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分析化学における測定値の信頼性

定価(税込)  2,376円

著者
サイズ A5判
ページ数 160頁
ISBNコード 978-4-526-07069-3
コード C3043
発行月 2013年04月
ジャンル 化学

内容

前書「分析化学における測定値の正しい取り扱い方」の続編。前書で解説した分析値に関する考え方をベースに、本書では実際に分析化学の現場において信頼性の高い数値を提示するための考え方と記載方法を解説する。良い分析値と悪い分析値を対比させながら、正しい記載方法の必要性を説き、その方法を習得できることを平易に解説した。

上本道久  著者プロフィール

(うえもと みちひさ)
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター城南支所長 上席研究員
東京都城南地域中小企業振興センター長

1980年東京農工大農学部環境保護学科卒業,1982年同大学院農学研究科環境保護学専攻修士課程修了,1985年学習院大学大学院自然科学研究科化学専攻博士後期課程修了.理学博士.
1985~87年理化学研究所生体高分子物理研究室博士研究員,学習院大学理学部助手を経て1987年より東京都立工業技術センター(現東京都立産業技術研究センター)無機化学部研究員.東京都立産業技術研究所材料技術グループ主任研究員、同センター城南支所上席研究員を経て2011年より現職.1991~98年東京農工大学非常勤講講師.2005年首都大学東京客員准教授および東京理科大学非常勤講師 2010年東京芸術大学大学院非常勤講師 2011年~山梨大学非常勤講師 2013年明治大学非常勤講師

委員:(社)日本分析化学会において理事,代議員,広報幹事,「ぶんせき」編集幹事,関東支部常任幹事,標準物質委員,教材開発委員,ネットワーク運営整備委員など.(社)日本溶接協会ろう部会分析委員会委員,(社)日本マグネシウム協会分析委員会委員長,(社)日本アルミニウム協会分析委員会委員長,産業技術連携推進会議知的基盤部会分析分科会運営委員,JIS改正委員(プラズマ質量分析,マグネシウム材料・分析,アルミニウム分析,はんだ分析など),日本工業標準調査会委員,ISO TC79/SC5(マグネシウム材料)委員 歴任

所属学協会:日本分析化学会,日本化学会,日本鉄鋼協会,日本溶接協会,日本マグネシウム協会,廃棄物資源循環学会,王立化学協会,プラズマ分光分析研究会,溶液化学研究会

受賞:東京都立産業技術研究所チャレンジ賞 技術賞優秀賞「先端化学計測技術」(2004)日本分析化学会2007年度技術功績賞「高精確化と標準化に向けた無機分析の手法開発と産業界への貢献」

近年の著書:‌
「分析化学における測定値の正しい取り扱い方」、日刊工業新聞社、2011年3月
「分析化学便覧 改訂6版」、丸善出版、2011年9月(分担)
「環境分析 分析化学実技シリーズ 応用分析編6」、共立出版、2012年3月(分担)
「ICP発光分析・ICP質量分析の基礎と実際 ―装置を使いこなすために―」、オーム社、2008年5月(監修・分担)

目次

第1章  信頼性のある数値を提示する仕組み
1.1 実験的計測値とそれ以外の数値
1.2 計測値の信頼性を保証するシステム
1.2.1 質量計
 1.2.2 電力量計
 1.2.3 タクシーメーター
 1.2.4 体積計
 1.2.5 濃度計
1.3 分析化学における信頼性
 1.3.1 環境分析
 1.3.2 臨床化学
 1.3.3 食品分析
 1.3.4 材料分析
1.4 おわりに
1.5 信頼性のある数値を提示する仕組みに関するQ&A
参考文献

第2章  測定値の桁の有効性
2.1 はじめに
2.2 気温の表示
 2.2.1 30℃と29.5℃の違い?
 2.2.2 30℃と29.2℃の違い?
2.3 災害に関する数値情報の表示
2.4 コンピューター処理による数値
2.5 有効数字の書き方
2.6 四則演算を伴う有効数字の見積もり
 2.6.1 剰余算
 2.6.2 加減算
2.7 JISにおける有効数字の考え方
 2.7.1 併行許容差と再現許容差
 2.7.2 3個以上の値についての比較
 2.7.3 測定結果の採択性をチェックし、最終報告値を求める方法
2.8 JISにおける有効数字の実例
2.9 JISに見られる有効数字にまつわる齟齬
2.10 相対標準偏差と有効数字
2.11 有効数字を巡る分析者と管理者の戦い
2.12 測定値の桁の有効性に関するQ&A
参考文献

第3章  検出限界と定量下限 その意味の違いと現実
3.1 はじめに
3.2 用語使用が正しくない場合
 3.2.1 検出限界と定量下限
 3.2.2 感度
3.3 ブランクのとり方
3.4 検出限界値や定量下限値を見積もる目的
3.5 ‌原子スペクトル分析・原子質量分析における検出限界の見積もり
 3.5.1 原子吸光分析
 3.5.2 ICP発光分析
3.6 定量下限についての解釈
3.7 放射線計測の場合の注意点
3.8 環境分析の公定法における分析値の信頼性の記載
3.9 検出限界および定量下限に近い結果の表記
3.10 検出限界と定量下限に関するQ&A
参考文献

第4章  信頼性および濃度に関わる用語
4.1 はじめに
4.2 化学計測 vs. 物理計測
4.3 化学計測 vs. 数理統計
4.4 化学計測 vs. 適合性評価
4.5 電子工業
4.6 濃度について―ISOおよびIUPAC vs. 計量法
4.7 我が国の述語学分野について
4.8 信頼性および濃度に関わる用語についてのQ&A
参考文献

第5章  信頼性を判定するための検定
5.1 はじめに
5.2 信頼区間
5.3 検定について
 5.3.1 F検定
 5.3.2 t検定
 5.3.3 Q検定
 5.3.4 検定に関するガイドライン
5.4 測定回数が少ない場合の取り扱い
5.5 信頼性を判定するための検定に関するQ&A
参考文献

第6章  よりよい分析値を提示するために
装置の機能・設置環境・技量/試料処理/不確かさの見積もり
6.1 はじめに
6.2 装置に関する3つの要素
 6.2.1 ICP質量分析装置の場合(ⓐとⓑが不均衡のケース)
 6.2.2 高倍率の電子顕微鏡の場合(ⓐとⓑが不均衡のケース)
 6.2.3 機器を用いた無機定量分析の変遷(ⓐとⓒが不均衡のケース)
6.3 試料処理に関する基礎知識(1)溶ける?溶けない?
 6.3.1 陽イオン―水分子(1)
 6.3.2 陽イオン―水分子(2)
 6.3.3 陽イオン―陰イオン
6.4 試料処理に関する基礎知識(2)酸の選択と溶解性
6.5 試料処理に関する基礎知識(3)溶解性から観た標準液相互の相性
6.6 不確かさ見積もりに関する留意点
6.7 よりよい分析値の提示に関するQ&A
参考文献

索引

はじめに

残念なことに本邦では、計測分野の信頼性を担保する行為の意義はそれほど理解されていない。装置が導入されれば明日にでもベストパフォーマンスで計測値が出せると思っている技術者・研究者は意外に多く、また、測定値に信頼性を明示的に付与することに対してあまり積極的ではない姿勢も散見する。
 大学ではオーソドックスな分析化学教室が激減し、研究所では計測領域は支援分野で本流の研究開発ではないと過小評価され、企業において生産活動の副次的な品質管理部署という認識が主流となってしまった。このようなことからもわかる通り、計測が社会の重要な位置を占めているという共通認識は乏しいのが現実であろう。しかしその反面、様々な実験的計測のニーズと需要は高まるばかりで、分析化学においても、より難度の高い極微量分析や局所分析、ハイパフォーマンスなスクリーニング分析、実験室を離れての現場分析と、その需要はとどまるところを知らない。また新しい原理から成る、高度な制御や機能を有する分析機器も登場してきている。
 この需給のアンバランスはどこから来るのかについては、本書の趣意とは少し異なるので論評は控えたい。しかしその結果として、信頼性に乏しい計測値・分析値がに氾濫していることは否定しようがない事実である。そして、このような信頼性に乏しい数値を元に合理的ではない重要な判断がなされ、多くのコストと労力が無駄になっていることに、市民はもっと関心を持ったほうがよいと思う。
 当たり前のことだが、計測装置等から出力されるそのままの数値、すなわち‘測定値’のままでは物事を判断する指標とはならない。測定値は、さまざまな検討や適切な処理を踏んではじめて物事を判断する指標となる値、‘分析値’となる。
 前書では測定値を分析値にするために、そして、数値を読むために知らなければならない基本的事項について解説した。本書ではこの考え方を元に、分析化学の現場において数値をどのように取り扱うか、実例とともに解説した。分析化学の現場により即した形で信頼性に関する実像を把握すること、および数値の信頼性改善に向けた取り組みを始めていただくことを目的とした。
 良好な計測技術の確保と維持は国家の根幹的知的基盤であり、適切で効率的な社会活動の前提である。本書が、現場で奮闘努力しておられる分析・計測技術者への指針提示のみならず、計測技術開発への理解を願いたい諸専門家の啓蒙に役立てば幸いである。
 本書の上梓は、前書に続き、日刊工業新聞社出版局書籍編集部の田中さゆり氏に負うところが大きかった。深く感謝申し上げる次第である。

2013年4月
著者しるす

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