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トヨタ式A3プロセスで製品開発
A3用紙1枚で手戻りなくヒット商品を生み出す

定価(税込)  2,376円

著者
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サイズ B5判
ページ数 160頁
ISBNコード 978-4-526-07462-2
コード C3034
発行月 2015年09月
ジャンル 生産管理

内容

A3用紙1枚で問題を解決し、担当者のスキルアップに寄与するトヨタの管理メソッドを用い、製品開発業務に適用する進め方をわかりやすく綴る。飲料充填機メーカーにおける新規検査機開発という具体例を下地に、ストーリー仕立てで導入展開プロセスを理解できる。

稲垣公夫  著者プロフィール

(いながき きみお)

1975~2001年の間、NECおよびNECアメリカで生産システム開発、生産改善活動や経営企画などに携わる。この間、モノづくり改善に関わる本を15冊執筆/翻訳している。2010年からリーン製品開発の研究と日本企業への普及に専念。近年は特にさまざまな企業の製品開発技術者とともに、本質思考の開花および深化の方法を実践の中で研究している。現在、グローバリング㈱代表取締役、ゴール・システム・コンサルティング顧問。


主な著書/翻訳書

TOC革命(日本能率協会マネジメントセンター)

開発戦略は「意思決定」を遅らせろ! ─トヨタが発想し、HPで導入、ハーレーダビッドソンを伸ばした画期的メソッド「リーン製品開発」(中経出版)

ザ・トヨタウェイ(日経BP社)[翻訳]

トヨタ製品開発システム(日経BP社)[翻訳]

トヨタが実践する価値創造の確かな進め方 リーン製品開発方式(日刊工業新聞社)[翻訳]

ほか多数

成沢俊子  著者プロフィール

(なるさわ としこ)

1983~2002年のNEC勤務時代にトヨタ生産方式と出会う。金融庁勤務を経て、PEC産業教育センターにて改善を研究。トヨタ生産方式が世界へ伝播していく足跡を追いかけながら、トヨタ式「仕事のやり方」のルーツの探求と発展過程の研究を続ける。並行して製造業やサービス業における改善実践を通した人材開発プロジェクトを支援してきた。現在、ピーキューブ㈱代表取締役社長。


主な著書/翻訳書0

英語でkaizen!トヨタ生産方式――Kaizen Express(日刊工業新聞社).
[John Shookとの共著]※バイリンガル書として米国、台湾、中国、ブラジル、ハンガリー、オランダで各国語版が発行されている

トヨタ式A3プロセスで仕事改革―A3用紙1枚で人を育て、組織を動かす(日刊工業新聞社)[翻訳]

トヨタ生産方式にもとづく『モノ』と『情報』の流れ図で現場の見方を変えよう!!(日刊工業新聞社)[翻訳]

トヨタ生産方式にもとづく「ちょろ引き」で生産管理を改革しよう!! (日刊工業新聞社)[翻訳]

改善が生きる、明るく楽しい職場を築く TWI実践ワークブック(日刊工業新聞社)[翻訳]

ほか

目次

はじめに    


第1章  トヨタで生まれたA3報告書

誰も彼もがA3で ―― 新車進行会議と50枚のA3報告書    
1979年の会社方針
「④管理能力の向上と固有技術の研鑽」に注目    

「新たなる聖地」― 今に続く探索の旅、心の旅    

本書で思考を深める    



第2章 開発革新とブレークスルー製品の創出を同時になし遂げたメーカーの物語

成約に沸くビッグサイトの展示コーナー    

まさか自分がプロジェクトリーダーに?    

顧客価値理解の始まり    
客先訪問で事情を聞き出す    

顧客価値の因果関係を分析する    
製品の因果関係を探る    

一歩下がって問題の構造を解明する「因数分解」    

苦労の末に着眼点を発見    

旧知の仲が運んでくれたブレークスルー    

最後のインテグレーション・イベント    

DR1(詳細設計開始の承認デザインレビュー)が始まる    
重要な知識を残す    

知識を再利用する重要性    

オーダーメイドのジレンマを解決する!    

モジュラー戦略を提案する    
変わる営業のスタイル    

売上げ10倍増に向けて    

ワンポイントレッスン

因果関係マップとは

素速い仮説検証を可能にする安価な実験

ワーゲンのリーンな設計

プロジェクトの成功を確実にするDR1

不採用の知識も残す
リーン製品開発とモジュール化戦略



第3章 製品開発でA3報告書を
徹底的に使いこなす

A3報告書の価値は何か    

A3報告書はなぜ製品開発に役立つのか    

 製品開発でA3報告書を徹底的に使っている米企業    

 A3報告書の価値を高める要素    

  A3の基本①枠組みの標準化/A3の基本②本質を凝縮する/
A3の基本③視覚的に表現する

 本質的構造を視覚化する因果関係マップ    

 因果関係マップ以外の構造を可視化する手法    

 因果関係を定量的に視覚化する曲線    

A3報告書の種類    

 一般的なA3報告書    

  問題解決A3/提案A3

 製品開発特有のA3報告書例    
  顧客価値理解A3/商品企画A3/プロジェクトA3/試験結果A3

知識の再利用    

  知識を再利用するための条件とは/条件①発見しやすい/条件②理解しやすい/条件③信頼できる/条件④幅広い問題に適用できる/条件⑤設計を楽にしてくれる

A3の電子化    

  まずは知識の質を上げる/次にIT化を考える/市販されているA3のITツール

A3思考を高める「本質思考道場」    

 説明は簡単でも実行が困難な本質思考    

 本質思考が必要とされる製品開発の初期段階    

 理解することとは? 考えるとは?    
 なぜ抽象的なことは理解しにくいのか    

 「抽象化能力」がカギとなる    
 「5回のなぜ」はなぜ、いざやろうとするとできないのか    

 アナロジー思考    

 ニーズがあっても有効な手法がない現状    
 本質思考の構成要素    

本質思考道場の演習内容    

 演習の基本的考え方    

 演習の内容と実施方法    
  初級演習①製品の因果関係マップをつくる問題/初級演習②歴史の因果関係マップをつくる問題/初級演習③ビジネスモデルの因果関係マップをつくる問題/中級演習/上級演習

 本質思考道場の効果    



第4章 本質思考で設計力を上げる先行企業

実践例1 開発プロセスを一変させたA3報告書    
㈱日本セラテック

  見える化の第一歩としてA3報告書を導入/仕様決定の問題分析に利用/受注開発システムの現状認識ツリー/顧客の関心事を抽出しよう!/本質要求をストーリーで描ける

実践例2 リーン製品開発をあきらめず続けるためのアプローチ    
NECスペーステクノロジー㈱

  宇宙用搭載機器の開発設計の問題とは/流用設計せざるを得ない現状/リーン製品開発との出会い/知識の再利用で効率は上がる/地道に仲間を増やしていく活動推進/いつ誰がやっても同じになるように







おわりに    


参考文献    

はじめに


 



日本は戦争の焼け野原から出発して、世界史上類を見ないほどの奇跡的な高度成長経済を実現し、世界を驚かせた。高度成長時代はモノ不足の時代であり、企業がモノをつくれば売れる時代だった。当時の企業の戦略的命題は、「いかに安く、高品質で、大量に同じ製品をつくるか」だ。生産技術、自動化技術、生産管理などを含めた総合的な「量産技術」が企業の競争力を決定づけた。しかし1980年代に入ると、「つくれば売れる時代」は終わり、「何をつくるべきか」という商品企画力とその実現方法を示す「設計情報」の質が、企業の競争力を決定づける時代になった。「モノづくり」という言葉を「モノ」(製品の設計情報)と「づくり」(効率的な製造方法)に分解すれば、前者が後者よりはるかに重要になったと言える。


 その象徴がアップルだ。同社は、製造をEMSと呼ばれる委託メーカーに100%任せ、自らは高い質の設計情報を生み出す商品企画と設計だけを行いながら、2014年の業績は売上高22兆円(1,820億ドル)、営業利益6.4兆円(525億ドル)という驚異的な水準を保つ。アップルは自社に工場を持たずとも、非常に高い質の設計情報をつくり出し、それを優れた製造パートナーにつくらせれば、膨大な数の製品を高価格で世界中に売りまくり、トヨタの3倍の利益を稼ぎ出せることを証明した。
 バブル経済崩壊とその後の「失われた20年」と言われる長期停滞期に、日本の製造業の世界での地位は大幅に低下した。特に世界的な強みの象徴的存在だった日本の電気業界は、目を覆うばかりに凋落した。その一方で日本の自動車産業は健闘しており、中でもトヨタの業績は、日本ばかりでなく世界でもダントツと言える状態だ。2015年7月時点で世界の自動車産業各社の総時価を比較すると、トヨタが2,280億ドルでトップ。次いでフォルクスワーゲンが970億ドル、ダイムラーが950億ドルとトヨタの半分以下で続き、それからホンダ、フォード、日産、GMが500~600億ドル前後の団子状態になっている。マラソンレースに喩えれば、(少なくとも総時価という指標で測る限りは)トヨタが2位走者の倍以上を走ってダントツ、第二集団はドイツの2社、それから大幅に遅れて「その他大勢」が団子で走っているという様相である。


 このようなトヨタの圧倒的な強さは、1980年代前後から明らかになってきたが、特に2000年以降に顕著になった。トヨタに関する研究は、日本よりもアメリカの方がはるかに熱心に行った。アメリカ人からすれば、アメリカの自動車産業はヘンリー・フォードが世界で初めて流れ生産方式を開拓して以来、世界を支配してきたはずだった。それが日本企業に、アメリカ市場で価格だけでなく品質でも負けるということは、アメリカ経済全体に深刻な問題となった。そこでアメリカは、日本の自動車産業に対して強烈な政治的圧力をかけると同時に、必死になってその秘密を研究したのである。日本の自動車産業の研究に関して、工学部、経済学部、経営学部などあらゆる分野でアメリカ政府は研究費を供出した。特にトヨタは、アメリカの自動車産業研究家にとって最も重要な研究対象になった。一方でトヨタも深刻な貿易摩擦による政治圧力を懸念し、持っているノウハウをかなり踏み込んでアメリカの研究者に渡しもした。


 このような研究により、アメリカ人研究者はトヨタの成功要因に関してかなり系統的に把握し、その結果を体系化することに成功した。これらの研究成果は本にまとめられ、欧米で次々とベストセラーになる。その一部は日本語に翻訳され、「ザ・トヨタウェイ」シリーズは日本でも売れた。本書の姉妹書に当たる「トヨタ式A3プロセスで仕事改革」も、元トヨタ社員のアメリカ人が書いた本の翻訳だ。
 しかしトヨタに関して、日本でも欧米でも注目されたのは、「リーン生産」つまり「トヨタ生産方式」だけだった。トヨタの製品開発システムに関しては、日本ですらほとんど知られることはなかったのである。しかし、1990年代に貿易摩擦によるアメリカ政府からの圧力に耐えかねて、トヨタは製品開発システムのノウハウを海外の研究者に開放した。そのとき、アレン・ウォードというミシガン大学機械工学科の助教授が、博士課程の学生を半年間トヨタの開発部門に送り込み、トヨタの製品開発システムを徹底的に研究させている。その成果は「リーン製品開発方式」という本にまとめられた。2000年頃からリーン製品開発方式は欧米企業に広まり始めたが、ウォード助教授の死去により一時停滞してしまう。しかし、2012年頃から欧米の大手航空機メーカーや半導体メーカー、自動車メーカーが相次ぎ導入し、ようやく欧米で注目されるようになった。ところが日本では、依然としてリーン製品開発に関してはほとんど知られていない。


 日本でも欧米でも現在においてすら、トヨタの驚異的な業績はトヨタ生産方式(リーン生産)のおかげであると広く信じられている。しかし、そのことを明確に否定する意見が最近出てきた。酒井崇男氏は自著「『タレント』の時代」の中でこう主張している。


 「製造業はざっくり言ってしまえば、「コンテンツ産業化」、「情報産業化」、「知識産業化」しているのだ。もちろん、利益の大半を生み出すのはこうした情報創造の工程(製品開発)であって、情報転写の工程(生産現場)ではない。これは、トヨタに限った話ではない。現在では、世界中の製造業の常識である。・・・・・・
結局、私たちはモノ(実体)を買っているように見えて、実際は設計情報を買っているのである」


 同書の主張は次のようなものだ。商品が売れるかどうかは設計情報の質で決まり、賃金の高い先進国の富の源泉は設計情報と設計ノウハウの創造である。モノをつくれば売れる時代はとっくの昔に終わっている。トヨタ生産方式の目的は企業の運転資金の最小化であり、トヨタが儲かる最大の理由はトヨタ生産方式ではなく、製品開発部門が売れる商品を開発しているからだ。実際に日本でリーマンショック後、経営不振に陥ってトヨタ生産方式を導入し、生産現場ですばらしい成果を出しながら倒産した会社があるが、それはその会社に肝心の売れる商品がなかったからである。


 こうした高い質の設計情報を生み出す人財を確保し、育成し、活用することこそが、企業の競争力を決定づけている。トヨタには、チーフエンジニアという開発プロジェクトリーダーがいる。アップルやグーグルなどシリコンバレーの企業は、その仕組みにとうの昔に気づいている。日本ではトヨタというお手本がせっかく身近にいながら、あまりに多くの企業がそのことに気づいていないと言わざるを得ない。


 確かに現在は製品開発力、特に商品企画や構想設計という開発初期段階の開発力が、企業が真に売れる商品を市場投入できるかどうかを左右している。そのための最も重要な要素は、酒井氏が「タレント」と呼ぶ製品開発を引っ張るリーダーである。そして、もう1つ重要な要素は商品企画や構想設計の進め方だ。リーン製品開発の三本柱は、トヨタのチーフエンジニア制度とセットベース開発、それにA3プロセスだ。本書はそのうち、セットベース開発とA3プロセスを実践する方法を説明するために書かれた。


 本書の内容の大半は、もともとトヨタの製品開発でやっていたことを、アメリカ人の学者が研究し、体系化したものを著者らが発展させたものである。それはトヨタの経営手法を、はるばるアメリカを経由して日本で学ぶことを意味する。アメリカから伝わった情報は元のトヨタのやり方を非常にうまく体系化しているが、同時に微妙な差も生まれている。著者らはリーン生産やリーン製品開発を研究する以前からトヨタを研究しているため、そうしたずれを修正する努力をしてきた。


 本書は4章で構成されている。第1章は、A3プロセスがトヨタの製品開発部門でいかに使われてきたかを書いたものだ。これはトヨタの製品開発部門の元幹部、総合企画室や人事教育部門の元幹部へのインタビューをもとに、著者の一人である成沢がまとめた。これを読むと、トヨタがA3プロセスを導入したきっかけは、オイルショック後に開発すべきモデルが大幅に増えたことに対応するためだったことがわかる。これを機に、トヨタの製品開発部門の組織能力、開発生産性や管理職の開発管理能力が大幅に高まった。

 第2章は、セットベース開発とA3プロセスが実際にどのように使われるかを具体的に説明するため、物語調に製品開発プロセスを詳細に説明している。物語はまったくのフィクションだが、アメリカの某企業の例を下地にして描いた。この物語を読むことで、セットベース開発やA3報告書の具体的な活用実践イメージをつかめるだろう。

 第3章は、製品開発におけるA3報告書の具体的なつくり方や使い方を説明している。ここでは、できる限り具体的な例を取り上げるようにした。なお後半では、A3報告書を書くための訓練方法として「本質思考道場」を紹介している。これは、著者の一人である稲垣が最近編み出した教育方法である。

 最後の第4章は、リーン製品開発やA3プロセスを導入した企業の、実際の取り組み例を紹介している。これらの企業には単に最終結果がどうなったかだけでなく、途中でどんな苦労をしたかという話に焦点を当てている。



2015年9月

著 者

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