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インダストリー4.0
ドイツ第4次産業革命が与えるインパクト

定価(税込)  1,944円

著者
サイズ A5判
ページ数 200頁
ISBNコード 978-4-526-07446-2
コード C3034
発行月 2015年07月
ジャンル ビジネス

内容

今、製造業に「ものづくりネット革命」の大きなうねりが押し寄せている。ドイツが国家プロジェクトとして仕掛ける「インダストリー4.0」だ。本書は、そのコンセプトをはじめ、実現すれば何がどう変わるのか、最近の世界の状況、そして日本企業に与える影響など、インダストリー4.0を取り巻く動きを多面的に紹介する。

岩本晃一  著者プロフィール

(いわもと こういち)

経済産業省地域経済産業グループ産業政策分析官、経済産業研究所コンサルティングフェロー。

1958年香川県生まれ。京都大学卒、京都大学大学院(電子工学)修了後、通商産業省入省。産業技術総合研究所つくばセンター次長、内閣官房総合海洋政策本部事務局内閣参事官などを経て、2012年7月から現職。


著書:『洋上風力発電』(日刊工業新聞社、2012)、『地域経済論入門』(共著、古今書院、2014)

論文:「港湾区域外の領海およびEEZへのゾーニング・ルール導入に関する考察」(日本風力エネルギー学会誌、通巻第111号、2014)、「低炭素型雇用創出産業立地推進事業費補助金の効果分析」(日本地理学会E-journal GEO、Vol. 9(2)89-101、2014)

基調執筆:「技術立国日本の持続的発展のための産業のかたちとは何か」(日本風力エネルギー学会誌、通巻第109号、2014)
Policy Discussion Paper:「独り勝ちのドイツから日本の地方・中小企業への示唆」(経済産業研究所(RIETI)、15-P-002、2015年3月)

目次

はじめに  



第1章 なぜ、ドイツは国をあげてインダストリー4.0に取り組んでいるのか

1-1 ドイツという国の本質  

1 ドイツは理系の国である  

2 ドイツ人は理論的であり、日本人よりももっと真面目で愚直である  

3 ドイツ人は問題を先送りしない  

4 ドイツは日本以上に国民が国のために一致団結しやすい  
5 ドイツは欧州型民主主義(と呼ばれるものがあるかどうかわからないが)の理想を体現している国である  

6 ドイツ人労働者の生産性はとても高い  

7 ドイツの技術力は知れば知るほど底が深い  

1-2 「欧州の病人」から「独り勝ちのドイツ」へ  

1 東西統一による大幅な景気悪化「欧州の病人」  

2 輸出主導による経済再生「独り勝ちのドイツ」  

3 シュレーダー改革  
1-3 ドイツが目指す国家目標  

1 ドイツは経済発展しなければならない『宿命』にある  

2 人口減少・少子高齢化により、潜在成長率に占める労働投入寄与度がマイナスになるため、技術革新で経済成長しなければならない  

3 人口減少・少子高齢化により、熟練技能を持ったマイスターが減少するため、彼らの有する技能を早く機械に伝承しなければならない  

4 再生可能エネルギーの拡大により、電力価格が上昇している  
5 コストが安い旧東欧諸国に製造業が移転する圧力がある  
6 アジア新興国の台頭がドイツの地位を脅かしつつある  

7 米国の製造業が国内回帰を始めており、製造業の本格的な競争力強化に取り組もうとしている  



第2章 インダストリー4.0を推進するドイツ国内の体制と経緯

2-1 政府、学会、産業界、研究機関、大学などが一致協力  

1 国をあげたプロジェクトになるまでの経緯  
2 国内の体制整備  
2-2 関係機関の動向  

1 ドイツ工学アカデミー(acatech:National Academy of Science and Engineering)  

2 ドイツ人工知能研究センター(DFKI:German Research Center for Artificial Intelligence)  

3 フラウンホーファー研究所(Fraunhofer-Gesellshaft)  

4 イッツ・オウル(it’s owl:intelligent technical systems OstWestfalenLippe)  

5 インダストリー4.0プラットフォーム(Platform INDUSTRIE4.0)  

6 スマートファクトリーKL(Smart Factory KL)  
7 民間企業  
2-3 ドイツ以外での取り組み  

1 世界市場の動向  

2 米国  
3 中国  
4 インド  



第3章 インダストリー4.0とは何か

3-1 ドイツのコンセプト  
3-2 インダストリー 4.0の概要  

1 キャッチコピーによるイメージ戦略  
2 第1次〜4次の産業革命  

3 インダストリー4.0の基本部分  

4 インダストリー4.0が実現された時代の物語  

〈ケーススタディ〉 W子さんのドイツ出張物語  
5 将来出現が予想される巨大市場  
3-3 システム構成  

1 水平統合  
2 垂直統合  
3 エンジニアリング統合  

3-4 ロードマップ  

1 標準化と参照(レファレンス)アーキテクチャー  

2 複雑なシステムのマネジメント  

3 ブロードバンドの整備という産業界向けのインフラ  

4 安全性とセキュリティ  
5 働き方を設計し、働き方をつくり上げる  

6 訓練と継続的な専門能力の開発  

7 規制の枠組み  

8 資源の効率的な使用  

3-5 標準化  

1 「ゆるい標準」という考え方  

2 言語と通信プロトコールの標準化  

3 標準化の前提となるユースケースの検討  

4 プラグ・アンド・プレイ方式  

3-6 サイバー・フィジカル・システム  

1 労働組合の懸念  
2 人に優しい人中心のシステム  

3-7 解決すべき課題  

1 セキュリティ  

2 インダストリー4.0に対応可能な人材の育成  

3 ビッグデータは誰のものか  

第4章 インダストリー4.0により実現できること

4-1 「自律性」「柔軟性」「最適化」「生産性」  

〈ケーススタディ1〉 オーダーメイドパソコンの発注から生産、配送  

〈ケーススタディ2〉 エコカーから送られてくるビッグデータから生まれる新ビジネス  

4-2 中小企業への導入をどうするか  

1 中小企業が支えるドイツ経済  

2 中小企業にインダストリー4.0を導入するにはどうすればよいか  

4-3 ビッグデータ市場の出現  
1 ビックデータの流通経路  

2 日本におけるビッグデータ・ビジネスの発展を期待  

4-4 そのほか実現できること  

1 最適な意思決定  
2 資源・エネルギーの生産性および効率性の最適化  
3 高い賃金を払ってもなお競争力のある製造業  

4-5 ハノーバーメッセ2015に見るインダストリー4.0  

1 スマートファクトリーKLによるデモ工場  

2 インダストリー4.0プラットフォームの体制変更  

3 ビッグデータの収集分析  

4 日本への期待  

5 ハノーバーメッセ2015の特徴  

4-6 将来展望  

1 予想できない30年後の姿  

2 各界著名人が展望する将来の姿  


第5章 日本の製造業に与えるインパクト

5-1 日本企業へのインタビュー  

工作機械やロボットに本物が求められる時代に日本にとってはものすごいチャンスになる DMG森精機 森雅彦社長  

ドイツと連携し、標準化作業にも最初から参加していきたい 日立製作所 インフラシステム社 堀田多加志技師長  

業種の枠を越え、中小企業も含めたオールジャパン体制で臨んでいく必要がある 富士通 テクノロジ&ものづくり本部共通生産技術センター 松枝準センター長  

実績あるプラットフォームを基軸に日欧米のパートナーとともにe-F@ctoryをさらに発展 三菱電機 FAシステム事業本部 尼崎新一役員技監  

5-2 業界別インパクト  
1 システムを工場に提供する業界  

2 システムを工場に導入する業界  

3 要素技術を提供する業界  

5-3 日本の「ビンテージ設備問題」  

1 IT化による米独の生産性向上  

2 日本では遅れている生産性向上のための設備投資  

3 日本人の働き方とインダストリー4.0  




おわりに  

参考文献  

はじめに

 今、製造業にネット革命の大きなうねりが押し寄せている。それはかつてパソコンがインターネットに接続されて「ネット革命」が起きたときのようだ。世界は、「ものづくりネット革命」とでも呼ぶべき新しい時代の黎明期にある。

 現在ではパソコンがインターネットに接続されていることに疑問を感じる人はいないだろう。昔のように、パソコンがインターネットに接続されず、1台、1台が個別に使用されるスタンドアローンの時代に逆戻りした方がいいと考える人はいないだろう。ましてや電話やファックス、コピーを使いこなしながら仕事をしていた時代に戻った方が効率的だと考える人はおそらく1人もいないだろう。それと同様、約20年後には、工場内の機械設備がインターネットに接続されているのが当たり前の時代になっている。それは避けられない時代の潮流なのだ。

 ではなぜ、工場内の機械設備がインターネットに接続されることは避けられない時代の潮流なのだろうか。それは、個々の機械設備が単独で稼働しているスタンドアローンの状態と比べて、インターネットで接続されれば、全体がシステムとして稼働できるため、単独ではできなかった数多くの新しいことが「自律的」かつ「短時間」でできるようになり、全体が「最適化」されて「生産性」が大幅にアップするとともに、新しいサービスが生まれ、企業の業績が伸びるからだ。それはかつてパソコンが職場に導入されて業務の効率化が図られただけでなく、インターネットを用いた新しいサービスが次々と生み出され、企業が業績を伸ばしていった時代と重なって見える。

 列車運行管理システム(PTC:Programed Traffic Control)を例にあげよう。かつて運行計画は人が紙に書いて立案した。信号機や分岐器などを操作する要員が各停車場に配置されていたことを覚えている読者も多いだろう。修学旅行の特別列車が走る場合やダイヤが乱れた場合、運行計画の修正は人が行った。駅構内の放送は、電話をして得られた情報を駅員が流した。だが、今ではダイヤが乱れた際には、優先順位も考慮した運行計画をコンピュータがほぼ瞬時に「自律的」に立案し、安全で迅速な平常ダイヤへの復旧計画案を指令員に流す。各列車のディスプレイに表示し、迅速化・効率化が図られ、伝達ミスはない。駅構内には「約○○分遅れて到着予定」など正確でより細かい表示が可能となった。また、車両や乗務員などの運用管理を一括して行い、異常時には車両や乗務員の再配置を短時間で行うことができる。

 こうしたコンピュータによる最適制御システムが、本来、最も先進的で効率的であるべき製造現場に、鉄道に遅れること約20年にしてやっと導入が始まったのである。逆にいえば、導入を20年遅らせるほど、製造現場における職人技が卓越していたともいえる。そのため、「インダストリー4.0(Industrie4.0)」など導入しなくとも現場の職人技をもっと磨けば十分対応できるという意見もある。しかし、ここで例としてあげた列車運行管理のように、職人技で対応していた時代とPTCが導入された今の時代とを比較すればどちらが効果的か、一目瞭然であろう。もう職人技では対応できない時代に入りつつあるのである。インダストリー4.0を導入した場合の生産性の向上について、「濡れた雑巾を相当絞ってきた当社モデル工場でも、生産性が20%上昇した実例が出ている。じゃぶじゃぶな工場であれば、もっと生産性は向上するだろう」(富士通)、「ロボットセル生産システムでは、面積生産性を従来比で3倍近く高めることができる」(三菱電機)と日本企業はインタビューに答えている。そうすると、インダストリー4.0を導入した企業と、そうでない企業との勝負は明らかである。導入に当たっての最大の鍵は、かつてわが国にパソコンが導入されたとき、多くの職場で人差し指1本でキーボードを打つ中高年者の光景がよく見られたが、それと同じ光景が工場内で再現しないよう、いかに導入を円滑に進めるかであろう。

 そうした「ものづくりネット革命」から新しく生まれる市場は巨大である。例えば、インターネットに接続される機械設備やデータを収集する製品(自動車など)に搭載される基本ソフトウエア(OS)が、仮にアンドロイドになったとしよう。アンドロイドが世界中の機械設備や自動車に搭載されることになり、今、スタンドアローンで使われている機械設備が、インターネットに接続できる機械設備に新しく買い換えられる。またデータを収集するためのデータセンターが建設され、ビッグデータを分析するさまざまなビジネスも生まれる。世界中のすべての自動車に100個のセンサーが搭載されて無線で送信されれば、その市場も巨大である。このように現在の知見に基づき少し考えただけでも、巨大な市場がそこに存在していることがわかる。今、その巨大な市場を目指して、世界中の企業が一斉に走り出している。

 今回、私がインタビューした日本企業の方々は、こうした「ものづくりネット革命」とも呼べる大きな波は、自社にとって大きなチャンスであると回答している。これから生まれるであろう巨大な市場の恩恵を受けられるという確かな予感があるからだ。ただ、そうした恩恵を享受できる日本企業は、そう多くないと予想される。これから日本企業が越えなければならない壁は3つある。第1は、機械設備をインターネットに接続しなければならない。この壁を越えることはそう難しいことではない。第2の壁は、インターネットに接続した一連の機械設備群をシステムとして稼働させて使いこなし、企業に利益をもたらすような新しいサービスを提供することである。「投資対リターンを大幅に高めるようなサービスとは何か」を考え出さないといけない。そして第3に、ドイツや米国と競争できるような企業競争力を持たなければならない。これら3つの壁を越えられる日本企業は、おそらく2桁程度であろう。3つの試練を乗り越えられない日本企業は、淘汰されていくかもしれない。厳しいかもしれないが、今、私たちが迎えつつある新しい時代の波は、それほど大きな波なのである。だからこそ、「改革(Reform)」ではなく、「革命(Revolution)」なのだ。

 最近のマスコミは、「ドイツがインダストリー4.0をスタートさせ、米国が『インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)』を開始した、日本の製造業は大丈夫か」という論調が多い。だが、現実はそう単純なものではない。マスコミはインダストリー4.0というキャッチコピーに踊らされている感がある。もっと真実の姿を見極めなければならない。「ものづくりネット革命」と呼べるような大きなうねりは、世界中で同時に押し寄せているのである。ただドイツはインダストリー4.0というキャッチコピーによるイメージ戦略に成功しているが、真面目な日本はそうではないだけである。DMG森精機の森雅彦社長が指摘するように、ドイツにはドイツのものづくりの歴史があり、日本には日本のものづくりの歴史がある。ドイツのものづくりがいきなりレベルアップし、日本のものづくりが急にレベルダウンするなどということはあり得ない。イノベーションは連続的なのである。日本企業に対するインタビューを読んでいただければおわかりのとおり、ある特定分野の技術レベルを見るなら、日本企業はドイツを凌ぐ技術力を持っているといっても過言ではない。ただ、ドイツに対して、戦略や戦術の面で日本は遅れている。一歩間違えれば、ガラパゴス化し、技術で勝ってもビジネスで負ける可能性もある。日本も、戦略や戦術を持つ必要がある。試行錯誤したドイツの背中を後から追う日本としては、今からスタートしてもすぐにドイツにキャッチアップできる位置にある。

 ドイツにおいては、「夢でコンセプト」を語る時代は過ぎ、現実的な課題の検討段階に入っている。そうすると、ステークホルダーの利害関係が噴出し始め、苦悩している様子がこちらにも伝わってきている。だが、前進速度はゆっくりかもしれないが、ドイツ人は、やるといったことは必ずやり遂げる人々である。それを前提に、「日本がどうするか」を考えないといけない。
本書は、ドイツ人がこれまで夢で語ってきたコンセプトだけでなく、最近の苦悩している現実の姿、そして日本企業の動向など、インダストリー4.0を取り巻く動きをより深くかつ多面的に読者にお伝えしようとするものである。また、最近の日本のマスコミの論調である「日本のものづくりは大丈夫か」という単純でステレオタイプ的な見方を廃し、より複雑で多面的な実態を理解していただけるよう配慮した。

 ところで、日本のマスコミが報じた点に誤解がいくつかある。先ほどの「日本の製造業は大丈夫か」という論調はその1つだが、「その程度のことなら、すでにやっている。インダストリー4.0は何が新しいのだ」という論調もその1つである。新しい技術が導入され始めるころ、その技術の本質が理解できない人のなかには、一種のアレルギーを感じる人がいるが、それはどの時代にも見られる現象である。

 また、外国が新しいことにチャレンジしようとするとき、日本人はそれを見くびることがままある。それもまた人の悲しい性の1つである。1つの例をあげよう。私が若いころ、韓国が半導体分野に進出するというニュースが入ってきた。日本の半導体メーカーは、「まったく経験のない韓国が半導体ビジネスをするなんて無理だ」と断言した。だが、資金力にものをいわせて日本の最新式の半導体製造設備を買って工場を建てると、「まさか、あそこまで資金を投入するとは思っていなかった」「まさか日本の半導体設備メーカーが韓国に設備を売るとは思ってみなかった」といった。日本の半導体メーカーを退職した技術者を高給で雇い始めたとき、「まさか、そんなことをするとは思っていなかった」といった。やがて週末に韓国にアルバイトに出かける現役の半導体技術者のことが新聞に載るようになったが、これにも「まさか、当社の社員がそんなことをするとは思っていなかった」といった。やがて1世代か2世代古い半導体をきわめて低価格で大量生産を始めたとき、「まさか、そんなビジネスをするとは思っていなかった」といった。日本と韓国の立場が逆転するまでさほど時間を要しなかった。若いころの体験だったので深い印象が残っている。

 今、世界中で起きている「ものづくりネット革命」は、特に製造業の将来に大きな影響を与えるだけに、製造業で会社の経営に多少なりとも責任を負っている方は、冷静な目で何が真実なのか見極めて欲しいと願っている。見くびることは禁物だが、いたずらに焦る必要もない。じっくりと腰を落ち着けて自社はどうすべきか、今から社内で議論を開始しても決して遅くない。

 本書は、「インダストリー4.0という言葉は聞いたことはあるが具体的に何のことかわからない」という方はもちろん、「関心はあるが難しい技術のことはわからない」という企業経営者や文系のビジネスマンの方々にも理解できるよう、技術は平易に解説した。かつ、技術以外の面に多くの紙面を割いた。また、この分野で新しいビジネスを考えておられる方々にも参考となるように配慮した。

 日本のものづくりを次の世代にどのような形で引き継ぐのか、それは現世代の人々の行動次第である。


2015年7月

岩本晃一

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