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なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか
有名事件13の原因メカニズムに迫る

定価(税込)  1,944円

著者
サイズ A5判
ページ数 208頁
ISBNコード 978-4-526-07454-7
コード C3034
発行月 2015年08月
ジャンル ビジネス

内容

さまざまな企業の不祥事がマスコミをにぎわしている。本書は、アクリフーズの農薬混入事件/ベネッセの顧客情報漏えい事件/大王製紙会長による特別背任事件/オリンパスの不正会計事件など、話題となった企業不祥事13事例を取り上げ、「原因メカニズム」を詳細に分析し、経営実践上の教訓を導いている。

樋口晴彦  著者プロフィール

(ひぐち・はるひこ)

1961年、広島県生まれ。東京大学経済学部卒業後、上級職として警察庁に勤務。愛知県警察本部警備部長、四国管区警察局首席監察官のほか、外務省情報調査局、内閣官房内閣安全保障室に出向。ペルー大使公邸人質事件、ナホトカ号重油流出事件、オウム真理教事件、東海大水害など様々な危機管理に従事。現在、警察大学校教授として、危機管理・リスク管理分野を担当し、企業不祥事とマネジメントについて研究。米国ダートマス大学MBA、博士(政策研究)。危機管理システム研究学会常任理事、失敗学会理事。著書は、『組織不祥事研究』『組織の失敗学』『悪魔は細部に宿る-危機管理の落とし穴』など多数。

目次

はじめに

第1章 生かせなかった教訓
第1講 アクリフーズの農薬混入事件
「日本ならば大丈夫」という希望的観測に陥って問題点を放置
事件の概要 /監視体制の不備 /食品業界の希望的観測 /外部検査の遅れ /ミスリーディングな毒性評価 /毒性評価発表の失敗 /商品回収対策の失敗 /経営統合の不徹底 /人件費削減を目的とした成果主義 /事件の総括  

第2講 NHK職員によるインサイダー取引事件
過去の不祥事の再発防止にこだわり、別種の不祥事への備えが欠落
事件の概要 /ニュース原稿の取り扱い /甲事件の手口 /乙事件の手口 /丙事件の手口 /アクセス管理に対する認識不足 /コンプライアンス教育の不足 /不正経理防止対策への偏向 /事件の総括  

第3講 東海テレビの「ぴーかんテレビ」放送事故
経費削減のためアウトソーシングを進めたことで現場の負担が増大
事件の概要 /放送事故の発生 /テロップ作成者の能力不足 /スタッフの教育不足 /番組制作費の削減 /現場のチェック機能の低下 /事件の総括  

第4講 中国電力島根原子力発電所の点検時期超過事件
負担が重くても黙々と努力する「現場解決型の組織文化」が仇に
事件の概要 /規制強化に伴う負担増 /ENTの設立に伴う混乱 /発注ミスによる作業未実施 /不適合管理制度の不備 /外部に対する過剰反応 /事件の総括  

第2章 従業員が不正を犯すとき
第5講 メルシャン水産飼料事業部の循環取引事件
非常に特殊な事業内容であったために不審点の追及がおろそかに
事件の概要 /循環取引の構造 /不審点を認識していた経営陣 /傍流事業の位置付け /人事の長期配置は不正の温床 /企業合併や事業譲渡の影響 /事件の総括  

第6講 ベネッセの顧客情報漏えい事件
顧客情報を積極活用する経営方針がセキュリティの不備を招く
事件の概要 /情報漏えい事件に関する調査状況 /情報セキュリティ上の問題点 /業務委託先の監視という発想が欠落 /情報活用優先の経営方針 /事件の総括  

第7講 東海ゴム工業の労働安全衛生法違反事件
顧客への供給責任を果たすために犠牲にされたコンプライアンス
事件の概要 /供給責任の圧力 /人事の長期配置による同調心理 /担当者の勉強不足 /事業継続計画の検討不足 /事件の総括  

第3章 ガバナンスの機能不全
第8講 新銀行東京の巨額損失事件
実現不可能なビジネスモデルに固執して経営方針の転換が遅延
事件の概要 /スコアリングシステムの問題点 /過大な事業規模 /不適切な経営者の選定 /取締役会によるガバナンスの欠如 /モラルハザードを誘発した社内制度 /東京都の監督責任 /事件の総括  


第9講 大王製紙会長による特別背任事件
創業家出身の経営者の暴走に対して内部統制や会計監査は沈黙
事件の経緯 /異常な貸付状況 /創業家の支配構造 /不正貸付を放置した経理部門 /創業家の対応 /創業家にすり寄る監査法人 /社外監査役の機能不全 /事件の総括  

第10講 オリンパスの不正会計事件
「インセンティブのねじれ」にむしばまれて不正を見逃した外部専門家
事件の概要/歴代社長の関与と外部協力者 /損失分離スキーム /損失解消スキーム Ⅰ /恣意的な事業価値評価 /損失解消スキーム Ⅱ /ウッドフォード社長解任事件 /取締役会の機能不全 /社外取締役の問題点 /事件関係者による本社機能の支配 /「とばし」を見逃した監査法人 /外部専門家の機能不全 /監査法人による異例の会計処理 /会計監査人の突然の交代 /形式的な業務引継 /事件の総括  

第4章 重大事故が起きる現場
第11講 中日本高速道路の笹子トンネル事故
落下物対策を優先した関係で長期にわたり打音点検を未実施
事件の概要 /アンカーの荷重計算の誤り /アンカーの施工不良 /落下リスクの検討不足 /点検の未実施 /維持修繕費の不足と特殊なトンネル構造 /横流方式の陳腐化 /リスク情報の未活用 /事件の総括

第12講 上尾保育所における児童死亡事故
リーダーシップの不在によりモンスターペアレントが増長
事件の概要 /甲の所在不明と捜索の状況 /捜索活動の問題点 /モンスターペアレント問題 /甲に対するいじめの放置 /保育所内のコミュニケーション不足 /リーダーシップの不在 /危機感の欠如 /事件の総括 

第13講 東京ドーム遊戯施設「舞姫」の死亡事故
現場をアルバイトまかせにして、安全確認が変質したことに気付かず
事件の概要 /安全バーの確認不備 /注意情報の未活用と教育不足 /遊戯施設業界に共通する課題 /事件の総括  

はじめに

日本では、2000年に雪印集団食中毒事件が発生するとともに、三菱自動車によるリコール隠蔽事件が発覚した。それ以後、安全・安心やコンプライアンスに関する企業の社会的責任が広く認識され、その反面として、不祥事が発生した場合に企業側の受けるダメージが極めて重大となった。
 この情勢を受けて、不祥事を防止することが経営上の重要課題に浮上し、過去10年以上にわたり様々な対策が進められた。それにもかかわらず、依然として同種の不祥事が続発しており、企業側の取り組みが必ずしも効果を上げていないと言わざるを得ない。
 それでは、どうして不祥事対策がうまくいかないのだろうか。
 企業は、不祥事を防止するために重層的なリスク管理制度(内部統制を含む)を既に整備している。それなのに不祥事が起きるのは、失敗学のスイスチーズモデルが示すように、様々なリスク管理の仕組みが、何らかの「病因」によって機能不全に陥ってしまうからである。
 病気を根本的に治療するには、「症状」を緩和する対症療法だけでは足りず、その「病因」を除去することが必要である。しかし多くの企業は、リスク管理の機能不全という「症状」だけを問題視して、その背後にある「病因」に目を向けていない。
 実際に行われている対応は、「コンプライアンス意識を持って仕事をして欲しい」と精神論を唱えるか、「○○対策委員会」「△△マニュアル」のようにリスク管理制度を積み増しするなどの弥縫的な措置にとどまりがちである。肝心の「病因」が手付かずでは、将来的にリスク管理が再び機能不全に陥ることは避けられない。
 次の問題として、企業側が「病因」に目を向けないのはどうしてだろうか。
 この「病因」は、組織の抱える構造的問題であることが多く、取り組むのが大変なのであえて目を背けているという側面は否定できない。管理者側としては、自らのマネジメントの失敗を直視するよりも、現場の従業員に対して「お前たちにはコンプライアンス意識が足りない」と怒鳴りつける方がはるかに気楽である。
 さらに、より大きな問題は、そもそも不祥事の「病因」に関して無知であることだ。不祥事を引き起こした因果関係のメカニズムは複雑である上に、なかなか情報が表に出てこない。そのため、マスコミ報道が性急な取材で「管理が杜撰だった」「企業倫理が不足していた」などと一方的に決めつけたことを教訓と思い込んでしまいがちである。
 本書は、不祥事のメカニズムを正しく理解するための資料として、その「病因」を解説したものである。具体的には、「アクリフーズの農薬混入事件」「ベネッセの顧客情報漏えい事件」「オリンパスの不正会計事件」「中日本高速道路の笹子トンネル事故」など13件の事例を題材に、不祥事の発生に至る因果関係の連鎖を詳細に分析し、それを予防するための経営実践上の含意を抽出している。
 読者の皆さんは、本書で紹介する事例について「知っているつもり」であったのに、実際には自分の認識が非常に浅薄だったことに驚くはずだ。さらに、不祥事を起こした企業と同種の「病因」が自社内にも存在することに気付いて衝撃を受けるであろう。
 本書は、企業内の研修や大学での講座にも活用できるように編集されている。特にコンプライアンスやリスク管理の業務を担当する諸兄には、自社で起きた問題事例を掘り下げて分析していくための思考訓練を積むのに有用と考える。
 それでは、どうか「他山の石」として本書をご活用いただきたい。ただし、著者が読者に教示したいことは、小手先の措置ではなく、企業のマネジメント全体をリスク管理の面から見直す視点であるため、本書はおのずから読者層を選ぶことをあらかじめお断りしておく。現に経営者や管理職の立場にある方、あるいは将来的にその重責を担う覚悟のある青年にお読みいただければ幸甚である。
 本書の執筆に当たって様々な形でお世話になった皆様に対し、改めて心からの謝意を表する。最後に、我が子の美里と芳晴に本書を捧げる。お前たちの歩む未来をより良いものとするために、この本が僅かでも役立つことを父は願っている。

2015年8月
樋口 晴彦

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