る舞い(シーン)と実現のためのコンセプト
バーチャルエンジニアリングは効率化の手段ではない/文殊の知恵を生み出す場を作る/使い手の要求を仕様に落とし込む/欲求の明確化と要求仕様
七・二 匠の技術は、バーチャル環境下でこそ活きる
column VT(バーチャルテスト)と認証制度

第八章 スリアワセはバーチャルエンジニアリングで生まれ変わる
八・一 バーチャルエンジニアリングは、欧州製造業の基本戦略
バーチャルエンジニアリングは二〇〇五年には確立済!?/バーチャルエンジニアリングに全力投入する欧州各国/おそらく欧州の認証制度に対応できない日本/欧州議会のプログラムを注視せよ
八・二 日本と欧州の取り組みの差を見てみよう
ティア2以降はドイツも同じ/ティア1(国内組)の対応が今後のカギ/実は知ってはいても対応できなかった日本のメーカー/日本にもMTCを作ろう!/実は情報交換の場はあちこちにある
八・三 現実を直視せよ
パラダイム・シフトを認めよ/匠の技の誇りを一度忘れよ/バーチャル設計学の確立へ/もともとスリアワセは日本のお家芸/バーチャルワイガヤで創造力をリードする
column 独D社が抜けた

はじめに

はじめに

筆者は、二〇〇三年より足かけ七年ほどのあいだ、自社(ホンダ)の基幹CADシステムのバージョンアップ、および設計図面の3D化といった大型プロジェクトに統合リーダーという立場で従事した。業務は多忙を極めたが、一方でプロジェクト運営の経験を通じて自身はエンジニアとしてより広い視野を持つことができるようになったと考えている。この間、国内のみならず、欧米をはじめ世界中の自動車メーカーの開発部門、IT関連部門のリーダーとともに自動車開発の将来像をとことん議論し、彼らの開発・製造に対する強い意志と、企業や国家の枠を超えた協調の考え方を知ることができた。
筆者はその後、二〇〇九年より、本格的にバーチャルエンジニアリングの技術調査を開始し、二〇一三年からはその状況を伝えるために技術者・学者を対象に産学連携講演会やワークショップを多数企画した。そこで感じたことは、世界の製造業・教育機関との大きなギャップであった。バーチャル技術に対して、無関心か、そうでなければ本質を捉えていない反応が多く、このままでは日本が世界に対して取り残されてしまうという危機感を抱かざるを得なかった。
意外だが、バーチャルエンジニアリングをめぐる世界の動きについて、直観的に事の深刻さを理解したのは技術者ではなく経営者だったように思える。二〇一六年、筆者が埼玉経済同友会主催の経営者向きの講演では、聴講者が醸し出す「何とかしたい」という想いが会場中に充満した。彼らがぶつけてくる質問の鋭さから経営者が持つ直感力の凄さをあらためて感じさせられた。
一九八〇年代後半、筆者が社内の設計近代化の業務に参加してから三〇年近くの歳月が過ぎた。その間、所属する組織も業務も変ったが、設計・開発の改革に関するテーマは継続して関わってくることができた。拙書の発刊についても、部門担当役員に相談したところ快諾していただいた。自画自賛が許されるならば、今更ながら「ホンダの懐の深さ」に驚くとともに、心から感謝を申し上げたい。
そして何より、本書の執筆を決意する理由を与えてくれた、数多くの講演会参加者の諸氏に感謝を申し上げたい。本書が上梓されたのも、これらの参加者から後押ししていただいた結果である。その感謝も含め、本書が多くの読者にとってものづくりの新しい世界を考え、行動するきっかけとなれば、筆者として望外の幸せである。
二〇一七年六月 
内田 孝尚

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