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技術者倫理
技術者として幸福を得るために考えておくべきこと

定価(税込)  2,376円

著者
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サイズ A5判
ページ数 208頁
ISBNコード 978-4-526-07611-4
コード C3050
発行月 2016年10月
ジャンル その他 経営

内容

本書は、これから技術者になる工学系学生を対象に技術者個人として具備すべき倫理的な価値判断に関する考え方や基礎知識を紹介する入門書。職業倫理の歴史をはじめ、技術者固有の倫理とは何か、メーカーで実践されている倫理教育の指導のポイント、また知財や個人情報を扱う際の注意点や、個人の倫理観と企業の利害の折り合いの付け方に至るまで、実際の企業活動のなかで起こる様々な事例を紐解きながら、より実践的な知識を習得する。技術者も企業の利潤活動の一翼を担うということを前提に現実的な倫理スタンスの考え方と実践法を紹介している。

辻井洋行  著者プロフィール

(つじい ひろゆき)
1996年、滋賀大学経済学部卒。横浜国立大学大学院国際開発研究科修了。学術博士。北九州市立大学国際環境工学部を経て、現在、同大学基盤教育センターひびきの分室、同大学大学院国際環境工学研究科(兼担)准教授。専門は、企業環境経営、組織間関係、経営学など。所属学協会/環境経営学、環境経済・政策学会、組織学会、日本工学教育協会ほか。

水井万里子  著者プロフィール

(みずい まりこ)
1988年、国際基督教大学教養学部卒。立教大学大学院文学研究科を経て、イギリス・エクセター大学大学院社会科学研究科博士課程修了、PhD。現在、九州工業大学教養教育院教授。専門は近代イギリス史、イギリス東インド会社史、イギリスすず産業史。

堀田源治  著者プロフィール

(ほった げんじ)
1979年、九州工業大学第二部機械工学科卒。熊本大学大学院自然科学研究科修了。工学博士。(株)日鉄エレックスを経て現在、有明工業高等専門学校創造工学科人間・福祉工学系メカニクスコース教授。専門は設計工学、安全工学、保全技術。所属学会/日本技術士会、日本機械学会、日本設計工学会、日本工学教育協会ほか。

目次

はじめに―技術者としての幸福を得るために

1章.技術者倫理を学ぶ必要性
1.社会への責任と会社への責任
2.技術者倫理の必要性
3.技術者倫理の特徴

2章.科学の発達と産業の歴史
1.科学・技術の変遷
2.産業・技術の発達
3.産業の発展と科学者・技術者

3章.技術者の出現と社会的背景
1.工業化と社会問題
2.技術者養成と教育
3.歴史に見る職業倫理観

4章.技術者特有の“責任ある仕事”への気づき
1.モノづくりが社会に及ぼす影響
2.技術者の職業的特徴
3.科学技術の倫理的価値
4.モノづくりの責任と技術者

5章.プロフェッショナル技術者を目指して
1.技術者倫理と行動
2.7ステップガイド
3.技術者倫理活動の実例

6章.企業経営と技術者倫理
1.技術者と企業
2.組織人としての技術者
3.経営者と技術者の倫理の統合

7章.グローバル化と技術者倫理
1.グローバル化で技術者が直面する倫理問題
2.グローバル化で技術者が直面する倫理問題の背景
3.グローバルに活躍する技術者に求められる倫理

付録 倫理規約の例
技術士倫理要綱(抜粋)

はじめに

はじめに―技術者としての幸福を得るために

 近代に入り、科学と技術の融合は多くの発明と優秀な技術者を輩出してきた。技術者は自分のアイデアをモノづくりによって創造物として具現化することで、それを使う社会に貢献できる素晴らしい仕事である。技術者による創造物は企業にとって競争に勝つための戦略上の武器となり、経済の発展を促す。企業間による競争はやがて技術者による科学技術の向上に繋がる。しかし、このサイクルがうまく回転しないことが歴史上しばしば生じ、それは技術や経済を享受すべき公衆の被害となって現れてきた。相次ぐ大戦で技術は飛躍的に向上したが、計り知れない生命が失われた。また、経済発展の一方で砂漠化や地球温暖化という非可逆的な環境破壊が問題となっている。IT技術の革新は文化・社会のグローバル化をもたらしたが、情報や機密事項の流出が社会を脅かしている。本来は社会の人々を健やかで豊かにするための“ツール”であるはずの技術と経済が、人々を不幸にするのも現実である。これは、発展の歴史の影で、いつしかそれを使う人々が忘れ去られたことにほかならないであろう。

 最近でも排ガス規制に対する不正回避問題、最終救命部品による傷害、耐震材料の品質データ改ざんなど、先端技術を使う人の健康や福利をおきざりにしたモノづくりが報道されている。技術の発達と人徳の発達が比例しないことは、創造物に対する市民の不安感を募り、技術者に魅力を見出さない現象を生み出す。このことは、先進国で若者の理工離れや就職先としての製造業の不人気が問題となっていることにも関連すると言われている。設計者・技術者の扱う内容は専門性が高く、外部からは見えづらいため、これが問題の発覚や遅れを引き起こし大きな企業や社会に深刻なダメージを与える原因にもなっている。技術者は、モノづくりによって所属する会社への責任を果たすのは当然ではあるが、同時に安全と安心を求める社会への責任も忘れてはならない。そして、両方の責任が相反する場合には、社会への責任を優先する“責任”もある。技術者が社会への責任を果たすためには、組織や慣習から自律して社会の要求に耳を傾けてこれに応え、社会から評価を得る行動が必要となる。
 実際のモノづくりの現場においては、解決策が見出しづらい、あるいはどのように考えたら良いのか判断がつかないような問題が種々あることが現実である。しかし、社会においてはそのような問題に対して時間内の「判断」を求められることもしばしばで、その判断が社会に大きな影響を及ぼす場合もある。このような場合に最善の行動を選択するには規範に従うのが一番であるが、産学官が準備している行動規範では適応できない場合ももちろんある。その場合に、技術者として従うべき規範が“社会の声”となる。技術者の職業上の特徴は、製品を企画・設計・製造して製品の姿を目の当たりにするが、その製品を使う人々に直接会うことはほとんどない、ということである。このことは、技術者による創造物が社会や環境・人々に及ぼす影響についての理解が、技術者自身にとっては疎いというパラドックスを生み出す。有望視されながらも判断を誤り、将来を失った先輩技術者も数知れない。カルロス・ゴーン氏の「被害は社会の弱者に、処罰は組織の弱者に」という言葉も残念ながら現実である。この現実において、“社会の声”は技術者が従うべき規範として貴重な羅針盤となり得る。
 本書は、現在において社会から最も期待されている倫理的な技術者について理解していただくために、産業技術の成り立ちから社会と技術者の関係を展望し、相反の典型である経営とモノづくりの両面から技術者の責任を考えることにした。これから社会に出る人々は勿論、日々の仕事に忙殺されがちな若い技術者が本書を手にすることで、日々の判断を誤ることなく、エンジニアとしての将来と幸せを手に入れていただきたいと願うばかりである。
 尚、本書を教科書として使用する際の便を図るため、次の学習目標と本書の構成を付記する。

本書の学習目標
1.“社会の声”を聞きながら技術者として仕事することがなぜ必要なのかが分かる。
2.どのようにすれば、“社会の声”を聞ける技術者になれるのかが分かる。
3.“社会の声”を聞き、それに応じた振る舞いをするにはどうすればよいのかが分かる。
4.“社会の声”を聞く時に直面する問題とその解決方法、乗り越え方、回避方法が分かる。

本書の特徴と構成
 各章は『事例』、『本章』、『演習問題』で構成されている。先ず事例については、例え初学者であっても努力して背景や結果などを調べることで授業外学習や予習の効果が上がる。続いて予習での気付きや疑問を持って本章を読むことにより体系的な理解や納得が得られる。最後に事例とも関連した演習問題を解き,章末の解答を見ることで自身の学習効果を知ることができる。また各章のトビラと章末のまとめには,各章の要点を短い文章で示してあり、予習の際のヒントとして、また学習後の要点整理としての便を図った。

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