内容
日本の食品製造業は、製造業の中でも一番多くの従事者を雇用する巨大な産業であるにもかかわらず、その生産性は全製造業平均の約2/3しかない。そこでこの本では、食品工場の生産性がなぜ低いのか、その原因を究明、問題を顕在化させ、それを解決するための改善、ムダ取り法を具体的事例などを引きながら解説していく。
弘中泰雅 著者プロフィール
(ひろなか やすまさ)
テクノバ株式会社 代表取締役
http://www.technova.ne.jp hironaka@technova.ne.jp
経歴
農学博士(九州大学):パンの品質特性に及ぼす製造条件に関する研究
鹿児島大学大学院水産研究科修了:魚肉タンパク質の冷凍変性抑制
中堅食品企業にて研究室長、製造課長等歴任
船井電機にて食品研究課長、電化事業部技術責任者
世界初の家庭用製パン器の開発に携わる 功績により社長表彰
現在 テクノバ株式会社 代表取締役
日本生産管理学会理事
生産管理ソフト「アドリブ」開発
コンサルタント:食品工場等の生産性向上指導多数
ISO22000審査員補
受賞
ベストITサポーター賞(近畿経済産業局長) (2006)
日本生産管理学会賞(実務書) (2013)
日本穀物科学研究会賞 (2016)
所属学会
日本生産管理学会 理事、日本食品科学工学会 正会員、
標準化研究学会、 日本穀物科学研究会 幹事、
食品産業研究会 主査、
主な著作
・後工程はお客ようで生産効率を上げる!食品工場のトヨタ生産方式、日刊工業新聞社(2015)
・こうやれば儲かりまっせ!食品工場の経営改革(編著)、光琳(2013)
・モノと人の流れを改善し生産性を向上させる!食品工場の工程管理、日刊工業新聞社(2013)
・生産性向上と顧客満足を実現する食品工場の品質管理、日刊工業新聞社(2012)
・ムダをなくして利益を生み出す食品工場の生産管理、日刊工業新社(2011)
・よくわかる「異常管理」の本、日刊工業新聞社(2011)
・月刊食品工場長(日本食糧新聞社)連載:「目指せ!生産性向上」
・食品工業(光琳)「生産性の視点から見た食品製造業」、「システムの視点から見た食品製造業」、「食品製造業はなぜ低利益率か」シリーズ等
・ISOマネジメント、工場管理(日刊工業新聞社)、工場管理(日刊工業新聞社)、月刊自動認識(日本工業出版)、生産性新聞(社会生産性本部)、食糧新聞(日本食糧新聞社)、日本食品工業学会誌、日本生産管理学会誌、技術誌、業界誌などに執筆多数
目次
はじめに
推薦文 熱き思いと深い愛情が説く食品工場の再生術
第Ⅰ章 日本の食品製造業の問題点
1 巨大製造業でありながら存在感の薄い食品製造業
2 経済の変化に影響される製造業
3 戦後の食品製造業小分類の出荷額・従業員数・生産性の推移
4 食品製造業は二極化している
5 国際比較でもこんなに低い日本の食品製造業の生産性
第Ⅱ章 食品製造業の生産性を低迷させた原因
低生産性の原因 1 低い労働の質と従事者のやる気
低生産性の原因 2 低い給与水準が生産性低下を招いた
低生産性の原因 3 不十分な従業員教育
低生産性の原因 4 生産管理手法習得のチャンスを逃した
低生産性の原因 5 生産管理技術習得の機会喪失
低生産性の原因 6 他産業と差がついた生産管理技術
低生産性の原因 7 品質管理に対する無理解
低生産性の原因 8 間違ったIT投資
低生産性の原因 9 回収無き研究投資
低生産性の原因10 効果のない販売管理費
低生産性の原因11 古い経営者の考え
低生産性の原因12 人口増による消費量増加に慢心
第Ⅲ章 意識を変えることでムダをなくして生産性を向上させる
1 生産性とは何か
2 生産性を上げるのに必要なこととは?
これでできる! 対策1
生産性に影響を与えた組織資産の例
これでできる! 対策2
新しい経営の考え方とマネジメントの再構築
これでできる! 対策3
自ら変わらねばならぬという意識
これでできる! 対策4
トヨタ生産方式は職場の組織資産作りのお手本
これでできる! 対策5
食品製造業の自覚しなければならない点
第Ⅳ章 食品工場のムダをなくして生産性を向上させる
これでできる! 対策6
労働のムダ解消による生産性改善
これでできる! 対策7
効率の悪いムダな作業の抜本改善
これでできる! 対策8
材料のムダの削減 1
これでできる! 対策9
工場と設備のムダを改善する
これでできる! 対策10
自動化を進めてムダを省く
これでできる! 対策11
運搬のムダの改善
これでできる! 対策12
スケジュールのムダの削減(問題の顕在化)
第Ⅴ章 食品製造業の生産性2倍への道
1 問題顕在化と改善意欲と自動化で生産性2倍
2 政府・行政に検討して欲しい事
おわりに
参考文献
索引
はじめに
日本の食品製造業は、製造業25業種のうち従事者数において最大の製造業であるにも関わらず、その生産性は残念ながら極めて低く、また従事者平均給与額も同様に極めて低い。食品製造業の生産性はなぜこのように低くなってしまったのか。因果関係という言葉があるが、食品製造業が現在の低生産性の状況(結果)になるには、それ相当の原因があったと考えるのが自然であろう。トヨタ生産方式においては「問題は宝である」という。なぜなら問題の存在に気づく事ができるからこそ、初めて改善ができるからである。低生産性の原因を問題と考えれば、原因を明確にして改善する事こそ生産性向上につながるのだ。
食品製造業の問題を認識し改善を行うことにより生産性向上が可能ならば、まずはどのような原因によって食品製造業が現在のような低生産性になったのかを探る必要がある。その原因を明確にした上で原因に対する対応策を発見し実行することによって、日本の食品製造業の生産性を上げねばならない。低生産性をもたらした原因に対して的確な対策を行う事で、食品製造業の生産性向上を目指すことをこの本の出版の目的としたい。
ところで日本の全製造業の従業員約750万人のうち食品製造業の従業員数は約110万人であり、製造業従事者のほぼ8人に1人は食品製造業に従事していることになる。しかも食品製造業は付加価値(生み出した価値)総額においても、自動車などの輸送機械、一般機械、化学工業に続き、日本で第4位の規模を誇る巨大な製造業なのである。
ところが食品製造業の一人当たりの生産性(付加価値金額/人)は、残念ながら製造業25業種中の最低の部類に属し、食品製造業の生産性はなんと製造業平均の約60%に過ぎないのである。その上高生産性の素材型製造業を除いた加工型食品製造業だけに限ると、その生産性は製造業平均の約50%、即ち製造業平均の生産性の半分しかないのである。誤解のないように述べるが、自動車などの生産性の高い日本のリーディング製造業と比較してではなく、あくまでも製造業全体の平均と比較してのことである。つまり、日本の食品製造業の生産性の実力は先進国の製造業の生産性のレベルに達しているとはとても言えないのである。
多くの企業経営者や企業幹部は従業員の給与をできれば増やしたいと思っておられるであろう。その思いは食品企業の経営者の皆様とて同じであろう。このように低い平均給与は食品製造業にとって極めて大きな課題であるが、この課題を解決するには食品製造業の生産性を2倍に上げるしか方法はないと著者は考えている。
食品製造業が現在のような低生産性と低賃金になったのには当然原因があるはずであり、本著「食品工場の生産性2倍」の狙いはまさにそこにある。真因を解き明かした上で、その解析の上に立って必要な改革や改善を行って食品製造業を変革し、食品製造企業の収益性や生産性を製造業平均のレベルにまでキャッチアップしなければならない。
即ち現在の食品製造業の生産性を2倍に向上させるのである。それが食品製造業従事者の給与を増やす為に、最善の近道だと著者は考えるからである。食品製造業の現在の体質を改善するために、これまでの考え方ややり方を見直して具体的な方策を実行することによって、低迷している食品製造業の現状を打破し、生産性を2倍に向上することによって従事者の平均給与を向上しようと意図するものである。
これまで長い間、著者は食品工場の生産性向上に挑戦してきた。その結果としてほとんどの食品工場の生産性は2年程度で20%程度は向上できるものと確信しているし、ここ数年間にわたり支援させて頂いてきた多くの食品企業ではそれを実現してきたつもりである。しかし多くの食品製造業の関係者は食品工場の低生産性に関してまだまだ意識が低く、生産管理に対する知識や意欲が食品製造業に不足しているのが現実である。
また日本全体の繁栄のためにも食品製造業の生産効率を上げ、食品製造業による労働力の浪費を少なくすることによって少子高齢化に悩む日本において労働力を融通することができるし、かつ生産性が向上し1人当たりの所得を増やすことによって国民の購買力を増やし、日本の経済規模を拡大していくことができるのである。このような目的の為にも食品製造業の生産性を向上させることは、従事者数第1位の食品製造業の産業規模から見て重要であり、食品製造業の生産性を向上させる事は今の日本の食品製造業にとってまさに避けて通れない課題だと考えている。
食品製造業の生産性を大きく向上する事は、食品製造業従事者の平均賃金を上げるためだけでなく、日本経済のさらなる発展を実現する為にも必要であり、その為には食品工場において如何なる考え方や方策が必要であるか。この本ではそれを追求していきたい。
2016年9月
弘中 泰雅