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PM2.5の科学

定価(税込)  1,944円

著者
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サイズ A5判
ページ数 180頁
ISBNコード 978-4-526-07509-4
コード C3050
発行月 2016年01月
ジャンル 環境

内容

冬になると話題に上る「PM2.5」だが、その正体や対策については十分に理解されていない。大気観測の第一人者がPM2.5の定義、発生原因、対策方法などを科学的根拠と豊富なデータに基づいて解説。医学的な見地からの健康影響についても識者への取材をもとに収録した。

目次

序 章 PM2.5はなぜそれほど問題か 1
火山噴火の影響で、大気中のPM2.5濃度が上昇/日本のPM2.5の半分以上は大陸から飛来したもの/PM2.5は、人々の健康にどんな影響を及ぼすか/PM2.5問題には、なぜ科学的知識と正しい理解が必要か



第1章
 PM2.5とは何か-その定義と環境基準の取り組み

1.1 PM2.5とはどのようなものか、粒径の大きさで定義

1.2 PM2.5に関する本格的な調査研究は、
1970年代に米国で始まった

1.3 米国、EU、WHOのPM2.5の大気環境基準の設定と取り組み

1.4 日本のPM2.5環境基準と注意喚起暫定指針の設定
1.5 PM2.5と世間でよく耳にする光化学スモッグとはどう違うのか

第2章 
危惧されるPM2.5の健康影響について

2.1 PM2.5の健康問題でなぜ科学的根拠が必要か

2.2 公害問題の原点「四日市公害」から何を学ぶか

2.3 健康影響を調べるには「疫学調査」と「動物実験」が必要

2.4 喘息発症の原因はNO2でなく、ディーゼル車から出るDEP

2.5 体内の細胞を損傷し、病気を発症させる元凶は「活性酸素」

2.6 アルツハイマー病の発症や生殖系への影響

2.7 高齢者、小児、既往歴者ほどPM2.5の健康影響を受けやすい

2.8 PM2.5から身体を守るにはどのような健康対策が必要か



第3章 
PM2.5はどこから発生し、
どんな微粒子か

3.1 発生源は国内か国外か、一次生成粒子と二次生成粒子
3.2 自然起源と人為起源、物理的性質と化学的性質

3.3 硫酸塩と硝酸塩、元素状炭素(EC)と有機炭素(OC)

3.4 ディーゼル排気粒子、多環芳香族炭化水素、ナノ粒子
3.5 タバコの煙は典型的なPM2.5、健康に大きな影響を及ぼす

3.6 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は喫煙が原因の「タバコ病」


第4章 
PM2.5はなぜ遠くまで飛来するのか
-越境飛来メカニズムと観測ネットワ-ク

4.1 中国は世界一の石炭消費国、石炭燃焼で排出される汚染物質

4.2 中国大陸で発生したPM2.5はどのように日本に飛来するか

4.3 黄砂やPM2.5が飛来しやすい季節や時期、気象条件
4.4 長距離輸送中に酸化反応して、PM2.5の酸性度は高まる

4.5 地上観測、航空機観測、衛星観測による観測態勢

4.6 ライダーを用いた国際的なモニタリングネットワークの構築
4.7 数値モデルを使ってシミュレーション予測できること、
できないこと



第5章 
PM2.5濃度はどのように測りますか
-測定方法について

5.1 PM2.5濃度の測定単位は、重量濃度(μg/m3)で表示

5.2 大気中のPM2.5濃度を正確に測るのは意外に難しい

5.3 PM2.5をどのように測るか-標準測定法による規格化

5.4 標準測定法と等価測定法(自動測定法)

5.5 自動測定機を用いたβ線測定法、フィルター振動法、光散乱法

5.6 PM2.5の発生源を特定するには、
詳細な成分分析が欠かせない



第6章 
PM2.5の拡散をどう防止するか
-規制措置と国際協力

6.1 PM2.5など粒子状物質の拡散をいかに防止するか
-発生源対策が大切

6.2 PMやPM2.5の拡散防止に向けた規制措置
-国内の発生源対策①

6.3 ディーゼル車から排出されるDEPの規制措置
-国内の発生源対策②
6.4 中国のPM2.5汚染、改善進むか!発生源対策が大事
-国外の発生源対策①
6.5 越境汚染防止には、国際協力・協定・条約の取り組みが必要
-国外の発生源対策②



第7章 
PM2.5を防ぐにはどんな対策グッズが
ありますか

7.1 PM2.5を防ぐための屋外対策と屋内対策について
7.2 マスクはN95タイプかDS2タイプを使用、
不織布マスクも一定の効果

7.3 HEPAフィルター付き空気清浄機が主流、
メンテナンスは簡単なものがよい

7.4 掃除機は紙パック式かサイクロン式か、
布団クリーナーに必要な3つの機能

7.5 外干しを望まない人には、乾燥機能の優れた
ドラム式乾燥洗濯機




終 章 きれいな大気を取り戻し、新しい経済のかたちをつくる

大気汚染に対するリスク対策-予防対策がもっとも安価で効果が大きい/大気環境の改善は一国では不可能、根本解決にはエネルギー転換が必要/きれいな大気を取り戻し、地球環境の循環システムを豊かにする新しい経済



あとがき

はじめに

序 章 PM2.5はなぜそれほど問題か





⑴火山噴火の影響で、大気中のPM2.5濃度が上昇

 日頃私たちの周りには、大気汚染、水質汚染、放射性汚染、地震、火山噴火など環境問題の話題に満ちあふれています。とくに、近年は日本列島のあちこちで火山活動が非常に活発化しており、その影響が心配されます。

 日本は世界有数の火山国であり、活火山が北方領土や海底火山も含めると110もあり、その数は世界第2位です。最近では、桜島(鹿児島県)、御嶽山(長野県)、口永良部島(鹿児島県)、阿蘇山(熊本県)、浅間山(長野県・群馬県)、箱根山(神奈川県)などで、大規模な火山噴火や火山活動が起こっています。火山噴火では、溶岩流・火砕流・土石流による直接被害だけでなく、大量の火山ガス・火山灰の放出によって起こる大気汚染や健康被害への影響も懸念されます。

 火山噴火で放出される火山ガスや火山灰には、大量の水蒸気の他に、二酸化炭素(CO2)、二酸化硫黄(SO2)、硫化水素(H2S)などの有毒な化学物質や、PM2.5のような粒径の極めて小さな微小粒子状物質(Particulate Matter)も含まれます。PM2.5とは、粒径が2.5μm(2.5mmの1000分の1、髪の毛の30分の1)以下の微小粒子状物質を言います。それは、単一の化学物質ではなく、有機炭素、硫酸塩、硝酸塩、金属などを主成分とするさまざまな混合物質です。

 2013(平成25)年11月に、気象庁気象研究所から注目すべき観測結果が発表されました。鹿児島県の桜島の噴火によって放出されたSO2を含む火山ガスは風に乗って流され、九州だけでなく関東、東海まで広がり、PM2.5の濃度を上昇させる一因になっているとの報告が発表されました(写真0-1)。これまで、中国からの越境汚染が要因とされてきたPM2.5ですが、噴火によって放出された火山ガスや火山灰が化学反応して粒子化し、PM2.5の濃度が上昇したことで、火山噴火とPM2.5の濃度上昇に相関性(因果関係)があることが明らかにされました。

 日本は世界有数の地震国であると同時に火山国でもあります。国民は地震とともに火山活動にも強い関心を抱き、身近なテーマとして捉えています。日本を覆うPM2.5の半分以上は中国大陸で発生したものですが、PM2.5の発生は中国(大陸からの飛来)だけが原因ではない。国内の火山活動もPM2.5の発生・濃度上昇に影響を及ぼしています。とくに、大量の火山ガスや火山灰に覆われた地域では、火山噴火によってPM2.5の濃度が上昇し、人々の日常生活や健康にどのような影響があるのか。近年日本列島の火山活動が非常に活発化していることから、火山噴火とPM2.5との相関性を科学的に明らかにする継続した観測調査と広域データの精密な分析がますます重要になります。


⑵日本のPM2.5の半分以上は大陸から飛来したもの

 日本のPM2.5は、中国大陸で発生し日本に飛来したものが半分以上を占めます。とくに中国で発生するPM2.5は、企業や家庭で不純物の多い石炭を使用しているため、硫酸塩や硝酸塩に混じって有害な有機化合物や鉛やヒ素なども含まれ、身体への健康被害が懸念されます。不純物の多い石炭を使用していることもあって、中国の火力発電所や工場から排出されるNOXの排出量は日本の10倍以上ですし、SO2の排出量は世界一です(図0-1)。

 現在、中国の大気汚染状況がいかに深刻なレベルにあるか。たとえば、2015年2月18日夜、在中国米国大使館が発表したPM2.5の測定値によれば1,000μg/m3を記録し、最悪レベルでした(日本でのPM2.5の環境基準値は1日平均濃度35μg/m3)。この日はちょうど旧正月の春節に当たり、春節を祝う爆竹や花火も重なってPM2.5の濃度が上昇したこともありますが、いずれにしても中国の大気汚染状況は極めて深刻です。中国の北京や上海など大都市では、スモッグなど大気汚染がひどく景色がかすんで先が見えない状況はしばしば起こります。

 中国大陸から長距離飛来するものと言えば、まず黄砂が思い浮かびます。黄砂は3月~5月ごろ偏西風に乗って長距離輸送され、日本に飛来します。黄砂の発生源は中国内陸部やモンゴルですが、長距離輸送の途中でPM2.5などさまざまな有害物質が付着して汚染されます。汚染された黄砂を体内に吸い込めば、気管支炎、喘息、肺気腫など呼吸器系障害を起こす危険性がありますので、十分な注意が必要です。

 日本は以前から中国からのNOX(窒素酸化物)やSOX(硫黄酸化物)などによって森林被害を受けていると言われ、そのため排ガス規制や大気汚染防止などの取り組みを中国政府に申し入れ、技術協力を表明してきました。黄砂など自然起源の発生を抑えることは難しいことですが、PM2.5など人工起源のものは政府が本当にやる気になれば、その発生を抑えることは十分可能です。

 日本国内で発生するPM2.5は、大気汚染防止法や環境規制など国内法などできちんと抑えることはできますが、大陸で発生し飛来してくるものを抑えることはできません。そこは、発生源となる中国政府が自分たちの国民を守るために、どれだけ本気になってPM2.5対策に取り組むかに掛かっています。いったん大気中に拡散したPM2.5を防止したり、排除することは不可能です。大気中に拡散する前に、PM2.5の発生源をいかに抑えるか、発生源対策がPM2.5対策ではもっとも大切です。

 中国は2022年北京で冬季オリンピック開催を目指していますが、その際の最大の課題はPM2.5など大気汚染対策です。そのため、中国政府は2015年~2019年までの5年間の総合的な大気汚染対策「大気汚染防止行動計画」を打ち出しました。その中身は石炭依存率を65%にまで低下させようとするものですが、しかし2010年時点で石炭依存率が66%ですので、石炭依存率65%はほとんど削減目標になりません。これでは、大気汚染対策に取り組む中国政府の本気度が問われます。

 2015年4月末上海で、日本・中国・韓国の環境相会議が開催され、そこでPM2.5を共同で観測し、広域データを共有・分析できるようにする「2015年から19年まで5カ年の共同行動計画」が打ち出されました。観測方法を統一して、含まれる化学物質などをより高精度に分析・活用できる協力体制の構築を目指すもので、日本は環境規制の取り組みや地方自治体の環境行政の経験・ノウハウも提供します。こうした国際共同プロジェクトが果たしてどのような成果を上げるか、世界中が注目しています。
 
海外で発生し、国境を越えて拡散するPM2.5対策には、国内だけの取り組みには限界があります。関係する各国政府が連携して、どれだけ本気になってPM2.5問題に真剣に取り組むか、国際的な協力態勢が重要なカギを握ります。


⑶PM2.5は、人々の健康にどんな影響を及ぼすか
 
PM2.5は、火山活動や土壌、植物の花粉、黄砂のような自然の営みから発生するもの(自然起源のもの)もあれば、自動車などの排気ガス、ボイラーや焼却炉から出る煤煙、鉱物の堆積場から出る粉塵、塗装など人間の営みから発生するもの(人工起源のもの)もあります。また、大陸から飛んでくるものもあれば、国内で発生するものもあります。

 PM2.5の発生源はいろいろあり、何でできているか主成分の組成もいろいろ異なります。それらを正確に選り分けるのは時間と労力が掛かり、とても不可能なことです。そこで、現在では粒径の「大きさ」でPM(微小粒子状物質)の種類をふるい分けています。たとえば、PMの中でも粒径が10μmより小さいものはPM10(SPM)とか、2.5μm以下のものはPM2.5とかいったように。いずれにしてもPM2.5のような微小粒子状物質はどこにでも発生して、空気中に普通に存在するものです。

 PM2.5には、硫酸塩、硝酸塩、有機化合物、煤(すす)などが含まれています。硫酸塩や硝酸塩は、それぞれガス状のSOX(硫黄酸化物)とNOX(窒素酸化物)が空気中で変化して粒子化したものです。大部分は1μm以下の微小微粒子で、PM2.5の中でもとくに小さな部類に入ります。その他、不純物の多い石炭を燃焼した時や、ディーゼル車の排気ガスや排気微粒子(DEP)など、微量ですが発がん性のある多環芳香族炭化水素(PAH)なども含まれます。

 これらの含有物質の環境濃度が上昇した場合、人間の健康にどのような影響を及ぼし、どの程度危険なのか。これまでにさまざまな疫学調査やラットなどによる動物実験によって、病気や疾患の発生頻度や分布状況、原因物質の特定、因果関係や発症メカニズムなどが解明されてきました。

 PMでも粒径の大きなもの(10μm以上)は、呼吸する際に鼻毛で捉えられたり、のどの粘膜に付着して気管支や肺の奥まで入り込むことはめったにありません。しかし、PM2.5のような粒径が2.5μm以下の微小な粒子状物質は、気管支や肺の奥深くまで入り込んで気管支炎や気管支喘息、肺炎などさまざまな呼吸器系障害を引き起こします(図0-2)。それだけではありません。これら微小微粒子は血液に取り込まれて各器官に運ばれ、循環器系や脳神経系、さらには生殖系器官にさまざまな悪い影響を与え、健康被害をもたらす可能性が懸念されます。

 PM2.5のような微小微粒子はいったん気管支や肺の奥深くに流入し、また血液中に取り込まれたら、それらを排出するのは極めて困難です。体内に入ったPM2.5は器官内部に沈着してさまざまな健康障害を引き起こし、疾患をもたらします。


⑷PM2.5問題には、なぜ科学的知識と正しい理解が必要か

 PM2.5問題は、これまで誤った情報提供やネガティブな報道がなされたこともあって、誤解や偏見が生まれやすいのです。たとえば、「PM2.5はもっぱら中国から飛んでくるもの」「夏になれば気にしなくてもよいもの」とか。あるいは「PM2.5をごく僅かでも吸い込めば、すぐに気管支炎や喘息になる」「PM2.5には発がん性物質が含まれており、少量でも吸い込めばがん発症のおそれがある」とか。さらには「PM2.5が僅かでも付着した食品を食べたら、健康に悪影響がある」とか。こういった誤解や偏見が結構ありますが、それらをただすには、どうしてもPM2.5問題に対する科学的な知識と正しい理解が必要です。

 PM2.5のような粒子状物質は、戸外でも、室内でも、どこにでも、季節を問わず年中大気中に漂っていて普通に存在しているものです。確かに、日本のPM2.5は中国から飛来したものが圧倒的に多いのですが、自然起源にせよ人工起源にせよ、国内で発生したものも結構あります。決して中国だけがPM2.5の発生源ではありません。

 空気中のPM2.5を少量吸ったからといって、すぐに気管支炎や喘息になるわけではありません。確かに、高濃度のPM2.5を長期間にわたりたくさん吸い続ければ、気管支炎や喘息など、さまざまな疾患を発症します。PM2.5には発がんリスクのあるPAH(多環芳香族炭化水素)のような有毒物質が微量含まれていますが、僅かな量なのでそれだけで健康に悪影響を与えることはありません。

 大切なことは、大気中PM2.5の環境濃度が、健康に影響のない許容範囲のレベルであるかどうかにあります。許容範囲のレベルなら別段問題はありませんが、許容範囲を超えた高濃度のレベルであれば、当然健康に悪い影響を与えます。

 食品の安全についても、PM2.5で食品が汚染されることはありません。少量のPM2.5が付着した程度なら水洗いで取り除かれ、健康に問題はありません。万が一、少量のPM2.5が付着した食品を食べたとしても、消化液中の塩酸や酵素などで分解されますので、健康に直接影響を与えることはありません。
PM2.5は、人間の目に見えない微小な粒子状物質ですので、どうしてもさまざまな心配やリスクが先立ち、誤解や偏見に陥りやすい傾向にあります。そうかといって大気中のPM2.5のような微粒子を完全にゼロにすることはできません。科学的知識と正しい理解でもって、PM2.5と上手に付き合っていくことが大切になります。

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