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糖鎖とレクチン

定価(税込)  2,376円

著者
サイズ A5判
ページ数 232頁
ISBNコード 978-4-526-07593-3
コード C3043
発行月 2016年08月
ジャンル 化学

内容

糖鎖はタンパク質、核酸に継ぐ第3の生命鎖と言われる。細胞表面を特徴づける優れたマーカーとして、がんや細胞治療などの医療分野で注目されている。さらに、レクチンは複雑怪奇な糖鎖構造を読み解く分子として注目を集めている。本書では、糖鎖の成り立ちと存在意義を概説した上で、レクチンの素性や現状の研究成果を解説する。

平林 淳  著者プロフィール

(ひらばやし じゅん)
〈略歴〉
東北大学理学部 卒業、東北大学大学院理学研究科修士課程修了、東北大学理学部より学位取得(理学博士)、帝京大学薬学部助手・講師
2002年11月 独立行政法人 産業技術総合研究所 糖鎖工学研究センター 糖鎖構造解析チーム チーム長
2003年9月 香川医科大学 総合生命科学実験センター 糖鎖機能解析研究部門客員教授
2006年12月 独立行政法人 産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター副センター長
2008年1月 糖鎖産業フォーラム(GLIT)設立(運営副委員長)
2012年4月 独立行政法人 産業技術総合研究所 幹細胞工学研究センター 主席研究員
2015年4月 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 創薬基盤研究部門 主席研究員
現在に至る
〈学会活動〉
日本生化学会、日本糖質学会(評議員)、日本糖鎖科学コンソーシアム(幹事)、日本薬学会、日本化学会、日本生物物理学会など
専門分野は糖鎖生物学、生化学。主な研究テーマはレクチンの構造・機能・進化に関する研究、レクチンを用いた糖鎖の構造解析技術(グライコプロテオミクス、フロンタル・アフィニティ・クロマトグラフィー、レクチンアレイなど)の開発、ガレクチンの生理機能解析

目次

はじめに 

第1章 糖鎖とレクチン
1-1 「炭水化物」から始まる糖鎖
1-2 糖鎖とレクチンの関係
1-3 複雑性に潜む必然性
1-4 多様化するレクチンの分子骨格

第2章 糖の構造と構築原理
2-1 本章を理解する上で
2-2 糖鎖の構成要素:単糖
2-3 ヘミアセタール:環状構造の形成
2-4 最強の構造:グルコースC1椅子型ピラノース構造
2-5 水と糖の関係:トリジマイト構造
2-6 グリコシド結合と還元性
2-7 配糖体:グルクロン酸抱合体と生薬
2-8 6つつながると1兆の可能性
2-9 糖鎖の存在形態
2-10 脂質と糖鎖
2-11 核酸(DNA、RNA)も糖鎖?
2-12 RNAワールド:核酸が先かタンパク質が先か
【コラムⅠ】GADVタンパク質ワールド仮説

第3章 糖の起源
3-1 主要構成糖の起源に関する進化仮説
3-2 認識糖ガラクトース
3-3 ホルモース反応
3-4 アルドール縮合
3-5 Lobry(ロブリー)転位
3-6 ガラクトース後生説
3-7 ブリコラージュ
3-8 非対称性について:右分子と左分子
3-9 D糖とLアミノ酸の関係
3-10 希少糖
3-11 糖鎖の合成原理-Ⅰ
3-12 グリコシドの起源
【コラムⅡ】多糖の起源

第4章 糖鎖の機能と利用
4-1 糖鎖の合成原理-Ⅱ
4-2 Nグリカン生合成の妙
4-3 細胞ごとに異なる糖鎖プロファイル:糖鎖は細胞の顔
4-4 異種抗原
4-5 なぜ糖鎖はバイオマーカーとして有効なのか
4-6 プロテオミクスの躓き
4-7 グライコプロテオミクス:糖鎖とタンパク質を一体として捉える
4-8 がんの早期診断を目指して:国家プロジェクト「糖鎖マーカー開発」発進!
4-9 糖鎖創薬:概論
4-10 糖タンパク質バイオ医薬品:糖鎖でバイオベターを
4-11 糖鎖標的抗体医薬:その課題
4-12 糖鎖ミメティクス:リレンザ、タミフルに続け
4-13 糖鎖ワクチン:新たながん予防に向けて
【コラムⅢ】糖質制限について

第5章 レクチン概論
5-1 レクチンとは:定義と歴史
5-2 レクチン活性の検出:赤血球凝集アッセイ
5-3 アフィニティ・クロマトグラフィー
5-4 レクチン探索の転換期:ゲノム時代のアプローチ
5-5 レクチンが起こした事件-Ⅰ:白インゲン豆中毒事件
5-6 レクチンが起こした事件-Ⅱ:リシン毒素を使った犯罪
5-7 レクチンの構造-Ⅰ:ConA生合成の妙
5-8 レクチンの構造-Ⅱ:RCA60(リシン)とRCA120(凝集素)
5-9 抗糖鎖抗体
5-10 レクチンによる糖の認識:水素結合ネットワークと疎水結合
5-11 レクチンによる多価糖鎖の認識とクラスター効果

第6章 レクチン関連技術
6-1 レクチンの特異性解析-Ⅰ:平衡透析法
6-2 レクチンの特異性解析-Ⅱ:赤血球凝集阻害試験
6-3 レクチンの特異性解析-Ⅲ:等温滴定カロリメトリー
6-4 レクチンの特異性解析-Ⅳ:前端分析法(FAC)
6-5 レクチンの特異性解析-Ⅴ:高性能FAC
6-6 レクチンの特異性解析-Ⅵ:糖鎖アレイ
6-7 レクチンの利用-Ⅰ:細胞染色
6-8 レクチンの利用-Ⅱ:糖鎖分画
6-9 レクチンの利用-Ⅲ:レクチン耐性細胞株
6-10 レクチンの進化工学

第7章 レクチン各論
7-1 R型レクチン
7-2 C型レクチン
7-3 セレクチン
7-4 L型レクチン
7-5 ガレクチン
7-6 ジャカリン関連レクチン(M、G)
7-7 GNA関連レクチン
7-8 家系横断的考察
【コラムⅣ】マンノース結合型レクチンをガラクトース結合型に変える

第8章 糖鎖プロファイリングが拓くバイオ新大陸
8-1 糖鎖研究の現況と糖鎖プロファイリング
8-2 エバネッセント波励起スキャナーの仕組み
8-3 糖鎖プロファイリング技術がバイオを変える
8-4 【事例紹介Ⅰ】肝硬変から肝細胞がん移行への注意を知らせる肝線維化マーカー「Mac2BPGi」
8-5 【事例紹介Ⅱ】人工多能性幹細胞(iPS細胞)を特異的に認識するレクチン「rBC2LCN」
8-6 【事例紹介Ⅲ】間葉系幹細胞の分化能力の指標となる糖鎖構造「α2-6シアル酸」

引用参考文献

はじめに

 糖鎖は第3の生命鎖といわれて久しい。糖鎖は体のなかでさまざまな働きをしているが、その構造が複雑であることから、糖鎖研究は核酸やタンパク質の研究と比べ大きく立ち遅れていた。しかし、我が国の先達はたぐいまれな探究心と新技術に対する創生熱によって、糖鎖構造と機能を解き明かすための多くのすべを産出した。やがてそれらは我が国に世界に冠たる技術ポテンシャルを蓄積し、20年に及ぶ一連の糖鎖プロジェクトが打ち出されたのだ。
 しかし、糖鎖の本質に迫るのはなお困難であり、国の費用対効果判断では「糖鎖研究は有意な利益を生み出さなかった」とみなされた。本当にそうなのか。事実、この間糖鎖合成のメカニズムを司る糖鎖合成遺伝子が網羅的に取得され、複雑な糖鎖構造をも解析し得る新しい分析技術がいくつも誕生した。また、ヒトのがんや慢性疾患を捉える有効なバイオマーカーが糖鎖に着目することで次々と発見された。たとえば、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を検出し腫瘍化する可能性のある細胞を除去する技術が糖鎖を認識するレクチン(タンパク質)を改良することで新たに開発された。
 糖鎖の歴史は長く、その影響は生命現象の隅々にまで及ぶ。糖鎖は重要だから存在するのではなく存在したから重要になったのだ。近年、米国科学アカデミーは糖鎖の底辺を前広にとらえ、医薬に止まらず食やエネルギー、さらには材料分野にまで及ぶ、いわばバイオ新大陸であることを宣言した。この観点は我が国の科学施策に欠けていなかっただろうか。あたかも、本邦の弾切れを待つかのようにして米国の糖鎖研究への投資が始まったのである。
 一方、2015年4月に発足した日本医療研究開発機構(AMED)は2016年1月、米国立医薬品食品衛生研究所(NIH)と難病等を対象にした包括協定を締結し、そのなかでとくに糖鎖に注力する方針を打ち出した。糖鎖が大化けする時代の到来である。ただし、糖鎖研究の躍進のために糖鎖に対する理解は欠かせない。糖鎖の深さと広がりをあらためて見つめ直すことが必要である。本書はそのために前著『糖鎖のはなし』をベースとして著したが、その際に新たなエッセンスを加えることにした。レクチンの話である。なぜ、レクチンかは本書を読み進むことによって理解いただけるだろう。どうか最後までお付き合い願いたい。

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