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会社を立て直す仕事

定価(税込)  1,620円

著者
サイズ 四六判
ページ数 224頁
ISBNコード 978-4-526-07529-2
コード C3034
発行月 2016年02月
ジャンル 経営 ビジネス

内容

不振企業を立て直すのに重要なのは、「目指すべき着地点はどこなのか」を見極めること。次に「そこに向っての攻め方」を明らかにすること。本書は、一般的な経営論でなく、実践を通じた具体的な不振企業立て直しのノウハウを事例を引き合いに出しながら、優良企業へ生まれ変わらせるための方法論を解説していく。

目次

はじめに  

第1章 三重苦を抱える不振企業を復活させる  
1 ベンチャー企業・伝統的大企業の2つのターンアラウンド  
2 ターンアラウンドは単なるコスト削減活動ではない  
3 ターンアラウンドに求められるもの  

第2章 水面下からの逆転経営 ターンアラウンド2つの事例  
1 IT系ベンチャー出版社の場合  
2 A社を復活に導いた変革プログラム  
3 日本経済の成長とともに拡大した伝統あるメーカーの場合  
4 B社を復活に導いた変革プログラム  

第3章 2つの事例から学ぶターンアラウンド成功の鍵  
◆確実な利益成長のアプローチである「Shrink to Grow」の採用  
◆マーケティング課題にこだわらず、良き企業となるための課題にベスト・プラクティス指向で取り組む  
◆テイラー・メイドな改革アプローチと施策  
◆成果の牽引力としての自律的な課題解決ガバナンス  
◆変革成功の4条件の徹底的な充足  
◆ターンアラウンドは上流工程が「命」  

第4章 変革の進め方とターンアラウンド・マネジャの役割  
1 第一の役割は、数年にわたる「変革の設計者(Architect)」  
2 第二の役割は、「変革の実行者(Executor)」  
3 第三の役割は、株主、経営陣、現場をつなぐ「翻訳者(Translator)」  
4 第四の役割は、「基準設定者(Standard Setter)」  

第5章 変革のリーダーとしての要件  
1 要件とスキル・セット  
2 経営コンサルタントとの違い  

付 録  
3つの重要な経営用語の定義  
質疑応答集  

おわりに  

はじめに

 私は人から「企業再建請負人」と呼ばれることがある。
 
私が職業としているのは「ターンアラウンド」を成功させること、すなわち、不振企業の立て直しである。そんな私が不振企業に出向いてまず最初に直面するのが、不振企業の最後の姿、すなわち、これまでの改革が空転し、業績が一向に上向かないのみならず、このままの状況で推移すればいずれは倒産しかねない、あるいは、会社の倒産まではいかないまでも顧客が離れはじめ、競合他社との差は広がるばかりで、核となる人材の流出リスクがますます高まっている、といった極めて切迫した状況である。ある意味、極限状態の中で立て直しを成功させなければならないシチュエーションに直面する。つまり、「今度こけると後が無い」という状況だ。したがって、単にその場その場でできることをやって延命するというよりは、真の病巣や起きている事象を深く、かつ、体系的に捉えたうえで、確実に、しかも早期に変化・成果を出す、そういうことが求められる。

 世の中にはマネジメント・イノベーション(経営革新)という言葉があるが、ややもすると、ベンチャー的な事業や企業における独創的な振る舞いであったり、派手な新製品開発課題だったり、どちらかというと「ちょっと飛び跳ねた話」にスポットが当たりやすい。また、Intellectual Property(知的財産権)をいかに利用して組織の力を高めるのか、という領域にイノベーションという言葉が使われがちである。しかし、実を言うとターンアラウンドもイノベーションの立派な一領域なのではないかという気がする。どういう領域かと言うと、企業変革を体系的に捉えてどうやって確実な変化、成果を出せばよいのか、それをいかに設計し、実行していくのかは、マネジメントにとっての普遍的な課題であり、その捉え方や方法論はイノベーションそのものなのではないかと感じている。

 そのターンアラウンドをリードするターンアラウンド・マネジャはまさに企業変革における「必殺仕事人」と言ってもおかしくない。このターンアラウンド・マネジャとして話題になったのは、例えばIBMのガスナー氏や、日本で言えば日産のゴーン氏の名前が記憶に新しい。彼らがリードしていた、あるいは、今もリードしている改革はまさにマネジメント・イノベーションであるからこそ、多くの経営者が手本としているのではないだろうか。

 近年日本では、企業買収事例数が徐々に積み上がっている。そして、その成功や失敗の事例を通じて、ターンアラウンドのあり方は以前よりは明らかになってきて、その中でも金融的なスキームや法的な側面については様々なパターンが共有化されるに至っている。

 しかし、不振企業を実際どう変革するかの要諦、すなわち、普遍的な捉え方や方法論が「マネジメント・イノベーションとして積み上がってきているか」という視点から見ると、いささか心もとない。特に全体感がよく掴めない。この理由のひとつには、全体観のある捉え方や方法論の記述がないまま、個別の事例紹介に終始していることがあるのではないだろうか。つまり、ゴーン氏はこうやったとか、稲盛氏はこうやったとか、この企業ではこういうことをやったといった、「個別事例の説明」に終わっていることが多いのだ。

 また、二つ目の理由として、変革に成功した人によっては、ターンアラウンドの処方箋としてドラッカーの理論に代表されるような「マネジメントの基本原則」をたくさん解説してくれる方がおられるが、これは一般論過ぎて、「このターンアラウンドの状況」にいかに適合するのか、ピンとこない。ドラッカーの理論は、ある意味いつの世にも通用する普遍的なもの、有用なものが多いが、それを説明されても、それぞれの状況に適合した「腑に落ちた感じ」がしないのは私だけだろうか。「それは別にターンアラウンドの局面でなくとも当たり前」という気がしてしまうのだ。実際、私がいくつかの企業でのターンアラウンドをリードし、その中で他社事例の研究を含め、多くのメディアに接して強く感じたのは、個別の説明や、一般的なことを言っている場合が多くて、決して全体像が見えた感じがしないという感覚である。

 こういう想いの中で、今回執筆に至ったのは、実際に私が実践者として体験した、どうやって変革を起こし、成果を上げていくのかを「再現性のある捉え方や方法論にまとめ上げる」という試みを書籍として残しておきたいという理由である。本稿の議論の中心はターンアラウンド、いわゆる、不振企業の立て直しだが、考え方の適用範囲はかなり広く取れる。すなわち、ベンチャー企業であっても、あるいは、不振とは言えない「普通にやっている会社」でも適用できるであろうし、また、対象となる読者も、変革を率いる一部のトップ・マネジメントだけでなく、変革の実践でカギを握るミドル・マネジメントの方々、あるいは、これから何らかの大きなリーダーシップをとる人、何らかのチームで作業している人、そのリーダーシップをとる人、そういう人たちの大きな舵取りにも相通ずるものがあると確信している。広くは、世の中の変化に柔軟に対応して次のステップアップをしようとしている経営者、それから中間管理者としてこれからリーダーシップをとり、会社を良くしていく、チームを良くしていく、これは企業の世界だけでなく、スポーツやNPOの世界でも同じことだと思う。これから話をするのは優れた組織とはどういうものか、それに向けてどう変革をしたか、ということであり、本質は何も変わらないと私は思っている。

 したがって本書では、ターンアラウンドの金融的スキームや法的な側面ではなく、企業をどのように変革するのかに焦点を当てて議論をさせていただくこととしたい。

 本論第1章では、ターンアラウンドに求められるもの、すなわち、ターンアラウンドが必要な状況とはどういうもので、その成功には何が求められるのかを明らかにする。これはターンアラウンド成功の落としどころは何処かを明らかにすると言い換えてもよい。

 第2章では、2つのターンアラウンド事例を紹介し、続いて、第3章では2つの事例から見えてくるターンアラウンド成功への鍵について解説する。

 第4章では、ターンアラウンド成功に向けて、実際の改革の進め方と変革のリーダーとしてのターンアラウンド・マネジャはどんな役割を果たすのかについて述べる。

 そして、第5章においては、ターンアラウンド・マネジャとしての実践経験をもとに、その要件を明らかにしていきたいと思う。その中で、私の前職であった経営コンサルタントとの違いも述べてみたい。

 そして最後に、皆さんのご理解の一助となればということで、これまでに私が行った講演会や勉強会で出てきた質疑応答をいくつかご紹介したい。さらに、本書で頻繁に登場する、「戦略とオペレーション」、「組織」、「マーケティング」の定義についてもここにまとめた。これらの用語について再確認をしたい読者は本論に入る前に一読されることをお奨めする。


2016年2月

小森哲郎

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