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環境保全と防災対策に着目した
地盤・地下水開発技術<入門>

定価(税込)  2,376円

著者
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サイズ A5判
ページ数 256頁
ISBNコード 978-4-526-07289-5
コード C3052
発行月 2014年08月
ジャンル 土木・建築

内容

「環境保全に必要とされる地盤と地下水に関する技術」を「災害時の防災対策」にも焦点を当てて紹介する入門書。地盤条件の厳しい日本では、降雨時の斜面災害や河川災害および地震時の液状化現象に伴う地盤の沈下など、地盤災害が多発。さらに地盤環境に関しては、有害物質の地下水汚染、廃棄物処分場からの有害物質の漏出なども問題となっている。本書では、地盤開発技術や地下水開発技術によって防災上有利なあるいは環境保全を図ることが可能となる事例を網羅的に解説している。

戟 忠希  著者プロフィール

(ほこ ただき)
技術士(応用理学部門、総合技術監理部門)、APEC ENGINEER(Civil,Structual)
環境計量士、一級土木施行管理技士
S29年生まれ 大阪府出身 大阪市立大学理学部卒業
株式会社 HOKOネットワーク 代表取締役社長
特定非営利活動法人 地盤・地下水環境NET 専務理事
一般社団法人 知財経営ネットワーク 理事

大手建設コンサルタント会社勤務の後、独立し現在に至る。建設コンサルタント会社では、リモートセンシング技術の土木分野への適応や岩盤斜面安定性のエキスパートシステムの研究・開発を行った。
特定非営利活動法人 地盤・地下水環境NETでは、科学技術の振興および環境保全を図る活動を推進している。近年は、子供の理科離れを防ぐためのセミナーや出前講座などを推進している。
一般社団法人 知財経営ネットワークでは、企業の技術評価や知財経営関連のコンサルタントを行っている。特に技術の目利きに関する観点からのセミナーには定評がある。
著書として、『技術融合で「人に役立つ技術」を仕事にする』(日刊工業新聞社)、『技術者のプロマネ「ミッション遂行力」入門』(日刊工業新聞社)、『知ってなアカン!技術者のためのマネジメント思考上達法』(日刊工業新聞社)、『知ってなアカン!知的資産活用術』(日刊工業新聞社)などがある。

稲荷 誠  著者プロフィール

(いなり まこと)
技術士(建設部門・環境部門)、防災士
S51年生まれ 奈良県出身 京都大学大学院工学研究科環境地球工学専攻 修士修了
いなりコンサルティングオフィス 代表
一般社団法人 知財経営ネットワーク 理事
特定非営利活動法人 地盤・地下水環境NET 会員

民間調査機関、大手建設コンサルタントにおいて、官公庁関連の技術/社会調査及びコンサルティング業務を多数経験。その後、個人事務所を設立し、環境計画や防災対策に関するコンサルティングを展開している。
一般社団法人 知財経営ネットワークでは、技術経営に関する支援に携わっている。

目次

はじめに

第1章 防災上問題となる地盤の改変
序説 地盤の対策
1-1 斜面の問題
1-1-1 斜面崩壊の種類
1-1-2 斜面崩壊の原因
1-1-3 斜面崩壊対策技術
1-1-4 斜面崩壊の“見える化”
coffee break 地質リスクと地盤リスクについて
1-2 地震時の液状化問題
1-2-1 液状化の発生条件と被害
1-2-2 液状化のメカニズム
1-2-3 液状化の判定
1-2-4 液状化対策
1-2-5 液状化現象の“見える化”
コラム1 ハザードマップ

第2章 防災に有効な地盤開発
序説 生活確保のための地盤技術
2-1 大深度地下開発
2-1-1 大深度地下を利用した石油の備蓄
2-1-2 大深度地下を利用した放水路
coffee break ちかび展示館(串木野国家石油備蓄基地)
2-2 人工地盤
2-2-1 人工地盤の構造とその用途
2-2-2 人工地盤による津波対策
2-2-3 人工地盤による洪水対策
2-2-4 人工地盤による都市の再開発
コラム2 都市防災

第3章 防災上問題となる地下水の挙動
序説 地下水管理
3-1 地下水開発と地盤沈下
3-1-1 地盤沈下のメカニズム
3-1-2 地盤沈下と法律
3-1-3 地盤沈下の種類
3-1-4 地盤沈下による被害
3-1-5 地盤沈下対策
coffee break バーチャルウォーター(仮想水)
3-2 建設工事や地下構造物に与える影響
3-2-1 建設工事が地下水から受ける影響
3-2-2 地下構造物が地下水から受ける影響
3-2-3 地下水制御技術
3-2-4 リチャージ工法
コラム3 地下水のとらえ方

第4章 防災上必要な地下水開発
序説 災害時の水の供給
4-1 井戸の設置
4-1-1 井戸設置の手順
4-1-2 地下水の探索
4-1-3 井戸の掘削
4-1-4 水質調査
4-1-5 井戸のメンテナンス
coffee break 大阪府における災害時協力井戸の取り組み
4-2 地下水涵養
4-2-1 都市化の進行と地下水涵養
4-2-2 地下水の人工涵養技術
4-2-3 地下水涵養のための雨水浸透技術
4-2-4 地下水の涵養状況把握
コラム4 水の浄化

第5章 環境に悪い地盤開発
序説 土木工事に伴う問題点
5-1 生態系の破壊
5-1-1 河川構造物
5-1-2 道路建設
5-1-3 エコ・ロード(Ecological Road)
coffee break ミチゲーション制度
5-2 建設発生土
5-2-1 建設副産物
5-2-2 建設発生土のリサイクル技術
5-2-3 具体的な改良工法
コラム5 リモートセンシング

第6章 環境をよくする地盤技術
序説 地盤の機能を活用した環境対策技術
6-1 地熱・地中熱の利用
6-1-1 地熱と地中熱の関係
6-1-2 地熱の活用技術
6-1-3 地中熱の活用技術
coffee break 東京スカイツリーにおける地中熱の活用
6-2 電線類の地中化
6-2-1 電線類地中化とは
6-2-2 電線類地中化の工法
6-2-3 電線類地中化による効果
コラム6 地盤環境技術

第7章 環境に悪影響を与える地下水開発
序説 地下水の機能と適正利用
7-1 地下水の塩水化
7-1-1 塩水化による被害
7-1-2 塩水化防止技術
coffee break 海水の淡水化
7-2 地下水汚染の移流・拡散
7-2-1 VOCによる地下水汚染と対策
7-2-2 重金属による地下水汚染
7-2-3 硝酸性窒素による地下水汚染と対策
7-2-4 地下水汚染の移流・拡散の“見える化”
コラム7 地下水質モニタリング

第8章 環境に配慮した地下水開発
序説 地下水の有効利用
8-1 地下水熱の利用
8-1-1 ヒートポンプ
8-1-2 オープンループ方式
8-1-3 地下水熱・地中熱利用による周辺環境への影響
coffee break 水ビジネス
8-2 生態系の復元
8-2-1 湧水と地下水
8-2-2 環境用水と生態系
8-2-3 ビオトープの形成
コラム8 名水百選

参考文献一覧
おわりに
索 引
著者紹介

はじめに

日本の国土は約75%が山地と丘陵地で、多くの活断層と火山が存在し、シラス地盤や火山灰土壌など火山性堆積物により構成される地盤が多く分布しています。また、風化の進んだ軟岩のように脆弱で不安定な自然斜面および急傾斜地や地すべり地の数も膨大です。一方、山地と丘陵地以外では軟弱な粘性土やゆるい砂層などからなる厚い沖積地盤が広く存在します。
このように地盤条件の厳しい日本の国土は、地震や豪雨に対して不安定であるといえます。つまり、降雨時の斜面災害や河川災害および地震時の液状化現象に伴う地盤の沈下などの災害が発生しやすい地盤が広く分布しています。
一方、人口増加や都市化に伴う社会の発展とともに、道路、鉄道、堤防、宅地の盛土、切土斜面などの土構造物や共同溝などの地中構造物に加えて、高架道路や高層ビルなど地盤と基礎構造物に支持された社会基盤施設が整備されてきました。これらの社会基盤施設の建設は、人為的に丘陵地や台地で斜面造成を行い、さらには従来利用されてこなかった急斜面の前面や低平地へと拡大されるとともに、その延長上にある海岸の埋め立て造成へと拡大してきました。
このように我が国では狭い国土の有効利用として、水害や土砂災害などに対してリスクの高いところに、あえて開発が進んでいます。したがって、住宅や社会基盤施設などの建物が地震や豪雨を誘因とする地盤災害を受ける可能性が必然的に増えてきています。
東京、名古屋、大阪などの大都市は、平野部に展開されています。このため、これらの都市の地盤はリスクの高い地盤ではないと思われがちですが、実際には地質年代の新しい沖積層で構成されていることから、地盤工学上の問題を多く抱えています。沖積層の厚さは一様でなく、軟らかい粘土やルーズな砂が主体となり、概して軟弱であることが特徴的です。このような地盤では、地盤の不同沈下、地震時の液状化現象など、建設工事を行う上で様々な問題があります。
その一方で、適切な地盤開発を行うことで、いろいろなメリットを創出できます。
また、地盤中には、地下水が含有されています。地下水は、一般的には良質で水温の変化が少なく、井戸による取水のため大規模な貯水・取水・供給施設を必要としないなどの特徴があるため広く利用されてきました。
特に、水道施設が普及する以前は、一般家庭で手やポンプで汲み上げることが可能な浅井戸を利用していました。井戸の水は、夏は冷たく、冬は暖かく、さらにおいしいという特色を持っていましたので、私たちの生活を支える重要な役割を果たしてきました。
一方、高度経済成長の過程で工業用の深井戸が多く掘削され大量の地下水が採取されたため、地盤沈下や塩水化といった地下水障害が発生しました。このため、地下水障害が顕在化した地域を中心に、法律や条例などによる取水規制や河川水への水源転換などの地下水保全対策が実施されました。
その結果、現在は著しい地盤沈下地域はなくなりました。また、水道施設の普及や地下水の取水規制などに伴い私たちの生活から井戸水の利用、つまり地下水の利用は減少しています。
さらに、かつてのように井戸水はおいしいといえる時代ではなくなりました。つまり、雨水や河川水などの表流水が地下に浸透して地下水を形成するのですが、この時、土壌というフィルターを通しても除去できない化学薬品や農薬などで地下水は汚染されていることがあります。
主な汚染原因としては、ドライクリーニング用の溶剤や各種の電気機械部品や精密機械などの洗浄剤として利用されているトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの有機塩素化合物があります。
また、農作物の栽培に利用されている農薬は、分解されずに地中に浸透していきます。これらの有機塩素化合物や農薬の使用量は増えており、20~30年の歳月をかけて地下水脈にたどり着きます。
有機塩素化合物や農薬による地下水汚染、廃棄物処分場からの有害物質の漏出などによる地下水汚染により、地下水を飲料水として利用することは難しくなります。地下水汚染の対策も進められていますが、有害物質が地下水脈にたどり着くまでに時間がかかるため、地下水をとりまく地盤環境はさらに悪化する傾向にあります。
しかし、地下水を適切に利用することで、環境保全や防災上の対応策になりえます。
これらの地盤災害や地盤環境への悪影響は自然あるいは人為的な要因によってもたらされるわけですが、適切な地盤開発技術や地下水開発技術を駆使することにより地盤災害および地盤環境の悪化を未然に防ぐことは可能です。
元来、人間の生活を豊かにするために、地盤の開発や地下水の開発を行ってきたのですが、その結果として負の遺産を創り出すことがあります。地盤技術者や地下水技術者は、地盤開発技術、地下水開発技術が、社会、経済に対して与える副次的な影響を常に考察するよう心がける必要があります。
環境の保全を実現するためには、自然と人類が共生できる道を探るとともに、環境に対する人類の感受性を高め、環境調和型の技術の新しい方向を考案していくことが重要になります。
また、防災対策に着目したインフラ整備をしていくことも必要です。環境保全と防災対策に着目した地盤開発技術と地下水開発技術を用いることで、安全で環境にやさしい社会が形成できると考えます。
本書は、これまで不適切な地盤開発や地下水開発によって誘発された防災上問題となる現象や環境に悪影響を与えてきた現象だけでなく、地盤開発技術や地下水開発技術によって防災上有利なあるいは環境保全を図ることが可能となる事例について解説します。
また、地盤や地下水は、その現象を直接目で見ることは困難です。さらに、地盤の構成は不均質であることから、自然的あるいは人為的要因によって誘発される現象を解明していくことは難しいといえますが、現在ではこれらの現象を“見える化”した状況で解明していく手法も開発されています。本書ではこれらに関しても解説しています。
読書の皆様が、本書によって、安全で環境に優しい社会を形成するために必要となる地盤開発技術および地下水開発技術の適応手法について参考にしていただければ幸甚です。

2014年8月
戟 忠希

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