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技術大全シリーズ
ステンレス鋼大全

定価(税込)  3,672円

著者
サイズ A5判
ページ数 356頁
ISBNコード 978-4-526-07541-4
コード C3057
発行月 2016年04月
ジャンル 金属

内容

ステンレス鋼は、耐食性をはじめ普通鋼にはない種々の特性を活かして幅広い産業分野で利用されているが、加工が難しく、問題点の多い材料でもある。モノづくりに携わる人たちに必要なステンレス鋼の知識を長所ばかりでなく短所も含めて解説する。

野原清彦  著者プロフィール

(のはら きよひこ)
1962年 東京大学工学部冶金学科(現・マテリアル工学科)卒業
1962年 川崎製鉄(現・JFE スチール)(株)入社(技術研究所)
鉄鋼材料(含・非鉄金属材料)の基礎研究および新材料開発
塑性加工技術の研究開発(プレス加工、液圧加工、新加工法の開発)
1975年 工学博士号取得(「鉄二元合金の拡散の研究」東北大学)
1990年 同社理事・首席研究員
東京大学特別講師、早稲田大学非常勤講師、NHK 教育TV 講座講師、厚労省高度ポリテクセンター講師、経産省中小企業基盤整備機構派遣専門家
2003年 川鉄テクノリサーチ(現・JFE テクノリサーチ)(株)移籍(常務取締役)
中堅・中小企業支援および大学・国立研究所との共同研究
2005年 同社を退任。ケイエチ・テクニカルズ(株)設立(技術コンサルティング)

●著 書
「ステンレス鋼便覧」(日刊工業新聞社)、「鉄鋼便覧」(日本鉄鋼協会―電子版)、「非磁性鋼における最近の進歩」(日本鉄鋼協会)、「超伝導電力貯蔵システム」(国際超伝導技術研究センター)[以上共著]
“EPAC 96", Barcelona, 1996, (Institute of Physics Publishing); “Advances in Cryogenic Engineering Materials”, 1998, (Plenum Press);“International Metals Park", Ohio, 1998, (American Society for Metals);“IPAC 15", Jefferson Lab, Virginia, 2015, (JACow-Electronic Edition)[above each:Proceeding]

目次

はじめに

第1章 ステンレス鋼の基礎
1.1 ステンレス鋼の由来
1.1.1 物質の成り立ち
1.1.2 鉄の特徴と問題点
1.1.3 ステンレス鋼の出現
1.2 ステンレス鋼の鋼種分類と発展のあゆみ
1.2.1 ステンレス鋼の金属組織による分類
1.2.2 ステンレス鋼の発展のあゆみ
1.2.3 ステンレス鋼の規格
1.3 ステンレス鋼の製造方法
1.3.1 全体のプロセス
1.3.2 原料の手当て
1.3.3 製鋼工程
1.3.4 熱間工程
1.3.5 冷間工程・精製出荷工程

第2章 ステンレス鋼の用途
2.1 各種ステンレス鋼の用途
2.1.1 フェライト系ステンレス鋼
2.1.2 マルテンサイト系ステンレス鋼
2.1.3 オーステナイト系ステンレス鋼
2.1.4 二相系ステンレス鋼
2.1.5 析出硬化系ステンレス鋼
2.2 ステンレス鋼の用途分野
2.2.1 ステンレス鋼の用途分野の分類
2.2.2 身な用例

第3章 金属組織の基本
3.1 組織の観察
3.2 平衡状態図と金属相
3.2.1 鉄-炭素二元系平衡状態図
3.2.2 鉄-クロムおよび鉄-ニッケル二元系平衡状態図
3.2.3 鉄-クロム-ニッケル三元系平衡状態図
3.2.4 連続冷却変態線図および恒温変態線図
3.2.5 ステンレス鋼における多元金属組織図
3.3 結晶・単位格子
3.4 結晶系と対称性
3.5 ミラー指数
3.6 格子面間隔
3.7 結晶集合組織
3.8 格子欠陥
3.9 すべり変形および双晶変形
3.10 脆性破壊
3.11 金属の固体内変化

第4章 ステンレス鋼の材料特性
4.1 物理的性質
4.1.1 金属の物性理論
4.1.2 ステンレス鋼の物理的性質の種類
4.2 化学的性質
4.2.1 ステンレス鋼の腐食
4.2.2 局部電池
4.2.3 不動態化現象
4.2.4 鋭敏化現象
4.2.5 湿食
4.2.6 乾食
4.3 機械的・力学的性質
4.3.1 常温における機械的性質
4.3.2 高温における機械的性質
4.3.3 低温における機械的性質

第5章 ステンレス鋼の加工
5.1 板材プレス加工
5.1.1 板材プレス加工の基本要素
5.1.2 変形状態図
5.1.3 分離加工
5.1.4 非分離加工
5.2 熱処理
5.2.1 ステンレス鋼各系統種の熱処理
5.2.2 回復・再結晶
5.3 表面処理
5.3.1 機械加工による研磨
5.3.2 洗浄処理
5.3.3 塗装・ラミネート・保護フィルム
5.3.4 めっき
5.3.5 高温表面処理
5.3.6 ウェットプロセスによる表面処理
5.3.7 ドライプロセスによる表面処理
5.4 溶 接
5.5 切 削
5.6 潤 滑

第6章 ステンレス鋼に特有な現象
6.1 破壊現象
6.2 脆化現象
6.3 鋭敏化
6.4 フェライト系における現象
6.4.1 リジング
6.4.2 タテ割れ
6.5 オーステナイト系における現象
6.5.1 置割れ
6.5.2 加工誘起マルテンサイト変態
6.6 延性-脆性遷移
6.7 塑性異方性
6.8 σフェライト相の特徴
6.8.1 メリット
6.8.2 デメリット

第7章 ステンレス鋼の試験評価方法
7.1 JIS 規定による試験評価方法
7.1.1 素材の成分組成分析
7.1.2 検査文書
7.1.3 金属組織
7.1.4 物理的性質および化学的性質(耐食性)
7.1.5 機械的・力学的試験方法
7.1.6 プレス塑性加工性に関する試験方法
7.1.7 高温試験方法
7.1.8 その他の試験方法
7.2 結晶方位の測定
7.2.1 結晶方位関連測定情報の重要性
7.2.2 EBSD法による結晶方位測定

第8章 フェライト系ステンレス鋼の技術開発
8.1 フェライト系ステンレス鋼のリジングとタテ割れの改善
8.1.1 リジング
8.1.2 タテ割れ(二次加工脆化)
8.2 SUS304代替フェライト系ステンレス鋼
8.2.1 ステンレス鋼の原料事情
8.2.2 開発例
8.3 高純度フェライト系ステンレス鋼
8.3.1 不純物元素
8.3.2 非金属介在物
8.3.3 金属間化合物
8.3.4 高純化
8.3.5 IF鋼
8.3.6 開発例
8.4 自動車排気系部品用フェライト系ステンレス鋼
8.4.1 エキゾーストマニフォールド
8.4.2 その他の排気系部品
8.5 排気系以外の自動車用フェライト系ステンレス鋼
8.5.1 ガスケット
8.5.2 外装用装飾モール
8.6 オートバイブレーキディスク用ステンレス鋼
8.6.1 オートバイディスクブレーキの摩耗問題
8.6.2 材料開発
8.7 高耐食性フェライト系ステンレス鋼
8.7.1 高Cr系高耐食材料
8.7.2 Sn添加低Cr高純度フェライト系ステンレス鋼

第9章 オーステナイト系ステンレス鋼の技術開発
9.1 加工誘起マルテンサイト変態とその応用可能性
9.1.1 変態現象
9.1.2 メカニズムとデータ資料
9.1.3 組成依存性とセレーションの発生
9.2 Md30を考慮した良加工性材料の開発
9.2.1 成分設計
9.2.2 結果および効果
9.3 加工誘起変態を利用した「温間加工方法」の開発
9.3.1 材料と加工の相互関係
9.3.2 材料および加工特性と開発の考え方
9.3.3 結果と検討
9.4 加工誘起変態と耐疲労性の向上-「2 段階加工法」
9.4.1 疲労現象
9.4.2 自動車シートベルト用リトラクターゼンマイの疲労
9.4.3 駆動ベルトの製造法の開発
9.5 オーステナイト系耐熱ステンレス鋼「AYC鋼」の開発
9.5.1 開発の内容
9.5.2 開発の手段
9.5.3 諸耐熱特性の結果
9.6 表面改質事例
9.6.1 耐熱性改善の現況
9.6.2 新たなナノ表面改質の考え方
9.6.3 開発の結果
9.7 先進科学分野における開発・使用事例
9.7.1 核融合炉発電用構造材料の開発
9.7.2 円形素粒子加速用非磁性鋼の開発
9.7.3 線形素粒子加速器と先進プレス加工法の開発
9.7.4 その他の事例

第10章 ステンレス鋼の製造・利用に際してのトラブルと対策
10.1 トラブル発生の場としての製造現場
10.1.1 製造現場のあり方
10.1.2 企業の体制と変化
10.1.3 トラブル対策の留意事項
10.2 トラブル対策策定のための主要な観点
10.2.1 製造現場の技術連関
10.2.2 トラブル対策の流れ
10.2.3 ステンレス鋼の流通形態
10.3 トラブルの発生例
10.3.1 ステンレス鋼製造メーカーでのトラブル
10.3.2 需要家製造現場および最終利用者における腐食問題
10.3.3 ステンレス鋼のプレス加工関連トラブルと対策例
10.4 品質保証・知的財産(特許)

索 引

はじめに

ステンレス鋼は、専業メーカーにとってはいうまでもないが、銑鋼一貫メーカーにとっても高級鋼材として電磁鋼板や表面処理鋼板とならんで製品群の中で重要な位置を占めている。
 宇宙における諸元素の存在量から予想されるよりも1万倍も大量に存在し温度や成分組成によって性状が種々に変化する特徴を有する鉄の時代が始まって約4000年、この特徴を巧みに利用して鉄の最大の弱点である「錆」に対する抵抗性に優れたステンレス鋼が発明されてから約100年が経つ。
 今や、ステンレス鋼は身近な家庭用品をはじめ、あらゆる産業界、最先端「科学技術」分野にいたるまで、広範な用途に重用されている。同時に、素材の改良・開発および使用方法の改良・開発ならびに用途の拡大に注力が払われている。
 著者は川崎製鉄(現・JFEスチール)の技術研究所でステンレス鋼を含む鉄鋼材料を主体とした金属材料および先端科学技術用途にわたる広範な加工技術に関する研究開発に従事してきた。現在は国・県の公設機関や中堅・中小企業の技術支援・共同研究開発を行っている。これらの経験や知見を踏まえ本書を執筆した。素材・用途・使用方法が多岐に及ぶステンレス鋼の著述にあたり、以下の趣旨に力点をおいて本書をまとめた。
 第一に、読者のおもな対象を、大学・大学院生および企業(特に中堅・中小・ベンチャー企業)でステンレス鋼に関連する業務に従事する方々とする。
 第二に、本書の内容を記憶・理解・応用するための前提事項として「科学」と「技術」、「研究」と「開発」、「発見」と「発明」につき、それぞれ“差異性”と“同一性”を認識することが大切である。
 本来、「科学・研究・発見(理論を含む)」の目的は「真理の探求」にあり、アリストテレスやデカルトの「自然哲学」にあたるが、フランシス・ベーコン、ヒューム、リービッヒを経て、経験による認識を重視し、パラダイム(枠組み)の変換もあり得る「実在論」のうえに現代の自然科学が成り立つ。他方、「技術・開発・発明」の目的は、マホービンでも鉄道車両でも「具体的かつ明確な用途目標をもつ」ことで絶対に「科学」を必要とするが、「試行錯誤」にも頼る。これが「科学・研究・発見」との“差異性”である。
 しかるに、特に我が国においては、科学と技術は紙の表裏のように「科学・技術」よりも「科学技術」と見なされるのが一般である。科学は技術として早期に人間生活に役立つことが期待される。文部科学省には「科学技術(・学術政策)局」や「研究開発局」がある。これが“同一性”である。本書は「科学技術」同一性の観点から記述を行った。すなわち、科学と技術の連携に意を用いた。
 第三に、内容が起・承・転・結を意識した一篇のストーリーとなるように努めた。すなわち、第1、2章にステンレス鋼の現状と存在理由の要点に触れ、次いで第3、4、5、6、7章で、先人の研究開発に依拠する基本的事項を記した。特に、第3章では加工性・耐食性と関連する結晶学の一端を記載し、第6章ではステンレス鋼に固有な特徴についてまとめた。
 第8、9章では以上を基に、5種類からなるステンレス鋼生産の大部分を占めるフェライト系(一部マルテンサイト系を含む)とオーステナイト系における諸課題の解決事例ならびに素材・使用(加工)方法・用途開発事例を取り上げ、基本事項がどのようにその根幹をなしているか、また発明や知的財産(特許)につながるかを示唆するよう記述した。そして、ステンレス鋼の優れた面とともに未解決あるいは不詳な課題の存在にも言及した。
 第10章にステンレス鋼の素材製造・部品/製品/組立・流通・利用の各場面におけるトラブルの発生と対策について述べ、これらがまた知的財産(特許)を生み出す原点になり得ることに言及して、締めくくりとした。
 第四に、この材料を有効活用するには「素材+加工」の連関・綜合化が重用なことを強調した。その場合、仮説・定量化を重視すべきことを例示した。
 第五に、素材・利用法・最先端科学用途までの広い範疇に目配りした。また、著者の論文や特許関連を含む諸文献を、重複を厭わず各章末に付した。
 本書がステンレス鋼について学び、あるいは実際に製造・利用の場に関わる読者に資することになれば幸いである。
 最後に、本書を執筆するにあたり、適切な助言をいただいた日刊工業新聞社出版局書籍編集部の森山郁也氏に深謝申し上げます。

2016年4月   
野原 清彦 

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