買い物かごへ

ジャパン・メイド トゥールビヨン
超高級機械式腕時計に挑んだ日本のモノづくり

定価(税込)  2,484円

編著
著者
著者
著者
サイズ A5判
ページ数 178頁
ISBNコード 978-4-526-07464-6
コード C3034
発行月 2015年10月
ジャンル ビジネス

内容

機械式時計において、姿勢差によって生じる誤差を解消するための機構「トゥールビヨン」。この機構を取り入れた機械式腕時計の製作に、日本のモノづくり技術が挑み、見事に成功を収めた。設計は、日本初の独立時計師である浅岡肇氏。そのドキュメンタリーを軸に、採用されている精密加工技術、完成したトゥールビヨンの複雑で繊細な機構などを紹介する。

浅岡 肇  著者プロフィール

(あさおか はじめ)
独立時計師 スイスアカデミー独立時計師協会(AHCI))会員

1965年生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。
オリジナルの設計・デザインに基づいて、ムーブメントをはじめ外装、文字板、針、リュウズに至るまで、すべての部品を自作している。独学で「トゥールビヨン」を搭載した機械式腕時計の製造に日本人で初めて成功し、大きな注目を集める。

大坪正人  著者プロフィール

(おおつぼ まさと)
㈱由紀精密 代表取締役社長

1975年生まれ。東京大学工学部産業機械工学科卒業、同大学院産業機械工学専攻修了。
2000年、携帯電話の金型メーカーに勤務、技術開発に従事。2005年、自ら立ち上げた世界最高速の金型工場により「第1回ものづくり日本大賞経済産業大臣賞」。2006年、㈱由紀精密入社。
常務取締役を経て、2013年、代表取締役社長に就任。
著書に『すぐに使える精密切削加工』(技術評論社)がある。

大沢二朗  著者プロフィール

(おおさわ じろう)

オーエスジー㈱ 常務取締役 デザインセンター長 兼 北米担当

1969年生まれ。Cornell University Master of Mechanical Engineering修了。
1994年、オーエスジー㈱入社。技術部商品開発室室長、デザインセンター開発グループリーダーなどを経て、2006年、執行役員・デザインセンター長、2012年、常務取締役・デザインセンター長 兼 米州担当。2014年より現任。

広田雅将  著者プロフィール

(ひろた まさゆき)
時計ジャーナリスト 時計専門誌『クロノス日本版』所属

1974年生まれ。
サラリーマンなどを経て現職。国内外で執筆多数。国内外の時計賞で審査員を務める。
監修したMOOKに『100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』『続・100万円以上の腕時計を買う男ってバカなの?』(東京カレンダー刊)がある。

目次

はじめに

第1部 これまでにない発想で世界に挑む-プロジェクトT
1. クォーツ、機械式、そしてトゥールビヨン
2. 浅岡肇とプロジェクトT
3. 効率の追求がもたらした、日本時計産業の成長とその限界
4. クォーツとの差別化に始まった、スイスの逆襲
5. 機械式時計の躍進

第2部 プロジェクトTを支えたモノづくり技術
構想設計
プロジェクトTの設計思想とデザイン
部品の一体化とユニット化
バランスの良いデザインのための機構設計
巻き芯とキャリッジの位置
ボールベアリングと耐久性
3次元CADによる動作検証
精密加工
極小チタンネジ
ウルフティースギア
極小ピニオンギア
リュウズのローレット
ケース
キャリッジ上ほぞ
テンプ
アンクル
回転錘
洋銀プレート類
組み立て
裏輪列
巻き上げ輪列
主輪列
テンプ
キャリッジ
仕上げ
磨き
外装組み立て
ケース
ガラスの取り付け
文字盤
文字盤の印刷
リュウズの組み立て
針の仕上げ
文字盤と針の取り付け
尾錠

第3部 工場探訪記
高付加価値部品にこだわった超精密加工メーカー 
由紀精密

顧客の要求に技術で応える国内有数の工具メーカー
オーエスジー

小型ベアリングで存在感を示す大手ベアリングメーカー 
ミネベア

モノづくりを究めた独立時計師の夢の空間 
浅岡アトリエ

【コラム】時計師の道具
①ピンセット、ルーペ、ドライバー
②時計旋盤
③歩度計測器
④片重り見
⑤石入れ器
⑥ポンスタガネ
⑦治具のいろいろ

おわりに/「独立時計師」の仕事

はじめに

機械式時計の仕組みに「トゥールビヨン(TOURBILLON)」と呼ばれる機構がある。

 もともとは200年ほど前に、スイスの時計師であるアブラアン–ルイ・ブレゲによって発明されたものだ。現在でも、そのほとんどはスイス製だが、トゥールビヨンは一般にとても高価で、安価なものでも500万円くらいはする。「あんなに小さな腕時計がそんなに高価だなんて」と、驚かれただろうか? しかし、時計マニアの間ではトゥールビヨンは別格の存在で、憧れの時計の1つとして認識されており、数百万円から時には数千万円という価格で、当たり前のように取り引きされている。

 スイスの時計産業には、日本の多くの製造業とは異なった点が1つある。それは製品価格が非常に高いということだ。時計の製造数(完成品)から見た日本メーカーのシェアは全世界で50%を超えるが、一方、1本当たりの単価を比べるとスイス製は日本メーカーの8倍以上となっている。このことからも、スイス製の腕時計がいかに高価であるかがわかる。

 「価格競争力がある」という言葉は、一般に日本のビジネスでは「価格が安いこと」と受け取られ、それがビジネス戦略上有利であるといわれているが、スイスではそうではない。逆に、製品が「いかに高いか」ということが、彼らにとって競争力であり、ステータスであるようだ。その象徴がトゥールビヨンといえる。もちろん、ただ無意味に高価格というわけではない。その高価格には、それなりの理由がある。スイスの時計産業は、そのあたりを実に巧みに構築しており、見事に製品に反映させている。

 日本では価格競争力を高めるために、人手による作業をできるだけ機械に置き換えようとしてきた。一方、スイスの発想は真逆で、「いかに人手をかけるか?」ということにこだわっている。もちろん、機械化も進んでいるが、それは機械に可能な範囲に限定されているようだ。そこに機械化が困難な、なかば工芸的ともいえる人の技をブレンドすることで、極めて付加価値の高いモノづくりを行っているというのが、スイスの時計産業である。その結果、出来上がったその製品は、到底、機械だけではつくれないような、見事な仕上がりになっている。一方、私たち日本のモノづくりは、省力化が進んだ結果、機械だけでもつくれるような、おもしろみのない製品ばかりになってしまったのではないか? そのような状況下では、「価格が安い」ということ以外に、競争する術がないというのが現実だと思う。

 この書籍は、独立時計師である浅岡肇が精密機械加工を手がける由紀精密と工具メーカーのオーエスジー(OSG)に、機械式腕時計の共同開発を打診したことから始まった「プロジェクト トゥールビヨン(プロジェクトT)」の活動の記録である。プロジェクトTは、最高の腕時計づくりを目的として、浅岡が「設計・組み立て」、由紀精密が「部品製作」、OSGが「工具開発」を担当するという、それぞれの分野のエキスパートが結集したドリームチームである。そして製作する時計は、その名の通りスイス時計産業の象徴ともいえるトゥールビヨンである。
今回、トゥールビヨンを製作するにあたって、美の本質も追究して、機械として最高のものをつくり上げるために「やれることはすべてやろう」という理想のもとに取り組んだ。それはハイテクと工芸的モノづくりの融合という意味で、結果的にスイスの時計づくりに近いものになったと思うが、もともとそれは日本が得意としてきたことであった。そんな目の前にあった「日本のモノづくり」をほんの少しだけアレンジすることで、私たちは従来の「ジャパンメイド」とは違った価値観を創造することができたのではないかと思っている。

2015年11月

浅岡 肇

買い物かごへ