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日本の“ものづくり”に求められる“ひとづくり”

定価(税込)  1,980円

著者
サイズ 四六判
ページ数 216頁
ISBNコード 978-4-526-07357-1
コード C3050
発行月 2015年02月
ジャンル その他

内容

“待ったなし”の状況にある、日本のものづくり技術者の育成。本書は、「どういう人材が必要とされるのか」「その人材を育てるにはどうすれば良いのか」という点にまで踏み込み、著者の長年の教育現場や企業指導の経験から、今、求められている“ひとづくり”を提言。

山根八洲男  著者プロフィール

(やまね やすお)

昭和23年(1948年)生まれ。

昭和50年広島大学大学院工学研究科修士課程を修了後、同年東芝機械入社。
昭和52年広島大学大学院博士課程入学、昭和55年工学博士。昭和55年~60年広島電機大学、昭和60年広島大学助教授、平成7年同教授。その後、ベンチャービジネスラボラトリー施設長、産学連携センター長等を経て、平成17年~21年工学部長、平成21年~23年理事・副学長。現在、広島大学工学研究院特任教授。専門は切削加工。

目次

はじめに 


第1章 ものづくり技術者の激減と対策 

1.技術者人口の激減 

2.激減への対応策 


第2章 ものづくりの特徴 

1.創造と育成 

2.仮想空間内への構築 

3.仮想空間から実空間へ 

4.技術の賞味期限 
5.未来へ(R&D) 


第3章 技術者としての素養 ─ 技術者としてわきまえておきたい事柄 
1.ものづくりにおける問題・課題解決の流れ 

2.原因と結果の間にあるもの 

3.逆解析 
4.さとり 

5.直線目盛りと対数目盛り 

6.微分と積分 
7.マニュアル 


第4章 技術者に要求される能力 

1.理論力 

2.経験力 

3.創造力 

4.俯瞰力 

5.判断力 

6.行動力 

7.課題解決能力 

第5章 技術者を育てるうえで基礎となる考え方 

1.「ものづくり」と「ひとづくり」 

2.学習曲線 

3.評価 


第6章 技術者を育てる 

1.高等教育  

2.高等教育と企業内教育の接続 
3.企業内教育 

第7章 新しいタイプの技術者 

1.これまでの技術者 

2.新しいタイプの技術者 

   
おわりに 

はじめに

日本の技術力の総合計 
 少し古いデータであるが、わが国の科学技術人材は230万人で、全産業の就業者数6150万人あまりに対して約4%弱である。また、製造業に限ると科学技術系人材は約60万人(うち技術者が約57万人、自然科学研究者が3万人強)といわれている(中田喜文、宮崎悟:日本の技術者、日本労働研究雑誌、№606、January 2011)。


 一方、平成25年度の文部科学省『学校基本調査報告書』の職業別就職者数によれば、製造技術者(開発および開発を除く者の合計)となった数は約3万7000人となっている。


 製造業の科学技術系人材の60万人の中には、企業に就職したばかりの新人から定年を間近に控えたベテランまでいる。技術者のレベルを「新人」「中堅」「中核」「ベテランおよびそれ以上」と分けた場合、わが国では中堅(一人前)になるのに、短くて5年、場合によれば7~10年以上はかかるといわれていることを考えると、新人あるいは新人に近い中堅は約22万人(6年かかるとして3万7000×6)と考えられる。この数は製造業における技術者(研究者も含める)60万人の約3分の1に相当し、決して少ない数ではない。


 言い換えれば、60万人のうち38万人が最前線で“ものづくり”を引っ張っており、22万人がその下で「上位中堅」「中核」「ベテランおよびそれ以上」になるためにOJT(On the Job Training)を受けながら日夜努力していることになる。


 
 “ものづくり”における技術力をどのように定量化するかは難しい問題であるが、

 「わが国の技術力の総合計」=「わが国の技術者の能力の総合計」

 であると仮定すると、これを増やすには、
 
①中堅以下である22万人の育成時間を短くし、最前線にできるだけ早く送り込む
 
②最前線で活躍している38万人の能力を今以上に高める

 という2つの方法が考えられる。最前線に送り込むのも、最前線の能力を高めるのも、「人材育成」の一言に尽きる。



 技術系人材の育成については、その重要性がますます増大している割には、これを正面から取り上げて、「ではどうするのか」という点にまで踏み込んで議論することは容易ではない。理由はいくつか考えられるが、企業人あるいは教育関係者(組織という意味ではない)の両方から(特に中堅以上から)、「忙しい(そんな議論をしている暇はない)」「興味がない」「それぞれ状況が異なるので一般的な議論をしても意味がない」などの答えが返ってきそうである。しかしながら、組織としては「人材は組織の根幹であり、これをどう育てるのか」を常に考えているのが実情であろう。すなわち問題は、「構成員(特に中堅以上)の意識」と「組織の意識」のギャップにあるといえる。



 これに関連するが、日本工学教育協会(Japan Society for Engineering Education)という公益社団法人(前身は日本工業教育協会で1952年設立、設立時の事務局は文部省大学学術局技術教育課内)があり、産学官の会員が工学教育のあり方について研究や情報交換を行っている。しかし協会の会員数は約3000人と、決して多いとはいえない状況であり、これなども「構成員の意識」の問題であろう。ぜひ多くの人々が議論に参加されること切に望む。



 なお、教育関係者の弁護をすると、私の経験では、「人材育成」というと工学系の研究者は、個人的な感覚であるが、学外で表立った議論を避けてきた感がある。しかしながら学内では、人材育成(教育)は大学の根幹であり、水面下で熱い議論になることもしばしばである(教員としては当然である)。
 教えてきた期間の長短はあるにせよ、大学の教員は教育・研究・社会貢献が仕事である。どのようにすれば自分の専門分野を学生に理解させることができるかという難問に心を砕かない教員はいない(と信じる)。
 ただし、いざ現実的に「カリキュラム」に落とし込む段になると、自己主張は抑え、合意形成しやすい無難な考え方にまとまることとなる。



 余談であるが、これは工学に携わる人の宿命と考えている。工学では、初期条件・境界条件を決めたうえで、両条件下で最適解を探すというのが問題解決の手法であり、条件設定さえ合意できれば意見の集約は比較的簡単である(工学以外の分野の人についても感想を持っているがここでは触れない)。



 このような状況ではあるが、日本のものづくりが曲がり角に差しかかり、「技術系の人材育成」が待ったなしの状況がすぐそこにきていることを考えれば、個人的な「思い」であれ、議論のたたき台として、本書を書くことを決心した。



 戦後日本は、ものづくりにおいて世界をリードする役割を果たしてきたが、これができた理由の一つは、義務教育の徹底化や高等教育を受ける機会の増大、さらには実践的技術者の養成を目的とした工業高等専門学校の制度化(1961年)・設置(1962年以降)などによる若手・新人の質的向上が大きい。余談になるが、興味あるデータがある。1970年11月2日の朝日新聞朝刊の記事(『現代っ子の「なりたい職業」は…』)によると、男子の希望する職業の1位に「エンジニア」とある。一方、2009年の他の調査(ベネッセ教育総合研究所「第2回こども生活実態基本調査」)によれば、エンジニアは9位と相当順位が下がっているのが読み取れる。1970年は、高度経済成長期(1955年~1973年)の終わりに近く、ものづくりによる経済発展や生活向上の実感が子供にまで浸透した結果が、このような希望として表れたものであろう。希望にせよ、エンジニアになりたい子供が多数いたということは母集団がしっかりしていたことを意味している。



組織の形態―掛け算か足し算か
 企業に限らず人で構成された組織の能力は、組織内の個々人の能力に依存する。依存の形態は、個々人が並列に接続されている(平等して作業を受け持つ)場合は「足し算」となるが(もちろん相乗効果は考慮する必要があるが、とりあえずは足し算とする)、直列に接続されている場合、例えば、指揮命令系統が明確化された組織や、企画・設計・加工・組立と続くものづくりなどでは「掛け算」となる。


 組織内の人材は通常、直列、並列の混合形で組織化されているが、問題は掛け算の直列接続部である。掛け算では個々の値が全体の値に直接影響を持つ。例えば一つでもゼロ(0)の値があれば、他の値がいくら大きくても全体はゼロとなるし、もしマイナスの値があると全体の値はゼロよりも悪くなる。マイナスの値は、組織が本来進むべき方向と逆の方向を故意に、あるいは間違って判断・実行した場合に相当する(数学では「マイナス」×「マイナス」は「プラス」となり、必ずしも適切な表現ではないが)。故意に行った場合はいわずもがなであるが、間違った場合も、当人は良かれと思って判断したことであろうが、組織にとっては悲惨である(リコール問題をはじめ、歴史的に見れば、この手の話はいくらでもある)。



 繰り返しになるが、ものづくりは企画から設計・加工・組立と、上流から下流へとつながる「直列接続」であり、個々のセクションにおける人材の能力が最終製品に「掛け算」として直接影響する。したがって、すべてのセクションで人材のレベルアップを図る必要がある。その際に大事なことは、単にかけ声だけでなく、

 ①どういう人材が必要とされるのか
 
②それはなぜか
 
③それを育てるにはどうすれば良いのか
 
という点にまで踏み込んで議論する必要がある。もちろん「仕事の特徴」や「要求される能力」さらには「育てる方法」については、企業や仕事の内容により異なることから、一律に議論することは困難であろう。ここでは私が経験し、あるいは教育に携わった、機械系の技術者を念頭に話を進める。しかしながら、小異にとらわれず大同をくみ取ることにより、ものづくりに限らず多くの場合に適用できると信じている。



 本書では、「一人前の技術者になるため」あるいは「一人前の技術者を育てるため」に必要と思われるいくつかの項目について述べている。



 本書の構成は、

 ①技術者の仕事の特徴

 ②技術者に要求される素養

 ③技術者に要求される能力

 ④能力を育てるための方法(大学から企業まで)

 となっている。

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