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洋上風力発電
次世代エネルギーの切り札

定価(税込)  1,728円

著者
サイズ 四六判
ページ数 200頁
ISBNコード 978-4-526-06979-6
コード C3034
発行月 2012年12月
ジャンル 環境 ビジネス

内容

再生可能エネルギーを含めた「エネルギーの多様化」が叫ばれるなか、安定的な電力を供給するための有力候補といえるのが洋上風力発電です。風が安定的に吹く洋上では稼働率が良いため、大規模な発電所を建設することができれば、発電原価の安い大量の発電が可能となります。本書では、洋上風力発電の先進国である欧米各国での調査結果をもとに、日本で洋上風力発電を実現するための課題と解決方法を紹介します。

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岩本晃一  著者プロフィール

(いわもと こういち)
1958年生まれ、香川県出身。
京都大学卒、京都大学大学院工学研究科終了後、通産省入省。
内閣官房都市再生本部事務局内閣参事官、産業技術総合研究所つくばセンター次長、内閣官房総合海洋政策本部事務局内閣参事官などを経て、現在、経産省地域経済産業グループ産業政策分析官。

目次

刊行に寄せて
はじめに

CHAPTER1
第一章 いまなぜ洋上風力発電なのか 
1 洋上風力発電の原理・構造はきわめてシンプル
2 洋上風力発電のメリット
メリット1 風力発電は人間がコントロール可能な単純な原理/メリット2 大規模・集中型電源として「規模の経済性」を追求できるようになった洋上風力発電所/メリット3 真っ青な海と空のなかで風に舞う白い海鳥のような美しさ/メリット4 陸上に比べて高い設備利用率/メリット5 太陽光発電に比べて安い発電原価/メリット6 陸上風力発電のような低周波騒音を発生しない
3 立ち上がり時期が不幸だった日本の風力発電事業
4 洋上風力発電の技術開発動向
欧州田園の風車から始まった風力発電の歴史/近年は大規模化を競う技術開発競争/遙かに遅れをとっている日本メーカー/洋上風力発電固有の技術開発課題/水深が深い海域で使用する浮体式(フローティング式)の開発

CHAPTER2
第二章 先行する欧米中、追随する日本 
1 大規模開発が進行中の欧州
再生可能エネルギーに向かった欧州と原発に向かった日本との分水嶺/欧州でも洋上に出て行かざるを得ない/国家主導で大規模な開発が進行中の欧州/欧州の大規模電源の例
2 政府が総力をあげ推進する米国
大規模計画が続々
3 風力大国の道をゆく中国、躍進する韓国
中国は世界最大の風力大国/躍進する韓国
4 動き出した日本
日本では港湾区域で先行/港湾区域内の洋上風力発電を推進する国土交通省/NEDOによる実証研究開始/三菱重工が英国へ進出/東芝が韓国メーカーとの共同開発により風力発電に参入/丸紅が英国洋上風力発電事業に本格参入/日立製作所がダウンウィンド方式の開発に着手

CHAPTER3
第三章 洋上風力発電導入に向けての課題と解決策 
1 海域選定上の技術的条件
風が吹くこと/水深が浅いこと/必要な科学的データの整備/海底と海潮流の条件
2 先行的に海域を利用している者との利用調整
先行的な海域利用と既得権/まず作成するのは海域マップ/欧州とは異なる日本の「海洋空間計画」に対する理解度/欧州における漁業従事者との利用調整/日本における漁業従事者との利用調整/魚介類が集まる洋上風力発電所の構造/日本における魚介類が集まる洋上風力発電所の構造事例
3 環境対策
低周波を出す風車に対する地元住民の反対運動/風車に鳥がぶつかるバードストライク/風車は日本の台風に耐えうるか/風車は日本の津波に耐えうるか/欧州では、景観悪化も住民の反対理由の一つ/環境アセスメントが義務づけられている欧州/海岸から40㎞以遠に風車を建て始めた欧州/日本でも環境省が環境アセスメントの内容を定める
4 電力系統の安定化
自然エネルギーによる発電をコントロールする/周波数の変動と電力系統の不安定性/風波数変動が工場での不良品を生み出す/大停電の危険性/ドイツにおける再生可能エネルギー導入による周波数変動の調整/欧州とは大きく異なる日本の電力系統/算出可能な各電力会社に投入可能な再生可能エネルギー発電量/大量の再生可能エネルギーの受け入れが可能な東京、中部、関西/再生可能エネルギーの受け入れ拡大に向けた電力各社の取り組み/電力会社の受け入れ上限値を引き上げる試み/条件つき受け入れ枠の導入/発電場所から消費地まで電力を運ぶ送電線の建設
5 採算性の確保
洋上風力発電の発電原価/洋上風力発電の採算性とコストに対する考え方/採算性の試算(ケーススタディ)/洋上風力発電のコストアップ要因/民間の発電事業者に対する金融上の手当/日本への電力固定価格全量買取制度導入に向けて
6 経済成長、地域振興、雇用創出の実現
傘下に幅広い産業界を抱える洋上風力発電/ドイツに出現した風力発電関連企業が集積した都市/スペインでは失業率が大幅に減少/フランスでは1万人の直接雇用増を見込む/イギリスでは18万5千人の雇用創出/風力発電企業の集積都市の形成が国民に支持された背景/日本の地域振興、雇用創出としての国内拠点作り/日本が目指すべき産業振興としての「システム輸出」/経済振興につながらなかったドイツでの太陽光発電
7 法制度の整備

CHAPTER4
第四章 洋上風力発電導入のシナリオと提言 
「中期的」な導入目標電源/期待大きい六つの建設計画/想定される二つの候補海域/そして、海底電力ケーブルによるネットワークの構築へ

おわりに

参考文献

はじめに

電力供給基盤の再構築は現世代の責務
 2011年3月11日、東北太平洋沖を震源とする巨大地震や大津波がもたらした被害は自然災害のみならず、私たちが、未だかつて経験したことのない多くの問題をも引き起こしました。
 防災対策とは、どんなに対策を講じようと、自然の猛威の前には万全はないということを改めて思い知らされました。私たちは、自然に対して常に謙虚に、そして畏怖の念を忘れてはならないという思いを強める一方、これから先も次世代の人々が安全で豊かな暮らしが送れるよう、「エネルギー源の多様化とベストミックス」によりエネルギー・リスクを分散し、安定的かつ低廉なエネルギー源を確保すべく、電力供給基盤を再構築することは、私たち現世代の責務ではないでしょうか。
 本書は、日本が電力不足という未曾有の課題に直面している今、電力をいったい、どうすれば安定的かつ低廉に供給できるか、という課題を解決するための一つの選択肢を提案するものです。

求められるエネルギー源の多様化とベストミックス
 かつて日本は1970年代に石油ショックを体験し、石油のみに依存する電源構成は脆弱だということを思い知らされ、「石油代替エネルギー」(原子力、石炭火力、天然ガス火力、再生可能エネルギーなど石油に代わるエネルギー)を目指す方向に大きく舵を切りましたが、今回の原発事故により原発の稼働率が下がり、今、国をあげて節電に努めています。
 福島第一原発事故前、日本の原発への依存度は発電電力量の約3割でしたが、もし、原発依存度がフランスのように8割近くあれば、日本は本当に危機的状況になっていたかも知れません。私たちは、約40年という時間を経て石油ショックと原発事故の二大エネルギー危機を体験し、太陽光、太陽熱、地熱、水力、風力、海潮流、波力、バイオマスなどの「再生可能エネルギー」を含めた「エネルギー源の多様化とベストミックス」を真剣に考えなくてはいけない局面を迎えています。
  ※「再生可能エネルギー」(Renewable Energy)とは、太陽光、太陽熱、地熱、水力、風力、海潮流、波力、バイオマスなど、いくら使用しても自然の力によって再生されるため無尽蔵に得られるエネルギーのことを指します。他方、有限で枯渇するエネルギー源として、石油、石炭、天然ガス、ウランなどがあります。
 「エネルギー源の多様化とベストミックス」を進める上で、「再生可能エネルギーを源とする発電量」を増やすこと自体には読者の皆さんも異論はないでしょう。「長期的」展望で考えるなら、宇宙での太陽光発電が人類を救う時代が来るかも知れません。しかし、「短期的」効果が期待できるのは、家庭の屋根やビルの屋上など、さほど場所を選ばずにすみやかな設置が可能で、すぐに発電を開始できる太陽光発電でしょう。今、ソフトバンクの孫正義氏がメガソーラー構想を提唱していますが、旧工業団地や休耕田、旧塩田など、広い土地が確保でき、蓄電設備を備えれば、現実的に可能な事業と思われます。
 しかし、太陽光発電は他の電源と比較すると、現段階では、発電原価が割高なので、再生可能エネルギー源の大部分を太陽光発電に依存すると、電力料金の国民負担は大きくなってしまうというデメリットがあります。また、日照時間や発電効率の技術進歩をどう考えるかにもよりますが、原発1基分の電力を得るには、東京・山手線内くらいの広さの土地に太陽光パネルを敷き詰めないといけないとも言われていて、原発を代替する大型電源としてはやや難があります。少し考えてみればわかることですが、太陽光発電は、どんなに技術が進んでも、地表に降り注ぐ太陽光エネルギー以上の電力を得ることはできません。
 太陽光の発電原価よりも、風力の発電原価の方がはるかに安いことが主な背景となり、再生可能エネルギー先進国の欧州を筆頭に、米国、中国など世界の潮流は今や風力発電になっています。そのため、これから日本が導入する「再生可能エネルギー源」も、同様に「エネルギー源の多様化とベストミックス」を図る必要があります。

有力候補は洋上風力発電
 私は、「短期的」な太陽光発電に次ぐ「中期的」目標として、約10年後の本格稼働を目指し、今から大規模な洋上風力発電所の建設に着手することを提案します。洋上風力発電の発電原価は、建設・維持コストが多少高くても安定的な風が得られるため稼働率が高くなり、かつ100基近くを建てることで「規模の経済性」が働く結果、陸上風力発電より少し割高か、それとも安くなる可能性が十分あります。もし日本周辺に、5~7MW機を100基近く設置可能な、約1km四方の海域が見つかれば、中型原発1基分とほぼ同じ設備容量の電源が可能になります。すなわち、洋上風力発電所は原発の代替電源として大量の発電が可能なのです。
  *後述するように、極めて大ざっぱに言って、洋上風力発電所の設備利用率は、原子力発電所の約半分ですから、両者が同じ設備容量を持つ場合、前者が作り出す発電量は、後者のほぼ半分です。
  *一般的に、羽根の回転面積の直径(D)に対し、3D×10Dで風車を配置しますが、洋上の場合は、10Dをもう少し大きくする傾向にあります。その場合、1km×5km程度になることもあります。
  *ドイツの2012年に運転開始した風力発電所に対する全量固定買取価格
  陸上風力 14・78ユーロセント/kWh(約17・7円/kWh)
  洋上風力 18・50ユーロセント/kWh(約22・2円/kWh) 
  1ユーロ=120円で計算。(詳しくは185ページ図表3-30参照)
 約10年というと長いと思われるかもしれませんが、原発の新規立地は、土地取得や住民・自治体の合意が得られるまでに長い時間を要するため、計画を立て始めてから運転開始まで約20~30年を要するのが通常です。このため、欧州では新規に建設される電源のうち約4割が風力発電所となっています。
 米国では、1979年のスリーマイル原発事故の後、約30年間、住民の反対により新規の原発立地ができませんでした。「もし仮に万が一」日本でも今後約30年間、新規の原発立地ができなければ、現在稼働している原発のかなり多くが老朽化します。私たちは、子供たちのために30年後を見据え、原発に代わる大型電源の開発に取り組まなければなりません。
 日本には、本格的な洋上風力発電所が存在しないので、洋上風力発電所と言われても、イメージしにくいかも知れません。しかし、欧州ではすでに1500基以上の洋上風車が回り、見慣れた光景になっています。日本にはまだ本格的に導入されていない電源なので、洋上風力発電所とはいったい何だろうか、本当に日本で原発に代わる大型電源として導入可能なのだろうか、という疑問を多くの方が持たれると思います、そうした一般のビジネスパーソンの方々の疑問に答えようとするのが本書です。そして、本書に目を通していただければ、洋上風力発電所は、これからの日本にとって「エネルギー源の多様化とベストミックス」の有力な候補となることがご理解いただけると思います。
 本書は、実現できないような夢を語っているわけではありません。現在、世界中で洋上風力発電所の建設が大規模に進行していることを踏まえ、先進国である欧州各国での詳細な調査に基づき、日本で大規模な洋上風力発電所を実現するために取り組むべき課題とその解決法を述べています。どの課題も解決は決して容易ではありませんが、いずれも欧州人は独力で解決してきたものばかりであり、日本人の高い志と叡智をもってすれば、私たち日本人にも必ずや解決できるものばかりです。
 洋上風力発電所の開発は、日本政府が2010年6月と2012年7月にそれぞれ閣議決定した「新成長戦略」および「日本再生戦略」に盛り込まれた方針でもあります。この決定方針に基づいて、内閣官房総合海洋政策本部事務局は2012年度に新規調査予算2100万円を確保し、経済産業省は洋上風力に関する予算を2010年度23億円、2011年度37・3億円、2012年度52・0億円に、そして環境省も2010年度1億円、2011年度5・8億円、2012年度30・5億円に増やし、国土交通省は港湾区域内の洋上風力発電を推進するため2011年度新規700万円、2012年度4700万円を確保しました。経済産業省は、2011年度第三次補正予算で福島沖に浮体式を設置するため125億円を確保しました。また、農林水産省および国土交通省は、「海岸保全区域等における風力発電施設設置許可に関する運用指針」を策定するなど、関係各省が徐々に動き始めています。

後発ならではの利点を生かす
 日本は、四方を海で囲まれ、豊かな自然のみならず、豊かな海洋資源にも恵まれた世界に誇れる国です。この素晴らしい立地環境を生かし、自然の力を借りながら、エネルギーを生み出すことが可能なのです。日本の陸地面積は世界61位の狭い国土ですが、排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)まで含めれば、世界第6位の広大な面積を持つ国なのです。日本周辺の排他的経済水域の海底には、世界有数の埋蔵量を誇る、金、銀、銅、レアメタル、レアアースなどを含む海底熱水鉱床やコバルトリッチクラストが存在していると言われていますし、「燃える氷」と言われるメタンハイドレートが日本の消費量の100年分埋まっているとも言われています。日本は世界に誇る資源大国なのです。これからは、広大な日本の海域に存在している資源や宇宙にエネルギーを求め、活用しなければ、日本はいつまでも資源エネルギーを海外に依存し続けなければなりません。洋上風力発電所は、フロンティアである海と宇宙に向かって進出する先鞭として大きな意義があります。
 風力発電は、欧州の農場で粉を挽いていた風車に発電機を取り付けるところから始まりました。その原始的な発電からスタートして、今のスマートな形の発電機に至るまで、欧州人の開発努力には頭が下がりますが、日本人にもできないはずはないと信じています。風力発電では後発組になりますが、私たちの有利な点は、欧州の成功と失敗を後から学ぶことができ、さらに日本の地理や気候風土に合った形に変え、導入することができることにあると思います。そのことを踏まえると、欧州が試行錯誤し20年という歳月を要したことを、私たちは一気に10年で達成できるポジションにあるのです。それこそが日本人がかつて得意とした「欧米へのキャッチアップ方式」なのです。

2012年12月
岩本 晃一

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