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なぜ、トヨタは700万円で「ミライ」を売ることができたか?
技術革新のメガトレンドが市場構造を変える

定価(税込)  1,980円

著者
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サイズ A5判
ページ数 176頁
ISBNコード 978-4-526-07465-3
コード C3034
発行月 2015年09月
ジャンル 経営 ビジネス

内容

夢と言われた燃料電池車がついに市場投入された。ブレークスルーのカギは加工技術や設計技術、材料技術など多層にわたる基盤技術の革新だ。そうしたメガトレンドのうねりの中で製造企業がとるべき開発戦略と、わが国が進めるべき産業政策について明快に述べる。

井熊 均  著者プロフィール

(いくま ひとし)
株式会社日本総合研究所
常務執行役員 創発戦略センター所長
1958年東京都生まれ。1981年早稲田大学理工学部機械工学科卒業、1983年同大学院理工学研究科を修了。1983年三菱重工業株式会社入社。1990年株式会社日本総合研究所入社。1995年株式会社アイエスブイ・ジャパン取締役。2003年株式会社イーキュービック取締役。2003年早稲田大学大学院公共経営研究科非常勤講師。2006年株式会社日本総合研究所執行役員。2014年同常務執行役員。環境・エネルギー分野でのベンチャービジネス、公共分野におけるPFIなどの事業、中国・東南アジアにおけるスマートシティ事業の立ち上げ、などに関わり、新たな事業スキームを提案。公共団体、民間企業に対するアドバイスを実施。公共政策、環境、エネルギー、農業、などの分野で50冊を超える書籍を刊行するとともに政策提言を行う。

木通秀樹  著者プロフィール

(きどおし ひでき)
株式会社日本総合研究所
創発戦略センター シニアスペシャリスト
1964年生まれ。97年、慶應義塾大学理工学研究科後期博士課程修了(工学博士)。石川島播磨重工業株式会社(現IHI)にて知能化システム等の技術開発、環境・エネルギー・バイオ・ロボット等の制御システム開発に従事した後、2000年、日本総合研究所に入社。現在に至る。2005年、東京農工大学非常勤講師。
専門は、新市場開拓を目指したシステム構想とプロジェクト開発、および、技術政策の立案。これまで、国内では資源循環・エネルギー・地域交通等の新事業開発、廃棄物などのPPP事業、海外では中国などでスマートシティ開発、分散エネルギーシステム開発の新事業に取り組む。著書に「グリーンニューディールで始まるインフラ大転換」、「図解よくわかるバイオエネルギー」、「自動運転が拓く巨大市場」(共著、日刊工業新聞社)、など。

目次

はじめに   

第1章 ブレークした燃料電池
1. 夢の発電機だった燃料電池   
・内燃機と同じ歴史を持つ燃料電池   
・燃料電池の特徴   
・長所があるのに普及しなかった理由を探る   
2. トヨタが示した自動車の未来   
・燃料電池自動車開発の厳しい道のり   
・価格を20分の1に下げた燃料電池   
・劇的なコストダウンを実現したPEFC(固体高分子形燃料電池)
   
・プリウスに通じる新技術の集中投入   
・プリウスと異なる特許戦略   
3. 量産化成功の背景   
・「自前主義」と「すり合わせ」の文化   
・環境技術開発での苦い経験   
・環境技術で動く市場の勢力図   
・加速するアメリカの環境規制   
・トヨタハイブリッドシステムの仕組み   
・エネルギーマネジメントシステム、THS 
・技術進化の波に乗る   
・iPod開発とのイノベーションの相似性    

第2章 燃料電池がブレークした理由
1. 燃料電池の技術発展の構造   
・独自の進化を遂げたPEFCとSOFC   
・燃料電池のブレークを支えた6つの要素   
・燃料電池をブレークさせた3つの基盤技術の革新   
2. 基盤要素技術の発展①「設計技術革新」   
・シミュレーション技術の革新   
・科学的設計の普及:「想像力と経験から分析と検証へ」   
・シミュレーションを支える技術   
3. 基盤要素技術の発展②「材料技術革新」   
・普及段階に入ったナノ材料製造技術   
・分子レベルの調整が可能となった材料工学   
・ナノ材料の基盤を支える技術の動向   
4. 基盤要素技術の発展③「加工技術革新」   
・浸透する超微細加工技術   
・物理と化学の融合が進む   
・超微細加工の基盤を支える技術の動向   
5. 「システム化」技術と技術進化の全体像   
・要素技術を束ねるシステム化技術の進化   
・三つの基盤要素技術とシステム化技術の統合的技術革新の流れ
   

第3章 技術革新のメガトレンド
1. 四つの技術革新を支える基盤トレンド   
・四つの技術を革新したLSIとコンピュータ   
・基盤技術の連鎖が生み出す技術革新のトレンド   
・産業革命からIT革命を経て加速を続ける技術革新   
・燃料電池に留まらない技術革新   
・革新の医療技術   
2. 世界をゆるがすIndustry 4.0   
・第四次産業革命による生産工程の革新   
・バリューチェーンを革新するIndustry 4.0   
・Industry InternetをリードするGE   
・日本にもあるIndustry 4.0の萌芽   
3. ミライとIndustry 4.0の関係   
・ミクロの制御とグローバルネットワークの接続 
・匠の技に頼れない次世代市場   
・エンジニアリングにもメガトレンドの波   
・ミクロとグローバルネットワークの挟み撃ち   

第4章 変革する社会システム
1. エネルギーシステムの大転換   
・迷走するドイツのエネルギーシステム   
・官製市場、固定価格買取制度の副作用   
・再生可能エネルギー電力の限界   
・求められる21世紀のエネルギーインフラ   
・南北問題を解決する水素燃料供給システム   
・カーボンフリーを実現できる水素インフラ   
2. 燃料電池自動車が示すエコカープラットホーム   
・エネルギー供給装置としての燃料電池   
・①エネルギー供給装置としての経済性比較   
長期目標から見た経済性比較   
電気自動車を上回った燃料電池自動車の経済性   
・②エネルギー供給装置の環境性比較   
化石燃料視点と再エネ視点で変わる比較結果   
・③エネルギー供給装置の利便性比較   
ガソリン車の普及を支えた利便性   
リチウムイオン電池の本質的な課題   
・地球温暖化対策との整合性   
・プラットフォームとしてのPHV   
・エコカーの評価の枠組みを変えた燃料電池自動車の革新   
3. 燃料電池で進化するスマートシティ   
・大型火力に比肩する燃料電池   
・スマートシティを後押しする燃料電池   
・柔軟性増す燃料電池スマートシティ   
・自律発展型スマートシティ   

第5章 「技術革新のメガトレンド」下での企業戦略
1. 生き残り戦略が問われる製品サプライヤー   
・技術者を解放する技術革新   
・3Dプリンタも革新を後押しする   
・開発スピードを加速する技術革新   
・メガトレンドの下で生き残るサプライヤー   
・圧力が強まるアッセンブリ・ビジネス   
・アッセンブリ・ビジネスの戦略   
・B2Cビジネスに回帰せよ   
2. システムオペレータへの転身   
・水市場でのオペレータビジネスの歴史 
・付加価値は上流が握る   
・拡大するオペレーションビジネス   
・あらゆる製品で起こる価格低下   
・ユーザーサイドの利益を取り込め   
・アライアンスでリスクを取る   
・自動車ビジネスのアウトカム   
・地域との連携が生む新たな需要   
・アウトカム共創カンパニー   
・経営判断が求められるアウトカム・ポジション   
・迅速さが求められるアウトカム・ポジション   
3. 技術革新のメガトレンド時代の政策の役割   
・コンポーネンツビジネスに投資せよ   
・アッセンブラービジネスへの期待を解消せよ   
・アウトカム共創ビジネスを推進せよ   

参考文献  

はじめに

 2000年代の初め、我々は小型燃料電池をネットワークした分散型エネルギーシステムのプロジェクトを立ち上げた。燃料電池には分散型エネルギーシステムを本格的に普及するための高い潜在力があると考えたからだ。しかし、当時の燃料電池は性能もコストも思うように改善しなかった。粘り強く続けられた国の支援策が頼りの正に「夢の発電システム」だった。しかし、2010年前後になると燃料電池を巡る状況は急速に変化する。まずは、商品化が難しいとされていたSOFCが45%の高い発電効率を持つ家庭用コジェネレーションとしてリリースされた。価格も2000年代初頭に比べて数分の一まで低下した。今後も、性能、価格両面で大きな改善が期待できるとされる。そして、2014年になると、トヨタから燃料電池自動車が何と7百万円程でリリースされた。小泉首相時代に究極のエコカーと言われながら、1億円以上の価格から、遠い未来の技術と思われた自動車だ。
 燃料電池の構造は内燃機に比べて単純だ。こうした技術がブレークする場合、背景で何か大きなものが動いている。まずは、それを捉え、世界に先駆けて燃料電池自動車の商品化を果たしたトヨタの力が何より重要だ。この本を読めば、トヨタという企業の凄さを改めて理解することができる。そして、自動車分野をリードする企業による開発の背景にあったのは、半世紀に一度の技術革新のトレンドだ。それを解きほぐしていくと、燃料電池をブレークさせた技術革新の基盤は、ドイツやアメリカで注目されているIndustry 4.0やIndustrial Inter­netの動きとつながった。
 20世紀末からの情報革命と要素技術が結びつき、今、原子レベルのミクロ技術からインフラをつなぐマクロのネットワーク技術までを一気通貫しようとしている。かつて、動力機関、電力、情報通信技術が産業革命と呼ばれる大きな流れを創り、社会経済を変革させたように、Micro to Macro のネットワークが我々の生活と産業構造を変える。
 本書は、我々にこうした流れを気付かせてくれた燃料電池自動車ミライの名前を使わせて頂き、社会を揺るがす技術革新の動きを伝え、産業政策や企業戦略に向けて警鐘とチャンスのベルを鳴らすことを目的としている。少しでも多くの人が技術革新のメガトレンドを捉え、企業活動や政策形成に役立てていただけるのであれば、著者としてこの上ない喜びである。
 本書は、株式会社日本総合研究所創発戦略センターの木通秀樹君との共同執筆である。木通君は、創発戦略センターのプロジェクトを技術面でリードするシステムエンジニアリングのプロフェショナルである。本書の技術分析は全て彼の手によるものである。多忙の中、専門的な分析、検討を行ってくれたことに心から感謝したい。
 本書は、企画の段階から新日本編集企画の鷲野和弘様と日刊工業新聞社の矢島俊克様にご指導いただいた。鷲野様と日刊工業新聞社には筆者の処女作からご指導ご支援を頂いている。改めて、心より感謝申し上げたい。
 最後に、筆者の日頃の活動に対してご指導ご支援を頂いている株式会社日本総合研究所に心より御礼申し上げたい。

2015年 晩夏
著者を代表して
井熊 均

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