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俯瞰図から見える
IoTで激変する日本型製造業ビジネスモデル

定価(税込)  2,160円

著者
サイズ A5判
ページ数 208頁
ISBNコード 978-4-526-07638-1
コード C3034
発行月 2016年12月
ジャンル 経営

内容

モノと情報をつなぎ、新たな価値を生み出すというIoTが進んでいる。今やこれに乗り遅れることは、企業としての衰退を意味する。そこで本書では、いまだあやふやなイメージのIoTを技術要件で8つに分解、分析し、さらにそこに市場の全体像を重ね全貌を明らかにすることで、日本の製造業の進むべき道を示す。

大野 治  著者プロフィール

(おおの おさむ)
1948年福岡県生まれ。
1969年、宇部工業高等専門学校電気工学科卒業。同年、日立製作所入社。SE(システムエンジニア)として官公庁・自治体のシステム開発に従事。プロジェクト立て直し請負人として、失敗プロジェクトを次々と成功に導く。2001年より、同社の最大事業である情報・通信事業の生産技術とプロジェクトマネジメントの責任者として、システム開発の生産性向上に取り組む。2009年より、日立製作所執行役常務及び電力システム社CIOを兼務。この頃より、日立グループ各社の経営者からの情報システム刷新と経営改革の支援依頼に基づき、日立グループ各社の改革に取り組む。2012年より、日立システムズ取締役専務として同社の経営統合に伴う情報システム統合、日立グループ情報・通信事業の改革を主導。2014年より、同社特別顧問。2016年、同社退任。2016年、日立製作所内で『SE哲学外来』を開設。
プロジェクトマネジメント学会会長(2007年〜2008年)、2014年から同学会アドバイザリボード議長(現職)、国際CIO学会理事(2006年〜2011年)を歴任。2001年、埼玉大学にて学位取得(工学博士)。
日立グループの役員時代(2009年〜2015年)に取り組んだ経営改革の範囲は、日立グループの約50%(売上比)に及ぶ。

目次

はじめに
本書の構成

第1部 IoTの全体俯瞰
第1章  産業用IoTとは何か
1. IoTの現在の全体像
2. 事例1 インダストリー4.0(Industrie 4.0)
3. 事例2 インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)
4. 結 論 産業用IoTの本質とは何か
5. 予 測 プラットフォームを制する者がIoTを制する ─ つわものどもの戦い
第2章  IoTの市場構造とは
1. IoTは何で構成されているのか
2. IoTは8つの技術階層の組み合わせ
3. 結 論 IoT戦略は3つに分類できる
4. 予 測 業務提携が成否を決める ─ 全階層を自前で揃えるのは不可能

第2部 垂直統合戦略
第3章  GEとボッシュに学ぶIoTの垂直統合戦略
1. 垂直統合戦略企業の制空権
2. 事例1 GEは顧客に「年率1%の改善効果」を提示
3. 事例2 GEのプラットフォーム開発
4. 事例3 GEのビッグデータ活用の5段階
5. 事例4 GEの営業手法と巨大組織の動かし方
6. 事例5 インダストリー4.0のリーダーボッシュ(Bosch)の動き
7. 結 論 事業のIoT化のコツ
第4章  垂直統合戦略のマーケットと日本における市場形成
1. どんな市場があり、どんなサービスが展開されるのか
2. ブルーオーシャンとレッドオーシャンが見えつつある
3. 製造業が垂直統合サービスを実現するためのハードルは何か
4. 結 論 垂直統合されたIoTサービスの日本における市場形成
第5章  プラットフォームを制する者が産業用IoTを制する
1. IoTプラットフォームとは何か
2. 各社のプラットフォームの開発・導入状況
3. 日本独自のプラットフォームの必要性

第3部 水平横断戦略
第6章  コネクティビティはどうなるか
1. コネクティビティに求められていること
2. 事例1 シスコ(Cisco)の広域コネクティビティ戦略
3. 事例2 インテル(Intel)の企業内コネクティビティ戦略
4. 結 論 ビッグデータの交通渋滞の解消がカギ
5. 予 測 交通渋滞を解消できるサービス事業者が市場を独占
第7章 クラウドとアナリティクスはどうなるか
1. クラウドとアナリティクスの課題
2. 事例1 クラウドの革新
3. 事例2 アナリティクスの革新
4. 結 論 ビッグデータの高速処理と人工知能サービスの優劣がクラウドを制す

第4部 モノ重点戦略
第8章  IoTによって製造現場はどう変わるか
1. 事例1 3Dプリンタ(Additive Manufacturing)
2. 事例2 生産自動化(Factory Automation)
3. 事例3 自動運転車(Connected Car)
4. 事例4 ドローン(Drone;遠隔操作の飛行端末)
5. 結論1 生産現場は現実世界から仮想空間へシフトする
6. 結論2 すべてのものが人工知能(AI)によって制御される

第5部 IoTの中で日本・日本企業が生き残るための提言
第9章  企業は既存事業をIoT化するために何をすべきか
1. 自社の事業ポジションはどこか
2. 提言1 自社製品の「最適化とは何か」の定義から出発せよ
3. 提言2 自社がどの戦略で攻めるのか明確化せよ
4. 提言3 経営の仕組みを世界のスピードに合わせよ ─ 経営者はスペックに関与せよ
5. 提言4 経営者はソフトウェア思考を持て
第10章  日本はどう対応すべきか
1. 今後の世界の潮流 ─ 少子高齢化と労働人口
2. 日本のとるべき選択肢は
3. 提言1 日本の文化に立脚した日本のIoT戦略
4. 提言2 社会インフラのIoT化は国家プロジェクトで
5. 提言3 公共性が高い技術階層は公共で

おわりに
参考文献

コラム
インダストリー4.0とインダストリアル・インターネット・コンソーシアムは相互補完関係にある
コンストラクタル法則とは…
ディープラーニング(Deep Learning)とは
モノづくりの限界コストがゼロに近づく時代
ソサエティー5.0(Society5.0)始動
日本人の小国意識

はじめに

 近年、IoTというキーワードが氾濫している。解説を見ると、IoTはInternet of Thingsの略でモノのインターネット化と訳され、すべてのモノがインターネットとつながることだと言われている。しかし、それが社会問題の何を解決し、ビジネスとしてはどういう価値を持つものなのかについては、関与する人々が自らの思いを込めて、さまざまな意味でこの言葉を使っているため、「IoT」という言葉がかつての「クラウド」(cloud)と同様、明確な定義の無いバズワードと化している。
 だが、これほどまでに騒がれるのは、IoTによって引き起こされる社会変動が、あらゆる人たちに、すべての企業に、大きな影響を与えるからである。だからこそあやふやなままでは困るのだ。よくわからないときは、具体例を用いると理解しやすい。そこでIoT社会の代表として、最近実用化目前になってきた自動運転車を取り上げてみよう。

自動運転車がつくり出す新しい社会
 自動車に搭載された高機能センサーは、制御している自動車の動き、他の自動車の動き、歩行者、潜在的な障害物を検知することにより、迅速かつ安全で適切な行動へ移ることができる。これらの検知能力、対応能力は平均的な人間の能力を大きく上回るので、自動運転により交通違反が減少するだけでなく、交通事故を大幅に減らすことが期待されている。
 アメリカ、ヨーロッパ、日本などの先進国が、自動運転車の最大の目標として掲げているテーマは「交通事故の削減」である。アメリカのランド研究所は、同国における年間衝突事故530万件のうち、自動運転によって3分の1の削減が可能だと見積もっている。
 人間の身体能力は、視覚刺激に対する反応には0.17秒ほどかかるし、運転者が危険を感じて急ブレーキが必要と判断して、足をアクセルペダルからブレーキペダルに乗せかえて、踏み込んだブレーキが効き始めるまでにも0.7〜1秒ほどかかる。
 つまり、人間がブレーキを踏み込むまでの時間は約0.8〜1.1秒で、それに対してコンピューターの処理時間は0.1秒以下であり、人間と自動運転車とを比較すると、車が止まるまでの距離は車の速度を時速50kmとすると、約10m〜14mもの差となり、自動運転車が事故を大幅に減少させると期待できる。
 自動車事故の9割は人間のミスによるものと言われているので、高齢者の運転ミスによる痛ましい人身事故などの自動車事故は激減する。すると、自動車保険に加入する人が減るだろう。誰も加入しないと仮定すると、日本の損保会社の売り上げはおよそ半減する。そうなると、損保会社は新たな事業の展開か、人員整理を余儀なくされるはずだ。
 また、日本では、少子化によりバスやトラックの運転手が不足することが懸念されているが、自動運転車の登場でドライバー不足を解消できる。さらに、鉱山や建設現場などでの無人運転などにもその技術は応用でき、危険区域での作業効率が格段に良くなる。
 高機能センサーによる自動運転の反応速度は人間より速く正確なので、自動運転車が増えてくれば、幹線道路では車間距離を詰め、まるで電車が連結しているように切れ目なく進むことが可能になる。つまり、道路上をより多くの車が通行できるようになる。
 これを社会資本の立場で見ると、渋滞が解消するし、高速道路などでの最高速度の制限を撤廃してより高速移動ができることになり、道路の効率的な利用が可能になる。
 自動運転車であれば、カーシェアリングも一段と進むし、車は単なる移動手段ではなくなり、新たなエンターテインメント空間にもなるだろう。
 これらの変化は、社会に大きな影響をもたらす。たとえば、不動産業の観点から見ると、町の中心地に今ほど駐車場が必要でなくなるし、自動運転車によって通勤や帰宅ラッシュ時などの苦痛から解放されるので、駅近物件が異常に高額という現象も解消されることになるだろう。

IoT社会が到来する
 当然ながら、「さまざまなモノをインターネットに接続する技術」が価値を生むのではなく、「さまざまなモノやヒトなどからデータを得て処理し、現実世界へフィードバックする」一連の活動の成果が価値を生む。要は現実世界の活動に足して、新たな価値を生み出すことこそが肝心なのである。
 たとえば家庭内でも、家電品がインターネットにつながり、自動運転車と同じような変革が進むし、医療でも音声認識や人工知能と医師との連携によって手術の自動化も進むだろう。介護も大きく変わってくるだろう。災害現場へのモノの輸送、人の入れない場所の探索、農業の無人化や自動化なども進むだろう。流通小売業や教育分野も大きく変わってくるだろう。
 これらを社会インフラとして支える通信業や製造業などの企業も変革を強いられる。その中で最初にその変革の波に襲われるのは、製造業でありそこで働く人々だ。
 現在のこの動きはドイツで始まっている。ドイツでは、生産システムのデジタル化に産官学が一体となって取り組み、製造業に革命を起こそうという国策として始まった。続いてアメリカで、製造業であるはずのGEが自身の事業の定義をIoTで変えた。簡潔に言えば、サービスで稼ぐ企業に変身しようとしている。アメリカの企業はコンソーシアムを結成して、このことを強力に推進し始めた。遅れて日本でも、似たような組織が2015年に作られた。
 IoTによる変革の先頭に立たざるを得ない製造業は、「オーダーメイド」と「アフターサービス」という新たなビジネスモデルへと変化していくだろう。それを実現すべく奮闘している世界のメジャー企業は、どのような戦略を持ち、現在どのように取り組んでいるのかを分析することにより、日本企業がこの世界でいかに戦うべきかを本書で考えてみたい。
 筆者は日立製作所に入社し、以来ずっと日立グループの中で仕事をしてきた。最初は、公共分野のシステムエンジニアとして活動した。並行して、ソフトウェア生産技術の開発に従事し、加えてプロジェクトマネジメント関連の活動に携わり、失敗プロジェクトを抑止するためにプロジェクトマネジメントの確立に取り組んだ。
 その後、日立グループ全体の社内ITを統括する情報システム部門に移り、長年経験してきたベンダー側の立場からユーザー側の立場に変わった。そして経営メンバーのひとりとしてプロジェクトに投資する側となり、関心事はプロジェクトが産み出す経営価値へと変わった。
 複数年にわたる投資計画のもとに、日立グループ全体のITの標準化と、グローバルでのネットワークからハードウェアやソフトウェアの集約に取り組み、それまで各工場・各グループ会社に分散していた基幹システムを日立グループ全体で一本化した。
 その後、日立グループ各社のCEOやCIOから情報システムの構築およびITの経営への活用に関する相談・支援依頼を数多く受けるようになった。このようなことを経験した立場から、現在のIoTを考察し今後の日本社会にいかに反映していくのかの指針にすべく本書の執筆を思い立った次第である。
2016年12月
大野 治

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