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IEパワーアップ選書
現場が人を育てる

定価(税込)  2,160円

編者
編著
編著
編著
サイズ A5判
ページ数 176頁
ISBNコード 978-4-526-07461-5
コード C3034
発行月 2015年11月
ジャンル 生産管理

内容

日本の製造業が誇るモノづくり力を再確認する好評「IEパワーアップ選書」シリーズ第2弾。製造現場を改善し続けていける人財をいかに育成するか。その体系を先進3社の事例にならい、わが国IE研究の第一人者である著者らが成功の勘どころをズバリ解説する。

河野宏和  著者プロフィール

(こうの ひろかず)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 委員長・教授
慶應義塾大学ビジネス・スクール 校長
「IEレビュー」誌 編集委員長

篠田心治  著者プロフィール

(しのだ しんじ)
成蹊大学理工学部システムデザイン学科 教授
「IEレビュー」誌 副編集委員長

斎藤 文  著者プロフィール

(さいとう あや)
産業能率大学情報マネジメント学部 教授
「IEレビュー」誌 副編集委員長

目次

はじめに  

第1部 人が育てば現場も強くなる
1 どうすれば現場力を強くできるのか?  
2 「現場で人が育つ」ためには?  
3 「人が育つ」3つの職場  


第2部 事例から読み解く人づくり
第1章 基本を徹底し、さらなる高みをめざす現場  
基本を徹底する活動 ~トヨタ車体  
IE教育を徹底した柔軟な生産ラインづくり  

第2章 改善案がどんどん出てくる現場  
全員の夢を実現する活動 ~キユーピー  
現場の改善活動を支える中核人材の育成と現場での取り組み  

第3章 全員で良いものを造り、改善し続ける現場  
あるべき姿を追求する活動 ~セキソー 
全員で良いものを造る活動  あるべき姿を追求する活動 ~マルヤス工業  
「良品条件とワークヘッド」に着目して設備も改善  


第3部 人づくりはこうして進めよ
第1章 「標準を守る人」を育てる組織の仕組みを探る!  
1 基本なくして改善なし ~トヨタ車体 いなべ工場  
2 標準が守られない現場  
3 5ゲン・6S・コミュニケーションによる標準づくり  
4 活動プロセスを支えてきた想い  
5 同社の活動から見えてくる人材育成のポイント  

第2章 中核人材が育つ「夢多採り活動」を探る!  
1 1人ひとりにスポットを当て、
  モチベーションを上げる ~キユーピー 中河原工場  
2 品質トラブルから夢多採りへ  
3 小さな活動を重ねて夢を実現  
4 1人ひとりへの感謝から  
5 同社の活動から見えてくる人材育成のポイント  

第3章 「いきいきした職場」が生まれる秘訣を探る!  
1 現場で働く人に誇りと連帯感をもたらす
  ~マルヤス・セキソーグループ 岡崎工場  
2 全員で良いものを造る活動の背景  
3 座学と実践を繰り返すMF研修  
4 活動プロセスで工夫している点  
5 同社の活動から見えてくる人材育成のポイント  

第4章 「現場が人を育てる」とは 
1 3社に共通することを探る  
2 改めて実践の重要さを噛みしめる  




参考文献  

はじめに

 
2020年のオリンピック・パラリンピック開催地が東京に決まり、2014年には訪日外国人の数が過去最高を記録するなど、明るい話題に日本国内では景気回復への期待が高まっている。為替レートが円安に動く中、生産拠点を海外から国内に戻す大手メーカーの事例が報告されるなど、製造業の国内回帰も期待されている。しかし一方では、為替レートの変動、中東の政治動向、EUや中国経済の先行き、TPPのインパクトといった要因により、マクロ経済環境は急激に変化する傾向にあり、将来の状況を予想し、生産戦略を決定していくことは容易ではない。

 こうした経営環境の変化は、多くの企業にリスク回避を優先した短期的な施策を求める傾向にある。しかし、基本的に企業、特に顧客への供給責任を負っている生産企業は、いかなる環境変化があっても、それらの変化に対応しながら事業を継続していく使命がある。合併や買収といった戦略的行動も選択肢として有効ではあるものの、それぞれの企業活動の背後に、多くの従業員や株主などのステークホルダーがいることを考えれば、企業の安定成長に対する期待は以前より大きくなっていると言える。

 特に、モノづくりをベースとする製造業においては、提供される製品が顧客に約束したQ(品質)、C(コスト)、D(納期)を恒常的に実現することが求められており、複雑かつ困難な条件への現場の対応力が企業の存続を左右する。環境変化を先取りし、柔軟に対応できる現場の力を強化していくために、現場の見方・考え方を鍛えるのがIE(インダストリアル・エンジニアリング)の役割である。

 私たちは、本シリーズの前著『現場力を鍛える』において、現場力とは、「顧客に約束したQCDを守り、環境変化を先取りして改善を続ける力」であると考え、IEをどのように活かせば「強い現場」を実現することができるか、現場力を鍛えることに成功している5社の事例を取り上げ、その成功要因と大切な視点について考察した。

 前著で私たちが導き出した現場力を鍛えるための基本要素は下記の6項目であり、IEの基本要素を徹底し、それを現場が実現し遵守していくことが大切であることを示した。

①あるべき姿と現状を対比して現状のムダ・ロスを抽出すること

②そのために現状を見える化・可視化してムダ・ロスを定量的に把握すること

③標準作業手順と標準時間を定め、誰もがその標準を守ることができるように教育・訓練すること

④様々な問題発見や改善のための問いかけや原則、さらには設計的アプローチを用いて、現状作業を改善していくこと

⑤それらの改善が実施されたら、直ちに標準作業手順や標準時間を改訂すること

⑥あるべき姿・ありたい姿を描き、それを実現するために全社員がその力を結集すること

 こうした改善活動を、環境変化に対応するために後追い的に行うのではなく、顧客が求めるQCDをより適切に満足するため、変化を先取りして進めることが大切であり、そうした姿勢が企業の競争力を強化する鍵になる。

 IEの考え方を実践していくためには、各企業・組織の中に、現場力の大切さを理解し、現場での活動をサポートする人、現場で自ら先導していく人がいなければならない。そして、そうしたリーダーが現場の作業者と密にコミュニケーションをとり、生産することに追われがちな現場を支援し、モノづくりの職場を活性化していかなければならない。そのためには、労働環境が多様化していく中で、外部の人材や短期雇用の人たちを含め、どのような人材が必要なのだろうか。そうした人を育成していくために必要な活動、仕組みや働きかけはどのようなもので、そのベースとなる「IE教育」をどう展開していけばよいのだろうか。

 加えて、近年では加工・組立・検査など技術が高度化しており、それに応じて教育内容を見直していくことが必要である。特に、精密加工やITの高度化は多くのマスコミで取り上げられ、モノづくりの将来が大きく変容するという報告も見られるが、こうした技術開発を進め、それを生産プロセスで実際に運用していくのは「人」である。顧客が求めるQCDを実現するためにITを有効活用するには、現場の状況を適切に理解した上でシステムを開発・管理していく人材を育成しておくことが不可欠になる。

 IEパワーアップ選書の第二弾となる本書では、製造現場での人材育成に成果を上げている企業の事例を深掘りし、IEの考え方がどのように現場で人を育てることに結びついているか、そのプロセスを紹介することをねらいとしている。ただし、人材育成とは、採用から育成、処遇、昇進といったキャリアパスを広く含有する言葉である。また、教育の側面だけを捉えても、OJTやOff–JTでの様々な体系・内容・仕組みが関係している。本書では、そうした一般論を広く扱うのではなく、現場で作業に当たる作業者(ライン)、その管理監督者、そして彼らの改善活動をサポートするスタッフを対象とした人材育成の取り組みを取り上げ、現場での実践的な活動を通じて、彼らの能力が高まり、視点や考え方が変わり、それが結果として現場の力を強化していくプロセスに着目している。「現場で人を育てる」というだけでなく、「現場が人を育てる」ことに着目していると言ってもいいだろう。



 本書は、日本IE協会の協会誌『IEレビュー』にケース・スタディとして近年掲載され、「現場が人を育てる」というテーマに合致している3社の事例を中心に構成したものである。

 第1部では、現場力の意味、現場力を強化するためのIEの役割、現場で人材を育てることの意義など、本書のベースになる考え方を整理して説明している。特に、あるべき姿と現状を対比した2つの改善アプローチ、座学による知識・手法の学習と現場での実践の両輪によるIEの見方・考え方の体得、標準と改善のサイクルの関係、現場重視の視点などを示し、「現場が人を育てる」フレームワークを提示している。これらの視点は、製造業に限らず、第1次産業や第3次産業にも適用可能なものである。

 第2部では、『IEレビュー』誌に掲載されたケース・スタディを紹介している。取り上げたのは、トヨタ車体、キユーピー、マルヤス・セキソーグループである。これらの3社は、いずれも「顧客のQCDを満足するモノづくり」を実現するために、そこに携わっている「人」を育てることに注力し、IEの考え方をベースにして現場で人材の育成を続けている。「基本を徹底し、さらなる高みをめざす現場」(トヨタ車体)、「改善案がどんどん出てくる現場」(キユーピー)、「全員で良いものを造り改善し続ける現場」(マルヤス・セキソーグループ)というようにそれぞれに表現は異なっているが、本書のテーマである「現場が人を育てる」という着眼点は共通しており、ケース・スタディに具体的な展開例がまとめられている。

 続く第3部では、第2部で紹介した各社の『IEレビュー』誌掲載以降の状況を知るため、現場を訪問・インタビューし、その内容を報告している。「現場でどんな人材が育成されているか」に焦点を当て、「人材(あるいは人財)」に対する考え方や教育体制、工夫点などについて改めて各社に取材した。特に、各社の活動の背景、ケース・スタディに書かれている以外に特徴的な人材育成の活動、活動プロセスを進めていく上での熱意や想いを中心にインタビューの内容を整理している。その上で、第1部での議論、第2部での事例紹介と企業取材から見えてきたポイントを整理している。3社のいずれについても、ケース・スタディ掲載時から現在まで活動が継続していることに着目し、活動内容や工夫を読み解いてほしい。


 各社の事例から、「人材が育つ現場」がこれからの経営に与えるインパクトを改めて見つめ直し認識していただき、本書を、自社での人材育成やIE活動のヒントとして活用していただければ幸いである。



2015年10月

編著者一同

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