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人を活かす究極の生産システム
セル生産の真髄

定価(税込)  2,160円

著者
サイズ A5判
ページ数 160頁
ISBNコード 978-4-526-07129-4
コード C3034
発行月 2013年09月
ジャンル 生産管理

内容

「セル生産」命名者の著者が、責任感とやり甲斐によって人の能力を引き出すセル生産方式の本質に迫る。設備制約や作業習熟、納期要求などの要素を乗り越えて「人を中心とし、人の尊厳を活かしたモノづくり」を行う体制づくりと、正しい運用管理手法を指南する。

金 辰吉  著者プロフィール

(こん たつよし)
ものづくり経営コンサルタント
㈱ワークセルコンサルティング代表取締役
元ソニー株式会社生産革新センター所長
元ソニー中村研究所専務取締役

1978年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。開発のソニーと言われる中で30年間生産部門の改革に従事。1991年に生産革新運動を立ち上げ、セル生産方式の命名者として脚光を浴びる。セル生産の導入指導工場は国内外18カ国63拠点に上る。また日本能率協会、日本生産性本部、日本IE協会、慶応大学ビジネススクールの講師などとして人間性重視の経営学とセル生産方式の普及と発展に努める。
現在は、家電・食品・鉄鋼・化学プラント・機械など多岐にわたる業種および売上5兆円の大企業から従業員13人の零細企業、また高校教育に至るまで、トヨタ方式とセル方式の思想と技術をベースにした生産革新・人材育成で会社変革に奮闘中。近年ではアセアン諸国でのセル生産導入にも参加している。
ホームページ:http://www.workcell.co.jp
eメール:tatsuyoshi.kon@m8.dion.ne.jp

目次

はじめに   

第1章 見えないロスの見つけ方 ~現場を測るモノサシの整備
1.1 何をもって現場を評価するのか   
▶本当に必要な仕事は何か:付加価値と無付加価値   
▶付加価値の求め方   
▶売れに合っているか:タクトタイム   
▶実際と計算は合っているか:ラインバランスと余裕度   
コラム 編成効率と編成人員   
1.2 ムダ取りから誕生したセル生産方式   
▶セルの土壌となる生産革新   
▶セル生産方式と何か   
▶セル化による工場の変遷   
▶写真で見るコンベアライン100年からセル生産へ   
コラム セル生産と品質   

第2章 セルを発展させる6つのステップ
2.1 乱れたモノの流れ:乱流   
▶どこから来てどこへ行くのか   
▶ジョブショップ型の工程   
▶設備中心、設備タクト重視   
2.2 モノの流れを整える:整流化   
▶フローショップ型の工程   
▶小さな流れを複数つくる   
▶コンベア生産ではすでに整流化されている   
2.3 間合いを詰める:間締め   
▶間締めはムダ取りの基本   
▶離れ小島をなくせ   
▶間抜け、間延び、不間締めに注意   
2.4 多工程持ちの少人数チームをつくる:セル化   
▶多能工化で変化が起こる   
▶コンベア撤去   
▶変幻自在で多様なレイアウト   
▶セル分裂   
▶セル型設備の登場   
▶コンベア思考とワークセル思考   
2.5 出荷・生産・調達を連動させる:プル化   
▶セル生産で平準化   
▶モノの置き方   
▶かんばんの活用   
2.6 セルを1つの会社として自立させる:セル・カンパニー化   
▶セルによる生産管理~受注へ   
▶セルによる購買管理~資材発注へ   
▶セルによる利益管理~赤字か黒字か、セルが1つの会社に   

第3章 セルが可能にする攻めの在庫管理
3.1 工場主導の在庫管理:Factory Managed Inventory   
▶工場が在庫責任を持つ   
▶3Dチャートが武器に   
▶止める勇気   
3.2 工場主導の製販一体運営:FMIと販売完結型生産方式   
▶売れを見てコントロールする   
▶サプライチェーンの盲点、真のボトルネック   
▶予想は当たらず逆にブレが増幅する   
▶売れるまで工場が責任を持つ   
▶販売完結型生産方式実現の土台となるセル   
コラム 在庫改善の評価項目   

第4章 セル生産がうまくいかない落とし穴
4.1 セル化への経路   
▶形はセルだが改善効果出ず   
▶改善効果は出るが経営インパクトなし   
4.2 錯覚がセル生産の発展を止める   
▶コスト計算の錯覚   
▶リードタイムとコスト   
▶中国生産の錯覚   
▶内外製の錯覚   

第5章 セルの能力を最大限に発揮させる人間力の引き出し方
5.1 現場作業者がやる気になる条件   
▶自分の職場という愛着心が基本   
▶自律は進化を育み、統制はやる気を萎縮させる   
▶仕事自体がやりがいになる   
5.2 自主性をスパイラルアップする仕掛け   
▶トップによる牽引とボトムアップによる進化、多様化   
▶見られる現場、魅せる現場   
▶居ながらQCサークル   
5.3 「現場は宝の山」に思える人材育成   
▶知的体育会の人づくり   
▶四拍子半の改善リズム   
▶正しい物差し   
▶今こそ必要なIE   
5.4 改善に弾みをつけるリーダー像   
▶オレが責任を持つから好きにやってみろ   
▶オレの工場、オレの家族という認識   
▶指導者は訓練や練習を怠らない   

第6章 セル型マネジメントのすすめ
6.1 知行合一こそ人間本来の姿   
6.2 スモール・イズ・ビューティフル   
6.3 1人ひとりが主役になれる組織づくりを   
6.4 人間の尊厳を活かすモノづくり   
▶人間の尊厳と分業   
▶21世紀のモダンタイムス   
▶テイラー・モデルとムサシ・モデル   
▶コンベア型とセル型マネジメント   

おわりに   
索引

はじめに

 本書は、私がソニー勤務時代に始めたモノづくりの革新がもとになっている。ソニーは商品開発で“日本のモルモット”と言われた時代があったが、製造においても現地生産を始めるなどパイオニア精神を発揮していたことはご存知の方も多いと思う。
 私がセル生産方式を命名するきっかけになったのは、1994年に「ウオールストリートジャーナル」紙が私たちを取材した記事だった。そこには、「作業者がコンベアに強制されず、自分自身のペースで作業をすると生産性が上がることがわかったため、日本企業は長大な組立コンベアラインをなくし始めている」と書かれていた。“何でも屋”の作業者による古風なワークショップのことを、米国では“マニュファクチャリング・セル”と呼んでいるという。セルとは細胞という意味である。細胞のような生命力と柔軟性を持ったモノづくり。セル生産方式というネーミングはそのとき、ひらめいたのである。
 「大艦巨砲ラインから工房型ワークセルへ」というキャッチコピーがその頃の合言葉となった。新聞記事には匠の仕事とでも訳すべき「クラフト・ワーク(職人作業)」という言葉も登場していたが、セルという用語の方が圧倒的に語呂が良かった。なお、セルという単語には独房という意味もあるのだが、独房生産方式では困るので頭にワークをつけて「ワークセル(働く細胞)」とも呼んでいる。
 当時のアメリカでマニュファクチャリング・セルといえば、パソコン組立で有名になっており、そこではBTOと呼ばれる消費者からの受注生産に応えるため、オーダーに基づいた部品・半製品がキット化され、ボックスに入れられコンベアに乗って作業者の手元まで運ばれてくるという仕組みになっていた。実際に見たこともあるが、周囲は搬送用コンベアに囲まれ、作業の内容は多能工セルというより独房(セル)での仕事のように思えた。

 セル生産方式は、失われた20年とも言われる平成の円高デフレ不況の中で、日本企業生き残りの救世主になり、多くの業界で生成・普及・発展してきた。トヨタ生産方式を試行錯誤する中で、あまりその教義に縛られることなく、自由闊達に試行錯誤できた状況がよかったようだ。トヨタ自動車の方からは、「トヨタ方式ではない(当たり前だが)」とお叱りを受けたこともあった。
 1990年代の初めは、1980年代後半の事業大躍進を遂げた時代からビジネス環境も大きく変化していた。1つは製品のデジタル化・IT化であり、2つ目は日本における労働力不足のさらなる深刻化、土地や建設費の高騰を踏まえた生産の海外拠点建設、そして3つ目がバブル後の金融引き締めによる資金不足というものだった。
 このような背景の中で、既存の生産工場においては拡大基調の中で設備投資をし、拡大をすることによって利益を生み出してきた結果、拡大が止まり始めると経営状態が悪化してしまい、内部体質の弱さが目に見えてくる状況に直面していた。そこで、量拡大を前提としない体質強化の事業本部中期的指針を打ち出すことになった。
 それは、
  ①3年で連結在庫金額を1/2にする
  ②3年で無付加価値作業を1/2にする
  ③3年で無付加価値スペースを1/2にする
という前例のないものだった。生産革新運動開始の時点ですでに、①は活在庫、②は活人、③は活スペースというこれから始まる改善活動の指標3点セット(本編で詳述する)を中期計画に登場させる仕掛けも織り込んでいた。そのときに、こしらえたスローガンがある。

 「生産革新 あなたの心と技が 愉快な理想工場を つくる」
 「いま要りますか その在庫 持つ安心より 持たない自信」

 当時の生産工場は分社化されており、つくった製品はすべて本社事業部が買い上げていた。しかも、取引価格は原価に工場利益を上乗せするだけでなく、生産計画が未達だと未負荷費用を本社事業部に請求もできた。工場は標準時間と出来高時間だけで評価され、当時IE部隊を率いていた私のところには、予算計画時や新機種生産のときになると、標準時間の水増し要請がドッとくる有様だった。
 在庫はいくらあっても困らない。製造工程はどんどん細分化され、工場内はバッファー在庫であふれ返っていた。ストックがあるから困らない。困らないから知恵が出ない。知恵がなければ汗でも流せ。この思考転換が生産革新の成功をもたらしたのだった。そしてセル生産への道が拓いたのである。現場は興奮のルツボと化し、コンベアは親のカタキとなった。数年のうちに世界18カ国、63拠点の工場が例外なく在庫とコンベアを親のカタキとし、多くの製造マン・製造ガールの理解の下に多くの改善事例が積み重なっていったのである。
 本書は当時のセル生産方式の生成と発展を中心に書いているが、それだけにとどまらず、工場改善の可能性とセル的なマネジメントにも言及している。それは、人間性を重視したモノづくりである。本書が、長らく続いたデフレの雲を突き抜けようとする時代に、モノづくりへのひらめきと情熱を改めて見出そうとする読者への手がかりになれば幸いである。
 本書の出版に際し、辛抱強く支援していただいた日刊工業新聞社出版局書籍編集部の矢島俊克氏にこの場をお借りしてお礼申し上げます。

2013年9月吉辰
金 辰吉

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