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おもしろサイエンス
五重塔の科学

定価(税込)  1,728円

著者
サイズ A5判
ページ数 160頁
ISBNコード 978-4-526-07049-5
コード C3034
発行月 2013年03月
ジャンル ビジネス

内容

五重塔は、火災や落雷で焼失・倒壊した記録はあるものの、地震で倒壊した記録はない。東日本大震災以降、改めて伝統的な木組みの技で造られている五重塔の耐震性に注目が集まっている。本書は、さまざまな科学的実験から解明されてきてはいるものの、いまだに謎のある五重塔の耐震性にまつわる話題を中心にやさしく解説する。

谷村康行  著者プロフィール

(たにむら やすゆき)
1951年4月 山口県生まれ
1976年3月 北海道教育大学釧路校卒業
1982年2月 (株)ホクハイ入社
1992年4月 (学)日本航空専門学校に勤務
1994年〜  (社)日本非破壊検査協会主催の技術講習会講師指導員
2006年5月 (社)日本非破壊検査協会 石井賞受賞
2012年3月 日本航空専門学校退官
現在   NDI JAPAN.com代表
      ニチゾウテック(株)技術コンサルタント事業本部
主な著書
「超音波探傷入門(パソコンで実技演習)」共著、日本非破壊検査協会
「非破壊検査入門(DVD)」編集委員、日本非破壊検査協会
「超音波探傷試験実技参考書『デジタル超音波探傷器』」共著、日本非破壊検査協会
「絵とき『超音波技術』基礎のきそ」日刊工業新聞社
「絵とき『破壊工学』基礎のきそ」日刊工業新聞社
「トコトンやさしい航空工学の本」共著、日刊工業新聞社
「絵とき『非破壊検査』基礎のきそ」日刊工業新聞社
「おもしろサイエンス『破壊の科学』」日刊工業新聞社
「おもしろサイエンス『波の科学』」日刊工業新聞社

目次

はじめに

第1章 世界最古の木造建築 五重塔
1 日本にある五重塔 ─法隆寺五重塔が最古─  
2 五重塔のルーツ ─インドのストゥーパ─ 
3 ガンダーラと仏教─高くなる仏塔─ 
4 日本にやってきた仏塔 ─最新技術を駆使した建物─ 
5 仏舎利塔としての五重塔と心柱 
6 五重塔の美しさ─プロポーションの変遷─ 

第2章 五重塔の構造
7 塔を支えていない心柱 
8 宙に浮いた心柱 ─吊り下げ懸垂式の出現─ 
9 通し柱の無い積み上げ構造 
10 継手と仕口 ─精密な「積み木細工」─ 
11 軒先の支え ─美しさの要因─ 

第3章 柔剛論争と五重塔
12 関東大震災後に起きた柔剛論争 
13 地震の大きさと震度 
14 耐震設計に使われる震度 
15 地震の力に耐える建物のかたち 
16 固有周期と共振 ─共振による破壊─ 
17 鉄筋コンクリートか鉄骨構造か? 
18 建物が壊れるプロセスと耐震構造 
19 柔剛論争のその後─今に引き継がれた「耐震規定」─ 

第4章 五重塔が地震で倒れない理由
20 地震に耐えた五重塔 
21 長周期説 ─高い建物だから倒れない?─ 
22 振り子説、ヤジロベイ説 
23 スネークダンスと閂 
24 模型による耐震性の実証実験 
25 耐震性と心柱の役割 
26 メンテナンスと技の伝承 

第5章 代表的な建築物にみる五重塔の要素
27 パルテノン神殿の柱 
28 9・11テロで崩壊したニューヨークWTC 
29 東京スカイツリー ─現代の五重塔─ 
30 心柱型付加質量機構─東京スカイツリー心柱の働き─ 
31 新丸ビル ─新しい発想のかたまり─ 

Column
蜘蛛の衛兵 
模型で学ぶ五重塔の構造 
相輪と妄想 
「だるま落とし」でミニ実験 
心柱御開帳 

参考文献 
索引 

はじめに

2012年、東京に新しい名所ができました。高さ634メートル、自立式の電波塔としては世界一の高さを誇る「東京スカイツリー」です。その高さは、完成前から話題を呼び、人々の関心を集めました。東京スカイツリーは、見るだけでも気持ちを明るくする魅力があるようです。開業後、連日多くの人が東京スカイツリーを訪れています。東京スカイツリーが万が一倒れるようなことがあれば、甚大な被害が出ます。しかし東京スカイツリーを眺めて、そのような心配をする人は少ないように見えます。そこには、風や地震に対してしっかりと耐える設計と施工がなされているという科学技術に対する信頼がありそうです。
 五重塔はもともと、仏陀の遺骨を祀るために造られた仏教寺院の重要な建物の1つです。古代の人々も高くそびえる建築物である五重塔を見て、気持ちを明るくしワクワクさせたことでしょう。現在、日本国内には高さ20メートルを超える五重塔が80塔以上あります。その中には、江戸時代に建てられた高さ54メートルもある京都東寺の五重塔や、8世紀初頭に建造された現存する世界最古の木造建造物である法隆寺の五重塔も含まれます。明治維新以前に建てられた五重塔だけでも22塔現存しています。五重塔の建築技術は、仏教とともに、中国・朝鮮半島を経て日本に伝えられた渡来の技術でした。しかし現在中国にも朝鮮半島にも、木造の五重塔はほとんど残っていません。日本人は、五重塔を育み愛し続けてきたのです。
 五重塔は、火災や落雷で焼失・倒壊した記録はあるものの、地震で倒壊した記録はありません。1995年の阪神淡路大震災や1923年の関東大震災でも、激震に見舞われた地域に五重塔や三重塔がありましたが、他の建物が倒壊しても、五重塔や三重塔は倒れませんでした。欧米とは違い度々大きな地震に見舞われる地震国であるわが国で、数百年・千年を超えて倒れない木造の塔の存在は驚異的です。
 明治維新後、煉瓦や鉄骨やコンクリートなどの材料を使った新しい建築技術が導入されました。しかし、地震の少ない西欧で培われた技術をそのまま導入したのでは大地震時に甚大な被害が出ることを、関東大震災で突きつけられました。地震に強い建物とはどのようなものか、関東大震災後の復興過程で激しい論争が起きました。ガチガチに固めた固い構造にするのか、風に揺れる柳のような緩やかな構造にするのかという“柔剛論争”です。この論争の中で千年を超えて壊れない五重塔をどう見るかは重要な争点でした。
 近年、高層建築が立ち並び長周期振動の地震の影響が懸念される中、伝統的な木組みの技で造られている五重塔の耐震性に再び注目が集まっています。しかし五重塔がなぜ地震に強いのか、さまざまな科学的実験や検討がなされているものの、いまだに明確で決定的な理由はわかっていません。
 〇〇の科学というと、謎をすっきり科学的に解き明かす…というイメージがあるかもしれません。しかし今回のテーマについていうと、まだよくわかっていないのです。教科書の途中に?があると、巻末には必ず答が書いてあります。本書では、最後の答えは書いていません。まだ科学的にはわからないのです。わからないからこそ、科学と技術は面白いよね…そんな本です。
 本書では、第1章でそもそも五重塔とはいったい何なのかを紀元前のインドにまでさかのぼって説明します。第2章では、五重塔の独特な構造とその建造について解説をします。第3章では、『柔剛論争』を紹介します。第4章では五重塔の耐震性についてさまざまな仮説を紹介し、それらが科学的な調査や実験・研究によってどのように実証されどのように否定されているのかを解説します。最終章では、どこか五重塔の影がちらつく、五重塔の匂いがする建築物を取り上げて、五重塔との関連はあるのか、あるとすればどのようなものかを解説します。
 では、五重塔の世界をお楽しみください。

2013年3月
谷村康行

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