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鉄道と自然災害
列車を護る防災・減災対策

定価(税込)  3,024円

編者
サイズ A5判
ページ数 288頁
ISBNコード 978-4-526-07467-7
コード C3050
発行月 2015年10月
ジャンル その他 環境

内容

鉄道は開通以来、降雨、地震、強風などの自然が原因の被害を受けてきた。そのため、長年その対策も続けられている。しかし、昨今は異常気象ともいうべき予測不可能な事態が多発しており、自然災害についての広い知識とあらゆる場面への対策技術がより重要になっている。本書では、自然災害による鉄道の被害事例を取り上げながら、鉄道における防災・減災の基礎知識から最新技術までを、豊富な図や写真とともに解説する。

公益財団法人鉄道総合技術研究所 防災技術研究部・鉄道地震工学研究センター  著者プロフィール

編集者一覧(五十音順)

浦越 拓野、太田 岳洋、太田 直之、川越 健、室野 剛隆



執筆者一覧(五十音順、【 】は執筆担当箇所)

荒木 啓司 【第3章3.3、第4章4.3】

公益財団法人鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 気象防災研究室 主任研究員 

飯倉 茂弘 【第3章3.4、第4章4.4】

公益財団法人鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 気象防災研究室 室長 

浦越 拓野 【第3章3.6】

公益財団法人鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 地質研究室 副主任研究員 

太田 岳洋 【第1章、第2章、第3章3.1.3、3.2.2、3.3、第4章4.3、第5章】

公益財団法人鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 部長 

太田 直之 【第3章3.1.1、3.1.2⑴、3.1.4、3.1.5、第4章4.1】

公益財団法人鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 地盤防災研究室 室長 

川越 健 【第4章4.2】

公益財団法人鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 地質研究室 室長 

川村 力 【第3章3.6.2】

北海道旅客鉄道株式会社 工務部 工事課 防災技術G 副課長 

近藤 政弘 【第3章3.5.1】

西日本旅客鉄道株式会社 構造技術室 基礎・トンネル構造 課長 

谷村 幸裕 【第4章4.5.2】

公益財団法人鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 部長 

中村 宏 【第3章3.1.2⑵】

東日本旅客鉄道株式会社 構造技術センター 耐震土構造PT 課長

野澤 伸一郎 【第3章3.5.2、3.5.3】

東日本旅客鉄道株式会社 執行役員 構造技術センター 所長 

藤原 寅士良 【第3章3.2.1】

東日本旅客鉄道株式会社 構造技術センター 基礎・土構造グループ 副課長

松本 健次 【第3章3.6.1】

島原鉄道株式会社 営業部 次長(鉄道担当) 

室野 剛隆 【第4章4.5.1】

公益財団法人鉄道総合技術研究所 鉄道地震工学研究センター センター長 

山本 俊六 【第4章4.5.3】

公益財団法人鉄道総合技術研究所 鉄道地震工学研究センター 地震解析研究室 室長 

目次

はじめに
編集者一覧・執筆者一覧

第1章 自然災害と防災・減災の基礎知識
1.1 自然災害を発生させる外力(誘因)
⑴ 降 雨
⑵ 強 風
⑶ 降雪・寒冷
⑷ 地 震
⑸ 火 山
1.2 自然災害に抵抗する耐力(素因)
⑴ 地 形
⑵ 地 質
⑶ 植 生
⑷ 周辺環境
⑸ 防護設備
1.3 防災・減災の基本概念

第2章 鉄道における防災・減災の基本
2.1 ハード対策:予防・防護
2.2 ソフト対策:検知と運転規制
2.3 防災強度とハード対策、ソフト対策の組み合わせ

第3章 自然災害による鉄道の被災事例
3.1 降雨災害
3.1.1 斜面の崩壊
⑴ 2012年九州北部豪雨
⑵ 2013年山口・島根豪雨
3.1.2 盛土の崩壊
⑴ 1998年土讃線災害
⑵ 1998年東北線黒田原〜豊原間盛土崩壊
3.1.3 土石流
⑴ 1993年日豊線竜ヶ水駅構内
3.1.4 地すべり
⑴ 1970年飯山線高場山
3.1.5 河川増水・洗掘
⑴ 1982年東海道線富士川橋梁流出
3.2 風化による災害
3.2.1 岩盤崩壊・土砂崩壊
⑴ 2006年羽越線小岩川~あつみ温泉間
3.2.2 落 石
⑴ 1996年高山線落石災害
⑵ 2006年津山線落石災害
3.3 強風災害
3.3.1 列車の脱線転覆
⑴ 1986年山陰線余部橋梁
⑵ 2006年日豊線竜巻災害
3.3.2 線路設備の機能阻害
⑴ 飛 砂
⑵ 倒 木
3.4 雪氷災害
3.4.1  鉄道の雪崩災害
⑴ 雪崩による橋梁の損傷事例
⑵ 雪崩による列車の輸送障害事例
3.4.2 吹雪・吹きだまりによる災害
⑴ 2013年奥羽線
3.4.3 冠雪による倒木
⑴ 2014年久大線
3.5 地震災害
3.5.1 兵庫県南部地震
⑴ 地震の概要
⑵ 山陽新幹線の被害
⑶ 在来線の被害
⑷ 復旧方法
3.5.2 新潟県中越地震
⑴ 地震の概要
⑵ 新幹線の脱線
⑶ 新幹線構造物の被害
⑷ 在来線構造物の被害
3.5.3 東北地方太平洋沖地震
⑴ 地震の概要
⑵ 列車運行状況と脱線
⑶ 新幹線構造物の地震動による被害
⑷ 在来線構造物の地震動による被害
⑸ 津波による構造物の被害
3.6 火山噴火災害
3.6.1 1991年雲仙普賢岳
3.6.2 2000年有珠山

第4章 鉄道における自然災害の対策
4.1 降雨災害
4.1.1 鉄道の雨量観測と運転規制
⑴ 雨量観測
⑵ 降雨時運転規制
4.1.2 降雨災害の予防と斜面検査
⑴ 検査の取り組みの経緯
⑵ 維持管理標準に基づく斜面の検査
⑶ 降雨に対する弱点箇所の定量的評価
4.1.3 災害発生後の復旧
⑴ 災害復旧の流れ
⑵ 適切な対策の選定
4.1.4 地すべりの調査
⑴ 規模の概略的な把握
⑵ 観 測
⑶ 地すべり対策
4.2 風化による災害
4.2.1 風化と斜面災害
⑴ 風化とは
⑵ 風化と斜面災害
⑶ 斜面災害の対策
4.2.2 斜面の調査・評価法
⑴ 調査の目的と方法
⑵ 風化が大きく関係する災害形態に関する調査
4.2.3 風化による災害への対策
⑴ 発生源対策(予防工)
⑵ 線路際対策(防護工)
⑶ 検 知
4.3 強風災害
4.3.1 運転規制
⑴ 強風時の運転規制方法の変遷
⑵ 現在の運転規制方法1
4.3.2 風観測
4.3.3 防風柵などのハード対策
4.4 雪氷災害
4.4.1 軌道上の積雪対策
4.4.2 雪崩対策
⑴ 雪崩危険斜面の抽出
⑵ ハード対策
⑶ ソフト対策
4.4.3 吹雪・吹きだまり対策
4.4.4 着雪・着氷・着霜対策
4.4.5 凍結・融解
4.5 地震災害
4.5.1 耐震設計
⑴ 性能規定化と国際標準との整合
⑵ 地震時の要求性能
⑶ 設計地震動
⑷ 地盤の挙動評価
⑸ 構造物の応答値の算定
⑹ 性能照査
4.5.2 耐震対策
⑴ 耐震対策の取り組み状況
⑵ 耐震対策に関する技術開発
4.5.3 早期地震警報システム
⑴ 地震、地震動、地震警報
⑵ 新幹線における早期地震警報の変遷
⑶ 現行の早期地震警報システムの仕組み
⑷ 緊急地震速報の利用
⑸ 今後の展望

第5章 鉄道の自然災害に対する
防災・減災の今後
⑴ 巨大地震・巨大津波
⑵ 火山災害
⑶ 大規模水災害・大規模土砂災害、竜巻

索 引

はじめに

 日本周辺は地球を覆う4枚のプレートがひしめき合い、世界でも地球科学的に最も活動的な場所といえる。そのため、日本列島は非常に急峻な地形をしており、かつ地震や火山活動が活発で他国に比べても新しく、脆弱な地質から構成されている。また、日本の大部分は温暖湿潤気候に属し、夏季には台風の影響を受け、冬季には北西の強い季節風と豪雪に見舞われる。こうした地象や気象の特徴を有するため、これまでも暴風、豪雪、豪雨による洪水や土砂災害、地震や津波そして火山噴火など様々な自然災害により、人的、経済的な被害を被ってきた。このような国土においても、鉄道は安全かつ安定した輸送の提供が求められるため、数々の被災の経験に基づいて自然災害に対する様々な対策の努力を続けている。その成果もあり、近年では鉄道における自然災害の発生件数は減少してきている。そして、これからも鉄道事業者、鉄道の防災担当の技術者は、災害をゼロにすることは極めて困難ではあるが、限りなくゼロに近づけるよう努力を重ねていかなければならない。

 著者は1991年に鉄道総合技術研究所に入社し、以来、地質技術者として鉄道における自然災害、主に降雨にともなう自然斜面の崩壊や落石災害などの調査や地形地質に基づいた自然災害発生危険箇所の抽出法などの防災技術の研究に携わってきた。これまで調査した災害のなかで、非常に強く著者の心に残っている災害が、本書にも記述した1993年8月6日の鹿児島県の豪雨災害である。

 この時、鹿児島市の中心を流れる甲突川が氾濫し、甲突川に架かる有名な5つの石橋「五石橋」のうち2橋が流出するとともに、周辺では数多くの斜面崩壊が発生した。特に鹿児島市中心部から北東に位置する竜ヶ水周辺では姶良カルデラのカルデラ壁斜面が無数の箇所で崩壊し、斜面と鹿児島湾の間の狭隘な平地に並行して走っていたJR日豊線と国道10号線を寸断した。そのため、多くの人々が豪雨のなか、取り残されたり、海に流されたりしたうえ、竜ヶ水と鹿児島市街の間にあった花倉病院が土石流に襲われ、高齢者をはじめ多数の方が犠牲となった。また、日豊線では雨量規制により列車の運行は停止していたが、運悪く列車一編成が竜ヶ水駅に待避することになり、竜ヶ水駅付近で発生した斜面崩壊が土石流となってこの列車を直撃した。

 著者は発生から数日後に原因究明のために災害の現場に入り調査をしたが、鹿児島市内や花倉病院周辺での被災地独特の臭いと雰囲気から災害調査の責任の重さを感じるとともに、竜ヶ水駅では土石流により破壊された列車を目の当たりにし、鉄道防災、運転規制をより高度にすることの必要性を痛感した。この事例では列車の乗務員の適切な判断により、乗客はより安全な場所に避難したとのことであるが、もし多くの乗客を乗せたままの列車が退避した駅にこのような土石流が直撃したら大惨事となることは想像に難くない。

 また、このような降雨災害の時に「自然の水の力」の大きさを実感することがある。例えば、上に述べた鹿児島県での豪雨災害の時には肥薩線でも盛土の崩壊などが多数発生した。そのうち最も大きな盛土崩壊は河川を疎水トンネルで付け替え、もともとの河床の上に盛土を構築して線路を敷設した箇所で発生した。これは豪雨によって流量を増した河川水が人工の水路ではなく、もともとの河川が自然に作った流路を流れようとして、そこにある人工の盛土を押し流したことによると考えられる。このように豪雨の際に人間によるコントロールが不能となり災害に至る事例は、鹿児島での豪雨以外にもよく見られる。

 気象現象による災害は当然雨だけではなく、暴風や豪雪などによる災害もあり、鉄道もこれらの災害を被ってきた。これらの災害について著者自身が調査研究した経験はないため詳細は本文に委ねるが、強風による列車の転覆事故はここ10年でもいくつか発生している。例えば、2005年の寒冷前線にともなう突風によって羽越線の特急「いなほ」が転覆した事例や、2006年に台風接近時に発生した竜巻により日豊線で特急「にちりん」が転覆した事例がある。また、2014年2月の関東地方の豪雪で山梨県全域が孤立し、多くの列車が立ち往生した事例は記憶に新しい。

 さらに日本は前述したようにプレート境界、それも4つのプレートが衝突したり沈み込んだりする場所にあるため、世界でも有数の地震国でもある。この四半世紀の間にも兵庫県南部地震(1995年)、新潟県中越地震(2004年)、東北地方太平洋沖地震(2011年)といった震度7を記録する大規模な地震による大きな災害が発生している。それぞれの地震では、本書にも記述したように鉄道でも大きな被災を被った。兵庫県南部地震では高架橋橋脚のせん断破壊や桁の落下、盛土の崩壊、新潟県中越地震では上越新幹線「とき」の脱線や魚沼トンネルの大きな変状、東北地方太平洋沖地震では東北新幹線の電架柱や高架橋橋脚の損傷、在来線での津波による列車の脱線や駅舎の崩壊などが生じた。しかしながら、幸いにもこれらの大きな地震の際にも乗客の直接的な死傷はなかった。

 このような気象災害や地震災害に対して、鉄道は施設の補強といったハード的な対策と運転規制といったソフト的な対策を行い、被災を最小限に食い止める努力をしてきた。本書では、これまで鉄道が被ってきた災害とそれに対する対応の事例、また災害に対する鉄道での対策について紹介する。

 第1章ではまず、自然災害や防災・減災についての一般論を説明し、第2章で鉄道における防災の基本的な考え方を述べる。そして第3章ではこれまで鉄道が被災した降雨災害、風化による災害、強風災害、雪氷災害、地震災害そして火山噴火災害について、いくつかの事例を挙げて説明し、それぞれの災害での対応をとり上げる。第4章ではそれぞれの災害に対して鉄道が現在行っている対策について説明する。最後に第5章で、今後鉄道が行うべき自然災害に対する防災・減災について考察したい。

 本書では、鉄道がこれまで受けてきた、あるいは今後受けるであろう自然災害について俯瞰的に記述したつもりである。したがって本書が、鉄道の防災担当の技術者の方々にとって、改めて自然災害、特にご自身が経験したことのない災害の実態や防災・減災についてご検討いただく際の一助となれば幸いである。また、鉄道防災にご協力いただいている建設会社やコンサルタント会社の方々、あるいは鉄道事業者のなかで防災担当以外の、特に運輸系の技術者の方々に、より鉄道の防災・減災についてご理解いただくためにご一読いただければ、執筆者一同大変うれしく思う次第である。

2015年10月
執筆者代表 太田岳洋

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