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200社の取引先倒産に対応した経験が語る
企業「危機管理」の強化書

定価(税込)  2,376円

著者
サイズ A5判
ページ数 208頁
ISBNコード 978-4-526-07276-5
コード C3034
発行月 2014年07月
ジャンル 経営

内容

取引先の倒産危機により受ける自社の影響をいかに抑え込むか、という経営管理の観点からまとめた企業の"危機対策"書。危険の本質を見極め、発生からそれが危機に至るまでを体系化し、その都度どのような対策を行えばよいか考え方と行動例をわかりやすく示す。

奈良 武  著者プロフィール

(なら たけし)

(公)鳥取環境大学経営学部教授



上智大学大学院修了。ソニー株式会社入社、労務管理、労働訴訟、採用、研修、規定管理、取締役会事務局、輸出管理、経営管理、子会社設立などに関与。この間に子会社にて株式上場、業務改革、業務監査を指導。資材部門に所属し法務主席を経て退社。通商産業省企業法制研究会委員、事業再生研究機構幹事、電気通信大学・多摩大学・東京国際大学・法政大学の非常勤講師、多摩大学ロジスティクス経営戦略研究所客員助教授、同 大学院客員准教授を経て現職。



企業法務、危機管理論、企業倒産論を専門とし、企業経営、組織、人、資金調達、企業倫理などを関連させて研究を進めている。民法、会社法、倒産法、労働法、消費者法、下請法、独禁法、証券法、外為法などに通じている。親企業の資材・購買担当者の視点に立った中小企業の倒産を分析する領域を確立した功績は大きい。資材・購買担当者にとどまらず、著書を経営強化の教科書とする中小企業経営者が全国に数多くいる。



【主な著書】

「企業倒産論」(産能大学出版部2007年)、「倒産か再生か」(㈳金融財政事情研究会2003年)、「倒産対応の基礎知識」(㈳商亊法務研究会2001年)、「売買契約の基礎知識」(産能大学出版部1999年)、「倒産から企業を守る」(㈳金融財政事情研究会1998年)、「資材マンのための倒産処理マニュアル」(産能大学出版部1997年)など。

目次

はじめに   

第1章 危険と危機をとらえ直す

1 危険が化身して危機に至る   

2 確実に利益を得るために学ぶ   

3 危険は企業内で発生する   

4 危機は企業人が作り出す   

5 危険と危機は見落とされる   
6 利益あるところに危険あり   

7 危険は外的変化と内的変化が絡み合って発生する   

8 企業人は変化に弱い   

9 なぜ危機の対応に失敗するか   

10 危険には純粋危険と投機的危険の2つがある   

11 未来の事象を等身大でとらえる   
12 もしかしてと考え、まさかと考えてはならない   

13 危険と危機の研究   


第2章 危機管理体制を構築する

1 危機管理は経営管理の1つ   

2 危機管理は企業の存続に直結する   
3 危機管理の脆弱性を克服する   

4 避ける危険と取る危険の2つを切り分ける   

5 平常時と非常時では考え方が変わる   

6 具体的な危険の発見は難しい   

7 危険の分析と評価の手法は因果関係から探す   

8 予防と予知は違う   


第3章 経済環境の変化をとらえる

1 危険の因子の特徴を知る   
2 経済環境の変化から未来を予測する   
3 バブル景気の崩壊後に構造型変化が生じた   
4 デフレ経済に突入した   
5 日本市場だけで生き残れるというのは幻想だ   
6 リーマン・ショックが欧州債務危機を誘発   
7 中国プラス1は進化している   
8 アジアへの挑戦には危機管理が不可欠   


第4章 親企業とメインバンクは変化する

1 アジアへ工場進出し現地部品を調達する   

2 サプライチェーン・マネジメント方式を導入する   

3 単価の引き下げ、部品点数の削減、部品の共通化、
機種の整理を実行   

4 過剰な調達先を整理する   

5 メインバンクは変化を続けた   

6 融資方式の変更が中小企業に不利に働く   

7 擬似資本が中小企業を支えていた   

8 政府の中小企業対策では効果を出せない   

9 中小企業のアジア進出は成功している   

10 中小企業の経営環境は悪化の一途をたどった   


第5章 企業の改革はその実力に依存する

1 危機管理の知識に乏しい経営者は失敗する   

2 危機は赤字受注に始まる   

3 限度を超えて借入金を増やすから危険になる   

4 特定顧客への依存度を高めると不安定になる   

5 与信管理の不在は命取り   

6 管理体制の不備が原点にある   

7 決算書に不備があれば危機の予兆をとらえられない   

8 危機の予兆に対する認識不足   


第6章 危機には経路がある

1 危機の原因は遠因・近因・直接原因の3つ   
2 遠因は業績の低下で発生する   
3 近因は黄金の架け橋   
4 直接原因とは慢性的な資金繰りの破綻(自転車操業)のこと   
5 資金繰り破綻の対応を間違える   


第7章 予防と予知に力を注ぐ

1 予知と予防に力点を置く   
2 取引先から持ち込まれる危険への対処   
3 予防と予知体制の基本を理解する   
4 資材担当者は弱点を克服すべし   
5 予防と予知に決算書分析を利用する   
6 定期訪問調査で予兆を発見できる   


第8章 危機対応の手法は複数ある

1 危機対応は専門職の仕事   
2 危機発生の場面はいろいろ   
3 危機対応の原則を大切にする   
4 情報収集は原因者の情報に重きを置く   
5 事情聴取は社長と面談する   
6 状況分析・状況判断・決断・実行を素早く   
7 Ⅹデーは読み取れる   
8 Ⅹデーの操作は慎重に行う   


第9章 危機管理責任者を育成する

1 危機管理責任者は専門職   
2 危機管理責任者を育てる   
3 危機対応の基本姿勢を身に付ける   
4 最悪の管理者を反面教師にする   
5 危機とコンプライアンス   
6 内部統制とは危機管理のことである   




おわりに   

参考文献一覧   

索 引

はじめに

 われわれは危険と危機をこれまで忌まわしいものとして取り扱ってきた。その心は「関わりたくないから、考えたくない」であったろう。ところが、東日本大震災の発生を目の当たりにして、「関わりたくないが、考えなければならない」が正しいと気付いた。今や企業は組織の抱える危険と危機に敏感に反応し、企業人は自分の日常業務に付随するそれに強い関心を持つようになった。

 本書は危機管理体制の構築を検討している企業経営者、部課長などの役職者、企画と管理の担当者、危機管理の提言を求められている企業人、企業経営を学ぶ大学院生、危険と危機の参考書を求めている読者を想定する。企業活動は危険と危機の連続であるものの、正しく恐れるならば乗り越えられる。本書を教科書として、危険と危機の障子を開けて見よう。

 危険と危機あるいは危機管理のとらえ方は人によって異なる。また危険と危機に関わらない学問はないと言われ、いろいろな分野で論じられているものの、その考え方は必ずしも同じではない。

 私は企業人時代に、200社ほどの取引先の経営破綻(倒産)に対応した経験を持っている。この経験から危機の原点は、国家においては「戦争」、企業においては「経営破綻」、人においては「死」であり、これらを題材にすれば、危険と危機をどのようにとらえるべきか、いかに対応すべきかを明らかにでき、また基礎的な知識を豊富に得られると考えるようになった。もっとも、これら3つの主題は大き過ぎて手に負えないので、経営破綻に限定して研究している。

 危険には「純粋危険」と「投機的危険」の2種類があるとされている。純粋危険とは、事故や災害の危険のように顕在化したときには「損失のみを発生させる」危険であり、本来は「回避しなければならない事象」である。投機的危険とは、成功すれば利益を生み、失敗すれば損失をこうむるが「成功するか失敗するかは不確実な危険」である。利益が損失を上回ると見込まれるならば、事業の積極的な展開が許される危険であり、「引き受けてしかるべき危険」とも言う。

 純粋危険には「保険理論」という有力な味方があるものの、投機的危険に援軍はいない。投機的危険の研究が始まって日が浅いために、先行する保険理論のどの部分を投機的危険に適用できるかも判然としない。投機的危険の企業経営に占める割合は大きいにもかかわらず、取り扱いが難しいことから、研究が進んでいない。

 本書は保険理論とは距離を置き、投機的危険に焦点を当て、企業実務の目線で新しい考え方を盛り込む。おそらく初めての視点と論考だけに、賛同を得られない部分もあろう。読者は批判的にお読みいただきたい。なお、企業の危機の題材にはいろいろあり、それらを網羅する方法もあるが、同じ題材を繰り返し取り上げれば議論を深められると考え、私が経験しまた得意とする経営破綻に絞る。近著『企業倒産論』は危機管理の「各論」であり、本書は、経営破綻を解説する部分もあるが、一歩進めて「総論」に挑戦したつもりである。試みが成功したかどうかの判断は読者に委ねる。

 次のような考え方を基本に置いている。
 
第一に、われわれは危険と危機を同義語として用いているが、それでは正しく危機に対処できないので、違う言葉としてとらえたい。まずは悪い結果や成り行きを招く事態(危険)が発生し、やがて危険は時の流れの中で拡大し、しまいに被害と損害の発生が見込まれる緊急事態(危機)に至るのである。つまり危機は突然に発生するのではなく、危険が化身して危機に至る。従来の危機管理は緊急事態への対処とされていたが、これを改め、危機の始まりの「危険の管理」に重点を移行させたい。「何も起きていないからと言って、今そこにある危険を無視するところに本当の危機がある」のである。

 第二に、危険と危機は社会の仕組み、政治、経済のありさまや企業の生きざまを残酷なまでに映し出す鏡である。企業であれば、経営者と企業人がどのような利益獲得行動をし、その過程でいかにして危険と危機に対処したかが映し出される。経営者と企業人は誰一人として、経営破綻を迎えた自分の企業の姿を見たいと望んでいない。望んでいないからと言って、危機を免れるとはならない。利益獲得と損失は表裏一体の関係にあるから、「危険と危機も儲けのうち」である。危険と危機を減少させ、こうむる被害と損害を極小化させて、利益の確保を確実にすべきだろう。

 第三に、危険は時の流れの中で、政治、経済、社会の変化、取引先の変化あるいは企業人の行動の影響を受けて、大きくなり小さくもなりさらに消滅する性質を有しており、固定的なものではない。われわれは危険を考えるとき、異常あるいは不測の事態を狭く考える傾向にあるが、それでは不十分である。そうした事態を生じさせる前後の状態や、背景となっている政治、経済、社会の諸事情にも目を向けるべきだろう。危険を生じさせる前後の状態や背景に目をこらせば、危険の本質が明らかになる。昨日までは何もないからと言って、明日もそうなるとは限らない。危険を見過ごさず、当日に対策を打ち出せば、明日は明るくなる。

 第四に、企業の「外的変化」と「内的変化」の2つの変化を重視したい。外的変化とは経済環境の変化であり、内的変化とは外的変化に沿って行動しようとする個別企業内の変化である。外的変化に沿って不断かつ適切に内的変化を繰り返す活力のある企業は、内的変化に遅れあるいは変化に失敗する活力のない企業と比べれば、抱える危険と危機はかなり少ない。外的変化に対して内的変化に失敗したとき、これだけではないが、企業内に危険が発生すると考えている。内的変化を担っているのは経営者のみならず、企業人の全員である。

 第五に、危険と危機は、企業人の業務処理の過程での誤解、過失、手抜き、さらには度を越した業務の効率化で発生する。作業手順書(マニュアル)や作業標準書などの制定目的の確認、定期的な点検、変化に応じた改廃と新設が必要になる。また作業手順書などの遵守は大切であるが、加えて遵守を怠るならば、どのような危険と危機に遭遇するかの教育を怠らないことだ。企業人はそれぞれ業務を分担しながら協働して利益の極大化を目指しており、企業人の全員が危機管理の主役である。

 おそらく経営者は配下の企業人に対して、今や経営環境は大きく変わり危険と危機の高まった状況にある、それを乗り越えるには全員がそれぞれの任務に応じて危険を解消し、危機を回避する力量を備えて欲しいと望んでいるだろう。企業人の一人ひとりが危険と危機に強くなれば、それを基盤にして、経営者は競争力を失った事業を合理化し、新規事業を成功させ、力強く自社の新陳代謝を図れる。ちなみに経営者と企業人が危険と危機の理解を誤れば、危機管理に失敗し最悪の場合は倒産する。

 第六に、危険と危機は無秩序に発生しない。危険の発生から危機に至るまでの経路、すなわち「危機の因果関係」が存在し、またその途上において一定の場面で一定の危険な事象が見られる。それら危険な事象に着目して予防と予知を行うことにより、少ない費用でより効果的かつ多様な危機管理ができる。

 第七に、危機管理の失敗の原因は、1つは危険と危機の知識と経験の不足、2つは危機の予防と予知の仕組みが日常業務の中に取り込まれていない、3つは人間が持つ心理的作用が災いするからである。知識不足は学習によって補え、経験不足は有能な危機管理者の指導を受けて具体的な事案に対応し、また同僚の対処している案件を共有あるいは疑似体験することで克服できる。そうすれば、日常業務の中に予防と予知の仕組みを構築できる。心理的作用が災いするとは、人間の心理が危険と危機の場面で悪さをするという意味である。人間の心理がどのような障害を発生させるかを理解し、それを正しく修正することである。

 第八に、危機管理の手順は次のようになる。①悪い結果や成り行きを招く事態(危険)を探して発見し(具体的な危険の発見)、②発見された危険のもたらす影響度と強度や損害の発生可能性を測定し(危険の分析と評価)、③重要な危険を取り除き(予防と予知)、④取り除けない危険が危機へ拡大しないように監視し(残存する危険の監視)、⑤緊急事態に至ったときは速やかに対処する。①から④までの方法は多様かつ少ない費用で展開できるからお得であるが、他方の緊急事態を迎えたときの対処方法は限られており、多額の費用を要する。

 企業人が危険と危機に強くなってこそ、企業と自分自身の幸福を手にすることができるだろう。本書がその手助けになれば喜ばしい限りである。


2014年5月

著 者

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