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生まれ変わる歴史的建造物
都市再生の中で価値ある建造物を継承する手法

定価(税込)  3,024円

著者
サイズ A5判
ページ数 296頁
ISBNコード 978-4-526-07282-6
コード C3052
発行月 2014年07月
ジャンル 土木・建築

内容

街の歴史を伝え続ける歴史的建築物を、都市再生の中でいかに存続させるか―建築設計者は歴史継承と課題克服の相反する問いに、最適解を導きだしていかなければならない。本書は、そのための設計思想を紹介する。豊富な写真や図面とともに、手法だけでなく、著者が実際に携わった事例(日本工業倶楽部会館、三菱一号館、東京中央郵便局舎、歌舞伎座)を交えて紹介する。

野村和宣  著者プロフィール

(のむら かずのり)

1964年 東京都生まれ

1986年 東京工業大学卒業

1988年 東京工業大学大学院修士課程修了

1988–2001 三菱地所・設計部門

2001– 三菱地所設計

現在 三菱地所設計 建築設計三部長


少年期より建築設計と歴史的な町並みに興味を持つ。大学時代は建築学科にて歴史意匠を専攻。三菱地所・設計部門時に丸の内再構築のマスタープランの企画設計、引き続き丸の内で日本工業倶楽部会館・三菱信託銀行本店ビルの設計チーフを担当する。以降、歴史的建造物を含む数々の都市再生プロジェクトの設計に携わる。


主な作品

日本工業倶楽部会館・三菱信託銀行本店ビル 2003年(日本建築学会業績賞)
京都ダイヤビル 2007年(旧三菱銀行京都支店:外壁保存) 
三菱一号館 2009年(日本建築学会業績賞、日本建設業協会賞)
JPタワー保存棟(旧東京中央郵便局) 2012年
GINZA KABUKIZA(歌舞伎座・歌舞伎座タワー) 2013年

目次

はじめに  


第1章 都市再生が求められる中での
歴史的建造物を取り巻く環境

1・1 歴史を継ぐ都市再生の時代へ  

1・2 歴史的建造物の価値と抱える課題  


第2章 歴史的建造物の評価と
歴史継承手法の検討

2・1 歴史継承を実現する検討フロー  
2・2 歴史継承の意義を明らかにする  

2・3 歴史継承のための課題を抽出し対応方法を検討する  

2・4 事業性と活用のための与件を整理する  

2・5 歴史継承のケーススタディを行う  
2・6 歴史継承方針を策定する  
2・7 設計と工事に向けて  


第3章 事例紹介 歴史継承の経緯と設計・施工

3・1 日本工業倶楽部会館〈関東大震災の痕跡が残る大正建築の保存〉  

3・1・1 歴史的建造物とプロジェクトの概要 /3・1・2 歴史継承の意義 /3・1・3 構造・安全性 /3・1・4 活用と事業性 /3・1・5 歴史継承の方針 /3・1・6 ケーススタディと実施案の選択 /3・1・7 設計と施工 /3・1・8 継承と更新を調和させるデザイン /歴史継承シート【日本工業倶楽部会館】 

3・2 三菱一号館〈明治時代の煉瓦造建築を甦らせる忠実な復元〉  

3・2・1 歴史的建造物とプロジェクトの概要 /3・2・2 旧三菱一号館をなぜ復元するのか /3・2・3 技術の伝承が途絶えた煉瓦組積造の復元 /3・2・4 三菱一号館の外装 /3・2・5 三菱一号館の内装 /3・2・6 美術館としての活用 /歴史継承シート【三菱一号館】 

3・3 東京中央郵便局舎〈先進的な設計思想の継承を重視したモダニズム建築の保存〉  

3・3・1 歴史的建造物とプロジェクトの概要 /3・3・2 先駆的な設計思想を伝える意義 /3・3・3 歴史継承の方針 /3・3・4 劣化した躯体の是正と免震構造の導入 /3・3・5 白と黒の対比によるシンプルな外装の継承 /3・3・6 躯体の美しさが表現された内部空間の継承 /3・3・7 モダニズム建築の歴史継承の難しさと可能性 /歴史継承シート【東京中央郵便局舎】 
3・4 歌舞伎座〈代々培われてきた歌舞伎専用劇場の継承と進化〉  

3・4・1 歴史的建造物とプロジェクトの概要 /3・4・2 継承と進化のプロジェクト /3・4・3 新生歌舞伎座と超高層タワーとの合築 /3・4・4 現代構法による伝統的な和建築の創造 /3・4・5 先代の遺伝子が継承された劇場機能の向上 /3・4・6 記憶に響く建築の創造 /歴史継承シート【歌舞伎座】 


第4章 これからの都市再生に期待する
歴史継承への取り組み

4・1 「歴史継承」とは「創造」である  

4・2 培われてきた日本の優れたモノづくりの技術を伝える  

4・3 歴史的建造物をより活かすことができる法整備へ  

4・4 歴史的建造物の継承が連携した街づくり  

おわりに  
プロジェクトデータ(竣工時)  

主要参考文献  

はじめに

歴史的建造物を前にする設計者たちへのメッセージ


私は建築の組織設計事務所の中で意匠設計の仕事をしている。学生時代に建築設計への進路を目指していたころから古い建築が創る街並みに興味があり、街づくりや建築設計の中で古い建築を活かした仕事をしたいと思っていた。

今から十数年前、丸の内にある日本工業倶楽部会館という大正期に建てられた歴史的建造物の保存再生を含む再開発プロジェクトに設計者として携わることになった。
 
当時は、1995(平成7)年1月17日に発生した阪神淡路大震災を契機に、古い建築の所有者の間で耐震性に対する不安が急速に高まっていた。耐震診断を行い、耐震性に問題があるとの結果が出れば、そのまま放置しておくわけにはいかなくなる。補強か建て替えか選択の幅はあるものの建築に大掛かりに手を入れるとなれば、これを機に構造のみならず防災や設備などを含めた総合的な機能更新を図りたいと考える。そのためには工事費などの資金が必要となり、立地が良ければ土地を有効活用した不動産事業を検討することになる。

 一方、歴史的建造物には「様々な歴史を後世に伝えている価値」がある。著名な建築であれば学術団体や市民団体などから保存を要望される場合もあるし、そのような建築でなくとも長く使い続けてきた建築として何らかの価値を有している。そして所有者は、求められる「機能更新」と「歴史継承」の間でどうすべきか、判断を迫られることになる。日本工業倶楽部会館の場合もまさにその状況にあった。

 今まで「保存」と「開発」は、いわば背反する向きのベクトルを持っていると認識されていた。古い建築が再開発を行おうとする敷地に存在していれば、敷地に余裕がない場合、両者の共存は簡単にはいかない。歴史的建造物の価値を明確に位置付けて、保存と開発が両立するシナリオを描ければ、開発の中で保存を選択することも可能になるし、歴史継承の幅を広げれば可能性はさらに広がる。

 日本工業倶楽部会館の場合は、阪神淡路大震災の記憶の冷めやらぬ時期であったが、知恵を集めて検討を積み重ね、歴史継承の意義を明らかにし具体的な解決方法を見出すことで、耐震性の確保という大きな課題を克服し、保存と開発の両立を実現することができた。その答えに至ったのは、多くの関係者の協力と建築主の勇気ある決断があったからこそだが、その過程で有効な提案を生み出す設計者の役割は大変重要であったと思う。

 ここ数年、成熟した都市を再生するテーマとして、街の歴史を継承する上で歴史的建造物の役割を重視する動きは確実に高まっていると実感する。私は、日本工業倶楽部会館の後も三菱一号館、東京中央郵便局、歌舞伎座という歴史的建造物を対象にした歴史を継ぐ都市再生プロジェクトに携わることになった。いずれも、多様な歴史継承の方法が見られるプロジェクトである。

 われわれ設計者が歴史的建造物を前にしてすべきことは、建築の価値と維持していくための課題を浮き彫りにし、歴史継承と課題の克服を両立させる具体的な方法を提示して、建築主を選択すべき最適解へ導くことである。専門家に鑑定やアドバイスを求めることは必要に応じて行うべきだとは思うが、まず設計者としてどういう考えを持って歴史的建造物に向き合うのかということが重要であると考える。

 この本は、歴史的建造物を前にしてプロジェクトに挑む設計者たちに向け、設計者の立場から、臨場感のある具体例を元に考え方や技術を伝えたいとの思いで筆を執り、書き下ろしたものである。そして、この本のメッセージが設計者のみならず、歴史的建造物を所有する事業者、施工者、行政の方々にも届けば幸いである。

 なおこの本の出版に際し、機会を与えていただいた日刊工業新聞社書籍部の皆様には厚く謝意を表したい。



2014年7月 
野村 和宣

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